私は、しょうがなく、あの遭遇したものの報告書を纏めることになった。内容は、かの有名な大型ネウロイについて、これは、私だけでは、書ききれない。
ので、ラル中尉とルーデルとヴィルケ大尉、バルクホルン、実際にデカブツに叩き落されたロスマンらを集める事にした。なかなか、私も策士である。
彼女らの選考理由は、報告書が書けて、かつ、全員が、アレ(大型ネウロイ)が何か、それを気にしているメンツと言うことだ。なにか、アレについて、知りたくないかとその話題で釣り、上手いこと彼女らを私の部屋に招待をして、報告書を強制的に書かせ、私を手伝わせる。騙し討ちは、卑怯だが、騙し討ちを受けない様に、私がしっかりと教えてあげるというのだから、この行為は、礼を言われても、逃げられる謂れはない。兵法でも、王道、常道、奇道とちゃんと指摘がある、そんな由緒正しき戦略なのだ。
まんまと集められたメンツは、のこのことやって来て、更にガーランドまで連れてきたので、私は、素早く作戦を開始する。兵は神速を尊ぶ、またブリッツクリーク(電撃戦)も、相手にタネが分かってしまう前に、攻めるのだ。集められたウィッチ達に、種明かしをして、大型ネウロイを独力で、撃墜したと伝えた。全員が、それを受けて、やはり興味を持ったので、続きが聞きたければ、私の報告書作成を手伝う様に要請した。
ロスマンやバルクホルン、ヴィルケ大尉は反発したが、ガーランド大佐が抑えた。
「待て、よく考えろ。本来ならあの巨大なネウロイの情報。そんな重大なものは、国家機密に成りかねない、戦略情報をわざわざ、私達に明かしてくれると、言っているのだから、手伝うべきだ。」
たかだか、報告書作成を手伝う程度の事で、手に入る情報としては、破格だと思ったらしい。もちろん。破格だが。
まず、撃破した大型ネウロイの大体の速度を伝える。780km/h〜850km/h程度、巨大な人型。剣を持っていた。これだけでも、彼女らはざわついている。そもそもとして、ネウロイが道具を使うなど、夢にも思っても見なかった事らしい。実際に、あのネウロイは、剣を使ったのだから、思っても見なかろうが、その事実は、仕方がない事だろう。
事のあらましなどを伝えつつ、キリキリと報告書を書かせていると私は、ふと、アレの正体を、目的を彼女らに言って、しまってもいいものかを考える。頭の中でシミュレーションをする。やはり、ろくな事にはならないだろう。だから、伝えるのはやめておこう。それにあれについては、多分、聞いたり知ったりする、その必要がない情報だろう。知ってしまえば、きっと彼女らを狂わせる。
核心は言ってしまわないように気を使いながら、夕方には、報告書が出来上がり、手伝ってくれた全員には優しく、ありがとうと返し、私は食堂へと向かった。いつもの様に、テーブルに新聞が乗っている。
誰が毎回乗せているのか、気になるが、とりあえず、私は、新聞を広げることにした。いつも通り、私のことばかりだ、普通は経済や政策について、論じてるページの部分やコラムに至るまで、私の記事ばかりである。いつにも増して、私がカールスラント人扱いをされてる気がする。そんなに話題が無いのだろうか?
