堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完) 作:藍沢カナリヤ
ーーーー都内23区外・森林公園ーーーー
「来るならば、咲人くんか兄様かと思っていたのですが」
『五条』からの情報通り、奴はそこにいた。
録に整備もされておらず街灯もない、ただただ暗いその場所でも、奴が笑っているのが分かり、そのにやけ顔に不快感を感じる。
なんで笑っていられるのか理解に苦しむ。
「咲人くんから忠告を受けていましたよね。貴女では私に勝てないと」
「うるさい」
「お兄さんの話は聞くべきだと思いますが」
「……お前が『兄』について語るなよ」
「……本当に分からない人ですね。あれは人間ですらないと言ったでーー」
ーーバギッーー
「吹き飛べッ」
呪力を帯びた不意討ちの一撃は、奴の腹を捉えた。
後ろに跳んだ正藤へ追撃に走る。
「『廻脚』」
ーーブンッーー
横に薙いだその攻撃は脇腹に命中した。
呪力を廻し、そのまま奴の肉を抉る。
「不意討ち、とは……ですが、その程度の攻撃で私を倒せるとでも思いましたか」
「!」
そう言うと、奴は私の足を掴んだ。本来ならば、高速で回転する呪力で掴もうとする手は抉られる。だから、掴めるはずはないのに、奴は掴んだ。
その手には呪力と共に、さっきの不意討ちで奴自身が吐いた血液が纏わりついていた。
「潜ってきた修羅場が違います」
ーーボギッーー
「~~っ!?」
突如掴まれた足に走る激痛。
呪力は帯びていたはず。それでも私の右足は奴に折られた。
術式だけではない。それほどの攻撃力を奴はもっている。
「っ」
堪らず、残った片方の足で距離を取った。
「私も貴女のことを調べさせてもらいました。その歳で準一級……確かに強い」
「…………」
「呪力量もまぁ多い方でしょう。術式『廻』は強い方ではありませんが、それを補うほどの戦闘センスをお持ちのようだ。前回の戦闘でもそれは発揮されていました」
「だが、所詮はそれだけです。一級とは天と地ほどの差があります」
滔々と語る。
準一級と一級は違う。
それは私も知っている。
「けど、お前を放っておく理由にはならない。ユキに手を出させるわけにはいかない」
「……素晴らしい友情ごっこですね」
渇いた拍手をする正藤。
数秒後、正藤はそれを止め、掌を私の方へ突き出した。
「仕方がありませんね。言っても聞かない子供にはそれに相応しい最期を与えましょう」
奴がそう口にした瞬間、呪力が跳ね上がる。
今まで2倍近いそれを醸し出したまま、奴は両の掌を上へかざした。
「流体操術・極ノ番『
それを告げた途端に、文字通り空気が変わる。
見た目に分かる変化ではない。
どこか重苦しい空気感……いや、その認識は間違っている。
重苦しいとかいう問題じゃない。
これは……体が、動かない……?
「極ノ番『流々翼下』は大気中の流体、空気や水を支配下に置く術です。それを使い、あなたの周りにある空気を固め、身動きがとれない状態を作り出しました」
「呪力消費は大きいですが、極ノ番発動中は何者も動くことすら叶わない。絶対支配の力です」
術式を開示しながら、動けない私に奴は近寄ってくる。
そして、
ーーグサッーー
「後は私の前で立ち尽くし、殺されるのをただ待つだけ」
私の左腕を刃物で突き刺した。
右腕。下腹部。右胸。脇腹。喉。左腹。
そこから先は覚えていない。
何箇所も、何十箇所も、私は刺され続けた。
どれくらい経っただろうか。
今まで固まっていた体が急に崩れ落ちる。それから、急速に私の体から血が抜き取られていくのが分かった。
死が目前まで近づいている。
それを体が感じ取っていた。
「…………安心してください。すぐにあの人間擬きもあなたと同じところに送ってあげますから」
「…………」
声は出ない。出すことができない。
倒れた私に背を向けて、奴はそのまま立ち去ろうとしていた。
恐らく放っておいても、私は死んでいく。そう思ったんだろう。
正解だ。
私はこのまま死んでいく。
ただし、それは。
あの『術式』がなければ、の話だ。
ーーーー正藤視点ーーーー
呪力を感じました。
死んでいるはずの彼女・草木美澄から。
思わず振り返ると、ちょうど彼女が立ち上がるところでした。
「……なぜ、生きているんです……?」
体には複数の刺し傷。
それに加えて、血もそのほとんどを吸い尽くし、体外へと霧散させたはずです。
なのに、生きている。生きて、起き上がっている。そんなはずはない。あり得ない。
可能性としては、『廻』という術式で自らの体を無理矢理動かしている?
