堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完)   作:藍沢カナリヤ

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第35話 呉越同舟ー肆ー

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1988年7月13日。

呪術総監部からの呼び出しを受け、草木家当主兼花房家当主代理・草木咲人はその場に来ていた。

そこには東坊城天蓋の姿もあり、草木福濁の襲撃に関わる者が集結している。本来はここに花房雪や草木美澄の姿もあるべきではあるが、前者は未だに福濁によって拐われたまま、後者は既に死亡していることが咲人からの報告で判明していた。

そのため戦力として動ける呪術師は、草木咲人のみであった。

 

 

 

ーーーー呪術高専内・中央参道ーーーー

 

 

「草木さん」

 

「咲人でいい。にしても、君が総監部のトップとは驚いたぜ」

 

「…………厳密にはトップではありません」

 

「でも、雪ちゃんが五条悟を殺すってのを総監部に教えたのは君だろ」

 

「…………」

 

 

俯く東坊城ちゃん。それを見て、俺は自分の予想が当たっていることを悟る。

『呪吐』を手伝う手前、在藤から聞いてはいた。雪ちゃんの中にいる『堕雪』のことや秘匿死刑回避のために『呪吐』を行っていること。ただ、なぜ総監部がまだ生まれてもない五条悟についての情報をもっているのか、長い間疑問ではあった。それが今回のことでハッキリした。

 

 

「『予知』の術式をもっています。年に数回単位ですが、未来が見える。そんな術式です」

 

「なるほど。総監部はその術式を受けて、『呪吐』を行わせていた、と」

 

「はい」

 

 

静かに頷く彼女。その様子からなんとなく察することができた。総監部の連中がやってたのは『呪吐』だけじゃねぇ。恐らく、

 

 

「……雪ちゃんを殺すために動いてた連中もいたんだな」

 

「わたくしの見た未来は変えることができます。ですから……」

 

「そうか」

 

 

彼女が『予知』で見た未来で、『堕雪』となった雪ちゃんが五条悟を殺す。五条ってのがどの程度の術師になるかは分からねぇが、彼女が見た未来ではそれは世界を滅ぼすことに繋がるという。

ならば、雪ちゃんを殺せというのは納得もいく。

 

 

「在藤はそれを知ってたのか」

 

「わたくしが直接伝えたわけではありませんが、未来のことはお伝えしていたと聞いています。そのために『堕雪』を顕現させない『呪吐』を提案したのが……」

 

「まぁ、在藤だからな」

 

 

裏で雪ちゃんを殺す算段を総監部がしているとは知らずに、あいつは雪ちゃんを当主にしたって訳か。

 

 

「くくっ、笑えるな。それを知らないまま、最善手を取ってる。流石は在藤だぜ」

 

 

日頃の行いかね。俺とは大違いだ。

 

 

 

「咲人さん」

 

「おう」

 

「わたくしの『予知』は恐らくあと一月は使えません。目まぐるしいほどに環境の変化した今、何が起こるかわたくしにも分かりません」

 

「ま、やることは変わらねぇよ。俺は草木福濁を殺す」

 

 

親友と……妹の仇だ。

それは俺にしかできねぇことで、俺がやらなくちゃならねぇことだからな。

 

 

「幸いなことに草木家の情報網の要は生きてる。俺は俺で調べるさ」

 

「……はい。ご武運を」

 

「ありがとよ」

 

 

そう言って、俺は参道にそびえる鳥居をくぐり、呪術高専を後にした。

 

 

ーーーー東坊城天蓋視点ーーーー

 

 

「ねぇ」

 

 

咲人さんを見送った後のことです。わたくしは声をかけられました。振り返るとそこには女性の姿。

彼女は、

 

 

水仙(すいせん)姉様」

 

 

わたくしの双子の姉ーー東坊城水仙がいました。

前に彼女の姿を見た時からは随分と雰囲気が変わっています。けれど、間違えるはずもありません。

 

 

「水仙……ふふっ、久しぶりにその名前を聞いたわね」

 

「……『五条』でしたか。そんな名前を名乗っていると風の噂で聞きました」

 

「あら、呪詛師界隈にも詳しいなんて、流石は天蓋ね」

 

「っ」

 

 

「流石は天蓋ね」

姉様がわたくしを褒める時に使っていた言葉。あの時と変わらないように笑う姉様の表情に、少し苛立ちが沸いてくる。

 

 

「…………なにを、しに来たのですかっ」

 

「あなたに会いに来たのよ」

 

「っ、今更っ!」

 

 

わたくしを捨てて、家を捨てて、挙げ句の果てに呪詛師になっておいて。

わたくしの積み上げてきた地獄の日々も知らず。

今更なぜ、わたくしに会いに来たのでしょうか。

 

 

「……あなたに黙って家を出たのは謝る。けど、あなたも分かっているんでしょう? 今の状況を」

 

「それ、は……」

 

 

今の状況。勿論、その言葉に心当たりがないわけではない。

草木福濁。

花房雪ーー『堕雪』の器は今、彼の手にあるという事実。呪術高専襲撃の際は、彼女を殺して奪うのが、彼の目的だったはず。今でこそ目的は彼自身の復活だと言っていたようですが、草木美澄は死んでしまいました。それを受けて、目的が『堕雪』に戻ってもおかしくはないんです。

分かっています。けれどーー

 

 

「姉様と、協力しろ、ということですか……」

 

「……端的に言えばね。御三家から戦力を借りることが出来たとしても、落ち目の五条家・加茂家からの支援は無理。禪院家に協力を仰ぐのも難しい……となれば、戦力は草木家に残された草木咲人のみ」

 

 

姉様に言われずとも、状況が芳しくないことは分かっています。

それに、姉様の術式があれば、この状況をひっくり返すことができるかもしれないという可能性だって。

 

 

「分かってはいます……」

 

「……納得はできない?」

 

「……はい」

 

「ま、そうね」

 

 

呪術界という括りで見れば、呪詛師を招き入れるというリスクを負ってでも頷くのが最善です。

だから、これはわたくしの心の問題。

 

 

「……少しだけ時間をください。そこまでかかりませんから」

 

「分かった。ここに連絡を頂戴。待ってるわ」

 

 

そう言うと、姉様はわたくしに電話番号がかかれた1枚のメモを渡し、ヒラヒラと手を振って去っていきました。

 

こうして、わたくしと姉様の十数年ぶりの邂逅は終わりました。

勿論、わたくしは姉様の提案を受け入れざるを得ません。現状、盤面をひっくり返せるのは、姉様だけですから。

だから、もう少しだけ……。

 

 

ーーーー記録ーーーー

 

 

草木咲人一級呪術師より報告。

草木福濁の潜伏先を、都内廃教会と断定。

 

1988年7月19日。

草木福濁への攻撃を開始することを決定。

この任務には、東坊城天蓋、草木咲人、佐木宗吾の3名を派遣する。

また、東坊城天蓋の監督の下、出頭した呪詛師『五条』と他2名を本任務限定で使用することを許可する。

 

 

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