銀色の小型ネウロイ達が機銃掃射をする中、私はイェーガーを担いで、走っていた。傍から見たのなら、139cmの少女が、がっしりとした180cmはあろう、そんな立派な成人男性を担いでいる。
そんな状況なのから、笑い草かもしれない。先程からMP40を使った反撃で、急降下機銃掃射をしてくるネウロイ二機を撃墜した。その、死の鬼ごっこを終えると、やっと滑走路近くの倉庫に、たどり着いた。余り、息は上がっていない。ウィッチの体は、頑丈なのがよくわかる。が、イェーガーは、目を回していた。怪我をしていたところに、肩で担がれて、サイドステップで、機銃掃射を避けて撃つ、ハリウッドのアクションスターさながらの、スタントを見せられたのだから無理もない。
「大尉殿、いつでも飛べます。それに、ここにカルカノもあります。ちゃんと装填も済まして、銃身も磨きましたよ。」
悪気が無いのだろうが、その整備兵に、余計なことをしてくれたなと私は、内心呟いた。
早速、イェーガーを整備兵に預け、渋々ではあるが、カルカノを受け取った私は、拾った素晴らしい武器のMG34とMP40を名残惜しく思いながらも、断腸の思いで、ストライカーに足を入れる。
すると途端に、頭に耳や尻尾が出る。私の使い魔は、ラーテルらしい。よく知らない動物だが、響き的に可愛い動物なのだろう。
私は、ラーテルを知らないから、ラーテルは可愛い動物かどうかを、エンジンが掛かり切るまでの暇な間に、整備兵に聞いてみた。
「ま、ネウロイより、可愛いやつですよ。」と返されてしまった。私には、支給されている近接武器が、バヨネット以外はない(儀礼用のなまくらサーベルなら部屋にある。)ため、転がっていた、バールと火かき棒を手に取った。
それを見ていた、整備兵が怪訝な表情をしていた。そんな様子を見たことがない、カールスラント人にとっては、無理もないかもしれない。
しかし、こっちは、極貧ロマーニャ軍の義勇軍、支給品で戦えるカールスラントとは、勝手は違うのだ。ガルバルディが根性なしなのか、ヴェネツィアが独立してるので、大事な大事な北部の工業力が、ロマーニャには、ほぼない。
そして、私は、火柱が上がり、煙があちこちから出る滑走路を走り、空へと舞い上がる。飛び立つときの一瞬の落ちる感覚、それと共にやってくるこの浮遊感、今一度、私はこのベルリンの空を駆けると、その感覚が教えてくれる。
新たに、空に現れた私に、ロッテを組んだ小型ネウロイが2組、計四機で、襲いかかってくる。体勢は、ノックオン(正面同士)だ。私は、そのまま、通り抜けるフリをして、急に降下し、相手と上下ですれ違う、地上では、お目にかかれない立体的な機動。降下した位置エネルギーを使い、そのまま、反転、この機動をスプリットSというらしい。
私がネウロイのがら空きの背中に、カルカノを叩き込み、ネウロイ三機を地に引き釣りおろす、残った一機のネウロイは、堪らず私の逆、つまり、上昇して反転する機動のインメルマンターンをやって来た。私は、足を前に突き出すと進行方向を後ろにして、右の肩から腕を後ろに回し、左手もその動きに合わせるように、回転させた。
そして、片足のストライカーのエンジンを切ると、トルクと手足の動きにより、体が反転する。私は、すかさず、その時に、待ってましたと言わんばかりに、左手に持っていた火かき棒を前面に、突き出す。相手の速度とこちらの速度が、組み合わさった、正に騎馬突撃のような一撃が、ネウロイに炸裂し、最後の1機も墜ちていった。
