気楽な前線なのはいいが、後ろをチョロチョロと金髪の頭が横切る。何なんだあいつは?
「あれを二人は知ってるか?」
アカールとピュイビュスクに話しかけるとふたりとも知らないと頭を振る。だとすればアレはスパイか?私のレーダーのビーコンには触れない。このガリアに来てから常に発動してる魔導針は動きはしない。
よく二人に魔導針を教えようとするが理解できないらしく、肉体に刻み込むほどの優しさの訓練をしてあげるのが大人の役目かと思ったが‥‥。
「アカール、ピュイビュスク、いまラジオによるとガリア・ブリタニア陸軍は世界最大の撤退作戦のダイナモ作戦を成功させたようだぞ。紅茶と砂糖と不味いプディングが売りの暇人島国とチーズとワインしか外貨を稼げなさそうな大砲以外は売りがないガリアにしては凄いね。」
ピュイビュスクは苦笑してるがアカールは眉をひそめた。正直な感想なんだけどな。カールスラント程度は頑張ってほしいがカールスラント以下の強さしかない国家だしな。カールスラント空軍にガリア空軍は指揮権あげたら?君たちにもったいないものでしょそれ。給料だってくれないからな。
金の切れ目は縁の切れ目でもあるのに、こんなんじゃガリアは一生、しょうもないチーズとワインを作るだけの農業国じゃないのか?もっと給金ぐらいは上げてほしい。人の給料に軍票や戦時国債混ぜようとするとかゆるせないよな。ガリアのものはカールスラントより格段に価値がないのに。
「あ、あの!」
うん?話しかけてきたな金髪。見るに貴族ぽいピュイビュスク的なものを感じる。
「なんだ?フロイライン。いくらウィッチが女とはいえ、みだりに兵士に声をかけるのは感心しないな。」
基本、女性の権限が強いこの世界でもそういう行為は危険である。特に女性から非難されるからだ。
「ロマーニャのレーヴァテインですよね?そのオストマルク将校の軍服にカールスラントの軍帽、ロマーニャのコート。何より火かき棒とバールを腰に下げてる点。これ以上の証拠はないですわ!」
いや、知らんよ。いきなりやってきて私が大好きだとか言われても困るわ。ピュイビュスクにぶん投げるか。こいつの家柄良いからな。こいつに振ろう。
「そんな変なあだ名が付いてるのか?それならロマーニャの出稼ぎや傭兵とか、ロマーニャ大陸派遣軍のほうが良いが。ピュイビュスク‥。」
名前を読んだところで、いきなり何も言わなくなった少女が気になる。えっ?情緒不安定なのか?疲れるな。まぁ、でも慕ってくれるのはそこそこ可愛いから許してやろう。ハインリーケとかのほうが可愛いがな。特に夜間急降下する時の叫び声が可愛かったなあんなもの相手が出すガイドビーコンみたいなものなのに、避ければそうそう当たらんのだ。
「そんなに謙遜しなくても‥‥私は英雄の貴方のように‥‥いやなんでもないですわ。」
ふーん。強くなりたいのか。よしわかった。強くしてやろうまずはメンタルの問題だ。1から10までは教えれなくても1から9までは教えれるだろう。ウィッチならできる。
「よし、わかった。飛ぶぞ。名前は?」
少女の名前を聞く。こいつを強くしてあげよう。ハインリーケたちも強くしたからな。
「やめといたほうがいいと思う。」
どういう意味だアカール?戦場でおねんねしていたお前を拾ったのは私だぞ。そんなことをよく言えたな。
「死ぬぞ。あれは人ができる飛び方じゃない。アイリスはアイリスなんだ。」
人を人じゃないとは失礼だなピュイビュスク、やればできる。ルーデルもやってたし、出来ていた。じゃあルーデルは人間を超えたなにかだとでも?そんなわけがない。気さくないいやつな上に、楽しいやつだ。一番面白かったのはクルピンスキーだが。
「二人共、やればできるから問題ないぞ。じゃあやろうか。まず、先に聞いておくがどんなウイッチになりたい?」
聞かないとわからないからな。なりたいものは人によって違う。カールスラント軍では、私かルーデルになりたがってる子も多かった。特に小さい新人ウィッチは私かルーデルにベッタリと後ろをついて回って仔鴨のようで可愛かったな。
だが、あれがミーナやラルのような奴らになってしまうんだから仕方ない。書類仕事も沢山させたりしたな。しかし、なんでロマーニャはカールスラント語やガリア語で書いてるある文書でも受理するんだ?ガバガバなんじゃないか?
