祝福の声が降り注ぐ中山競馬場。見事ゴール板を最初に通過して見せたフジキセキは息を整えながら、歓声に答えて満席のスタンドに手を振って返す。
「私の完敗デス。フジキセキサン、貴女は本当に強いデスね」
「君もね。初めて負けるかと思ったよ」
スキーキャプテンとフジキセキは固く握手を交わし、互いの健闘を称えた。ここまでの二戦を余裕を残して勝ってきたフジキセキを、クビ差まで追い詰めたスキーキャプテンだが、レースの世界では例え一センチの差であっても絶対の距離である。
「フジキセキサンなら、本当に三冠ウマ娘になれるかもしれまセンね。でも私も夢は諦めまセン。ケンタッキーダービー、走りマス」
では、と言ってスキーキャプテンは先に引き上げていく。その背中を見送るフジキセキには、なぜだか彼女がずっと大きな存在に感じた。それはきっと、胸に抱く大志のため。
「・・・私も、夢を叶えて見せるさ。その時は、君の背中を追って見せるよ」
盛大なウイニングライブを終え、帰路に就く俺とフジキセキ。見事GIウマ娘になって見せた彼女に、その感想を聞いてみた。
「改めておめでとう。GIを勝った感想はどう?」
「最高だったさ!みんなから贈られる祝福の嵐と万雷の拍手は何物にも代えがたい栄光だった!クラシックはこれ以上の盛り上がりなんだから、恐ろしいよ!」
彼女と出会って、見せられた夢。クラシック、そして三冠制覇。新人トレーナーが大言壮語を、と笑われたものだが、フジキセキがジュニア級の頂点とも言って差し支えない戦績を残した今、決して夢などではない、手を伸ばすべき目標となったのだ。本当に、フジキセキには感動させられてばかりだ。
「人を褒めてばかりいるけども、君のほうはどうなんだい。トレーナー君?」
「え、俺?何が?」
「何がって、君ねぇ。君だってGIトレーナーになったんだよ?」
「あ・・・。そうか、俺もGIトレーナーか」
当然ながら、フジキセキがGIウマ娘になったということは、担当トレーナーである自分もGIトレーナーになったということだ。
「フジキセキに夢中になってて忘れてたよ。俺もGIトレーナーになったんだなぁ」
「ふふ、どうだいトレーナー君。GIトレーナーになった感想は?」
「正直まだ実感がないよ。とにかく君に感謝って感じだ」
新人トレーナーとして、初めての担当ウマ娘がフジキセキになったこと。そして彼女があっという間にGIを勝って見せたこと。それは果たしてどれだけ幸運なことなのだろう。その名に冠するキセキの一端を担えることが、今はとにかく嬉しい。
「まだまだ満足されては困るよ?来年はいよいよクラシックなんだからね」
「わかってる。ここからが本番だ。俺も気合入れてくよ」
よろしく頼むよ、と言ってフジキセキはにっと笑う。
「ああ、そうだ。話は変わるんだけど、トレーナー君からもらったネクタイ。今後も勝負服に使わせてもらえないかな?」
「勝負服に?それならもっといいやつ買ってもいいし、そもそもサイズも調整するけど・・・」
「いいや、変えなくていいよ。だからトレーナー君のネクタイが欲しい」
「フジキセキがいいならいいけど」
彼女曰く、初めてのGIを勝った思い出の服だから、ということらしい。フジキセキに渡したネクタイは完全に私物の地味なもののため、勝負服に見合うようなものではないのだが、彼女がそれがいいというのならば敢えて止めることもないか。
「代わりと言っては何だけど、今度トレーナー君の新しいネクタイを買いに行こうよ!私が選んであげる!」
お出かけか。そういえばこれまで、トレーニングに必死で、フジキセキと出かけたりすることがなかったな、と思い返す。ネクタイは別に替えがあるからよいのだが、せっかくの機会だ。フジキセキとの仲を深めるためにも、トレーニングの息抜きに出かけてみるのもいいだろう。
「わかった。じゃあフジキセキにとっておきのやつを一本選んでもらおうかな?」
「決まりだね!じゃあクリスマス、楽しみにしておくよ!」
「おう!・・・ん?」
師走も過ぎ去ろうとする十二月下旬。世の中どこもかしこも浮足立つような雰囲気のクリスマスである。フジキセキに言われるがままに待ち合わせ場所にやっていくと、予定の十五分以上も前にも関わらず、既に彼女は到着していた。
初めての彼女の私服姿は、ジャケットにスキニーパンツと、背が高く、スタイルのいい彼女の魅力を引き立てている。
「ごめん、待たせたかな?」
「いや、私も今来たところだよ。それじゃ、行こうか」
フジキセキに促され、街を歩く。想像通りというべきか、たまたま休日のクリスマスということもあって、街は日中からカップルが闊歩している。
「やっぱ今日はデート中のカップルばっかりだな~」
「おや、何を言うんだいトレーナー君。私たちもデート中のカップルじゃないか。そのつもりだったのは私だけだったのかな?」
えっ、と素っ頓狂な声を出してしまいながら、驚いてフジキセキを見る。冗談だよ、と悪戯っぽく笑う彼女に、不覚にもドキッとしてしまう。
「勘弁してくれよ。ただでさえフジキセキはファンが多いんだから。そういうこと言ってると勘違いするやつが出てきちゃうぞ?」
「あはは、誰にでもなんて言わないさ!トレーナー君にだけだよ。それにせっかくのクリスマスだ。トレーナー君がそうしたいのなら、デートと言うことにしても構わないよ?」
フジキセキはまたからかうように言って、左手を腰の後ろに、右手をこちらに差し出して、エスコートはいかがですか、と芝居がかった表情で言う。非常に絵になる様だ。
「いや、それだと俺が女みたいになっちゃうだろ。それに周りの女性の注目を集めてるからやめなさい」
「ごめんごめん、トレーナー君、からかい甲斐があるから」
こんな感じに、フジキセキにからかわれたりしつつ、街を進んでいく。しかし、こんな風にフジキセキと軽口をたたきながらゆっくりと過ごすのは初めてだと改めて思う。彼女の意外な一面なども知ることができると考えると、今後はもっとこのような時間をとっていったほうがいいのかもしれない。そんなことを思いつつ、彼女について街を歩いていくのだった。
次回もクリスマス、続きます。