堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完)   作:藍沢カナリヤ

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第29話 傷痕

ーーーー花房家 在藤夫妻寝室ーーーー

 

 

「あぁ……来てくれたか、咲人」

 

 

咲人と私が通された在藤の寝室には、ベッドに横になる在藤とその妻、花房圭の姿があった。

頬は痩せこけ、体の筋肉は衰え、体を起こしているだけでやっとという様子で、妻に支えられていた。長年、花房家当主代理を務めていた一級呪術師の面影はもうない。

 

 

「在藤……体の具合はどうだ」

 

「まぁ、それなりだ」

 

「…………」

 

 

それなりだと彼は言った。

その言葉が嘘であることは、この場にいる誰もが分かっている。けれど、誰1人としてそれが嘘だと指摘できる者はいなかった。咲人は勿論、私ですら言えない。

他愛のない話を少ししてから、彼は妻である圭に部屋の外へ出るように言う。それに従い、彼女が部屋を出たことを確認した彼は私たちに本題であろうその話を切り出した。

 

 

「私はもう長くないだろう」

 

「っ」

 

 

その一言で、咲人の顔が強張るのが分かった。それに気付かぬフリをして在藤は続ける。

 

 

「私の力不足で、雪は呪詛師に連れ去られ、私自身もこの有り様だ……呪力・術式の発動はおろか体を動かすこともままならん」

 

「在藤……」

 

「分かっている。お前がここ2日間ずっと私の中に入り込んだこの結界を破壊するために動いていたことは。そして、この結界を破壊する術がないこともな」

 

「……すまねぇ」

 

 

俯く咲人。そんな咲人は初めて見る。

 

 

「……咲人」

 

 

在藤は咲人の名を呼ぶ。

そして、告げる。

 

 

「圭と(ゆう)を頼む」

 

「………………っ」

 

「愛する妻と息子を頼めるのはお前しかいない。頼む」

 

 

そう言うと、在藤は頭を下げた。体がろくに動かないという発言通り、ぎこちない動きだ。けれど、その姿からは彼の思いが伝わってきて。

私ですらそれを感じ取ったんだ。咲人にとってはーー

 

 

「分かった。お前のぶんまで……っ」

 

「あぁ、恩に着る」

 

 

短く、それだけを咲人に告げた彼は、次に私の方を見た。

えっと……。

 

 

「ユキは私が助け出す」

 

「よろしく頼む」

 

 

その後、私たちはすぐに部屋を出た。

入れ替わるように、圭が部屋に入っていく。その腕には、赤ん坊が抱えられていた。

 

 

「……早く帰るぞ」

 

「ん」

 

 

これ以上、ここにいても邪魔になるだけだ。

珍しく咲人の言葉に同意して、私たちは花房邸を後にした。

 

 

ーーーー記録ーーーー

 

 

1988年5月3日未明。

一級呪術師・花房在藤の死亡を確認。

花房家当主・花房雪が呪詛師『楽』に捕らえられているため、草木家に花房家の権限を一時譲渡する。

 

草木家に関して追記。

 

 

 

ーーーー草木家・広間ーーーー

 

 

今後の話をお父様へ相談するため、草木家に戻ってきた私たち2人を迎えたのは、広間の中央にある机の上に置かれた遺体だった。

 

 

「…………親父?」

 

 

それは草木家当主・草木琉兵衛のもの。その体は血に染まり、遠目からでも絶命していることが分かった。広間にはいくつもの傷跡と夥しい数の血痕が残っていて、激しい戦闘があったことを物語っている。

その中で異質だったのは、いつもお父様が座っている席に代わりにいた人物。

 

 

「やぁ」

 

 

呪詛師『楽』。

奴は穏やかな笑みを携えたまま、足を組み座っていた。まるで何事もなかったかのように。

 

 

「何しに来やがった……」

「ユキに何もしてないだろうなッ」

 

 

声が重なる。

 

 

「あー、同時に話されるとボクも困るね」

 

 

ヒラヒラと手を振る呪詛師。

 

 

「じゃあ、美澄ちゃんの質問から答えようか。彼女にはなにもしていないよ。ただまだ眠っているようだけどね」

 

「…………」

 

「信用できないって顔だ。そうだなぁ……この連絡先に電話をしてみるといい。彼女が起きれば繋がるはずだよ」

 

「!」

 

 

呪詛師が机に置いた紙を結界を使い、手元に移動させる。そこには確かにどこかの電話番号が記されていた。

『陰絵』を待機させてある。通じるかどうか今、確認してもらっても構わないよ。

奴はそう補足し、咲人へ向き直った。

 

 

「次はそこの結界使い君への答えだ。何をしに来たのか……言っただろう? 後日連絡するってさ」

 

「つまり、宣戦布告つう訳だな」

 

「そうだね」

 

 

咲人と奴が話している間に、私は部屋を出る。この電話番号がちゃんと通じるのか確認するために。

 

 

 

ーーーー咲人視点ーーーー

 

 

妹が広間を出たことを確認して、俺は再度奴に問う。

 

 

「何が目的だ」

 

「ん? 言っただろう? 宣戦布告だって」

 

「ちげぇよ。雪ちゃんを拐い、親父と在藤を殺したお前の目的のことだ」

 

「……あぁ」

 

 

そっちか、と息を吐く『楽』。そして、奴は語り出す。

 

 

「ボクはただ『生き返りたい』だけだよ」

 

「そのために美澄ちゃん……彼女の体を頂こうと思ってるんだ」

 

 

「あ?」

 

 

意味がわからねぇ。生き返りたい? 妹の体を頂く? 本当に何を言ってやがる。

 

 

「……おい、『楽』」

 

「『楽』? あぁ、そうか。まだ名乗っていなかったから、勝手に名前をつけられたという訳だね」

 

 

そんな適当な名前で呼ばれるくらいならば名乗っておこうか。

奴はそう言うと、椅子から立ち上がり、一礼した。

 

 

 

「はじめまして。ボクは福濁(ふだく)

 

草木福濁(くさきふだく)……君たち草木家の源流だよ」

 

 

 

ーーーー記録ーーーー

 

 

草木家に関して追記。

同日に呪詛師『楽』による襲撃を受けた。その際、草木家当主・草木琉兵衛が死亡。

また、『楽』と仮称した呪詛師が、草木家初代当主・草木福濁であることが報告されており、その真偽を確認中である。

 

 

ーーーーーーーー




1話あとがきに美澄のキャラ絵を追記しました。
よろしければどうぞ。
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