堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完) 作:藍沢カナリヤ
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1988年4月30日。
午前4時30分。
東京都立呪術高等専門学校の結界に、呪詛師『楽』を含む呪詛師5名の呪力を感知した。
同時に結界への攻撃、結界の一部の破損と結界内への侵入を確認。
侵入後、速やかに草木咲人による『帳』を複数同時に展開、呪詛師を3ヶ所に分断し、対処に当たる。
ーーーーSIDE:A 呪術高専中央参道ーーーー
高専の中心に陣取った花房在藤と草木咲人が対峙するのは、呪詛師『楽』と男の呪詛師の2名。
分断は計画通りに済んだ。さらに、咲人は結界を瞬時に展開し、『楽』と男の呪詛師を完全に分断する。これで在藤と男、咲人と『楽』という一対一の構図が出来上がった。
「こんな朝早くに戦闘に付き合うんだ。あんたにはもう1人の一級が合流するまで大人しくしてもらう。そのくらいは譲歩してもらおうじゃねぇか」
結界で『楽』の四方を囲み拘束した後、咲人はその目的を明かした。
咲人が言う一級は佐木のことを指す。彼の実力ならばすぐに合流、その上在藤が呪詛師を撃破することで、三対一に持ち込めるという算段であった。
「彼らは強いよ?」
「そりゃあ心配だ」
分断されて尚、『楽』は余裕を崩さない。相手の戦力は確かに未知数だ。けれど、それと一級術師への信頼とを天秤にかけたら確実に後者に傾くだろうことを咲人は確信していた。
横に目をやれば、在藤と呪詛師との戦闘が始まろうとしていた。
ーーーーSIDE:B 運動場ーーーー
咲人さんが下ろした『帳』の1つは高専の運動場。敵がどの方向から来ても分かる場所だから、相手の目的である私と総監部から派遣された佐木先生がここにはいる。
そして、私と佐木先生の目の前には2人の呪詛師。
1人は男性。見るからに攻撃型だと分かる筋骨隆々な肉体で、頭に何本かある手術跡に目がいく容姿をしている。
もう1人は女性。地面につくほどの長い髪。そして、裕に2mはあろうかという長身。
「っ」
2人から発せられる威圧感に、少しだけ体がすくむ。けれど、息を吐き出し、切り替える。わたしは強くなった。大丈夫。
「花房さん」
「はい」
半歩分わたしの前に立つ佐木先生が名前を呼ぶ。変わらない感情のブレのない声色に、変に安心感を覚えた。
「本来であれば、護衛役である僕が2人を相手にすべきですが、少々あの女の方が厄介ですので、君にはそちらの男の方を任せます」
「分かりました」
「危なくなったらすぐに呼んでください。君を死なせるのはまずいので」
「…………はい」
任せてください、とまでは言えないけれど、やってみせる。この1年間やってきたことをすべて出し切るんだ。
覚悟を決め、わたしは構えた。
「お前が例の『堕雪』カァ?」
首を鳴らしながら、男は聞く。けれど、その目はわたしのことを見ておらず、隣の佐木先生に焦点が合っているのが分かった。
「確かにわたしの中には『堕雪』がいます」
「そうカァ……じゃあ、お前を殺してそっちの呪術師と戦オウ」
「狙いはわたしじゃ……」
「お前の呪力は少ない。俺は強い奴と戦いタイ」
なるほど。そういうタイプの呪詛師ってことか。
「とっとと死ネェェ!」
ーーグググッーー
呪詛師が叫ぶと同時に、振りかぶる。
そして、
ーーブワッーー
振るった拳が突風を引き起こした。
「膂力だけでっ!?」
特殊な術式ではないと呪力感知が告げている。呪力は纏わせているものの、これは彼の純粋な力だけで起こした風だ。
「反応が悪いナァ」
「!?」
ーーバギッーー
突風と砂煙で視界が遮られたその一瞬を突かれ、彼の拳を受けてしまう。
反射的にどうにか呪力を纏わせ防御したけれど、それでも腕が痺れてる。それほどの力だった。
「よく止めたーー」
「っ」
「ナァ!!」
ーーボギッーー
間髪入れずに連撃が来る。術式を使った攻撃ではない分、連発できる。風圧を起こせる分、それだけで脅威だ。
攻撃のせいで右腕が麻痺してる。最悪、折れてる可能性もあるけど、もちろん敵は待ってくれない。
「らぁぁァァ!!」
ーーバギッーー
もう一撃。大振り。それをまた呪力を纏わせた右腕で防いだ
吹き飛ばされながらも、体勢は立て直す。
「痛っ」
さっきによりも痛みが増している。もってあと2発かな。
けど、もう少しだ。もう少しで、
「『見える』から」
ーーーー回想ーーーー
「雪、お前には術式がない」
「その面で他の術師よりも圧倒的に劣っていることは事実だ」
それは確か、12月頃のこと。
わたしが当主になってからずっと続けてもらっていた在藤兄さんとの稽古の途中で、そう告げられた。
「っ、は……はい」
分かってることではあった。だけど、そうはっきりと言われると少し心にくるものがある。
でも、兄さんはわたしを傷つけるためだけにそれを言う人ではないのも分かってる。つまり、
「……では、お前にあるものはなんだ?」
わたしの思った通り、兄さんは言葉を続けた。
あるもの、ですか?
