君とのキセキ。   作:秋乃落葉

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メイクデビュー

 いよいよフジキセキとのトゥインクルシリーズでの活躍を目指してのトレーニングが始まった。クラシック三冠の勝利を大目標に掲げて始まったこの生活も、何はともあれ新バ戦に出ないことには始まらない。まずはメイクデビューで一着をとることを目標に、トレーニングを進めていくことにした。

 

「よし、じゃあ早速トレーニングを始めていこう!」

「オッケー、トレーナー君。どんなキツいトレーニングでも任せてくれ!」

 

 彼女のやる気も十分のようだ。記念すべきフジキセキとの初めてのトレーニング。それは──。

 

「ゲートトレーニングかぁ・・・」

 

 そう、ゲートの中でフジキセキがひとり呟いたように、ゲートトレーニングである。というのも、彼女とトレーナー契約を結んだ後、その能力を把握するために一通りの測定をしてみた。スピードやスタミナ、パワーは十二分といえるほどに素質を備えていることは改めてわかったのだが、どうにもゲートからのスタートが苦手らしいという問題も発覚したのだった。

 

「まあ任せてよ!すぐにゲートもマスターして見せるさ!」

 

 といって、何度か挑戦してみたものの、毎回なぜかものの見事に出遅れてしまうのである。模擬レースの出遅れは歓声に気を取られてのものだと思っていたが、どうやら元来のゲート難もあるようだった。最初からそつなくスタートを決めて見せたジェニュインと比べて、意外なフジキセキの弱点であった。

 

「まあメイクデビューまでは時間があるし、じっくり練習していこう」

「メイクデビューか。いつ頃になりそうなんだい?」

「メイクデビュー戦が始まったらすぐに登録しようと思ってるから、七月の頭かな。それまでにゲートを上達させられれば、君に不安要素はないと思うよ」

 

 わかったよ、と言ってフジキセキはゲートトレーニングに戻る。才能に胡坐をかかないところは、彼女の最大の美点だ。時間があるようで、あっという間にやってきてしまうメイクデビュー。フジキセキの勝利を確実にするべく、全力でゲートトレーニングに取り掛かろう。

 

 

 

 

 

 フジキセキとのトレーニングが始まって数か月。いよいよジュニア級メイクデビュー開催開始の時期が近付いてきた。フジキセキのトレーニングのほうも順調で、苦手のゲートも少しずつ上達してきている。もちろんこの数か月の全てをゲートトレーニングに費やしてきたわけではなく、彼女の豪脚を伸ばすためのスピード強化と、今後の中長距離レースを見据えてのスタミナ強化も余念なく行ってきた。

 

「フジキセキ、メイクデビューのレースなんだけど・・・。新潟レース場の1200のレースで行こうと思う」

「おお!とうとうメイクデビューだね!びしっと勝って君と私の初勝利を祝うとしようか!」

 

 フジキセキの調子も本番に向けて好調で、このままいけば必ず新バ戦勝ち上がりを果たすことができるだろう。その先を見据えられるウマ娘だ。

 

「よーし、メイクデビューが決まったなら、一層気合を入れてトレーニングしていかなきゃね!・・・おや、あれは・・・」

 

 フジキセキの目線の先には、彼女と同じく黒髪のウマ娘。

 

「おーい、ジェニュイン!トレーニングは休みかい?」

「あら、フジキセキさん」

 

 模擬レースでフジキセキと人気を二分した期待のウマ娘、ジェニュインである。性格こそ快活なフジキセキとは違って大人しいが、その走りは彼女と比べても引けを取らないのは目の当たりにした通りだ。話によれば、有力なベテラントレーナーと契約を結んだとか。

 

「トレーナーさんも、こんにちは。トレーニングに精が出ますね。私は今日はお休みなので、お散歩をしていたところです」

「そうなんだね。ジェニュインはメイクデビューの予定は決まった?私は新潟なんだけど」

「私は東京レース場です。お互い勝ち上がれるといいですね」

 

 ジェニュインはあくまで控えめな言葉を使うが、彼女の実力を考えれば、必ず上に上がってくる存在だろう。ジェニュインがクラシック路線を目標として来るのならば、フジキセキにとって、強力なライバルになるだろう。

 

「ぜひ君とは大舞台で共に走りたいと思ってるよ!」

「ええ、機会があれば、お手合わせお願いします。では」

 

 ペコリ、と一礼して、ジェニュインは再び散歩に戻っていった。

 

「なかなかクールだね、彼女は」

 

 その背中を見送りながら、フジキセキが言った。

 

「彼女とも、みんなを感動させるレースができるかな?」

「もちろん。そして君を勝たせるよ、絶対」

 

