堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完) 作:藍沢カナリヤ
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事戦闘において、花房在藤に並ぶ者はいない。
草木咲人はそう考えている。
強力な術式。恵まれた体格とそこから繰り出される体術。それに加えて自他を治療できる反転術式まで保有している。
友人という贔屓目はあるだろうが、現代最強と言っても過言ではないと考えている。事実、彼が負けた場面は見たことがなかった。
自他共に認める女好きのろくでなしである咲人であったが、在藤に対しては従順であり、心酔しているとも表現できるほどには慕っていた。
ーーーーSIDE:A 草木咲人視点ーーーー
「『耐呪結界』」
在藤と合流したところで、結界を張り直す。
『耐呪結界』、呪力を通さない結界の一種だ。奴をさっきまで拘束していたのもこの結界。
だが、今回は分断のためのものじゃねぇ。
「在藤!」
俺が名前を呼ぶ前に、在藤は動いている。術式は使ってはない。呪力を拳に乗せているだけだが、それでも、
ーースッーー
「はぁぁぁッ!!」
ーーバキッーー
在藤の拳が奴の顔面を捉えた。吹き飛ぶ呪詛師『楽』。
「流石だぜ、在藤」
「……今のタイミングで構わん。奴を自由に動き回らせるな」
「了解だ」
雪ちゃんとその先生。妹ともう1人の女。そして、俺たちを分断する結界を張っている都合上、戦える場所はそこまで広くはない。
だからこその策だ。俺の結界でギリギリまで奴を拘束し、在藤の攻撃のタイミングに合わせて結界を解く。かなりの精度の連携が必要だが、俺と在藤ならばできる。
「速度を上げる。いけるか?」
「任せろ」
タイミングの次は速度かよ。本当にこいつの要求は高くてつかれるぜ。だが、それでいい。それでこそ在藤だ。
ーースッーー
ーーバキッーー
「っと」
余計なことを考えていたら、在藤に追い付けねぇな。今は目の前の戦闘に集中だ。
一発、二発、三発と連携攻撃を続けて気付く。攻撃自体は当たっている。だが、この呪詛師、相当の使い手のようで、在藤の攻撃をいなし威力を弱めた上で、結界を応用して捌ききっていやがる。
「咲人」
「在藤!」
ほぼ同時に名前を呼び、『楽』から距離をとった。このままでは埒が明かない。そう判断したからだ。策を変える必要がある。
「どうする? この狭さだと手段は限られてくるぜ」
「…………」
時間にしてほんの数秒。在藤はすぐに答えを出した。
「ここの結界だけ解く」
それはつまり、目の前の呪詛師『楽』に逃げ場を与えることを意味する。万が一逃げられでもしたら。
……と凡人は考えるだろうが、こいつは違う。
戦闘の天才。才能の塊だ。だから、俺は在藤の言うことには従う。
「3秒後でいいか?」
「あぁ、構わん」
そう言うと同時に、在藤は動き出す。俺の方を見ないのは、あいつからの信頼の証。嬉しいこったな。
きっちり3秒で周りに張った結界を解く。勿論、妹たちの方はそのままでここだけを解除した形だ。
その結果、ここだけ場の制限がなくなる。あいつは無敵になる。
「『雷動』」
在藤の言葉の後、あいつは駆ける。
『雷動呪術』。
花房家の歴史を遡っても見られない完全に在藤だけの術式。
その術式効果は、呪力による体内の電気信号の加速と完全制御。簡単にいうならば、人間の限界を超えた反応速度をその身に宿すというものだ。
ーーグッーー
「……術式を発動してる? その割にはあまり変わらないね」
懐に入った在藤を見て、奴は瞬時に結界を展開した。やはり速い。結界の構築速度だけでいえば俺と同じかそれ以上だ。
だが、
「あぁ、変わらん……お前の防御を避けて叩くだけだ」
ーーグググッーー
「!」
結界が張られるのを見てから対応できる在藤には、
ーーバギィッーー
速度など関係ない。反応速度の上昇とはつまり、常に相手の出方を見てから動きを選択できるということだ。常に後出しじゃんけんを相手に強要することができる。
そのまま在藤は殴り続ける。
結界を張られて、それを見てから攻撃を変える。それを続けていれば流石に理解したようで、奴は大きく後退りしながら、壁状の結界を張った。
次の手を練るための時間稼ぎだろうが、
「関係ねぇ! 突っ込め、在藤!」
「あぁ!」
結界術ならば俺の領域だ。咄嗟に張った間に合わせの結界なんてのは1秒あれば十分破壊できる。
ーーバリンッーー
ほらな?
さぁ、在藤、やっちまえ!
ーードンッーー
「あ?」
在藤の呪力を込めた攻撃。それはいつの間にか構築された分厚い壁に阻まれていた。それはやはり奴の結界。さらに、その結界は範囲を拡げ、在藤を囲うように張り巡らされていく。
「これは……!?」
「在藤!」
在藤の攻撃を防いだということは少なくとも在藤よりも速く反応して展開しなくてはならないことになる。それは不可能だ。
それに、今張りやがったこの結界は……崩せねぇだと!?