ある種の高揚感があるが、忘れないうちに、カルカノの蓋を開いて、弾薬のクリップを押し込む。この時に、やはり、MG34を無理をしても、持ってきたら良かったと後悔の一念が浮かんできた。私に今、必要なのは、きっと火力と装弾数である。そして、ため息をつくと、また、いつかの威圧感が、私に走った。危険だと私の肌が、ぞわりと粒立つ。
この時、私の背中に目がついていなければ、死んでいたかもしれない。あの巨大なネウロイが、背面から、躊躇なく、蹴りかかって来たのだ。それをつぶさに、感じた私は、ストライカーのエンジンを切る、そうして、推進力を無くした私の体は空を滑り落ちる。蹴りが空振ったネウロイに、カルカノをすべて撃ち込むと、エンジンを再始動させ、降下するエネルギーを反転、上昇させる力に変えた。
全く、いい加減、このストライカーより、扶桑の零式でも一式でも、カールスラントのBf109ないし、Bf110でもいいからほしい。非力なエンジンを運動性で補われても困る。
そんな風に、考え事ができる私の優位も、つかの間で、黒い大型のネウロイは、手に持った剣のようなものを投擲してきた。
私は、その剣のようなものが生み出す、巨大な気流の渦に煽られた。次には、宙に浮いて制御ができない瞬間を蹴られ、なんとか、近くの木に引っかかる事で、事なきを得たが、足を見るとストライカーからは、嫌な煙が出ている。こいつは本当に困った駄々っ子だ。
すぐさま、戻ってきた私にネウロイは、驚いたのかどうかは、定かではない。が、明らかに先程とは違う軌道で、私を蹴りつけてから、真っ二つに切り裂こうとした。その瞬間、私の脳裏には、未来の相手の攻撃が、フラッシュのように、流れる。私は、相手の剣を走り幅跳びのベリーロールの様に、避け、懐に入るとシールドでタックルをしながら、ベレッタの弾が無くなるまで、ネウロイの腹に叩き込む。
しかし、ネウロイは、これに対して、降下する事で、懐に入った私を胴体で叩きつけ、体を起こすようにして、膝を私にぶち込んだ。シールドが、叩き割れるぐらいの衝撃と、口からは、漏れる血。内臓がやられたのか、それともどうなったのかすら、わからない。視界がぼやける。兎に角、体が熱い。
ストライカーが、遂に悲鳴を上げ、煙では済まなくなり、火を吹き上げ、私はゆっくりと降下していく感覚に吸い込まれた。まだ、動く方の片手に持ったカルカノで、アイツを狙う。ストライカーではなく、今度はカルカノが火を吹き、アイツに直撃するとアイツは、いつも通りとばかりに、素早く撤退した。私は、たまたま背中に、差していたバールのおかげで、木に引っかかり、なんとか、地面に叩きつけられずに、済んだ。
そして、私の体は異常があるはずなのに、興奮状態によるアドレナリンの影響か、それとも、あまりの運動量にエンドルフィンが駆け巡っているのか、全く痛みは感じなく、木の上を通り過ぎようとするネウロイを度々、カルカノで叩き落とす事を可能にした。
しばらくして、動かない痺れていた片腕が治ると、カルカノからバヨネットを外し、木の幹に突き立てる事で、無事に地面に降り立った。地に足が着いた生活は、悪くない。運がいいことに、たまたまワーゲンがやってきたので、乗せてもらい、基地に帰ることにした。
「ネウロイのベルリンに対する、第一次攻勢が止んだんですよ。何故でしょうね?まるで、それこそ、指揮官が居なくなったみたいに、混乱して撤退を始めたらしいですよ。」
