時代は、1950年代。国際記者連盟は、終戦の記念式典の為に、資料を集めていた。ネウロイ大戦は、たくさんの資料がある。しかし、カールスラント・ガリアの激戦の資料は、激戦故に少なく、直接元ウィッチ達に、話を聞くしか無かった。
ー退役軍人カールスラント空軍元帥アドルフィーネ・ガーランド談ー
「カールスラント撤退戦か。一つ言えるのは、疲れただな。特に、あのアイリスにな。」
フフッと笑う姿には、疲れたより面白かったように見受けられる。記者である私は訝しみながらも、手土産のワインを渡す。リベリオンが力を入れて作っている、リベリオン産のワインだ。
「あぁ、すまない。君はアイリスの様な愉快な奴にあったことは無いんだろう?傲慢で突飛なことを言って、笑わせる為か大きな事を言う。しかし、アイリスは全部それを実現する。本来は、黄金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章なんてものは奴のために創設されたものさ。」
なかなか、リベリオンのワインも最近はいけるものだなと言われたので、どうもありがとうございますとガーランド氏に返した。
「カールスラントウィッチよりも、一番早くにカールスラントの勲章をほぼすべて取った女だ。カールスラント人より、カールスラントが好きなようで、カールスラント軍より、後にベルリンから出ていって、殿と言う名の囮になり、後から敵中を突破してついていくから問題ない。なんて、言ってのけたんだ。」
大変だったな、あの時はと壁にかかったライフルを見るので、そのライフルがアイリスというウィッチのものですかと質問してみた。どんなウィッチなのだろうか?
「いや、それは違う。ぜひ私もアイツのカルカノ、あぁ、知らんか。一般的なカルカノより、アイツは古いものを使っていてな。カルカノM1891というものだ。ま、リベリオンなら狩猟用で、物好きが持っていてもおかしくはない骨董品だ。」
私が持ってきたワインをガーランド氏はグラスに、更に注ぐ。出来れば、広報写真用に残していてくれれば、良かったんだが。
「奴はそれで、巨大なネウロイを何体も葬った。小銃で、機関銃に打ち勝つ戦果を上げたんだ。今のカールスラント空軍大将のクルピンスキーなんてのも、こんなことは出来んさ。カールスラント四強と呼ばれるハルトマンもだ。ハイデマリーも。マルセイユもだな。ルーデルは‥‥。奴なら出来そうで困るな。」
ハッハハハと笑いながらガーランド氏は、ワインを呷るので、笑いどころなのだろうが、私にはわからないので、はぁと言ってしまった。
「気のない返事だな。ま、戦火に無かったリベリオン人には、わからん例えか。対岸の火事にしか過ぎんからな。でも、当時のリベリオンの支援には感謝をしている。特に即席マッシュポテトの粉は、食べている人間に好評だった。アイリスもよく食べていたな。」
話を戻すかと、ワインを注ぐガーランド氏の持つボトルを見るともう少しで無くなりそうだ。私は、ガーランド氏用ではないが、仕方なく私用で持ってきたバーボンを差し出した。
「気が利くな。カールスラントの撤退戦は、アイリスの華だからな。流石に、カールスラントの退役軍人とはいえ、アイリスを語らずに、あの激戦を語るのは失礼と言うものだよ。つまみが欲しいな。」
机の引き出しを探すガーランド氏は、あったあったとクラッカーの上に、チーズとどこから出したのかナッツ類を載せて齧りだした。いわゆるカナッペだ。
「あぁ、でだ。彼女は、私が知る中で最も鋭く単独で飛ぶ女さ。あれに釣り合うくらい単独で好き勝手にして、戦果を出して教え子がいるなんてのは、カールスラント空軍には多数のエースウィッチがいるが、ハンナ・ウルリーケ・ルーデル退役元帥ぐらいなものさ。単独で出せるスコアは、あの二人にしか出せない。普通は編隊を組んで集団でやるものだからな。戦いというのは。」