「そうだ、他の術師にはなくてお前にはあるものだ」
「…………」
すぐに思い浮かぶのは、『堕雪』を身に宿してること。
そして、高すぎる呪力感知能力。
「その2つ、でしょうか」
「その通りだ。『堕雪』の方はともかく、呪力感知は大きな武器になる」
相手がいるかどうかを感知するだけではない。調整さえできれば、相手の動きや術式の発動を予測することもできる。
兄さんはそう言った。
……なるほど。確かにそれはそうかもしれない。
呪力の量や流れを『見る』ことさえできれば、相手の動き自体は予測できる。そして、それを元に動きを組み立てれば……。
「あぁ、更に強くなれるだろう」
在藤兄さんは頷く。
ただ、その後にこうも告げる。
「だが、それだけでは足りない。術式があれば『極ノ番』や『領域展開』で決めきれるだろうが」
「……それがないわたしでは、最後の詰めを決めきれないということですか」
「あぁ」
「っ、なら、わたしはっーー」
「だから、雪。お前にはーー」
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「ちょこまかとうっとうシイッ」
「はっ……はぁ、はぁ……」
呪力は『見えた』。だから、動きも予測はできたから、わたしは避け続けていた。けれど、その分息が切れていた。
……いや、これじゃダメだ。
わたしはふと、目を閉じた。
「目も閉じて満身創痍だナァ、『堕雪』の女ァ」
「はぁ……はっ……」
息を吸って、吐く。
「呪力も底をついてきたカァ? さっきから呪力が感じられねぇヨォォ」
「っ……はっ……」
呪詛師の言葉が段々遠ざかっていく。
「…………ふっ……はぁ……」
「返答もなしカァ?」
「…………」
もう呪術師の言葉は耳に入らない。
「…………」
「つまんねぇナァ。おまえ、もういい、もうーー」
ーーグググググググッッーー
「死ねェェェ」
「…………」
わたしはゆっくりと目を開けた。
……あぁ、呪力が廻る。
ーーーーーーバヂッーーーーーー
『黒閃』
次の瞬間、黒い火花がわたしの目の前で爆ぜた。
「ハ、ァ…………なん、ダヨ……?」
呪詛師の腹には大きな穴。彼はそのまま倒れ、絶命した。非力なわたしでも、一撃で命を刈り取るほどの威力だった。
初めて『それ』を放ってから一月ぶりの感覚。呪力が体を廻る感覚をわたしは感じていた。
「……っ、『黒閃』……どうにかできた……けど、痛っ」
呪詛師を倒したことで集中力が少し切れ、右腕の痛みが戻ってくる。確実に折れてるだろう。でも、今はーー
「無理はしない方がいいですよ。僕の方は終わりましたから」
「佐木先生……」
背後からの声は佐木先生のものだった。
いつもと変わらない感情の見えない表情からは戦闘を終えた様子なんて見えないけど、顔についた返り血が相手の絶命を以て戦闘が終わったことを物語っていた。
「思った以上に苦戦を強いられました。生け捕りが理想だったのですが」
「…………そうですか」
佐木先生が戦闘していた方を見ると、そこには血溜まりの中に長身女の遺体が転がっていた。失血死するには十分な出血。
殺すこと自体は簡単。
そうもとれる言い回しに少しゾッとした。
「さて、一級のお二人はともかく、草木さんは大丈夫でしょうか」
平淡な声にハッとした。
「美澄ちゃん……」
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