堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完)   作:藍沢カナリヤ

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第2話 草木美澄という人間は

ーーーー回想ーーーー

 

 

私がユキと出会ったのは、私が10歳の頃。今から6年も前の話だ。当時、私とユキは普通の小学校に通っていて、ごく普通のどこにでもいるような小学生だった。

私たちが小学6年生になり、しばらくした5月のある日のこと。

学校の帰りに偶然迷い込んだ神社で『呪霊』に襲われた。

 

その時に『堕雪』がユキの中に入り込んだんだ。

 

そして、それに遭遇した私とユキはそれぞれ呪術師の家系に引き取られた。孤児であった私たちにとって、それはありがたい話ではあったけれど。

 

ともかく、私は引き取られた草木家で呪術師として育てられた。

私には術師としての才能があったらしく、最初は荷物持ち程度だったけど、少しずつ軽い任務を任せられるようになった。

最近は準一級という立場になり、呪霊狩りも本格化して。

 

そして、私が呪術高専に入学する時に、それは言い渡された。

 

特級仮想怨霊『堕雪』。

3年以内に、ユキに入ったその呪霊を殺せ。

さもなくば、『堕雪』は特級呪術師となるはずの赤子を殺め、結果として世界の均衡が崩れる。

 

最初はそんな話信じなかった。

『堕雪』がユキに入っていることは知っていたし、実際に入るところも見ていた。

思い出補正、とはまた違うかな?

とにかく、そこまでのものではないだろう。そう思っていた。

でも、初めて『堕雪』を見た時、私は理解してしまった。

 

この呪霊は世界を滅ぼしかねない存在であると。

 

 

 

ーーーー呪術高専ーーーー

 

 

「ねぇ、ユキ! 今日、授業抜け出そう!」

 

 

机にお行儀よく座るユキにそんなことを持ちかける。

 

 

「えぇ、だめだよ」

 

 

おろおろとした様子でユキは首を横に振る。

その様子を見てると、小動物を思い出す。

そういえば昔、孤児院の側に猫が住み着いてたなぁ、なんてほんわかした。

……って、いやいや、違う。

授業サボりの話だった。

 

 

「どうせ今日の授業だって大したことないって! 授業でやる内容なら私が教えたげるし!」

 

「でも……サボリなんてしちゃったら、先生方にご迷惑がかかるから」

 

「ダイジョブダイジョブ!」

 

 

呪術師っていう人種がそもそもマイナーだから、私たちの学級も2人だけだし。

担任にも話はつけとくし……事後承諾だけどね。

 

 

「……でも、花房家の人に迷惑かけちゃう」

 

「うっ」

 

 

それを言われると弱い。私も草木家に迷惑をかけたい訳ではない。ここまで育ててくれた恩もあるし。

 

 

「だから、ね? 学校終わったらおしゃべりはできるよ」

 

「むぅ……わかった! わかりました!」

 

 

仕方がない。

ここはユキに免じて、授業受けてやるか。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

今日は呪霊を祓いに行けという担任の一声で、私たちはとある墓地に来ていた。

その上に私が準一級だからと担任も補助監督もつかずにだ。

まぁ、相手は三級だっていうから心配はないだろう。

結果的には授業から抜け出すことに成功したわけだ。

 

 

「んじゃ、さっさと祓って遊びにでもいこう!」

 

「そうだね」

 

 

私の言葉に笑みを返すユキ。

私とのお出かけ自体はいつも楽しんでくれる。

呪霊の祓除任務という免罪符ができたわけだから、彼女も罪悪感を感じることなく楽しんでくれるだろう。

 

ちなみに、呪術師としてのユキは、自身に例の呪霊が宿っているだけあって、呪力は使える。

術式はないらしいが、それでも三級呪術師なんだから等級の同じ三級呪霊程度の相手もダイジョブなはず。

さて、それじゃあやるか!

 

 

「闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え」

 

 

『帳』を下ろす。

基本的に『帳』は、下ろした範囲を一般人の認識から外し、恐怖や不安から生まれる呪霊の発生を抑えるもの。

補助監督が使うことが多いらしいけれど、結界術が苦手ではない私は自分で使うことが多い。

ちなみに、前に『帳』を下ろさず呪霊を祓ったことがあったけど、その時は私の保護者代わりの人にものすごく怒られた。

まぁ、それはともかく。

 

 

「……ユキ」

 

「うん」

 

「来るよ!」

 

 

私は素手で、ユキは短刀を構える。

呪力が私たちの左手側から近づいてきた。

 

 

「先に行く!」

 

 

そう言って、私は未だ姿の見えない呪霊に向かう。

本来であれば、視認できる範囲のはず。

それでも見えないのだから、姿を隠せる性質か術式をもっているんだろう。

三級って話が正しければ恐らく前者。

でも、呪力はーー

 

 

「丸見えだっ!!」

 

ーーバギィッーー

 

 

『いぎィィぃぃッ』

 

 

捉えた!

断末魔をあげてたその呪霊の呪力が消えた。

まずは1匹。

あとは……。

 

 

「美澄ちゃん、あと2匹」

 

「りょーかいした!」

 

 

ユキの呪力感知は私と同じかそれ以上の精度だ。

だから、私はその声に耳を傾けながら残りの呪力を探す。

 

 

「……いた!」

 

 

2匹目!

目には見えないそいつを祓おうとして、

 

 

「っ、いやっ!」

 

 

耳に入った声。悲鳴。

咄嗟にその方向を見ると、ユキの体の三倍はある呪霊の姿が見えた。

同時に走り出す。

考えるよりも先に体が動いていた。

 

 

「ユキに触るなッ!!」

 

ーードスッーー

 

 

呪力を纏わせた拳が呪霊の体を突き破る。

あと1匹はーー

 

 

『キぃィィぃ』

 

 

突き破った呪霊のせいで死角になっていた足元からそいつは襲いかかってきた。

気づいた時には手遅れ。

反射的に呪力で全身を強化する……が、それは杞憂に終わったようだった。

音もなく、もう1匹の呪霊は消え去ってしまった。

もちろん私がやったんじゃなくて。

 

 

「はぁっ……はぁ……」

 

「ありがと、ユキ」

 

「う、ううん……わたしで役に立てたなら」

 

 

謙遜してそう言うユキ。

目元は見えずとも、その笑顔がたまらなく愛おしくなって、私はユキを抱きしめた。

あぁ、本当に彼女は愛おしい。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

準一級呪術師だとか。強力な術式をもっているとか。

面倒くさがりな性格とか。甘いものが好きだとか。

赤色が好きとか。一度死にかけたこととか。

私にまつわる情報のすべては全部些末なこと。

 

私、草木美澄という人間を語る上で唯一必要なのは、花房雪の親友で、そして、花房雪を【あいしている】ということだけだ。

 

そのために。

ユキと私の幸せな未来のために、今の私のやるべきことは2つ。

私は『堕雪』をユキから引き剥がすこと。

そして、『堕雪』を殺すこと。

 

だから、ここに断言しておく。

私が彼女を殺すなんてことはあり得ない。

3年後に彼女が死ぬ未来は存在しない。

 

私はユキのためならば、なんだってする。

そういう人間だ。

 

 

ーーーーーーーー

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