だが、ルーデルもアイリスも僚機はスコア係程度にしかならん。何より、スコアランキングを見たらわかるが、二人の前では、時空が歪むからな。と言いつつ、ワインを飲み干したガーランド氏は、ニヤッと笑って歩き出した。
「リベリオン政変を作ったのも、アイリスと言われている。知っていたか?リベリアン?」
バーボンを開けながら、彼女はそう言ってチェストからグラスを2個引き出すと私にも注いだ。
「これは、私の口を湿らせて、滑らせるために上司から渡されたものじゃないんだろう?君の私物なら、君にも飲む権利はあるさ。」
飄々としているが、流石はガーランド氏は、退役元帥と言ったところか、すぐに見破られてしまった。
「では、乾杯だ。話を続けるが、カールスラントの激戦は三段階に分けられる。前期、中期、後期と分けられる。前期では、人類はネウロイに負けていたんだ。リベリオンの怪獣映画さながらにな。」
本題に入るかとガーランド退役元帥は、机の前に手を組み始めた。
「一方的にやられた。次々に、落ちるウィッチに航空機に焼ける町並み、瓦礫の間に、子供の人形や食器、遺体に至るまで埋もれていた。ヒスパニア戦役に出撃した。扶桑海事変に観戦武官で行ったが、あれ程の地獄は見たことはない。あれを見て悲劇ではなく、戦意を滾らせるのはルーデルぐらいなものさ。」
「あの頃は私ですら、気が滅入った。前線に出ているものはよりな。特に教官として、下士官ながらウィッチたちを促成で、空に上げていたロスマンと言うのがいるが、彼女の他にも教官をやっていたウィッチは、もっとだろうな。10歳のウィッチを一ヶ月もしない内に、空に上げて撃ち落とされるのを知る。地獄さ。」
思わず、私はつばを飲み込んだ。部屋の中に私がつばを飲み込む音が響いた気がした。
「祖国の危機と撃ち落とされる幼いウィッチ、守備隊と言われ臨時徴兵で、若い男も年をとった男も、ライフルを渡されて迫りくるネウロイに殺されて、ウィッチが育つ時間を稼ぐ。国家の末期だな。ついには、教官としていたウィッチや魔力減衰期のウィッチも陸戦や空戦のストライカーで参戦する。」
ま、そんな時代だと言うとガーランド氏は、カタンとグラスを机に置いた。まだ、グラスにはバーボンは残っている。
「そんな、誰しもが絶望する中で、アイツがやって来た。そう。アイリスだ。ロマーニャ義勇軍と言って、6機もストライカーを持ってきたから、最初は小隊かと思ったがアイツは一人だった。しかも、カルカノを担いでいた140cmぐらいの初陣もまだの少女が、任地は何処ですかと聞いてくるんだ。冗談かと思った。」
あぁ、そう言えば思い出した。アイツにベルリンの警備を頼んだのは、私だった。ハッハハハと、ガーランド氏は言うのだ。私は、ちょっと顔を顰めたのかもしれない。
「すまんな。そして、私は副官にベルリン近郊から市民を逃がすと言われて、急いで会議に行ったんだ。アイリスはそのまま、基地に歩いていったらしい。ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケと言うウィッチがいるのだが、当時、彼女がアイリスの相手をしていた。ついた矢先に、飛ぶと言って、初出撃が、無断出撃でネウロイ4機を叩き落としたと言うのだから、あとから聞いた私は笑ったよ。」
ミーナはあそこで、最初からキツめに叱っとけば良かったとか言ってたな。ま、仕方がないさ。と続けて、再びバーボンを口に含むのを私としては、見ているしかない。
「そこからは、我々が想像できないようなネウロイと彼女は戦い。ベルリンに入って、3日で30機以上、4日で50機以上。一週間以内には大型ネウロイエース、航空エース、対地上エースになったわけだ。私としては、苦い思いをしていたさ。」
ガーランド氏に、私はなぜと聞き返した。笑いながら彼女は答えた。
