堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完)   作:藍沢カナリヤ

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第21話 裁断欠如ー参ー

ーーーー東京都八王子市・郊外ーーーー

 

 

「総監部の人間にとって、わたくしは目の上の瘤……邪魔な存在です」

 

「でしょうね」

 

 

奴等は自分達の立場や保身を第一に考える人間の集まりだ。

危険度の高い特級呪霊はその依代ごと殺してしまおうと考えるくらいには屑野郎共だ。

自分が第一で、男尊女卑ーー旧世代的な考えの連中にとっては、そりゃあ未来が見えるとはいえ、女相手に指図されるのは許せないんだろう。ただし、奴等は表立っては動かないし、動けない。

だから、

 

 

「わたくしの『予知』は利用する。その一方で、わたくしが死ぬことも望んでいる。だから、こんな呪詛師まで利用するのでしょう」

 

「ほんと、総監部は録でもないな……」

 

 

 

「おんながににん……きいたとうりだあ」

 

 

私と東坊城の目の前に立ち塞がるように、その男は立っていた。眼球が飛び出しそうなほど目をひん剥いて、だらしなく舌を出した……品性の欠片もない人間だった。

 

……なるほど。高専の人間が死ぬのは困るが、そっち側の人間ならばいくらでも使い捨てられると、そういう魂胆だろう。

浅はかな考えで、その考えを実行するような愚かな連中だ。

……そもそも総監部の人間は、私にユキごと『堕雪』を殺せとそう言い渡した。本当……総監部の人間を全員殺してしまった方がいいんじゃないかとも思う。

 

 

「草木さん」

 

「ん……あぁ、考え事してた」

 

「侮ってはいけません。呪力量だけでいえば、この方の等級は準一級程度。今は貴女の方が劣勢、集中を」

 

 

東坊城はそう言う。呪力量だけが等級に繋がる訳ではないが、呪力も十分に練れず、術式の行使も難しい今の私にとっては、どちらにせよ勝つのが厳しい相手というのは分かる。

けど、舐められたものだ。

 

 

「すきしにていいってさぁ……いわてれるんだ」

 

 

物色するように目玉を動かす男。気味の悪いその目玉をーー

 

 

ーーブヂュッーー

「いぎゃぁぁあぁああっ!?!?!?」

 

 

ーー潰す。少し狙いがずれ、当たったのは右目だけとはいえ、先制攻撃は成功した。

確かに呪力量はそれなりにあるんだろうけど、無駄な動きも多く、見るからに思考も散漫だった。この程度の相手ならば、呪力を使わずとも勝てる。現に、視界の半分は潰せた。

 

 

「あ、ぁぁあぁあ……っ」

 

 

潰れた右目を抑え、ふらふらと彷徨う呪詛師。

このまま、畳み掛ける。まずは足をかけ、倒れさせる。

 

 

「あぁっ」

 

 

成功。

次に、倒れた呪詛師の上に乗り、回避不能にする……成功。

あとは練った呪力を手刀にのせ、『廻』で威力を上げ、首を一突きすればいい。少ない呪力でもこれで終わーー

 

 

ーーブヂュッーー

 

 

瞬間、激痛が走った。

視界の半分……右目が潰れたのだと理解したときには、

 

 

ーーバキッーー

 

「か、はッ!?」

 

 

腹部を殴られていた。たまらず呪詛師の上から飛び退く。

内臓は……ダイジョブ。そこまでは達していない。

それよりも右目の痛みが酷い。この術式は……。

 

 

「……『呪詛返し』の術式」

 

「げへ、げへへへっ」

 

 

油断していた。こんな術式を使う呪詛師には見えなかった。

体勢を立て直してーー

 

 

「おそぉぉい」

 

 

想定を超えた速度で、奴は私の視界から消えた。単純な呪力による身体強化だろうが、感知もザルになっている私の反応は遅れる。

殴られるのに合わせ、どうにか呪力で固めるので精一杯だ。

けど、所詮弱い呪力で固めたところで、万全の状態で連撃を食らっていれば、

 

 

「っ」

 

「すきあるぅぅぅ!」

 

 

力業で押し切られてしまう。

奴が繰り出した拳を受けて、防御していた両手が上がる。

やられる。

攻撃を受ける覚悟を決めた私は、呪力を体を纏わせる。もっとも練れる呪力が少ない状態では限度はあるが、それでもないよりマシ。

 

 

ーーバキッーー

 

「ッ」

 

 

腹部への一撃。想定していたより重い。思わず崩れ落ちる。

それを見て、呪詛師はケラケラと笑う。本当に趣味の悪い男だった。

 

 

「おんながくるしいのすきだぁ……」

 

「下衆が……っ」

 

 

口ではそう言うけど、思ったよりも状況はよくない。この感覚……見た目には傷はないけれど、恐らく内臓が傷ついてる。

それでも、今は呪力を練れ。絞り出せ。

ここではまだ死ねないんだ。ユキを救う。ユキを守る。

そのために、私はーー

 

 

「…………ん、あ?」

 

 

内から呪力を振り絞る私を他所に、呪詛師は間の抜けた声を出し、自身の頭を抑えた。そして、一言二言、空に向けてなにかを喋ってる。誰かと会話をしているように見えるけれど……?

