「トレーナー君、勝ってきたよ」
「お疲れ様。さすがの走りだったね」
メイクデビューのウイニングライブを終え、戻ってきたフジキセキを労う。あれだけの大差をつけての勝利、さらにはライブをこなした彼女だが、まだまだ体力に余裕を残しているようで、大きな仕事を果たしたにも関わらずけろっとした表情だ。
「一応聞いておくけど、疲労の方は大丈夫?初めてのレースで緊張しなかった?」
「全然大丈夫さ!むしろ皆の声援を受けながら走れて最高って感じだね!この後すぐにもう一レース走ってもいいくらいさ!」
さすがにそれは、と苦笑いしつつ、彼女のこの後のことを考える。メイクデビューを勝ち、しかも余力を残してということで、上のレースに出ても十分やっていけることは知らしめられただろう。すぐに次のレースを予定してもいいのだが。
「次のレースなんだけど、十月のもみじステークスでどうだろう」
「もみじステークス?」
「そう。OP戦ではあるけど、距離は今回より伸びて1600メートル。もしここでマイルでも結果を残せるとなったなら、その時は、朝日杯フューチュリティステークスに行こうと思う」
朝日杯フューチュリティステークス。阪神ジュベナイルフィリーズ、ホープフルステークスと並んでジュニア級の最後、十二月に待ち受けるGⅠ競争だ。前二つは朝日杯FS、阪神JFとも略され、それぞれクラシック路線、ティアラ路線を見据えるウマ娘たちが出走する。ホープフルステークスは二つに比べて新しくGⅠに設定されたレースであり、距離も二つのレースが1600のマイルに設定されているのに対し、2000メートルと、中距離を意識するウマ娘が参戦してくるレースだ。
クラシック路線を目標とするフジキセキとしては、三冠の第一戦となる皐月賞と同じ距離となるホープフルステークスを選ぶ選択肢もあったが、その歴史の長さからくる権威故に強豪が揃いやすい朝日杯FSを目標に掲げようと思ったのである。その旨を彼女に伝えると。
「なるほどね。朝日杯を勝って、世代最強の看板を手に入れてからクラシック級に行こうってわけだ。いいじゃないか!」
「決まりだね。次のもみじステークスを勝って、朝日杯を取ろう」
こうして無事に最高のスタートを切った俺とフジキセキは、次なる目標を見定めた。まず目指すは、ジュニア級王者の座だ。彼女なら夢ではない。自分も最大限のサポートをしていこうと気合を新たに入れて取り組むのだった。
メイクデビューを終えて少し経ったある日、トレセン学園の食堂でたまたまフジキセキを目にした。
「おや、トレーナー君。奇遇だね」
彼女の前には、山盛りのご飯やおかず、そしてニンジン。その細めの体からは想像がつかないが、実はフジキセキはかなりの大食いウマ娘である。彼女の力の元がそこであるというのであれば、あえて止めることはないが。
「ああ、フジキセキ。・・・と、ジェニュイン?」
「こんにちは、フジキセキのトレーナーさん」
フジキセキの対面には、ジェニュインが座っていた。珍しい組み合わせだ。というのも、フジキセキは同世代のウマ娘たちから、なんというか、非常にモテるため、いつも彼女の周りは大人気なのだが、今日はそうではなかった。
「私が誘ったのさ。ジェニュインもメイクデビューを勝ったと聞いたから、ぜひ話がしたくてね」
「そういうわけです」
世代でもトップクラスといえる二人の相席に、周りの子たちはちらちらと様子をうかがっているようだ。なるほど、図らずも近寄りがたい雰囲気になっているようだ。
「ジェニュインは次のレースの予定は決まった?」
「いえ、まだです。クラシックに向けてトレーニングを積みながら、トレーナーさんと相談しようかと。とはいえ、私もクラシック路線を選ぶつもりですから、いつかは必ずフジキセキさんと走ることになるでしょうね」