「そこの君」
「!」
「彼の攻撃を防ぐのは不可能。そう思った?」
奴は俺に向け、そう訊ねた。俺が結界術に長けていることを踏まえた上でそう聞いているならば、相当に性格が悪い野郎だ。
脇目で見ると、結界に囚われている在藤には変化がない。
こちらへの攻撃は今のところしないというわけか。
在藤と視線で意思の疎通を図る。
内側からも破壊は難しいようだ。とすれば話に乗るしかねぇか。
「……あぁ。そいつ、在藤の攻撃は反応どうこうで防げるもんじゃねぇからな」
「そうみたいだ。現にボクが結界を出したのを見てから避けて攻撃してきたからね。いやぁ、いい術師だ」
普段ならば、在藤が称賛されれば、そうだろうと頷く場面ではある。だが、こいつの真意が読めねぇ。
「では、君はどうだい?」
「あ?」
どういうことだ? 俺はどうだ、だと?
こいつは何が言いたい? 何をしたい?
「結界術は多少心得ているみたいだけれど、彼に任せてばかりで戦闘に参加しないのはどうかと思うよ」
「……お前にどうこう言われる筋合いはねぇ」
「それもそうだ。ただ、同胞として少し残念だという話」
同胞。
こいつはそう言った。
「俺には、出来の悪い妹以外に兄弟はいないつもりだがな」
「兄弟……そういうことではないさ」
「じゃあ、俺が呪詛師とでも言うのかよ。あぁ?」
「それも違う。前者の方が近かったかな」
意味を図りかねる。
「咲人! 呪詛師の戯言だ。構うな!」
「っ、あぁ」
在藤の一言で、その雑念を振り払う。
そうだ。今はそんなことを考える必要はねぇ。考えるべきは、在藤を拘束する結界を壊す方法だ。
考えろ考えろ考えろ。
「ほら、隙ができている」
「!?」
思考は一瞬で、結界自体も機能していたはずだ。
だが、奴は俺の目の前にまで迫っていた。呪力感知が発動していないのか? いや、違う。呪力感知に引っ掛からないほどに、こいつが速すぎるのか!?
攻撃を喰らう。咄嗟にそう判断した俺は、自分の前に結界を張ろうとして、
「……おや、残念。どうやら同志たちがやられてしまったようだね」
奴から攻撃の意思が消えた。それは奴の発した言葉の通り、
「在藤兄さん! 咲人さん!」
俺たちの近くまで、雪ちゃんと妹、それに佐木とあと1人が合流していたからだった。俺の結界は呪詛師の死亡を条件に解除される。つまり、それぞれが呪詛師を撃破してきたんだろう。
まぁ、雪ちゃんの方は佐木もいるから大丈夫だとは思ってたが。
「咲人」
「……おう、妹」
俺に声をかけたのは妹。
この愚妹がどうやって呪詛師を倒したのか少々疑問だったが、今、こいつを見て得心がいった。どうやら内包する呪力量が上がってるようだった。
「見ねぇ間に随分育ったじゃねぇか」
「うるさい。こっちはやっとユキと合流できて気分がいいんだ。話しかけるな」
「あ? お前が話しかけてきたんだろうが」
「ユキの前で、家族を心配してるアピールしただけ。勘違いすんな」
この妹、そんな軽口を交わせる程度には余裕があるようだ。
……それに、どうやら俺も余裕が出てきていたようだった。
まぁ、それはいい。本題に戻ろうか。
こちらは全員が生存している。そして、あっち側は1人、呪詛師『楽』のみときている。在藤が結界に囚われているとはいえ、こちらが優勢なのには変わりない。
「おい、呪詛師! 多勢に無勢みてぇだな!」
奴にそう投げかける。人数が集まってる中でそう言うのは若干ダセェが、こっちの完全勝利だ。存分に煽らせてもらおうじゃねぇか。
「…………」
……だが、俺の声に奴は答えない。ただじっとこちらを見つめている。その視線の先には、
「……私を見てる?」
我が妹の姿があった。
あ? 奴の狙いは雪ちゃんの中の『堕雪』じゃねぇのかよ。なんで、あいつのことを見てる?
「草木一級術師」
「あぁ、なんか様子が変だ」
佐木の呼びかけに頷く。同時に、佐木が戦闘態勢に入っていることを確認した。こいつも一級だ。なら、在藤との連携ほどではないが連携して追い討ちをかける。
そう判断した時には、
「嬉しいね。こんなところに『それ』をもつ者に会えるとは」
「「!」」
まただ。俺たちの意識の隙を突いて、移動している。
奴は俺と佐木の後ろ、妹の目の前に立っていた。
「!?」
「美澄ちゃんっ!!」
「草木さん!」
俺と佐木が振り返る。
だが、
ーーガシッーー
「!?」
突如として現れた着物姿の女。奴の仲間であろうそいつは、俺と佐木の頭を掴み、止めてきた。
「主様は今、用事を果たそうとしておりますので、邪魔をしないでいただきたい」
「こいつ、どこから!?」
「草木術師!」
佐木の声に合わせて、俺は結界を展開した。
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