 

 

「……いやだだ。すきにしていっていわてただろ」

 

「?」

 

「いやだぁぁ!!」

 

 

会話の相手の言うことを拒絶するように、首をブンブンと振る呪詛師。どうしても言うことを聞きたくないのか、やがて奴はこちらへ向き直る。どうやら会話相手の言葉を無視して戦闘を続行しようとしているらしい。

 

 

「いいいやぁ……おれはおんなおこおすんだぁ」

 

 

ニタァっと気味の悪い表情を浮かべる呪詛師。

奴が呪力を放出した、次の瞬間、

 

 

 

ーーぐにぃぃぃぃーー

 

 

 

奴の首が捻れた。首が一回転、二回転して。

やがて、体と繋がっていられなくなった首は地面に転がる。

 

 

「………………」

 

 

呆然とするしかなかった。

だけど、すぐに警戒をする。

この男の首を捻ったのは、私の『廻』では決してない。今の私の呪力では他人の人体を捻切ることなど不可能だ。勿論、東坊城でもない。

ということは、第三者。恐らくこの呪詛師が会話をしていた相手の術式だろう。人ーーそれも準一級相当の呪術師の首を容易く捻切れる相手が、どこかにいるってこと?

 

 

「いるよ、ここに」

 

「!」

 

 

転がった首を拾う人物がそこに立っていた。

呪力は感じるから恐らく呪術師……呪詛師だろう。

真っ黒なセミロングの髪。女とも男ともいえない中性的な体。その雰囲気は、幼くもあり、大人びても見える。拾った呪詛師の首を手持ち無沙汰に弄ぶ様と穏やかな微笑みが噛み合わない。存在自体がどこか矛盾したような人間だった。

 

 

「フフフ、『呪詛返し』が『縛り』を破ったせいでその呪いが跳ね返るなんて、実に愉快だ」

 

「…………」

 

「君もそうは思わない?」

 

 

得体の知れない呪詛師。少なく見積もっても一級。

そんな相手だったから警戒は解かない。

 

 

ーーグンッーー

 

「っ!?」

 

 

気づけば、私の体は地に伏していた。上から物凄い力で押さえ付けられるような感覚。

 

 

「なに、を……っ!」

 

「ただの結界術だけれど?」

 

「っ」

 

 

これが結界術?

人間を完全に拘束できるような攻撃的な結界なんて聞いたこともない。こいつ、一体なんなんだ。

 

 

「とにかく彼の首は回収してくね。そうしないとボクが困るから」

 

 

そう言って、私を押さえ付ける結界を維持したまま、そいつは平然とこちらに背を向け歩き去ろうとする。

 

 

「待ちなさい」

 

 

それを制止する声。東坊城だ。

首すらも動かせない私からは見えないけど、どうやら東坊城はこの結界に捕らわれてはいないようだった。

その呪詛師を引き留めたのは、恐らく呪術界の人間として、その人物をただ見逃すことができなかったんだろう。東坊城はそのまま呪詛師に問いかける。

 

 

「……あなたは一体何者ですか。何が目的なのですか」

 

「あぁ。見たことがあると思ったら東坊城の呪術師か。その目……まだやってるんだね」

 

「なにを仰っているのか……」

 

「あぁ、そうだった。目的だっけ?」

 

 

問答の末に呪詛師は笑う。

笑いながら、それを口にする。

 

 

 

「花房雪を殺そうと思って」

 

「それだけ。じゃあね」

 

 

 

そう告げると、呪詛師は掌を振って、その場から立ち去った。

 

 

「ま、てっ!」

 

 

起き上がろうとしても、例の結界がまだ残っているせいで体は動かない。それどころか力が抜けていく。

 

ユキに何をしようとしてるのか。

本当は体が裂けてでも、呪詛師を捕らえて聞き出さなくてはならなかったのに、意識が遠退いていくのに抗うことができなかった。

 

 

ーーーー秘匿文書ーーーー

 

 

東坊城天蓋による報告。

呪術高専所属の呪術師4名の殺害に関する調査の際に、正体不明の呪詛師と遭遇した。

等級は少なくとも一級。

結界術と思われる攻撃を受け、準二級呪術師・草木美澄が負傷した。残された呪力の残穢と呪術師4名の殺害現場に残っていたものが一致した。

 

合わせて本件に関わる任務に、この呪詛師・仮称『楽』の捜索及び抹消を追記することとする。

 

 

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