不思議な事もあるものですねと言う、兵士の横で私は、疲れていたのか眠った。そして、目覚めた時には、白いカーテンは無いが、白い包帯が、赤黒く染まる地獄と化していることにより、どこだかわかる野戦病院に居るのだった。乗せてくれたあの兵士が、気を使って運んだのに違いない。
「まだ、起きないでください。アイリス大尉。」
前に治療を受けたあの医療ウィッチだ。私は、もう大丈夫だと肩を回し立ち上がろうとすると、ベットと言うには粗末な木箱に抑えれて、今一度、診察しますからと怒られた。
「そんな、ありえない‥‥。全治六ヶ月の全身打撲に骨にひびが入っていた筈なのに、治ってる。」
一応と医療ウィッチから、あの温かい回復魔法を受けて、私は野戦病院から出た。昔、訓練中に私を怖がったウィッチが固有魔法で、10m以上吹き飛ばしてきて、しこたま体を打ち付けたが、寝たら翌日には、治っていたのだから、同じことがあってもおかしくは無い。歩いていると近くいた歩哨を捕まえた。
その歩哨の話では、新たに近くに司令部が置かれたらしい。イェーガーやあの整備兵達も生き残っていれば、良いのだが。
早速、病院を出るときに、背中に背負ったカルカノに弾を込めながら、件の基地に向かうと、ベルリンの市民達が軍から武器を貰っていた。徴兵令と志願兵達らしい。私と違って、危険手当やロマーニャ特有の帰還手当が出ないのに、よくやるものだ。
50代から60代の22年前の大戦を経験した世代が、臨時下士官となり、志願兵や徴兵で兵士になった彼らを指揮するらしい。
車の整備員や工員は整備兵に割り振られ、特殊な技能がない者たちは、塹壕を掘り、瓦礫や土嚢を積み立て、何箇所も野戦陣地を構築していく。
無限軌道が壊れた戦車や軽戦車は下が埋められて、土嚢やコンクリートを塗られ、即席のトーチカにされる。タバコの一本すら、市民が政府に提供して、軍が配給をしている。土の焼けた匂いに血の臭い、これが市街戦というのだろうか?
私は、そんな末期の様相を見せる基地を越え、ボロボロでグシャグシャの軍服の代わりを、酒保に要求するが、生憎、ロマーニャ軍服は無いらしく、余っていたダキア軍服かオストマルク軍服の二択を迫られたので、仕方なくオストマルク軍服を採用した。略帽はカールスラントのモノしかなかったので、それにした。
見知ったヴィルケ大尉やバルクホルンといったメンバーを見つけ、合流した。第一声は、なぜ、私が、オストマルクの軍服を着ているのかだったが、余っていたからと言うと呆れ顔だった。何でも、第一次攻勢を防いだ為に、女子供は逃げられたと言っていた。
しかし、私は、思わず、周りの見知らぬウィッチを含めて、今、ここに、こんなにも、女子供がいるじゃないかと漏らしてしまった。また、呆れたような顔をするヴィルケ大尉やバルクホルンであったが、1人、大きく笑うウィッチがいた。
「確かにね。僕たちはうら若き乙女だね。だが、それは、オストマルクの君もだ。」
私を口説きに来たのだろうか?私の頬を撫でようとして、出したその腕を銀髪の小さなウィッチに腕を捻り上げられていた。
「ロマーニャの大尉殿。あそこいるクルピンスキーが失礼したわ。私、エディータ・ロスマン曹長が、代わりに謝ります。」
何やら、ただならぬ気配を感じたので、受け取っておいたが、カールスラントウィッチは、その手の者たちが、多いのだろうか?スオムスに行く船で、同乗した物静かな本を読む少女が、居たので、気まずさを隠すために、話しかけた。眼鏡が無いのは、読書の時にだけなのか?
