堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完)   作:藍沢カナリヤ

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転化
第18話 1988年4月


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1988年4月。

ユキが高専を去ってから1年の月日が経った。

この1年間は地獄の日々で、私の目の前には色彩を失った世界が広がっていた。任務自体は私の等級が準二級に下がったこともあって、難しいものは回ってこなかったけど、それでも手一杯で。

 

 

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「……お体の具合はいかがですか?」

 

「東坊城」

 

 

またも任務で呪霊にやられて、寮の部屋で休んでいた私の元へ来たのは、東坊城天蓋だった。私を鍛えると言い、例の『縛り』付きの結界を私に施した人物。その成果は残念ながら未だに出ていないけれど。

 

 

「そうでもありませんよ。貴女の呪力はわたくしと出会ったその時よりもずっと洗練されておりますから」

 

「どうだろうね」

 

 

自分ではそれを実感できない。1年経った今でも、呪力を上手く練れず、かなり低質で少量の呪力で戦うしかない状況だし。

この前も二級呪霊にやられるという失態を犯したばかりだ。

 

 

「そう落ち込まないでください。貴女に施した結界は、結界内である程度の呪力を練ることができれば解除されますので」

 

 

頑張ってくださいね。

東坊城はそう言って微笑んだ。

 

 

「……それで今日は何の用事? ただお見舞いに来た訳じゃないでしょ」

 

「相変わらず察しがよくて助かります。草木美澄さん、ひとつ呪術界の人間として、貴女にご依頼したいのです」

 

 

穏やかな笑みを携えて、彼女はそう告げた。

 

 

「どんな依頼?」

 

「最近、呪術高専所属の呪術師が殺害されるという痛ましい事件が起こっております。その調査をお願いしたいのです」

 

「……それ、呪霊のせいじゃないの?」

 

「いえ。明らかに人為的なものです。ただ、少々不可解な点もありまして」

 

「……まぁ、いいけど。そもそもあんたが『予知』をすればいいんじゃないの?」

 

 

そう。東坊城の術式『予知』があれば、この先の未来の展開を見ることだってできるはずだ。ならば、その過程で犯人を知ることもできる。なのに、それを使わないのは……。

そんな考えはすぐに彼女に否定される。

 

 

「前に少しお話ししましたが、『予知』はそう簡単に使えるものではありません。条件が揃わなくては一寸先のことも見えませんから」

 

 

そういえば、前にそんな話も聞いたっけか。正直、あまり興味がないから忘れていた。

ともかく、調査ということであれば、準二級術師の私に依頼されるのも、まぁ納得といえば納得。

……それで、だ。

 

 

「……で、何が不可解なの?」

 

 

その一言は流石に引っ掛かった。

呪術に関することなんて不可解なことだらけ。その中でも不可解なんて言葉を使うんだから、相当なことのはずだ。

予想通り、東坊城は頷く。

 

 

「眼球や脳幹ーー遺体の一部がなくなっているんです。その部分だけ、すっぽりとね」

 

「……一部が、ない?」

 

 

それではまるで、私の……。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「在藤兄さん」

 

 

中庭での鍛練の最中。わたしの背後に立っていた在藤兄さんに、声をかけた。

 

 

「ずいぶんと呪力感知の精度が上がったようだな」

 

「いえ、そんなことはありません」

 

「謙遜するな、事実だ。当主になる前のお前では感知できないほどには俺も呪力を絞っていた。それにもかかわらず、俺がここにいることに気づいたんだ。誇っていい」

 

「……ありがとうございます」

 

 

この1年間、わたしは鍛練を欠かさなかった。

呪力感知。呪力操作。そして、呪力量を増やす訓練もした。

その結果、今のわたしは、

 

 

「雪……いや、花房家当主・花房雪準一級呪術師に総監部から任務の依頼が来ている」

 

「……はい」

 

 

準一級にまで昇級していた。そして、先日、兄さんと共に向かった一級昇級のための任務も遂行した。だから、今回の任務を経て、わたしは一級術師になる。ただし、この任務はわたし1人で行う必要があって。

不安ではあるけれど、それでもわたしは進まなきゃいけないんだ。美澄ちゃんの側に立てる、肩を並べられる呪術師になるために。

 

 

「任務の概要をお聞きします」

 

「あぁ。任務内容は、最近多発している呪術師の殺害事件の解明と処理だ。それについては、前にお前に報告したことがあったな」

 

「はい、覚えています」

 

 

その話は少し前に聞いていた。花房家当主としての仕事には、そういった呪術にまつわる事件の処理も含まれているからだ。

報告によれば。

ここ最近、高専に所属している呪術師数人が殺害されたという話。その遺体の一部が欠損していたという話も聞いている。欠損部位は眼球や脳幹という報告も覚えてる。

 

 

「呪霊による殺害……でしょうか」

 

「いや、恐らく呪詛師によるものだろう。呪霊によるものにしては、遺体が綺麗すぎる」

 

「…………」

 

 

ふと頭の片隅にとある疑惑がよぎった。

……いや、そんなことはない。そんな風に、報告を聞いてから考えないようにしていたことが、今蘇る。

 

 

「……1年前にも似た事案はあった。準一級呪術師・要田純の殺害にも共通点がある」

 

「っ、それは……」

 

 

覚えてる。美澄ちゃんとの任務に行った時に会った呪術師。あの人の遺体からも脳幹が切り取られていたという話だった。

……あの時、要田さんの死に際を確認したのは彼女だ。

彼女の報告から、呪霊の行動であることが判明したんだった。

 

 

「雪」

 

「………………はい」

 

「これは俺の私見だが、この任務の鍵は恐らくーー」

 

 

 

「ーー草木美澄だ」

 

 

 

「一級術師として、お前を一級へ推挙した者として、助言をしよう。まずは彼女の身辺を洗え」

 

 

 

ーーーー通達ーーーー

 

 

準一級呪術師・花房雪の一級への昇級任務。

 

殺害された高専所属の呪術師4名の死の真相を解明せよ。

また、それに関与したと思われる呪詛師を発見し、処刑せよ。

 

 

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