カールスラントは、どちらかと言ったら、ロマーニャの分家が、カールスラントな気もするが。若干、私に出される食事も豪華になっている様な気配もある。何時もより、多めのヴェルストにカレー粉が、かけてあるものとサワークリームが乗っかっている。
調味料が貴重になった今、確実にこれらは、私が、何故か歓迎されてるという証だ。が、私は特に、カレー粉がかかったヴェルストは、あまり好きではない。近くにいた、ハンナに普通のヴェルストと交換してもらい、サワークリームを楽しむことにした。ハンナはホクホク顔だ。なんだかんだ、エーリカと似たような年齢なだけはある。私はヴェルストを食べるに当たって、ケチャップとブリテンマスタードがあれば、良いのだが。
今日も、途中、サワークリームを強奪しにくるクルピンスキーを捕まえて、クルピンスキーの皿からヴェルストを取り、食べた。クルピンスキーは、クルピンスキーで、私が部隊から浮いているので、ちょっかいをかけて馴染ませようとしているのだろう。エーリカと一緒で、気遣いができる女だ。
それを踏まえると、ヴェルストを食べたのは、流石に可愛そうかと思い、焼きリンゴをくれてやると「やはり、大尉殿は僕が好きだね。」等と言ってきて、ベタベタ触ってきたので、キザにヒラヒラさせている手を掴み、クルピンスキーに、アームロックをキメた。
大騒ぎだった昨日は、たったの地上型ネウロイを100機しか撃沈出来なかった。一緒に飛んだ、新人は対地攻撃が苦手らしい。ルーデルとアーデルハイドに頼んだので、彼女は立派に爆撃が出来るようになるだろう。私は、司令官室に呼ばれたので、普段は入らないガーランド大佐の部屋に向かう。なにやら、大事な話があるらしい。しょうがないので、身なりを整えた。
部屋に入ると重々しい、表情をした面々のうち、バルクホルンが何故か、私に近付いてきた。どうしたというのだ?
「アイリス大尉、昨日の大型ネウロイの報告書により、カールスラントから、カールスラント軍が、完全に撤退することに決まった。だから、まず、大尉が先に撤退してほしい。」
と言われても、私は困るし、記者たちも困る。私の派遣先はカールスラントなのだ。どう言われても、こんな派遣切りの様な不意討ち行為だ。許すわけにもいかない。こんな狙いを適当に撃って、撃墜認定は、一緒の部隊にいるウィッチがやってくれる。楽をして、スコアを稼げて、手当も厚く、タダで食事も出るのだ。私としては、撤退などは、絶対に看過できない問題だ。
別に、オラーシャが、今から赤色革命が起こって、ソ連に成りますとか言われようが、ふーんと言ってそれで、構わないが、こと、私の収入・待遇に直接関わる問題は、かなりのデリケートで重要な問題なのだ。本国に帰るにしても、後ろ盾がない私は、資金が必要だ。政治争いで内外問わずに、マウントを取り合ってる地帯に、私のような根無し草が参入しても、ろくな事にはならない。第一、私は、カールスラントの戦時国債だって、ヤラセではあるが、ちゃんと買っているのに、酷いではないか。
ストレートに今の気持ちを伝え、真正面から撤退を断る。君達、カールスラント軍が、先に撤退をして、後から、私が殿を勤めて、追いかけるから、それで、君たちカールスラント軍は、南リベリオンのノイエ・カールスラントにでも、早く行けばいいじゃないかと言ったところ、ヴィルケ大尉が、尋常じゃなく驚いてから、怒っている。周りを見たら、ロスマンやあまり顔色を変えないラル中尉にすら、怒気を感じる。何か悪いことをしたというのだろうか?していないはずなのだが。
「アイリス大尉、貴女が撤退しないと我々が困るんです。」
ヴィルケ大尉に合わせて、ガーランド大佐が「あぁ、それにロマーニャだって困るだろう。撤退するだろう?」というので、正直に、私は困らないからと、私はロマーニャ軍所属であって、カールスラント軍ではないので、カールスラントの指揮系統には、組み込まれていない。と言ったところで、ロスマンとラルの眼光が鋭くなる。
そんなに悪いことを言っただろうか?君たちが、困ろうが、嫌な思いをしたところで、私の生活を保証してくれるわけでも無いだろうに、それに、そんなに悪いことは、言ってない筈だ。正直なところ、私としては、国に帰って、ロマーニャがどうなろうとマッキが残っていれば、私はどうだっていい、実際、ロマーニャが滅ぼうが、ロマーニャがヴェネツィアに併合されようが、マッキがあれば、私はあそこの社員なのだから、生活には困らないのだ。