「いやー。そっちの眼鏡をかけた方は、私の妹。私はエーリカ・ハルトマン。大尉殿よろしく。」
いたずらっ子の様に笑う彼女からは、先程のクルピンスキーとやらもそうだが、カールスラント人だからといって、決して堅苦しい訳では無いのかもしれないと、私は考えを改めさせられるのであった。
ガヤガヤと情報交換をしているとやっと、作戦が、伝えられた。どうやら、私は、ベルリンの東に配置されるらしい。何でも、私の戦った大型ネウロイが来たときに、私以外は対処できないだろうと、上は考えられたらしい。正直、あんなのは、撃墜手当にもならないし、あんまり戦いたくないのだが。
だがしかし、文句を言っても始まらないので、私は渋々受け入れた。それがあんなことになるとは。
このベルリン近郊の東側には、ヒスパニア戦役をくぐり抜けた、選ばれた精鋭が、配備されているらしい。私はヒスパニア戦役をくぐり抜けてはいないが、大型ネウロイとの経験、ここに3日で30機以上も撃墜したセンスを買われた形だが、流石に義勇軍に前線を頼むのは、カールスラント軍も悪く思ったのか、特別手当をくれるとの事だった。
軽く、ネウロイを16機ほどを叩き落とす。大怪我をしたことで体が軽くなったようだ。私のレーダーが捉えるまでもなく、巨大なネウロイが地平線から現れた。誰かが、それに対して、「グレンデル。」(北欧神話に出てくる何かよくわからない化け物。)と漏らした。なるほど、確かに明らかに巨大で異質。山が歩いていると言われたほうが、理解できるくらいに、だ。
その、黒く大きな巨体からは、光を発する。私は、右に左と前に進みながら避けるが、周りにいたカールスラントウィッチ達は、墜ちたのか消えてしまった。死んだわけじゃないだろう、私のレーダーには友軍反応は、まだある。同時にここで私が、時間を稼げなければ、彼女たちが死ぬと想像に難しくはない。
まったく、カールスラント人より、戦ってる気がする。ともかくとして、私は、あのデカブツを叩かねばならない。光線については、私の固有魔法の関係で、9割は避けられるが、どんな近接攻撃をして来るかがわからない。
真っ黒な空に輝く、デカブツの対空砲火。まるで花火のように弾ける砲弾のようなもの。爆風と光と熱さにより、確かに私は生きてると実感する。
デカブツが張る弾幕に、恐れずに、私は急降下をしながら、また1mまた1mと距離を詰める。そして、その体が目前まで来たときに、デカブツの背中から、大量の小型ネウロイが発射された。まるで、嵐の中の豪雨の様に激しく、小型ネウロイの突撃が、私の体を揺さぶった。
全て、叩き落とす事に成功したが、気付いた時には、あの巨大なネウロイは、撤退をしていた。
私に通信が入った「ネウロイが、撤退していきます!第二次攻勢をなんとか、我々、カールスラントが防ぎ切りました!」
喜びに満ちた声を出すオペレーターに、こちらの東側では、大量にウィッチが落とされたから、回収に来てくれと伝える。
私は、それを待つ間に、木に干されるように、引っかかったり、ビルの瓦礫の下になってるウィッチを一箇所に集める、こういう時、私のレーダーは友軍ビーコンが出るので、役に立つ。彼女らは、ストライカーに不具合はあるが、大丈夫そうだ。トラックの音が聞こえる。やっと迎えが来た。
それにしても、まだまだ、戦いはかなり長引きそうだ。ロマーニャ人では、史上初のネウロイ50機以上撃墜したと言う勲章と初陣から4日で、最速のネウロイ50機以上撃墜の世界記録だと新聞記者に持て囃された。そして、その記者たちの目の前で、カールスラントから貰った手当を使い、私は戦時国債を買うのだった。
刺激的な話題性があるネタが欲しい、買った分以上に、取材費を渡すからと、記者たちに頼まれたので、やっただけなのだが、その話題が新聞に載ると何故だか、カールスラント人達の私を見る目が、変わった気がする。
「お話とは何でしょうか?アイリス大尉。上から鉄十字勲章と褒美に何が欲しいかを聞くように言われたわ。」
私は、ヴィルケ大尉に、今日から毎日10回出撃をすると伝えた。目を剥いた後に、眉を顰めたヴィルケ大尉をそこに置いて、出撃に向かうのだった。
ふと思ったが、失敗した。もしかしたら、Bf109とMG34とMP40が欲しいと言ったのなら、くれたかもしれない。少々の後悔を胸に、私は再び、出撃の準備のためにカルカノを磨いた。