堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完)   作:藍沢カナリヤ

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第28話 転化制動ー伍ー

ーーーー美澄視点ーーーー

 

 

そいつが目の前に現れた時、私はまったく反応できなかった。東坊城の結界を破り、術式を取り戻した今の私ですら気付けなかったんだ。

 

 

「!?」

 

「美澄ちゃんっ!!」

「草木さん!」

 

 

「っと、邪魔しないでほしいな」

 

 

そう言うと、こいつは私とこいつを囲うように軽く結界を張った。だが、その所作に反して、結界の精度は高い。壊すことは難しい。その上、結界の内からは外が見えないようで、駆けつけようとしてくれたユキの姿も声も認識できない。

……どうする、ここで『輪廻復原』を使うか?

隠してきた術式がバレるリスクはあるけれど、この中に私の結界を張ってしまえば、外からは見えないはずだ。

 

 

「あ、安心して。君を今すぐどうこうするつもりはないから」

 

「あ?」

 

 

呪詛師の言葉を信用できる訳がない。

私は結界を展開したーー

 

 

「……………………は?」

 

 

ーーはずだった。

外から見えずに、呪力も遮断することができる結界を張ろうとして、失敗した。この感覚はさっきまで味わっていたもの……いや、それ以上だ。呪力が完全に練れなくなっていた。

 

 

「そ。この『封呪結界』の中では呪力は練れないよ。勿論、ボクもね」

 

 

そう言って笑みを見せる呪詛師。

その笑みにはどこか親しみにも似たものが宿っているように思える。気味が悪い。

私の心中などお構いなしに、呪詛師はこちらへ話し始める。

 

 

 

「君、『輪廻復原』をもっているよね?」

 

 

 

私の術式を言い当てる呪詛師。

『五条』といい、東坊城といい、こうも隠しているはずの術式を看破されると、流石に自信がなくなる。

 

 

「隠していた、のかな。この間は気付かなかったよ」

 

「…………」

 

「君、名前は?」

 

「……草木、美澄」

 

「いい名前だ」

 

 

呪詛師はそう言って笑う。止めろ、呪詛師に褒められてもただただ気持ち悪いだけだ。

いや、今は感情を殺せ。呪力を練れない今、ここでできることは、情報を引き出すことだ。

まずは、こいつの目的ーーユキを殺すという馬鹿みたいな目的、その真意を聞き出す。

 

 

「お前、ユキを殺すって言っていたけど」

 

「あぁ、そうだったね。でも、止めた。君がいるなら話は別だ。計画を変えるよ」

 

「は? なにを!?」

 

 

話は終わりとばかりに、奴はひとつ手を鳴らし、結界を解除した。

視界が広がる。

 

 

「っ」

 

「美澄ちゃんっ!!」

「草木さん!」

 

 

まずはユキの姿を確認する。よかった、いた。

隣には東坊城。どうやらこっちも無事なようだった。

あとは、咲人たち。

結界が張られる前に彼らがいた場所に目をやると、そこには咲人と佐木が着物姿の女と交戦していた。

 

 

「ユキ、怪我はない?」

 

「う、うん。美澄ちゃんこそ大丈夫なの!?」

 

「うん。何もされなかった」

 

 

話はされたけれど、それだけだ。

私とユキの会話に割り込むように、東坊城が口を出す。

 

 

「歓談している暇はないようです」

 

「東坊城……あの呪詛師は?」

 

「残念ながら、結界解除後は姿を見ておりません。ですが、先ほどまでとは戦況が変わりました。わたくしたちは雪さんを護衛しつつーー」

 

「いや」

 

「草木さん……?」

 

「あいつ……ユキを殺すのは止めるって言ってた」

 

「え? それは一体どういうことです?」

 

「詳しい話は後でするけどーー」

 

 

 

 

「そうだね。詳しい話は後で連絡することにするよ」

 

 

 

「!?」

「呪詛師『楽』!」

 

 

横からの声。

それは奴のものだった。だが、反応したときにはもう遅い。

 

 

「え……?」

 

「ユキッ!!!!」

 

 

奴は、私の隣にいたユキを拐った。

瞬間、頭に血が昇るのが分かる。

 