「うん!楽しみにしてるよ!ちなみに私の次走は──」
「フジキセキっ!!もみじステークスに出るんだろっ!?」
二人の会話に突然誰かが飛び込んできた。驚いてそちらに振り向くと、二人よりは少し小柄な、褐色の髪色をしたウマ娘が興奮した様子でいた。フジキセキと似て中性的な印象を受けるが、どちらかと言えば少年っぽさを感じる容姿をしている。
「僕ももみじステークス出るんだ!!フジキセキと一緒に走れるなんて楽しみだなぁ~っ!」
「あはは、タヤスツヨシは今日も元気だね!」
「うん!!よろしくね!!」
そんな元気っ子な彼女は、タヤスツヨシ。フジキセキとジェニュインほどではないが、模擬レースでは良い動きを見せて、注目を集めたウマ娘の一人だ。
「ジェニュインも確かクラシックなんだよねっ!?」
「ええ、まあ」
「僕もクラシック目指すよ!!一緒に走ろうねっ!」
元気いっぱいなタヤスツヨシに対して、あくまでクールなジェニュイン。フジキセキは楽しそうにニコニコとしている。
「こらっ!ツヨシダメでじゃない!二人ともご飯食べてる途中なんだから、邪魔しないの!それから人の話に割り込まない!」
また新しくやってきたウマ娘が、タヤスツヨシのところに勢いよくやってきて、その小さな背丈を精一杯つま先立ちで伸ばしながら、タヤスツヨシの左耳をつねって引っ張った。
「痛ッだだだ!!ダンス、耳引っ張んないで!!」
「まったくもう。ごめんね、二人とも。ツヨシすぐ飛びついちゃうから」
「いえ、大丈夫です」
「大丈夫だよ、ありがとね、ダンスパートナー!」
茶髪でかなり小柄な、有体に言って背の低いこのウマ娘はダンスパートナーだ。小さな体ながら、模擬レースでは後方から鋭い差し足を発揮してその速さを見せつけた才能の持ち主。いつの間にか期待のウマ娘が四人も集まってしまった。
「ごめん、すぐ退散するから」
「いやいや。ところでダンスはクラシック級はどうするんだい?私たちと同じくクラシック路線かな?」
「あたし?あたしはデビュー戦もまだだからなんともね。でももし出られるならティアラ路線にいきたいな。ティアラを頭に舞って見せるわ、ってね」
ほら、いくわよ、と言ってタヤスツヨシを引っ張っていくダンスパートナー。ツヨシはじゃーねー、と手を振りながら引きずられていった。フジキセキは軽く手を振り返し、ジェニュインは気にせず食事を続けている。
「ふふふ、俄然クラシックが楽しみになってきたね。そう思わないかい?」
「まあ、そうですね。でもまだメイクデビューを勝っただけですから。出られるかどうか、これからです」
そういうとジェニュインは食事を食べきり、手を合わせてから立ち上がり、食器を片付けに向かう。そうして席を少し離れたところで立ち止まり、背中越しにフジキセキに言う。
「もし、皐月賞で戦うことになったら。・・・その時は、どちらが正真正銘、本当に最も速いウマ娘なのか、決めましょう」
「・・・ふふっ、望むところさ!」
再び歩きだすジェニュインの背中に、ウインクを飛ばすフジキセキ。それを見ていた周りのウマ娘達は、かっこいい、と感嘆の声を漏らした。当のフジキセキは何事もなかったかのように、山盛りのご飯を食べ始める。
「・・・いや、なんか俺置き去りにされた感じだな」
「賑やかな同期たちでいいと思わないかい?」
なんとも濃い印象の面々であった。それに、奇しくも第二戦目で対決することとなったタヤスツヨシ。ライバルたちとの激戦の予感に、何処か心が躍ってしまうのを感じる。彼女たちとの戦いは、すぐそこだ。
遅ればせながら、昨日はタマモクロスの誕生日でしたね。
艦これの二次創作を書いていた時もそうなのですが、背が小さくて関西弁の強い女の子が好きです。
なんででしょうね。