『今年もジュニア級伝統の一戦の時期がやってまいりました。中山競馬場第11レース、朝日杯フューチュリティステークスです。昨年の覇者ナリタブライアンは、今年三冠ウマ娘の栄冠をつかみました。今年も大器の片鱗を伺わせるウマ娘が参戦してきています!間もなく本バ場入場です!』
いよいよ本バ場入場が始まり、各ウマ娘がコースに入場してくる。会場のボルテージはどんどん高まり、否が応でも決戦が近付いてきているのを感じさせる。
『一番人気のこの子が一枠一番です!すでに世代最強を噂されるその足で名実ともに世代の頂点に立つか!フジキセキ!』
フジキセキが手を振りながら入場してくると、あちこちから声援が飛ぶ。そのまま軽くアップをするように走り出していく。今日もその強い走りを見せてくれることは間違いない。
『──打倒フジキセキの最右翼はこの子を置いて他にいないでしょう!今日も最速の足で勝利をつかめるか、三番のスキーキャプテン!』
白い髪と尻尾をたなびかせて、やってきたのはスキーキャプテンである。ここまでフジキセキと同じく二戦二勝。その両方で上がり最速の足で後方から差し切るスタイルで勝ち切ってきた。瞬発力勝負になれば、彼女はかなり手強い相手になるに違いない。
『──以上十人のウマ娘達が争います朝日杯FS!発走まで今しばらくお待ちください!』
ゲートイン前。まだほんの少しだけ時間がある。入念に柔軟体操を行い、体とともに緊張をほぐしていく。なかなか胸の高鳴りが収まらない。これがGIか、とフジキセキは思う。これまでとはけた違いの観客たちが、たった数分の戦いを見届ける。
胸に下がるネクタイをぎゅっと握りしめ、何度か深呼吸。ゆっくりと余計な力が抜けていき、走る気力が体に満ち満ちていく。
「フジキセキサン。あなたと戦いたかったのデス。実現できて、嬉しいデス」
「スキーキャプテン。噂は聞いているよ。こちらこそ、共に走れて光栄だ」
初めてフジキセキとスキーキャプテンは言葉を交わし、握手をした。そのまま、スキーキャプテンはフジキセキの目をまっすぐ見据えながら問う。
「フジキセキサン。あなたの夢は何デスか?」
「え、夢?」
「ハイ。世代最強と言われるあなたの夢。それはなんデスか」
「それは、三冠ウマ娘になって、みんなに感動を届けることだよ。そういう君の夢は何なんだい?」
問い返されたスキーキャプテンは、ここではない遠くを見つめながら、フジキセキに返す。
「私が生まれたアメリカの、ダービーを勝つこと、デス」
「アメリカのダービー・・・。ケンタッキーダービーを?」
「そうデス。世界最高のレースは凱旋門賞といわれマスが、私はケンタッキーダービーだと思ってマス」
なぜなら、と彼女は続ける。曰く、アメリカで生まれるウマ娘の数は世界一であり、その競争も熾烈なものだと。ならばこそ、その頂点に立つウマ娘こそが世界の頂点に立つウマ娘なのだと。
「だからこそ、ケンタッキーダービーは、全てのレースを差し置いて、『最も偉大な二分間』と言われるのデス。私はその舞台に立ちたいのデスよ」
「──日本のウマ娘は海外のクラシックはおろか、GIも勝ったことがない。高い壁だよ?」
「でも、私が挑戦しない理由にはならない。デショ?」
スキーキャプテンは、強い意志をはらんだ目でフジキセキを見る。その瞳には、一切の迷いがない。フジキセキの顔に、自然と笑みがこぼれる。
「改めて、本当に君と走ることができて光栄だよ、スキーキャプテン」
『──さあ!朝日杯フューチュリティステークスのファンファーレです!』
観客たちの掛け声と共に、開戦を告げるファンファーレがレース場に鳴り響く。1600mを駆けた先に、立っている勝者は一人だけ。
「でも、勝つのは私だ」
「世代最強の名を背負って、私は海を渡りマス」
『──ファンファーレが鳴りやみまして、ゲートインが進みます。二番人気のスキーキャプテンはすっとゲートに収まりました。フジキセキも今入ります。スムーズなゲートインです』
間もなくレースが始まる。もう三度目のレースだが、この瞬間の緊張はいつまでたってもなれそうにない。いや、今回は当然か。なんといっても初めてのGIだ。双眼鏡でフジキセキの様子をみると、彼女はこれまでと変わらず、いや、むしろ楽しさを感じさせる表情だ。
「がんばれ、フジキセキ・・・!」
