堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完)   作:藍沢カナリヤ

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第15話 呪吐ー壱ー

ーーーー呪術高専寮前ーーーー

 

 

4月28日深夜。

呪術高専の寮前に一台の車が止まった。

運転手は、

 

 

「在藤兄さん」

 

 

わたしの兄、在藤兄さん。

在藤兄さんは普段から車に乗っており、任務も補助監督をつけずに自分で運転することが多く、今日の迎えにも1人で来たようだった。

 

 

「支度は済んでいるか」

 

「はい……大丈夫です」

 

 

身支度は済んだ。

惜しむらくは、美澄ちゃんの側にいれないこと。

 

 

「今は余計なことを考えるな」

 

「…………」

 

 

兄さんの口調はいつもぶっきらぼうだ。

だけど、それはわたしを気遣ってのことだって分かった。

わたしがその考えに至らないように。

 

 

「最善の処置は施した。後は彼女の回復力次第だ」

 

「ありがとう、ございます」

 

「…………」

 

 

お前のせいではない、とは決して言わない。

だって、兄さんは嘘はつかないから。気遣ってはくれる。けど、甘やかしてはくれない。

分かってる。これは紛れもなくわたしのせいだ。

……そもそも、あの日、わたしが『堕雪』を身に宿さなければこんなことにはなっていないんだ。

美澄ちゃんを傷つけるようなことにもーー

 

 

「雪」

 

「っ」

 

「あり得ない仮定の話を考えても意味はない。今できることをやるしかない。違うか」

 

「……はい。その通りです」

 

 

今、わたしにできること。

それはすぐに花房家に帰り、『呪吐』を行うこと。

自分の呪力を少しでも吐き出して、これ以上の『堕雪』の顕現を回避することだ。

例え、それが耐え難い苦痛を伴うとしても。

 

 

「行くぞ」

 

「はい」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ん……」

 

 

眠っていたのだと理解した。

同時に、飛び起きる。

 

 

「ユキ!!」

 

 

周囲を見渡しても、彼女の姿はない。

遅れて、ここが呪術高専の医務室であることに気づく。

自身の体の傷を確認すると、綺麗に治っている。相当に腕のいい術師による反転術式。残穢を辿れば、これが花房在藤のものであろうことが分かった。

 

 

「…………」

 

 

状況から考えるに、あの後、意識を取り戻したユキによって、または『帳』を感知した高専関係者によって、ユキと私は発見され、総監部へ連絡がいった。

『堕雪』の顕現ともなれば、当然、花房家の人間が招集される。恐らくそれが在藤だったのだろう。彼は私の傷を反転術式によって治療し、ユキを『呪吐』のために連れて、花房家へと戻っていった。

そんなところだろうな。

 

 

「くそっ……」

 

 

静かに、吐き捨てる。

 

ユキのためならば、なんでもする。

その決意は決して嘘ではない。覚悟だってある。けれど、私にはまだ力が圧倒的に足りないんだ。もし今、『堕雪』とユキを分離したとしても、私じゃ『堕雪』は祓えない。

まだ3年ある?

いや、もう3年しかないんだ。

 

 

「私は……」

 

 

「起きましたか」

 

 

ベッドの上で体だけを起こし、自分の力のなさを嘆いていた私に、声をかけた人物。

医務室の入口に目をやると、そこには担任である佐木が立っていた。

ずっとそこにいたわけではなく、偶然立ち寄ったら私が起きていたといったところだろう。この人に教え子を心配するような人間性はないのは知っている。

 

 

「佐木……」

 

「花房さんなら花房在藤一級術師に連れられて、本家に戻りましたよ」

 

 

予想通り、のようだ。

これから『呪吐』の儀が行われることも。

 

 

「まったく理解に苦しみます。なぜ彼女にそこまで固執するのか」

 

「…………分からなくて結構」

 

「理解する気もありませんが」

 

 

それより、と興味もなさそうに佐木は話を進めた。

 

 

「あなたにお客様です」

 

 

客?

