それではプロローグ!!どうぞ!!
あれからどれほどの期間が経ったのだろうか............
カレンダーは既に6月を表記しており、2022年ももう折返し地点を迎えていることを知らせていた。
ソードアート・オンライン事件から早3年の歳月が経とうとしている。
ダンテの能力を宿し、この世界でキリト達が迎える筈だったのに悲劇を幾度も退け、今は束の間の平穏を堪能していた。
桜はとうの昔に散り、日中の暑さが夏を迎え始めたと嫌でも知らせてくる。
今は会社の独身寮のベランダにてソファーに寝そべりながら鬱屈な心境で呆然と時間の流れを感じていた。
じんわりと肌から滲み出てくる汗の不快感に苛まれながら半袖のシャツの襟を何度も仰ぎながら誤魔化すが一向に改善される気配はない。やはり世界が変わろうともこの風物詩とも言える環境は何処も同じなのだろう。
眉間に皺を寄せながら夜空を仰いでいるとそれを遮るかのように少女の顔が長い髪を垂らしながら此方を覗き込んできた。
「どうしたの?そんな顔して?」
この暑い中、何故そんなに涼しそうな顔をしながらその疑問を問いかけられるのだろうか、それともこいつの体温調節機能が壊れているとしか思えない。
「ほら、そろそろ行こ?お祭りが始まっちゃうよ。」
「............随分と楽しそうだな。」
「当たり前だよ!!だって小さい頃に家族で行ったきりだったもん!!」
そうにこやかに答える純粋無垢な少女はなぜそのような疑問を投げかけるのかと言わんばかりに首を傾げるが、此方は何故そこまで楽しそうに出来るのかが不思議で仕方がない。
別に祭り自体は嫌いではないのだ。何なら仮想世界に関しては自発的にゲリラショーに似た何かを行っている。ただそれだけだというのに周囲のプレイヤー達はどういう訳か蜘蛛の子を散らすかの様に逃げていくばかり、そのお蔭でデビルメイクライは常に閑古鳥である。
なんとも寂しい時代になったものだ。
「ほらほら!!飛鳥もダラダラしてないで早く行こ?」
そう言いながらまるで祖父を急かせる孫娘のようなやり取りをさせられながら立たされ、玄関へと背中を押される。
自分よりも遥かに体格が大きく筋力も勝っているはずの相手に唸り声を上げながら動かそうとしてくる健気な姿が視界に入る。
普通であればその姿に呆れ、仕方ないと根負けして同行する流れなのだが生憎と草薙飛鳥に選択肢は含まれていない。
居間から玄関へと繋げている扉の手前へと差し掛かる直前にひらりと側面に体をスライドすると全体重を預けているであろう木綿季は「あっ」と素っ頓狂な声を出し、その姿勢が大きく崩れ、危うく床に激突しそうになるが元から反射神経が良いのか、それとも常日頃からリハビリを怠らなかった賜物かどうにか倒れずにその場で静止することが出来た。
「お前だけ行ってくれば良いだろ?」
「そんなの嫌だよ!皆と一緒行った方が絶対楽しいし、せっかくのお祭りに行かないなんて勿体無いよ?」
「だったら明日奈達と楽しんでこい。」
「飛鳥も一緒なのが良いの!」
頬を膨らませながらこっちが要求をお受け入れないことに苛立ちを覚え、どうしたのものかと数秒間悩んでいると何を閃いたのか悪戯好きの子供の様に微笑みながら近くの棚を漁り始めたのだ。
「これで決めよっか!!」
そこから取り出されたのは何の変哲もないトランプをこちらに掲げてきた。
「............何だ。」
「何だ、じゃないよ!これで、ポーカーで決めるの!!」
目の前で自信満々にそう答える少女の思考に追いつくことが出来ない。頭痛でこめかみを押さえたくなる気持ちをどうにか抑え、
おそらく顰め面になっているだろう顔の筋肉をできる限り和らげ、もう一度どういう意図があるのか問いただすことにしよう。
「何を決めるって?」
「だ、か、ら!」