「すみません。わたしの名前はペリーヌ・クロステルマンです。私は、私はガリアを守れるウィッチになりたいです!」
そんなの飛んでいたらたいてい守れてるだろ。見つけて戦って撃ち落として終わりなんだからネウロイ。スコアになるしか取り柄がないしょうもない連中なんだからな。
「声が小さい。それに飛べば誰だってなれるだろ、それ。飛んでいたらネウロイなんか勝手に落とせるからな。あれは空飛ぶスコア寄付してくれる慈善家にすぎん。」
ピュイビュスクやアカールに横腹を突かれるが、何だコイツら、女が女の体を触って楽しいのか?気がしれんな。それに触るならマルセイユの乳とかのほうが面白そうだろう。アイツやクルピンスキーは人に触りに来るのに自分が触られたら意外と驚くから面白いんだよな。
「ガリアの空を見れば思い出されるようなそんなウィッチになりたいです!」
ほう、よく言ったものだ。じゃあそうなるようにしてやろう。考えるな、感じるんだ。
「わかったぞ。ペリーヌ。背中の背負子に乗れ。ベルトを付けとけよ。ピュイビュスク、アカール、じゃあ行くぞ朝の出撃の時間だ!」
格納庫まで背負子にペリーヌを乗せて、歩く。ピュイビュスクやアカールがチラチラこっちを見てるが関係ない。
「こんないい天気のときは歌うか。」
前世で覚えた歌を鼻歌で歌う、何だったか自衛隊マーチだったか。
通り過ぎるネウロイをすべて、撃ち抜きバールで切り裂き、火かき棒で粉砕し、拳に集中させたシールドで撃墜する。ネウロイの大編隊が見えた。全部スコアだ。
「行くぞ!ピュイビュスク!アカール!あれは全部倒しても良いやつだ。殲滅偵察を開始する。」
即座に背負子から航空用クラスター爆弾を出そうとしたがペリーヌが乗っているだけだった。いきなり触られたペリーヌは「ひゃん!」とか言っているが無視する。
じゃあどうするかは決まってる。バールの一本を投げてサブマシンガンで全部、端を撃ち加速させて敵の先頭に叩き込んだ。ウィッチなら誰でもできるはずの簡単な芸当だ。
急降下からの急上昇、そして囮の射撃からの本命の射撃、偏差射撃だ。慣れれば簡単な方法だ。ネウロイが12機ほど消えた。すれ違いざまに火かき棒で横薙ぎをすると3機が消える。全く弱いネウロイだ。こっちに後ろから突っ込んでくるネウロイを感じると宙返りをして、火かき棒を突き刺し、拳銃を3発同じ場所に入れて撃墜した。まぁ、ハエ叩きでハエを叩くが如くだ。やればできるのだやれば。
「これが!空の世界だ。空の上では皆平等だ。撃つか討たれるか。空が青いだろう。見えているか?ペリーヌ。ウィッチとしての自覚があるならできるはずだ。ただ前に進めばいい。その先に何があろうとも前に進めばいい。前に進んでその先が例えば地獄でもそこには輝ける(給料としての)栄光がある。積み上がる(預金としての意味で)がある。目に見える結果(の資産ができているはずという意味で)がある。人がなんて言おうとも空を飛ぶときは一人だ。一人で空の彼方に身を任せて(物理的な夜の闇)闇夜に飲まれながらもただ思ったこと(出撃手当)を集めればそこには正解(老後の裕福な生活)があるのだ。」
そうだ。今が良くても稼げるのは今のうちだ。稼げる時に稼がねば稼げなくなってしまうのだ。稼げるのは稼げばいい。
「そうですわね!ただ自分の信じた道を進み、人に何を言われても気にすることなく、自分が起こした責任と祖国への義務を果たし、その先に地獄があろうとも、自分の意志で前に進み、掴み走り続け、社会などの責任にせずに前へと毎日走り続ければきっとそれは明日への身になるはず。自分の身が焼けようとも溶けようともその先を求めればきっとガリアは‥‥世界は良くなるはずですわ。ただ私はもう止まらずに自分がこれからすることの責任と義務に従い、ただ進み続ければあるいは‥‥。言え、きっと良くなるはずですわ。だから、もう迷いません。そうでしょう?」
えっと、そんな話はしてなかったはずだが、本人が納得してるなら良いんだろう。わからないがきっとそうに違いない。ガリア人はチーズとワインだけだと思っていたが、そういえば哲学もあったな。哲学でなんかわけのわからんことを言い始めたのだろう。でも、本人が幸せそうならまぁ良いだろう。
金にもならんからな。
「大丈夫か?」