 フジキセキはにっと笑い、じゃあ期待に応えなきゃね、と言ってトレーニングコースに駆け出した。いずれ来るライバルとの戦いに思いをはせながら、メイクデビューに向けて最高の仕上がりにすべくトレーニングを始めることにした。

 

 

 

 

 

『──新潟レース場第五レースの出走は、十一時五十分です。登録しているウマ娘は──』

 

 いよいよ、俺とフジキセキのメイクデビューが始まる。仕上がりは上々だ。

 

「よっし、じゃあ行ってくるよ、トレーナー君」

「うん。天気は曇りだけどバ場は良バ場。普通に回ってくれば、先頭でゴールを駆けるのは君だ」

「任せてよ。君を感動させる走りを届けて見せるさ!」

 

 フジキセキは右手でサムズアップしてみせて、パドックへ向かっていく。ここからは彼女の戦いを見守ることしかできない。少しもどかしく感じながらも、彼女を信じてその背中を送り出すことにした。

 

 

 

 

 

『新潟レース場第五レース、メイクデビュー戦です。枠入りが進んでいます。注目は一番人気のフジキセキ、パドックでも大いに観客を沸かせていました。人気通りに勝ち上がりなるかどうか?間もなく出走です』

 

 レース場に実況が流れる。それを聞きながら双眼鏡を手にゲートインを見守る。フジキセキは八人立ての二枠二番。デビュー戦でエキサイトするウマ娘もいる中で、リラックスした表情だ。ゲートの手前で少し息を整えて、すっと収まっていく。

 

『──八人立て、1200メートルのメイクデビューです。デビュー戦で勝ち名のりを上げるのは果たして誰なのか!』

 

 全員ゲートに入り、そしてガタン、という音と共にゲートが開く。ざっと芝を踏みしめる八人がゲートから飛び出し、果たしてフジキセキはというと。

 

『スタートしました!揃ったスタートか、いやちょっと出がよくない二番のフジキセキです!一番人気のフジキセキの出遅れに場内どよめきます!』

 

 フジキセキは若干の出遅れ。注目ウマ娘のいきなりの出遅れに場内からうわ、というような声が聞こえてくる。問題ない。決して良いスタートではないが、最初に比べれば大分とよくなったほうだ。

 レースはそのまま勢いよく出た一人がハナを切り、それに追従して二人が先行策で前を狙いながら追っていく。さらにその後ろに四人のウマ娘がバ群を作り、フジキセキが最後方から追う形だ。

 

「ちょっと出遅れたけど、問題ない。今回は、強い勝ち方をさせてもらうよ!」

 

 第三コーナーに差し掛かるよりも早く、フジキセキは後方からぐんぐん速度を上げていき、前のバ群にとりつく。観客からは、さっそく足を使ってラストスパートまで持つのか、と心配の声が飛ぶが、当の本人はなんとも涼し気な顔で、悠々とポジションを上げていく。

 

『──さあ、後方から出遅れたフジキセキが上がっていく!二番のフジキセキが追い上げを図って前の集団に加わっていきます!内から三番の──』

 

 結局第三コーナーを回ってくる頃には、バ群を交わして前を行く三人にもとりつくような位置へ。はたから見れば、かなりスタミナを消費して加速しているように見えるから、場内のざわつきは続く。

 

『──場内まだどよめきが静まりませんが、先頭は一バ身差で──が先頭。二番手に──が付けている。その後ろに上がってきているフジキセキ!』

 

 第四コーナーで前を捕まえに行くフジキセキは、コーナーを回りきるタイミングですっと前を交わして先頭へ。各ウマ娘も必死の様相でスパートを開始するが、フジキセキは依然余裕を残した表情で直線に駆け込んでいく。

 

『さあ、先団で直線に入った三人の争いは、二番のフジキセキが先頭に踊りだしている!残り150、二番手以降をぐいぐい離す!出遅れたフジキセキ、しかし直線は離す一方!これは強い!二番手の争いは──』

 

 後ろからのラストスパートも一切意に介さず、一歩ごとに確実に引き離して三バ身、四バ身と差を広げて行く。その姿に、勝利を確信した観客たちの歓声も一段と大きくなって、

 

『──勝ったのはフジキセキ!一番人気にこたえてフジキセキが勝ちました!出遅れたにも関わらず、直線では大きく後続を引き離しました!』

 

「「よし!」」

 

 フジキセキと、同じタイミングでガッツポーズを作った。デビュー戦を、八バ身差での圧倒的な勝利。期待に大きく答えた、鮮烈なデビュー勝ちであった。

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