よくよく考えてみると各国の戦時国債を買って、リベリオンと扶桑の会社の株式も大量に所持している。そんな、私からしたのなら、ロマーニャなどリスクヘッジにもならない。私の祖国は、日本であって、扶桑でもロマーニャでもない。彼女らには、そこらへんは、一切、わからないだろう。金が無い故の苦しみもだ。しかし、少女達に、そんな事で当たり続けていても、大して意味はない。お互いの妥協点を探さねばならない。
なんとなく、ルーデルに目を向ける。私と目があった。
「そんな顔をしても、駄目だ。もう、撤退は決まった。撤退しろ。それにカールスラント国内の殆どの工作機械と金属はノイエ・カールスラントに移した。我々だって撤退する。」
多少の無茶を押し通す、流石のルーデルも、これには許せないらしい。私は背中に、ベルトで掛けていたカルカノを無言で、彼女に差し出した。ルーデルは明らかに困惑をしながらも、受け取った。相手が動揺している間に決めねばならない。私は、カルカノに誓った、カールスラントへの誓いと称して誤魔化した。カルカノを渡したから、ベルリンに残るのを終わりにすると説明をした。
「なるほど、わかった。騎士と言うやつかしら。これで撤退を認めるのね。」
若干、緊張感がなくなり、柔らかくなったガーランドが、聞いてくる。当然、そうだと言うが、カルカノの代わりにMP40とMG151を貰った。等価交換ではない。ガラス玉を宝石として売りつけた、大航海時代の交易商人染みては、いるがこれで、やっと私の悩みの火力不足から開放される。こんなに嬉しいことはない。ついでに、ストライカーも貰おうかとも、思ったが、そんな雰囲気では無かった。流石に、そのラインぐらいはわかる。集り過ぎたら補給物資は少なくなるものだ。
そう言えば、カルカノに、認識票(ドックタグ)等が一式付いていたが、構わない。顔も覚えていない様な父よりも、形のあるMP40だ。ルーデルもそのボルトに付いているものに、気が付いたようで、認識票とユースティティアのチャームを何かと聞いてきた。素直に答えると困った顔をした。ルーデルにも、困り顔があるとは、私は驚きだ。
周りを見てみると、全員がその様な顔している。どんな顔だ。別にチャームに遺骨が、入ってるわけでもないし、ドックタグはドックタグだ。墓もロマーニャにあるし、なんの価値があると言うのだろうか?
戦場で死んだのなら、ドックタグを大事にする理由にはなるが、父は家で、海軍の艦長だかをやっていた大佐の男と不倫中の母に、強盗と間違われて、母に撃たれ、ついでに大佐は父の死体に、近くにあった火かき棒を突き立てた。それぐらいのつまらない死因だと、伝えるといよいよ彼女らは、バツが悪いといった顔になった。
全く、彼女らは、まだまだセンチメンタリズムな乙女の部分があるらしい。それに、そのカルカノは、母が父を撃ち抜いたのと同じ銃(もちろん個体としては違うが)だから、気にしなくて良いと告げる。ここまでを言ったら、カルカノを返そうと思わなくなるだろう。死んだ人間より、今を生きる私、それならば、新たな武器は重要である。カルカノと件の二丁は、制圧力が段違いである。
撃ったり、撃たれたりする戦場では、それがものを言うのだ。ついでに、Fw190をくれれば、言うことがないが。その点は、私はロマーニャ軍から、着替える軍服(毎回の出撃で替えなければならない、軟な軍服。私が、風からの保護を切って、何回も急降下や急上昇を繰り返すせいだと言われたら、仕方がないが。)の支給が追いつかないので、酒保で入手したカールスラント軍服や余っているオストマルク軍服を着ているので、夜間などは、勝手に乗っても、分からなそうだが。
無論、正式な軍帽はしっかり、ロマーニャ軍のモノではあるが、略帽は、その辺でお土産代わりに、売っているオストマルクや酒保で売っているカールスラント軍のものを被っている。
今は、呼び出しだったので、普段は全く着ない、儀礼用のちゃんとした、ロマーニャ軍装をしているが。サーベルだって差している。これは実践では、使えないなまくらだが、主席でウィッチ養成学校を出たときに、王子から貰ったものだから、見栄えだけはいい。
「すまない。」
何故か、ガーランドに謝られた。そんな悲しい顔して、謝られようが困るのだが、悲しいのは、こちらの懐だ。