DMC×SAO 俺の転生物語   作:ユーグクーロ

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12 忌まわしき過去、再び

街でオンブラとルーチェという新しい相方と巡り合い上機嫌になったのも束の間、寮に戻ってきた直後の事だった。あの二人組、ライオスとウンベールがロニエとティーゼ、そしてソフィアに貴族の法に基づいた裁判を下そうとしているらしい。

 

二人はともかくソフィアまで被害が被ったのは他でもない俺が招いてしまったからだろう。キリト達と同郷の者としてこちらにも嫌がらせという魔の手が向けられたのは火を見るより明らかだった。

野蛮な剣術だの、品のない言動だの、キリトとユージオに向けられたものとは大差なかった。挙句の果てには気に食わないなどといって練習試合などというお題目で決闘紛いを擦り付けられたこともある。

 

思い返す事といえばこの程度だろう。日は落ちて窓から見える光景は夜の暗闇に包まれ、大粒の雨が絶え間なく打ち付けてくる。

 

あの時もこんな感じだっただろうか…………

 

柊が心の傷を負う事になってからそう間もないある日、あの時も土砂降りの大雨だった。

 

場所は実家の中、テレビからニュースが流れてる以外には何もない。ただただ広い敷地に少し大きめの日本家屋にしては不気味なほど静かなものだ。あの事件から外で遊んだ記憶があまりない………三人でなんて尚の事だ。

中途半端に切られたフィルムのように俺達の生活は空白どころか始めから何もなかったかのような消失感だけがうっすらと残っているだけだ。

 

まだ何日も経過したわけでもないというのに途方もない時間が経過しているように錯覚してしまう。

 

はっきり言えば退屈といった方が正しいといえるだろう。こんな状況で不謹慎にも思えるのだが、こんな状況だからこそなのかもしれない。

楽しかったのだ。あの日々が、兄弟喧嘩してはあいつに止められ、三人で馬鹿げた内容で競争したり、兎に角乾いていたのだ。あの頃に戻れたらと…………

 

鬱屈とした心境にこの土砂降りの雨音が拍車をかけて不快感が増し、苛立ちへの燃料になっていく。何か気分転換出来るような事は無いかと重くなった体を押し上げた。短絡的ではあるがこのまま居座り続けるよりかは遥かにマシな筈だ。

次の瞬間だった。誰がつけ忘れたのかひとりでに画面を照らすテレビが選局したニュース番組を放送している。先程まで微塵も興味が湧くことが無かったにだが、ふと目の前を通り過ぎ去ろうとするもある光景が視線を逃してはくれなかった。

 

キャストがスピーチしているのは殺人事件だ。ここ日本は海外に比べれば比較的に治安の良い法治国家と知られているものの、それらが起きる事は無いという保証は絶対にないのだ。現に日本国内でも毎年起きる殺人事件は平均して800件前後となっている。不慮の事故や病の類、高齢者を含んだ死者数に比べれば微々たるものに見えがちだがそれでも一見安全に見えそうな日本ですらそれだけ発生しているのだ。

 

現在進行形で放映されているこの事ですらその中の一部でしかない。普段であればそうなんだ程度で聞き流すのだが、俺の眼はその画面から離れることは無かった。

その殺された不幸な相手が柊に一生モノの傷を負わせることになったあの屑だったのだ。死因は刃物による惨殺とのことだ。体中メッタ切りにされた上、首を切り落とされていたようだ。

それも事件現場は個々から駅で一つか二つ越えた辺りらしい。強姦未遂となったあの直後、警察の取り調べで男は近くの小さな会社に勤めている者だったらしい。社内では小さな問題を繰り返し、職務怠慢であることも度々あったらしく、そこからクビにされる結末になったという想像に難くない身の上話のようで職場を追い出された後、癇癪を起してその憂さ晴らしに行動した結果があの日のキッカケとのことだ。

 

更にはかなりの遊び人でもあったらしくパチンコ屋、競馬、競輪といった賭け事を趣味としていて度々男の住居に一般人とは程遠い連中が張り込んでいたこともあったらしく、近所では闇金まで手を出していたらしいという噂が漂っていた。

