堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完) 作:藍沢カナリヤ
ーーーー1987年・4月中旬ーーーー
その任務が入ったのは4月中旬のことだった。
任務へ参加するのは、私とユキ。
そして、お邪魔虫もとい準一級術師1名。
2人と1人で任務に当たることになっていた。
その内容はーー
ーーーー呪術高専1年教室内ーーーー
「は? 今、なんて?」
「美澄ちゃん、失礼だよ」
担任が話した内容に思わず聞き返す私。
ユキは私の口調をたしなめる。
ちょっと怒った顔もかわいい。
「聞いていませんでしたか。草木さん」
「…………」
「僕よりも等級が低いくせに無視とはいい度胸ですね」
「……みすみちゃん」
「はっ!」
ユキの耳打ちで我に返る。
しまった。
ユキの可愛らしさに目も心もが奪われていた。
一見丁寧そうに見える無表情の担任・
まぁ、気にしないけど。
「それでさっきの任務の話だけど」
「えぇ。君たち2人では不安ですから、もう1人同行させることにしました」
「余計なことを……」
「一級術師としての判断です。意見をしないでください」
「いやだぁぁぁ、折角ユキと任務なんだから二人きりで行きたいぃぃ!!」
「チッ」
「……すみません、先生。わたしから美澄ちゃんには話しておきますので……すみませんっ」
佐木はユキの言葉を受けて納得したのか、ひとつ咳払いをしてから話を続ける。
私を放ってである。
「相手が相手ですから、草木さんと同程度の等級の呪術師を1人同行させ、任務に当たってもらいます」
「あの、先生」
「なんですか、花房さん」
「それで『相手』というのは……」
「えぇ、お察しかと思いますが」
「一級相当の呪霊の可能性があります」
ーーーー廃工場跡ーーーー
バブルとやらで景気がいいとは言っても、私たち未成年にはあまり関係ない。
呪術師としての収入はあるけれど、バブルには影響しない。
むしろ社会の裏で膨れ上がる負の感情のせいで、呪術師の仕事量は増える一方だ。
3年後に生まれると予言されている『最強の呪術師様』が本当に生まれてくれたら私たちも少しは楽になるんだろうけどさ。
「お行儀悪いよ……?」
ボケッと考え事をしていたせいか足を開いて座っていたところをユキに注意される。
いいじゃない、スカートでもないし。
そう返すと、それでも行儀は悪いからと言われてしまった。
「はーい、直しまーす」
そう言って足を閉じる。
ユキにそこまで言われたなら仕方あるまい。
一方のユキの姿は、服装こそ制服だが、雰囲気はお淑やかな女の子そのもの。
思わず口角が上がってしまう。
「あ、例の術師の人、来たみたい」
と私たちの時間を邪魔するかのように1人の男性がこちらに向かってくる。
こんな場所に来る人間は恐らくこっち側の人間なんだろう。
顔は……恐らく悪くはない。切れ長の目に高い鼻筋。
ところどころ白髪の交じった黒髪。
服装は少しくたびれた黒いスーツ。ネクタイをつけていない分、どこか仕事帰りの会社員にも見えた。
ただし、目の下の隈が酷い。
「お前ら、呪術高専の学生だな」
「……はい。
「あぁ……」
「今回、一緒の任務につきます花房雪といいます。それから彼女は草木美澄ちゃんです」
「ども」
「……女学生2人とは呪術師の人手不足もいよいよ深刻というわけか」
初対面の人間に対してお前呼ばわり。
それに加えて、女を見下すような態度。
うん、私、こいつ嫌い。
「そっちの女」
「あ?」
「お前が準一級か」
品定めをするかのように上から物を言いなさるこの男。
そうですが、なにか?
そう返すと、こんなのが準一級とは……とため息を吐かれた。
ため息を吐きたいのはこちらなんだけど。
ユキとの任務を邪魔される上に、態度も最悪。
「くれぐれも俺の邪魔をするなよ」
こっちの台詞だ。
なぜ私たちの周りの大人はこうも性格が壊滅的なのか疑問である。
ーーーー廃工場内ーーーー
「バブルの好景気にも関わらず、ここの工場の経営は芳しくなかったみたい。父親が無理心中をして、家族全員が死亡したって……」
やりきれない話だね。
ユキは少し心を痛めた様子だった。
前髪に隠れて目は直接見えないけれど、悲しげに伏せているのが容易に想像できる。
本当にいい子だなぁ、ユキは。
「おい、お前ら」
「あ?」
「術式は?」
先を歩く要田にそう訊ねられるが、誰が答えるか。
ユキが答えようとするのを手で抑える。
「…………本当にそれで準一級か?」
話にならん。
そう言って、要田は
「……ねぇ、美澄ちゃん」
「どした?」
「情報の共有しておいた方がいいんじゃないかな」
「えぇぇ……だって、明らかにあいつ私たちのこと下に見てるよ?」
そんな奴に術式を教える必要なくない?
「相手は一級だって言うし……」
「…………」
「ね?」
「…………はぁ、わかりました!」
私、本当にユキには弱いなぁ。
自分でもそう思いながら、前を歩く要田に声をかけようとして、止まった。
前の男も、もちろんユキもそれを感じ取ったようで、目の前のその場所を凝視する。
「楽しいおしゃべりはそこまでだ」
「言われなくてもわかってますぅぅ」
要田にはあっかんべーを返し、臨戦態勢に入る。
さて、ユキにいいところ見せちゃおうかな!
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