何度も同じ事を聞かれ、自分の考えがいまいち伝わっていないことにハリセンボン顔が出来上がる。デビルメイクライに居座り始めた当初から何度も見ている為か最早お家芸なのではと勘違いしてしまいそうになるそれを横目に木綿季は気にせずトランプが入っているケースを目の前に突き出してくる。
「ポーカーで決めるの!!飛鳥が勝ったら家に居ていいよ?けどボクが勝ったら一緒に祭りに来てもらう!どう?」
両手を腰に当て、満面の笑みで自信満々に答える木綿季。
こちらとしては拒否権を行使したいところだがこの状況でそんなモノは期待出来ないだろう。知り合いの女性がにこやかに微笑んでくる時は大抵碌な事が起きない。
この2年間、命を掛けて学んだ数少ない教訓である。
頭の中で走馬燈のように記憶を掘り返しているとこちらを他所にケースから取り出されたトランプを慣れない手付きでシャッフルしており、近くにあったテーブルに置いて先に5枚引き抜いた。
「さ!飛鳥も早く引いて!」
以前変わらず自信に満ちあふれている表情で迫りくる木綿季だがまだこちらがやるとは一言も言っていないにも関わらずもう始めることを前提に事が進んでいることに呆れを通り越して感心してしまいそうになる。
こうなってしまえば最早何を言っても無駄だろう。何せ
この状況もまた初めてではないのだ。お袋からの入れ知恵なのか木綿季の要求を素直に飲まなかったら必ず賭け事で覆そうとする。
それに強引にでも拒否すれば泣き顔になるかそれよりも酷い事が起こる。酷い時はお袋から冷徹な笑みで説教染みた嫌味を背中から刺されたこともあった。
アレに関しては久しぶりだった。約3時間の正座から開放された。
その上、後に起こる足首の強力な麻痺による苦痛が精神的に削られた自分に更に追い打ちを掛けてくるのだ。
子供の頃に受けたのが最後かと思ったのだが社会人になった今、こうして苦痛に耐え忍ぶことになるとは誰が予想出来ただろうか?
そういう事により、こちらの拒否を受け入れられず。大人しく応じなければならないというのが一連の流れだ。だから当然、この勝負にも応じなければならない。
だがギャンブルに関しての経験であればこちらが遥かに上なのだ。さっさと終わらせて平穏な一時を取り戻す絶好の機会を逃す訳にはいかない。
お互い正反対のリアクションを取りながらも手元には5枚の札が収まる。
「それじゃあ、いっくよぉ〜!!」
結果は悔しいことにビギナーズラックの前には無意味だった。これは決して全戦全敗している事に対しての言い訳ではない。決してだ。
この時、無理にでも有耶無耶にするべきだった。
こちらは運良く7のフォーカードというなんとも頼もしいメンツが揃った筈だというのに................まさかあそこでハートのロイヤルストレートフラッシュのカウンターを喰らうとは誰が予想出来ただろうか?
生意気な勝利の笑みを浮かべる木綿季を視界の隅に捉えながらジャケットを羽織り、夕日が沈みかけているであろうオレンジ色が混じった空を見上げながら無心で足動かし続けた。
日の光も残り一欠片となり、オレンジ色に染まった空の半分は僅かながら小さな星々が顔を覗き始めている。
もうすぐ暗闇に飲まれようとする外はいつもの街灯だけで照らされることなく、屋台の提灯や電気ランプが路地裏にまで差し込む程の明るさを放っていた。
6月下旬、まだ本格的な夏とは言えないものの梅雨が過ぎたばかりなのか僅かにじめじめとした湿気が混じった不快感が袖や襟から滲んできそうになる。
インドア派の者なら苦行でしかない人混みの滝を割って通りながら目の前にいる人物についていく他ない。
「ねぇねぇ!!次は射的に行こ!!射的!!」
額に汗が滲み出ている事を他所に天真爛漫という言葉が相応しい笑顔をこちらに向けながら先陣を立って早歩きしている。
浴衣にお面、左手にはりんご飴、右手には綿飴、祭りシリーズのフル装備に身を包む少女はかれこれ小一時間動き回っているというのに息切れをしている素振りは一切感じられない。
スタミナ減少を低下させるバフが掛けられているのだろうか?
