堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完)   作:藍沢カナリヤ

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第36話 盛夏

ーーーー回想ーーーー

 

 

「姉様!」

 

「どうしたの、天蓋?」

 

「今日ね、またテストで100点をとったの!」

 

「すごい! 流石は天蓋ね!」

 

 

小学生の頃、何か嬉しいことや頑張ったことがあると、必ず姉様に伝えていました。水仙姉様ももちろん学校には通っていたけれど、別々の学校だったから、わたくしの学校での様子も気になっていたようで、それを嬉しそうに聞いてくれました。

そして、その度に水仙姉様はわたくしを褒めてくれた。それがとても嬉しかったんです。

 

 

……………………

 

 

「大丈夫? 天蓋」

 

 

わたくしが学校で男の子にいじめられていたとき、姉様は絶対に駆けつけて、わたくしを守ってくれました。

わたくしは泣きそうで、でも、泣くのだけは必死に我慢をして。

 

 

「……泣かないっ」

 

「うん、流石は天蓋ね」

 

 

そうすれば、姉様はわたくしを優しく撫でてくれたから。

 

 

……………………

 

 

「姉様!」

 

「どうしたの、天蓋?」

 

「今日、母様に呼ばれたの。今度の土曜日、あのお部屋に入れてもらえるって!」

 

「本当!? すごい……私は呼ばれたことないのに。流石、天蓋!」

 

「えへへ」

 

 

あの日ーー母様からお部屋に呼ばれた日も、わたくしは姉様にそれを報告しました。姉様でも許可されなかったあの部屋に入ること。それがとっても嬉しくて。

だから、

 

 

……………………

 

 

部屋中に悲鳴が響き渡る。

それがわたくし自身のあげたものだと気づくよりも先に来る激痛。自分の眼球がくり貫かれる感覚。いえ、事実わたくしの右眼は母様の手によって抉り取られていました。

母様は強引に、わたくしの空になった右眼に『それ』を捩じ込んできて。

 

 

「早く馴染んでっ……はやく……」

 

 

祈るような声で右眼を押し付かれる。

母様がわたくしを傷つけたという現実から逃げるように、わたくしは理由を探した。

苦痛と混乱の中、わたくしは理由を見つけました。

 

 

「母様は、わたくしのために、してくださったんですね……」

 

「なんでっ、なんで馴染まないのよっ!? はやく仕上げなきゃあの人に捨てられちゃうのっ」

 

「……ありがとうございます、母様」

 

 

……………………

 

 

 

「姉様……?」

 

 

夏の日。太陽が容赦なく照りつける東坊城家の庭に、姉様は立っていました。その足元、へたり込むわたくしの目の前には、父様と母様の遺体があって。

 

 

「なにを、してるのですか……姉様……」

 

「………………」

 

 

強い日差し、逆光のせいで表情は見えません。けれど、その光景を生み出したのが姉様ということは、嫌でも分かってしまいました。だから、聞いたのです。

 

 

「なんで……父様と母様を……?」

 

 

問いかけるわたくしの前にかがみ込んだ姉様。そこでやっと見えた姉様の顔、その左眼は血に染まっていました。そして、その瞳の色はわたくしと同じ空色。

その空色の瞳で、姉様は言いました。

 

 

「こんな激痛に耐えていたなんて……流石は天蓋ね」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

そうして、水仙姉様はわたくし以外の東坊城家の人間を殺しました。なにかの理由があったはず。そう考えたわたくしは、東坊城家当主を継ぎ、姉様を匿うことを決めました。

けれど、姉様は黙ってわたくしの前から姿を消して。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「天蓋」

 

「っ」

 

 

姉様の声で我に返ります。昔のことを思い出していた、そんなことを言ったら笑われてしまうかもしれません。

 

 

「…………この戦いが終わったら、少し話をしましょう」

 

「それ、死亡フラグって言うのよ」

 

「フラ、グ……?」

 

 

よく分からないことを言って、笑う姉様。

死亡フラグ……それが何かは分かりませんが、わたくしは死にません。咲人さんに佐木さん。それに姉様も。戦力としては姉様が連れてきたという呪詛師もいます。

それに対して、相手は2人だけ。1人は『領域』を使えると聞きましたが、咲人さんは一度倒した相手だとも聞いています。

草木福濁の結界は厄介ではありますが、佐木さんや姉様がいるならば……。

 

 

「ま、私の見た未来でも天蓋の死は見えなかったわ。だから、大丈夫でしょうけれど」

 

「…………」

 

 

『予知』の術式による未来視。わたくしのものとは少し違うようですが、姉様にもそれは備わっています。ただ、姉様の言葉に安易に頷くことはできません。

なぜなら、わたくしたちの『予知』は絶対ではない。

『予知』で見る未来は、あくまでも現時点で起こり得る可能性の最も高い未来ーー逆を返せば、何かのきっかけで変わり得る不安定なもの。

だから、もしかしたらーー

 

 

「大丈夫よ、天蓋は私が守るわ」

 

「っ」

 

 

嫌な方向に転がりそうになる思考を止めてくれる一言。

思わず溢れてしまいそうな感情を押さえつけるように、わたくしは顔を伏せます。そんなわたくしに気を遣ってくれたんでしょう。姉様は静かにわたくしから遠ざかっていきました。

 

 

「…………姉様は、本当にーー」

 

 

口を突いて出たその言葉は、姉様には届かない。

でも、それでいいのです。今はまだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

1988年7月19日。

草木福濁との戦闘に関しての記録。

佐木宗吾一級術師が死亡した。また、出頭した呪詛師2名が行方不明となっており、状況から逃亡したと判断する。その主犯として東坊城天蓋及び草木咲人を処分対象とし、その身柄を呪術総監部預かりとする。

 

 

ーーーーーーーー




地獄地獄
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