ペリーヌに聞いてみよう。右から太陽を背に捻りこもうとした6機のネウロイに結束手榴弾を投げつけて撃墜し、それでも残っていたネウロイにが近付いてきた。
「体当たりですわ!危ない!」
見たらわかる。右手の指の股に銃弾を挟むとシールドを集中させて殴り、外装を剥がしたところに銃弾で殴りつけて炸裂させ撃墜した。ついでにアカールに近づいていたネウロイにパンマガジンを投げつけて、撃ち抜いて撃墜させる。
「わかればどうということはない。当たらないと意味はない。」
飛んでくる地上から、空からの砲火が空を赤く染めるような感覚を覚える。空が燃えている。確かに燃えているが人間の自由を愛する心や人々の営み程は燃えてはいない。単なるネウロイが吐き出したものが作り出す幾何学模様の活版刷りのタペストリーみたいものだ。実用性は薄い。空を飛べるならなんとでもなる。
空を地に落とし、鳥がトカゲのように這いつくばるものではないのだ。掠める熱気に打ち勝つ叫びに気取られることはない。単なるそれは白昼夢のようなものだ。人はたしかにいまを生きているんだ。そうそれは私もだ。私アイリスもだ。
名字はとっくに捨てたアイリスしか残らない。残されたのはカルカノと小さな夢、単なる夢なのだ。なぜそこで踊れないのだろうか?あの昔見た暗闇の‥‥吸い込まれるほどの暗闇の太平洋に降下した様に。
「なぜエンジンを切って!」
ペリーヌの叫びが聞こえるがなんだろうか自由降下は体に風を圧力を、大地の息吹が風となって心地よさを教えてくれるのに焦る必要があるか?
「エンジンや飛行脚などは単なる飾りだ。一番空を飛ぶ上で大事なのは精神だ。けして負けない精神と空を乗りこなす騎手の様な精神だ。そうすれば空は答えてくれる。急降下をするぞ!口を閉じろ!舌を噛む!」
体の向きを変えて片足の飛行脚のみをつけて、回転させながら降下するまるでねずみ花火のように回転する。回転するさなかで回りながら銃を撃てば雨に打たれながら踊るように、ネウロイ達が消えてかけらになって降り注ぐ。
「きれい‥‥。」
ペリーヌのつぶやきは次には悲鳴に変わる。両足を始動させ、地面から10cmまで降下すればそうなろう。しかし、空を飛ぶにしては度胸が座ってない。丘の上や海の上では誰かしらはいるかもしれないが空の上は常に一人なのだ。僚機も結局一人でしかない。世話の焼けるお嬢さんだ。
そこから三日間みっちりと教えてあげれば、立派な空飛ぶ兵士が出来上がった。飛行士は面構えが違う。しかし、なぜ困窮してもいないのにそんなに戦うのかはわからん。まぁ、平気だろ。
そこから3週間で、ガリア軍によるマジノ線からの反攻作戦が失敗し、9万人もの兵士が安否不明となり、マジノ線が崩壊。その後も度重なる戦力の逐次投入と貴族階級や兵士の脱出が続き、国民よりも先に継戦能力を選んだようだ。戦線は後退した。ディジョンが首都にオルレアンの防衛のために空を飛ぶ毎日。
カールスラントほどガリアは実入りが良くはないが気がついたらペリーヌがどこかに行っていた。そんなこんなをしていると空を飛んでいる最中にオルレアンが陥落し戦況が悪化するしかない日々が続く。
「うーむ。」
新聞によると議会は国会で国家を歌い、ガリア国民のウィッチ徴兵年齢を10歳まで下げ、ウィッチ訓練を14日まで短縮し、逐次ウィッチの投入を行うことを定めて、最後にはエラン・ヴィタールの精神を掲げ、精神的な優位こそが士気を高め、全国民による無制限の突撃こそがネウロイを死にいたらしめられるガリアによるガリアのための精神はガリアを列強たらしめそのガリアの精神の塊こそが、輝けるエラン・ヴィタールを生むのだと。意味不明だ。
精神的優位とか言われてもな。一緒に載っていたペリーヌの記事を見てみる。
地平線を指さした写真のペリーヌ曰く「あそこの先にいる敵を全て撃滅したならば、ガリアの自由と博愛が示されガリアはまた輝けるのか?あと何体のネウロイを倒せばいいかわからないがネウロイを‥‥いや、敵を撃滅すれば私達ガリアは自由になれるでしょう。」と語ったらしい。
日に16回の出撃で単独だけで73機も撃墜したガリアのエースとのことだ。
そうして、いると私は軍令部に呼び出されディジョンへと飛ぶ羽目になった。交通費が出ないのでタクシーにしてほしいが。