 

実に単純明快な程に最底辺の人間だったらしく大方恨みを持つ誰かに殺されたのだろうと察しがついた。当然の報いだ、地獄に落ちろ、と普通であれば罵倒、罵り、呪詛を吐くのが当然の心理だろう。だが今俺の心境を言葉に例えるなら『どうでもいい』だ。

 

奴が死んだところでこっちには何の進展も起きないのだ。もうあの頃には戻れない……………

唯一のアイデンティティとも呼べる好奇心も何処に行ったのか目の前の事実を鼻で払い一蹴、本来の目的である暇潰しのタネを探そうと歩き出したその時だったのだ。

窓から見えてくるのはウチが所有している蔵だった。中には草薙家代々伝わる代物が保存されているといういわば大きな物置小屋だ。子供頃はよくかくれんぼの舞台にしたものだ。それを知った両親が危険だという事で蔵の扉には頑丈な南京錠で施錠し、二度と遊べれなくなったことに不貞腐れるというほろ苦い思い出がある。

 

そんな蔵の扉が開いているのだ。

 

両親は柊の見舞いやら向こうの親御さん達との相談で留守にしている。ましてや普段使うことなど無い筈の開かずの扉が開いているのだ。面白半分で傘を差して未だ地面に大きな音をはじき出す大雨の中、扉の目の前まで近づいた。

 

鍵はもう十数年以上雨風に晒しているからか酷く錆びている。鍵穴の方は機能しているのだろうがきっと開けるのは困難だろう。そんな南京錠が破壊されているのだ。

経年劣化と説明しようにもまるで何かで殴り壊されたといった方が納得できる程に変形し、地面に転がっている。するとこれをやった下手人は強盗の類の者かと警戒しながら開けっ放しの蔵の中にゆっくりと入っていく、入口から入り込む僅かな光でうっすらとしか中の様子が分かるだけで未だ何処かに鍵を壊した犯人が潜んでいるのかもしれない。

 

そう警戒していたのだがどうにも気配らしきものを感じない。もう既に逃げ出した後だろうかと疑問を浮かべながらも警戒しつつゆっくりと中に入る。どうやら本当に誰も居ないらしい。

とはいってもこれといって荒らされた形式は無いのだ。奇妙としか例えようのないこの状況に立たされた中、一つだけ変化があったものがあった。

 

一つだけ箱が空いているのだ。それを包んでいた風呂敷から広げられた長方形の桐の箱が開けられている。唯一それだけが中身を失っているらしい。

普通であれば盗難届を警察に提出すればそれだけで済む話なのだが、その木箱に対して一つの悪寒が背筋を駆け巡った。

 

今もなお外は土砂降りであるにも関わらず、すぐに家から飛び出した。

視界さえ雨水に叩き付けられて目の前さえ見えづらいがそんなことにいちいち気にしている場合じゃない。空き地や路地裏を中心に走り回った。兎に角走った。

 

普通であればさっきの現状なら警察に通報し、被害届と紛失届を提出するというのが一連の流れだ。それが普通の案件であればだ。両親は柊の一件で朝から外出している。一度たりとも戻ってきたことは無い。

 

であればその家に残るのはその両親の子供くらいだ。だがあの家にさっきまで居座っていたのは俺一人だけだ。だが草薙家は二人の息子がいる。その兄弟の片割れが不在の上、さっきの箱の荷物が無くなった。それにさっき報道されたニュースも相まって俺の頭の中に浮かんだある推測、半ば確信に近いモノが今俺がずぶ濡れになりながらも馬鹿みたいに街の中を走り回っている原動力なのだ。

 

体育の授業でしか碌に動かしてこなかった俺が体を酷使しながらも水溜まりへお構いなしに足を踏み込んで辿り着いた場所は街から少しばかり離れた廃品廃棄場だった。

 

車だったものや家電製品があちこちに雨風に晒され錆びついたまま時間の流れが止まったかのように積まれている。そんなガラクタの山の中にたった一人、棒立ちしたまま雨水に打たれていた。

 