彼女のセンスであれば、ない話ではない。
そう感じましたが……いや、これは…………。
「異常ですよ、貴女」
「…………」
「貴女、一体なにをしてーー
ーーグンッーー
気づいた時には、彼女が私の懐にいました。
そして、右腕が私の眼球をーー
ーーグヂャッーー
「あ゛ぁあ゛ぁぁっ!?!?」
ーー抉られた。
抉り取られた。
「っ、はっ! なにをして、いるッ!?」
「なんなんだ、おまえはッ!?!?」
「なぜッ、死な……ないんだッ?!」
残った左目で見る。
なんだ、あいつは、なにをした、なんで生きてる、なんで何でなんで。
いや、いやいやいやいや、待て。
……冷静になれ、花房正藤。
何をしたかは今はいい。考えても仕方がない。先ほどは油断していただけだ。
極ノ番『流々翼下』を発動する呪力ならある。できて一回……ほんの十秒ほどだろうが、発動しさえすれば、片方の視界を失ったという不利も帳消しにできる。
治療は、そのあとに考えろ。
まずは、目の前のこいつを確実に殺すことだけを考えろ。
「『流々ーー
「…………」
術式が発動するよりも前に、あいつは無言で、私から奪ったその眼球を握り潰した。
そしてーー
『
ーー私は、私に殺された。
ーーーー都内・大型霊園内ーーーー
「これは……どういうことだ」
花房正藤の呪力を感知したという部下からの報告を受け、花房在藤が現場である都内の大型霊園に到着した時には、既に正藤は息絶えていた。
その死に様は凄惨で、体には数百か所の刺し傷があり、特に、彼の顔はその原型を留めていなかった。
「おいおい。なんだよこれ」
「……分からん」
草木咲人と共に、その場に立ち尽くす在藤。
血を分けた実の弟が死んだ。
勿論、そのことにも少なからず衝撃は受けていたが、彼が早雲薙臣を殺害した際に、彼が死ぬ覚悟はできていた。自ら手を掛けずとも処刑されるであろうことは分かり切っていたから。
だから、在藤が立ち尽くした理由は他にある。
その現場はまるでーー
「正藤の仕業みたいじゃねぇか」
咲人が口にした通り。
その現場は、正藤が犯した殺人現場の様子と同じく、遺体の損傷具合に反して、その場に血痕が一滴も残っていないという異常な光景であった。
「まさかこの死体が偽者か?」
「いや、それはないだろう。顔は判別できないが、呪力の残穢は確かに正藤のものだ」
「……自殺、ではねぇよな」
「そんなことをする人間ではないのは、私が一番分かっている」
「……だよな」
こうして、一級呪術師・花房正藤の謀反は、本人の原因不明の死亡により幕を閉じた。
花房在藤の工作により、表向きは正藤は失踪。裏へは在藤・咲人による処刑として処理された。
また、件の特級呪物『両面宿儺の指』も彼の遺体から回収され、呪術高専忌庫に保管されることとなった。
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アイヌ呪術連所属の呪術師の殺害。
名家花房家の呪術師の謀反と死亡。
これらは些事である。
これから起こる事件と比べたら、戯れと言っても差し支えのない出来事であった。
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視点がばらついていて読みにくいのは申し訳ない。
少しずつ改善していきますので。