『さあ、全員収まりました。・・・ゲートが開いた!スタートが切られました!ちょっと外のほうで十番の──、そして後ろ、三番のスキーキャプテンが後方から。さあ先行争いでありますが──』
火ぶたが切って落とされる。フジキセキはきれいにスタートを切ってそのまま中段あたりに収まる。スキーキャプテンもスタートが悪かったわけではないが、ゲートを出てすぐに後方、彼女のポジションへ。先頭は二人の逃げウマ娘が並んで引っ張っていく。そこから少し離れてバ群ができている。そんな様相で最初の直線を駆けていく十人。
「悪いけど、先に行かせてもらうよ!」
『──二人が並んで先頭を行きました。そしてその後ろ離れて四番の──。そしてフジキセキは早くも四番手!フジキセキが早くも四番手から三番手!七番の──が五番手追走──』
観客から大きな歓声が上がる。これまでのレースの戦法とは変わって、レースの序盤から位置を押し上げて先行のポジションへ上がっていく。おそらくこれは釣りだしだ。後方で足をためているスキーキャプテンに、足を使わせてついて来させるフジキセキの策。しかし後方でスキーキャプテンはポジションを崩さない。あくまで冷静沈着、フジキセキが長くいい脚を使えると知っていてなお、その末脚で差し切る自信があるからこその後方待機。
ついて来ないか、とちらり後ろを見て思うフジキセキ。だが構わない。直線で早めに先頭に立って体を並ばせることなく振り切る。それがベストと判断し、前へ。
『──ややポツンポツンと、ウマ娘同士の差が開いた感じ、──と──が七番手、八番手。そして白い髪をなびかせて、スキーキャプテンは現在後方二番手!それに──が続いています!』
前を行くウマ娘達は第三コーナーの入り口へ。それを見ながらスキーキャプテンは己を律する。まだだ。まだここではない。脚を使い始めるのは、最高のタイミングで、最速の脚で使わなくては意味がない。早めに上がったフジキセキにしっかりとマークをつけてただその時を待つ。
『──今800を通過していきまして、46秒台!平均ペース、と申し上げておきましょう!三コーナーのカーブに差し掛かってまいります!──』
再びじりじりと位置を上げていくフジキセキ。第四コーナーに入るころには逃げる子を完全に射程にとらえ、内側を狙って最後のスパートの準備にかかる。並んで進む先行の子たちもつられるように上がり始め、後方で続く子たちも負けじと上がっていく。その最後方に、未だその時ではないと待ち続けるスキーキャプテン。
『──さあ四コーナーをカーブして!間もなく直線コースに出てまいります!さあフジキセキは内をつく!フジキセキは内をつく!漆黒の髪に星一つ!』
内、空いた前に突っ込んでいく。逃げた子に並びかけ、抜かせまいと粘る逃げウマ娘と競り合っていく。しかし最後方で大外を回って前が開けた彼女が。
「──今デスッ!」
引き絞られた矢のように放たれた末脚で、思うように上がれない差しのウマ娘たちに目もくれず、凄まじい勢いで駆けあがっていく。一人、二人と後方にして、あっという間に先頭集団を射程圏内に。
『──内で懸命に頑張っている──!その内!その内!フジキセキ!一番内からフジキセキ!外から白い髪をなびかせて、スキーキャプテンが飛んできている!』
猛烈に、とんでもない脚で駆けあがったスキーキャプテンが二番手を行く子を交わしてフジキセキまでは残り二バ身。残りは100mを切っている。だがそれだけあれば十分とばかりに、確実に、確実にフジキセキに迫る。やがて差はなくなり、半バ身差、クビ差。
『──先頭はフジキセキッ!外からスキーキャプテンッ!届くかどうかッ!!』
二人の差がほとんどなくなったところでゴール板を通過。その最後、勝ったのは──。
『──二人並んだが!わずかにわずかに内!フジキセキ!勝ちタイムは1分34秒7!来年のクラシックはやはり、この子を中心に展開されます!!これがフジキセキですッ!』
「い・・・いよっしゃああぁぁっ!!」
ドン、と上がった大歓声に答えるように、フジキセキが大きく、大きく拳を天に突き上げる。フジキセキは見事に世代最強を証明して見せ、そして、GIウマ娘になったのである。
スキーキャプテンが遠征せずに日本で走ってたらどうなってたんでしょうね。
〇外なのでクラシックは出られませんが、マイル路線では大暴れしたのではないかと思ってしまいますね。