「こんなところまで散歩していたのかよ………随分と変わった趣味を持つようになったじゃねぇか、蒼真?」

 

こちらの声掛けに反応しているようだが振り向く素振りは一切ない。こちらの煽りに無視するのは今に始まった訳じゃない。そのまま続けるように俺は口を開いた。

 

「ついさっき、ニュースで人が殺されたらしいぞ?それもここからそう遠くない場所でだ」

 

「……………」

 

「しかも、柊を襲ったあの時のクソ野郎らしい………刃物であちこち斬り付けられた挙句、首を落とされたみたいだそうだ」

 

「それが何だ?」

 

漸く返事をしたと思ったらたった一言、我関せずと言わんばかりではあったが、恐らくこちらの言いたいことは向こうも予想していることだろう。なら、無駄だと分かっていても遠慮なく問い質すとしよう。

 

「……………なんで殺した?」

 

『殺した』その言葉に遠目からは確認しづらかったが、ピクリと手が動いた。不動だったその体がそのつま先からゆっくりと振り向き始めた。普段はオールバックに固めた髪型は雨水によって崩れ、前髪が目を覆う程に垂れ下がっている。

雷光で一瞬だが、その前髪の間からは普段とは一線を越えた鋭い目つきが見えた。もう何もかもどうでもいい、全てを捨て去ったと代弁しているかのような危険さを孕んだ捨て身の獣の眼だ。

 

「俺の仕業とでも言いたいのか?」

 

否定的な態度であっても、その手にしたモノが全てを物語っていた。布に包まれた棒状の荷物を手にし、解れた部分からは…………日本刀の柄が晒されている。子供頃、俺達兄弟がかくれんぼをしていた際に偶然見つけたのがその箱の中身、一振りの日本刀だった。

当時の俺達がそれを目にしたのは偶然の出来事だった。戸棚から落ちてしまった箱から転び出たそれにほんの僅かにでも好奇心を抱いてしまったが最後、歯止めを知らない俺達は丁寧に包まれた布を剥がし、その刀身を抜くと僅かな光でさえ弾き返す程に眩いそれに魅了されるのは一瞬の事であった。

 

男子たるもの、それもまだ十代迎えたばかりの年頃なら銃、剣といったそういう類の物に酷く心を惹かれてしまう。男子とはそういうモノなのだろう。先程までの遊びを放り出し、手にしてしまった次に起きることなど容易に想像出来るであろう。所謂、チャンバラごっこだ。

 

「そんな危なっかしいモノを持ってたら説得力無いぞ?この国はアメリカと違って銃刀法違反には厳しいんだよ、知ってるだろ?」

 

「………わざわざここまで来たのは俺を警察に突き出すつもりか?」

 

「普通だったら………な?」

 

こちらの意図を理解出来なかったのか少しばかり眉に皺を寄せ、訝しむ。少し間を置くと共にある見解に辿り着いた途端に小さな溜息を吐いた。

 

「またつまらん勝負事か…………」

 

「今に始まった訳じゃないだろ?」

 

話している内容は普段通りではあるが重い雰囲気のまま、蒼真は布を振り解き、手にしている日本刀の姿が露わになる。

此処が戦国時代でなければ時代劇でもない。ありふれた現実、廃刀令が下されて数百年の歳月がたったこの日本でなんの躊躇もなく侍の魂という代名詞を持った刀を自然と、堂々と持っているのはこいつだけだろう。

そしてゆっくりと鞘に隠された鋭利な牙が輝きと共に引き抜かれていく。

 

「今度は実の兄弟まで手に掛けるってのか?」

 

「必要であればそうするまでの話だ…………逃げるなら今の内だぞ?」

 

以前鋭い眼光を突き付けてくる蒼真からの煽りに対し鼻で笑った。これもいつもの喧嘩の前に行われる前座、お決まりの流れみたいなものだ。唯一違うとすればこれはただの殴り合いではない………そこには文字通りの命のやり取り、殺し合いをすることになる。

 

「それはこっちの台詞だぜ蒼真?……………俺が勝ったら今回の件、理由を吐かせてもらうからな」

 

「出来たらの話だがな」

 