こんな状況で誰が?

そう思い、医務室の入口を注視すると、そこにいたのは知らない着物姿の女だった。

だが、どこかで見覚えがあるような……?

 

 

「失礼いたします」

 

 

その声には、心当たりがあった。

 

 

「『五条』……?」

 

「?」

 

 

一瞬、あの女かと思ったのだが違う。

確かに、色白な肌と青みがかった黒髪。そして、顔立ち。

異質な気配までも、目の前の女性は『五条』と同じ。

けれど、この女性は違う人間だとハッキリ分かる。

髪も長いし、なにより嫌でも目につく空色の瞳は、『五条』が左なのに対して、この女性は右。

 

 

「誰だ?」

 

「お初に御目にかかります。わたくしは東坊城天蓋(ひがしぼうじょうてんがい)と申します」

 

 

丁寧にお辞儀をする東坊城天蓋と名乗った女性。

その姿勢だけでも、育ちのよさが感じ取れた。

でも、なんでこんな人が私を訪ねてきたんだ?

 

 

「僕はこれで失礼します」

 

 

自分の役目は終わったとばかりに、佐木は医務室を後にした。

なるほど、この人を連れてくるためだけに佐木はここに来たのか……。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

私と東坊城の間に沈黙が流れる。

待っても埒が明かないか?

なら、私から話を振ろう。私も暇じゃない。どうにかして力をつけなきゃならないんだから。

 

 

「私になにかーー」

 

「ーー『堕雪』の拔除のお話です」

 

 

私の言葉を遮るように、彼女は口を開いた。

私に『堕雪』の祓除の任が命じられていることを知る人間は数少ない。

私自身と呪術総監部の人間くらいだ。

ならば、この女は、

 

 

「総監部の人間?」

 

「当たらずも遠からずです。わたくしは総監部の者ではありません。ですが、貴女がその任に就いていることは存じ上げております」

 

「……話が見えない」

 

 

総監部ではない。だが、総監部ではなければ知り得ない情報を知っている。

なら、この女も上から話を聞いているということ?

そう訊ねると、東坊城は否定した。

 

 

「いえ、順序が逆なのです。総監部からそのお話をお聞きしたのではなく、わたくしが総監部の方々にお伝えしたのですよ」

 

 

3年後、『堕雪』が五条悟を殺す。

私もそれを聞いたのは、呪術総監部からだった。

その総監部に伝えたのがこの女……?

 

 

「っ!」

 

「はい。そうです」

 

 

「わたくしがその未来を『予知』しました」

 

 

ずっと疑問だった。

なぜ3年後に五条悟という人間が生まれることが分かるのか。

なぜその五条悟が呪術師最強になり得ることが分かるのか。

そして、なぜ『堕雪』が五条悟を殺すことが分かるのか。

 

そのすべての答えが、この女だ。

『予知』と言った。

胡散臭い。けれど、なぜか納得している自分もいた。

 

 

「今から2年と7ヶ月後……生まれてくる五条悟を『堕雪』は殺します。そうなれば、世界の均衡が崩れ、呪詛師と呪霊が跋扈する世界に変貌します。その未来を回避するために、わたくしが貴女をこの任に就かせるよう指示しました」

 

「…………」

 

 

なぜなんだろう。今の私では『堕雪』には決して届かない。

私以上に強い術師はいくらでもいる。雪の兄・在藤や咲人も、私よりは強い。

それでも、私に『堕雪』を殺させようとするのは……?

 

 

「いいえ、貴女でなくてはならないのです」

 

「『堕雪』を拔除できる可能性があるのは、貴女と貴女の術式『輪廻復原』のみ」

 

「ですから、わたくしの力を貴女にお貸しします」

 

 

要領を得ない。

この人は何を言おうとしている?

私の疑問に、彼女は微笑みながら答えた。

 

 

 

「『領域展開』」

 

「それが使える段階まで、貴女を引き上げてみせましょう」

 

 

 

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難産中
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