「彼女がカールスラント人だったら、最初から私の部下に居たらとか、意味のない妄想が頭を渦巻いていた。あと、オストマルク人だったら、カールスラント軍に組み込めたのになとかな。軍服はカールスラントとオストマルクをよく着ていたな。そう言えば。陸戦ストライカーにも乗ったらしい。メチャクチャなやつだ。ルーデルと同じだな。なにより、二人とも急降下を超えた逆落としで、ダイブブレーキを使わないのが似ている。ま、あそこまで行くと性癖か。」
君は、これ(ペーパーナイフ)で、人を殺せるかい?とガーランド氏は、聞いてきた。とんでもない。
「アイリスは、殺せると言うだろう。あいつは最初から完成された軍人。いや、キリングマシーンだ。ネウロイに足を折られたとしても、そのトレードで相手を倒せるならアイツは喜んでやる。だから、カールスラント上層部は、アイリスを欲しがった。しかし、彼女は全部ロマーニャ人だからで、済ませてしまう。あの都市国家気風が抜けていない、国家としての愛国心がないロマーニャ人なのに、彼女はそれを持っていた。」
ともかくとして、彼女は規格外だ。未だに、私達と親交があるしな。退役軍人会より、楽しく会えるものだよ。と笑っていた。
私は、ガーランド退役元帥の話が、とても気になった。アイリスとは何者なのか。調べてみたくなった。話を聞く限りとんでもない大物だと思うが。次には、誰に会うのか。私のスケジュール表には、次はヴァルトルート・クルピンスキー大将と書いてあった。
手土産がないのはまずいので、何かないかと酒屋に入った。店内は落ち着いたウッド調でクラシックが流れ、いろんな酒が置いてある。
私は、輸入品と書いてあるバーボンやワインに、食料品売り場に置いてあるビーフジャーキーにドライソーセージを買った。勿論、経費だ。おっと、キャビアもあるから買っていこう。
会計を済ませようとするとカウンターの後ろの壁に、ガーランド退役元帥の部屋に飾ってあったのと同じライフルがかざられている。思わずカルカノと呼んでしまった。
「あぁ、知ってるのかい?ヨーロッパの英雄のアイリス大尉殿の銃さ。俺は、あの人の観測手や整備兵をしたんだよ。」
思わぬところで、収穫があるものだ。店主の話が、始まらないうちに私は手帳を引っ張り出し、記者と名乗った。
「なるほど記者さんか。俺はゲルハルト・ヘルマン・イェーガー。元カールスラント陸軍中尉だ。これでも、軍学校を卒業してるのさ。で、何から聞きたいんだい?」
聞いたら何でも答えてくれそうな気配がある。とりあえずどんな人なのか聞いてみよう。
「あぁ、意外と冗談が好きで、食べるのが好き。それでいて悪い人ではない。何事も楽しむ人だ。ま、悪い人じゃない。悪気がなく色々やるらしいが。」
ネウロイのスコアを譲ったこともあるらしいぞ。と言われて、ガーランド退役元帥が言っていたイメージと異なる。
「兎も角として、楽しい人さ。俺の緊張をほぐすために、急降下の秘訣を教えてくれた。まず、対空砲火が例え十字砲火でも、歓迎するための花火だと思うこと。なんて、ジョークを言うくらいの人さ。」
バールと火かき棒でネウロイを撃墜するウィッチなんか聞いたことないぜ。記者さんは聞いたことあるかい?と言われたのでないと言うと彼は高らかに笑った。
慕われては居たのか?私の中で、カールスラント戦線よりも、件の謎のロマーニャ人のほうが気になった。
クルピンスキー氏との待ちあわせ先のホテルに向かう。ベルリンのホテルである。ガーランド氏への取材で、聞いたが本人はやりたく無かったが順番が回ってきたから、仕方なくやっているそうだ。そして、面倒見が良かったらしい彼女は、今や若い子達には、人気だという。
どんな人物なのか、気になって、扉を開くのだった。
5月某日寄稿文。在リベリオン戦史収集企画、国際記者連盟所属 アイリーン・スミス著