 

「おまえぇぇぇぇッ!!!」

 

 

次々に構築した結界を足場に、宙を駆ける呪詛師。

それを同じ要領で結界を使い、私も追う。

あいつの言葉を一瞬でも信じた私が馬鹿だった。あいつはユキを殺すつもりだ。

許さない。許せない。殺す。

 

 

「だから、殺さないって。拐ってくだけ」

 

「信じられるかッ!」

 

「もう。仕方がないなぁ……『陰絵(かげえ)』!」

 

 

 

ーーーー咲人視点ーーーー

 

 

「畏まりました。主様」

 

 

呪詛師『楽』と妹が空を駆けていたのは分かった。

『楽』の呼びかけに答えるように、その女は呟く。女はそのまま掌印を結びーー

 

 

 

「『領域展開』ーー『嵌合暗翳庭』」

 

 

 

女の足元から伸び拡がっていく『翳』が辺りを支配していく。地を、空を囲うように『領域』が拡がっていき、やがて出来上がったのは『翳』の領域。

それらは俺と佐木、結界に囚われている在藤、そして、結界を使い、空を駆けていた妹と『楽』を閉じ込めていた。

 

 

「ふぅ、これで落ち着いて話せるね。ありがとう、『陰絵』」

 

「いえ」

 

 

そう言って、『楽』は抱えていた雪ちゃんを地に置いた。

雪ちゃんが捕まっちまった。つまり、呪詛師側の目的は達成したってことか、くそがっ

領域を支配する『翳』に足を絡め取られている俺と佐木に為す術もない。それに、妹は領域の上部に片腕を呑まれ、拘束されているようだった。そのまま雪ちゃんを返せと吠えている。この状況『領域』内に捕らえられていながら、まだ吠える胆力があることには、我が妹ながら感嘆するぜ。

 

 

「さてさて。一級が3人と美澄ちゃん、よく聞いてほしいんだけど」

 

「この娘……花房雪は預かっていくよ。殺しはしない」

 

 

殺さない?

そこに違和感を覚える。そもそもこの襲撃の目的は、雪ちゃんの中にある『堕雪』を奪うこと。

雪ちゃんが奴の手中にあり、俺たちを拘束している時点で目的は達成できるはずだ。にもかかわらず、殺さないだ?

何を考えてやがる?

 

 

「…………雪をどうするつもりだ」

 

 

ぎゃんぎゃん叫ぶ妹の声にも負けない声で、在藤がそれを口にした。

 

 

「計画が変わったんだ。この娘はどうもしない。ただの人質だよ」

 

「人質?」

 

「そ。数日後、改めて連絡はするね」

 

 

そう言うと、奴は意味ありげに妹の方を見た。

まただ。こいつ、妹に何かを見出だしているのか?

 

 

「さて、花房雪は殺さない。それは約束するけれど、ここにいる呪術師諸君は別だ。ボクは同志が殺され、悲しんでいるんだよ」

 

「ただ攻め込んだのはボクたちだから文句は言わない。それに目的は達成したわけだしね」

 

 

 

「というわけで、君だけ殺しておくね」

 

 

 

それは一瞬だった。

奴がそう言うと同時に、結界に囚われていた在藤が崩れ落ちた。

 

 

「っ、おい!! 在藤っ!!」

 

 

叫ぶ。

よく見ると、在藤は吐血しながら自分の体を抱きかかえ、ガクガクと震えていた。

 

 

「在藤に何しやがった!?」

 

「ん? 結界を張っただけだよ。彼の体内の臓器ひとつひとつを分断するようにね」

 

 

ありえない。

人間の、しかも他人の体内に入り込む結界だと……!?

そんなもの、ありえねぇ!

 

 

「信じる信じないはご自由に。じゃあ、ボクはこの辺でお暇するかな。行くよ、『陰絵』」

 

「はい」

 

 

『楽』と『陰絵』と呼ばれた女は、領域の『翳』に沈んでいく。地面に横たわっていた雪ちゃんも一緒に。

 

数秒後、領域が解けたその場所で。

妹の叫び声と、俺の在藤を呼ぶ声だけが響いていた。

 

 

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