未だ止む気配のない豪雨の中、蒼真は手にしていた日本刀を、こちらはその辺に落ちていた錆びた鉄パイプを拾い上げ、ゆっくりと歩み寄りながら距離を詰める。

相手に近付くことに比例して早まっていく。

もうお互いが手にした得物の間合いに入る頃には全力疾走し、次の瞬間には火花を散らすほどの衝突が生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あれからどれだけの時が経ったのだろうか……………)

 

柊が心に傷を負う事となったあの時、蒼真が姿を消すきっかけとなったあの時、もう三人で笑い合える事が訪れる日は無かった。もしあの頃に戻れたのなら、ふとそう自分らしくない思いが滲み出てきてしまう。

ゆっくりと目的地まで歩んでいると薄暗い景色の中から人影が一つ浮かんできた。片腕を失くし、今さっき失くしたからなのだろうか覆い包んでいる布地は赤色に染まりつつある。

 

「ダ、ダンテ殿!!?た、助けて欲しい!!や、奴等がライオス殿を!!」

 

こちらを見るや否や四つん這いのまま這いつくばりながら足元まで近寄り、かつての傲慢な態度は何処に行ったのだろうか?慌てふためいた足取りでこちらに縋りつき、懇願してきた。

 

「ユージオが反逆者として私にこのような深手を!おまけに同室のキリトまでもが剣を差し向けてライオス殿をこ、殺したのだ!た、頼む!助けて欲しいのだ!!」

 

「…………それで?」

 

ユージオからつけられた傷から出血が収まっていないのか抑える地からは赤い染みがゆっくりと広がっているにも関わらずさが勝っているのだろうか痛みを感じていない様子だ。

ついこの間までは野蛮だの品性の欠片もないだの馬鹿にしていた記憶が無くなったのだろうか、あの時の傲慢な口調をしていた者とは想像できない程に情けないくらいのものになっている。

 

「今奴等を抑えられるのは貴殿の力が必要なのだ!ダンテ殿の実力ならあの二人を抑える事なんて造作でもないことだろう!?」

 

「…………」

 

こいつとライオスは己の立場を利用してティーゼとロニエに対し屈辱を与えた。かつての柊が受けた辱めのように。

原作を知っているこちらとしては当時この展開を見て心の底から胸糞悪い何かが這い出てきたのは今でも思い出せる。一時は読むのも中断したくらいにはな。

出来る事ならあの状況を回避してやりたかった。でもそうい訳にはいかない、後の出来事の為にはユージオとキリトにはこのまま進んでもらわないと話が大きく逸れてしまう。

 

泣き喚くウンベールを他所に懐に手を差し込み、ついこの間手に入れた新しい相棒の片割れであるアンブラをゆっくりと取り出した。

 

「ダ、ダンテ殿?」

 

ゆっくりと銃口をウンベールの額に合わせる。向こうは銃の存在なんて知らない筈だ。だがその異様な見た目と相まって呆けた顔をしている。

 

もしこのまま引き金を引けば装填されている鉛玉が火薬の爆発によって飛び出し、ウンベールの脳天にいとも容易く貫通することだろう。

それだけで今目の前に居るライトキューブ、人ひとりの命に終わりを告げることが出来てしまう。現実世界と何の変わりのないこの世界における自然の摂理だ。そんな事実を目の前にして普通なら恐怖を覚えるだろう。自分が人を殺すという事実に手は震え、視線は定まらず、呼吸さえままならない筈だろう。

 

その筈なのに不思議と冷静でいられた。震えもなければ動揺もしていない、まるで当たり前のように拳銃を突き付けている。

別に今回が初めてという訳ではない。まだアインクラッドに居た頃、ラフコフの連中の鎮圧にも既に何人か命を奪ってしまったのだ。それだけじゃない。その直後にも蒼真もとい、バージルと最後の殺し合いもした。

今更善人の振る舞いをするというのは間違いだろう。

 

……………あの時蒼真があの糞野郎を殺した時もこんな気持ちだったのだろうか?

こんな屑なら、殺してしまってもいいのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激しく振り続ける雨の中で鳴り響く轟雷と共に………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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