「まだ遊ぶのか。」
「だって楽しいんだもん♪」
つい数ヶ月前まで3年近くも病院で缶詰状態の生活を送っていたとは想像出来ない位に活発な姿を見せる。
今まで溜まっていた鬱憤を晴らしているのだと考えればまだ納得するが生憎こちらのスタミナは無尽蔵にあるわけでもない。
元々外出する気質ではないのだが必要最低限のスタミナは確保している。
だが流石に足の筋肉が悲鳴が脳に直接訴えてくる。
どうにかこの場を抜け出す術を探さなくてはと周囲を見渡すとこちらと目が合う人物が近くに居た。
「良いところに.............」
向こうは相反対する表情を浮かべ、コンマ数秒でソッポを振り向いたのだ。これでもあのデスゲームで共に戦い、命懸けでクリアした仲間だというのに、随分冷たい反応をするものだ。
「あ!明日奈!!」
木綿季は純粋無垢な声で彼らに走り出したのだが、向こうの二人は複雑な心境なのか苦笑いで手を振っている。明日奈よ、お前も同じか................
「こ、こんばんは木綿季、飛鳥さん。」
「よ、よぉ二人共............奇遇だな?ハハハ.......」
「........その割には最悪って顔をしているように見えるが?」
そんなことはないと全力で否定するように首を左右に大きく振るが、こめかみ辺りから冷や汗が僅かに流れているように見えたのは気の所為だろうか?
二人は平然を装っているつもりのようだが、距離が縮むにつれて口角が歪な曲線を描き始めている。
「悪いな、せっかくのお楽しみのところを邪魔したみたいだな?」
「べ、別にそんなことはないぞ!?」
「う、うん!!」
最早隠す気があるのか疑ってしまいそうな挙動不審だが、まぁ弄.......ではなく茶化すのここまでにしておこうか。
「それじゃあ皆で一緒に屋台回ろっか!!まだ見ていない店がまだたくさんあるんだ!!」
祭りの開始時間と共に遊び始めて最早既に10件近く遊んでるはずなのだがまだ物足りないというのか、ここまでくればこちらの財布の中を全て使い切るつもりなのだろう。ならば早々に何処かに避難しなければ今週分のデザートが無くなるどころか次の給料までお預けという地獄を味わなければいけなくなる。
本格的に危機感を覚え始めたその時だった。ポケットから僅かな振動が伝わってくる。
こういう時に限って菊岡の面倒な仕事の話か倉橋辺りから木綿季の健康に関する小言を伝えてくるかの二択だ。
画面を見ることすら億劫だと感じてしまう、だがこのまま無視をすれば後々比較にならない程に圧力をかけて説教してくるのは既に経験済みだ。ここは確認だけはしておくことにしよう。
ゆっくりとホーム画面を開くとどうやら通話ではなく、一通のメールが表記されていた。
「................」
「ん?どうしたの飛鳥?」
「.........木綿季、悪いがお前は和人達としばらく遊んでろ。」
「え?どうして?飛鳥は?」
「大人の用事だ。」
木綿季達を背に向け、何処か人気のない場所で連絡を取る必要になった。特にこいつに関してはこいつらに関わらせるわけにはいかない。急がなくては。
木綿季達と離れ、今現在は誰一人利用していない公園のベンチに腰を下ろし、蓄積した筋肉の疲労を癒している。
近くには祭の喧騒と提灯の灯りが視界の端に映る中、こちらの視線はスマホの画面に縛られてしまっている。
通知画面に表記されているのは胡散臭い広告や、怪しい勧誘でもなく、何の変哲もない内容だった。
内容というより一言の文と共に電話番号が書かれている。
【ダンテへ】
今の仮想世界でのプライベート情報は厳守されている世の中だ。文字通り命のやり取りを行ったソードアートオンライン事件に関してはプレイヤー達は政府が保護しているのだ。当然、その内の一人でダンテが草薙飛鳥である事を知ることが出来るのはキリトを始め、共に同じ事件に遭ったプレイヤー達の一握りと事件の関係者のみだ。
かといって関係者として今も連絡を取っているのは菊岡、倉橋の二人だ
だがどちらともこんな回りくどい事をする訳がない。しかし、これを送りつけてきた主は友好的な相手ではない事は大体予想出来る。
電話するべきかどうか悩んでいるといきなり非通知のコールサインが画面に表示された。このタイミングとなるとこのメールの相手だろうか?
ゆっくりとコールに応じる為に受話器のマークをスライドし、画面を耳元にゆっくりと寄せた。
「ヤッホ~♪久し振りだねぇダンテちゃ~ん♪」
やべぇ………次の話も未だアンダーワールドに触れなてないことになる…………このままでは詐欺になってしまう…………
次回は2月15日投稿です!
ご通読ありがとうございました!!