堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完) 作:藍沢カナリヤ
ーーーー回想ーーーー
「姉様!」
「どうしたの、天蓋?」
「今日ね、またテストで100点をとったの!」
「すごい! 流石は天蓋ね!」
小学生の頃、何か嬉しいことや頑張ったことがあると、必ず姉様に伝えていました。水仙姉様ももちろん学校には通っていたけれど、別々の学校だったから、わたくしの学校での様子も気になっていたようで、それを嬉しそうに聞いてくれました。
そして、その度に水仙姉様はわたくしを褒めてくれた。それがとても嬉しかったんです。
……………………
「大丈夫? 天蓋」
わたくしが学校で男の子にいじめられていたとき、姉様は絶対に駆けつけて、わたくしを守ってくれました。
わたくしは泣きそうで、でも、泣くのだけは必死に我慢をして。
「……泣かないっ」
「うん、流石は天蓋ね」
そうすれば、姉様はわたくしを優しく撫でてくれたから。
……………………
「姉様!」
「どうしたの、天蓋?」
「今日、母様に呼ばれたの。今度の土曜日、あのお部屋に入れてもらえるって!」
「本当!? すごい……私は呼ばれたことないのに。流石、天蓋!」
「えへへ」
あの日ーー母様からお部屋に呼ばれた日も、わたくしは姉様にそれを報告しました。姉様でも許可されなかったあの部屋に入ること。それがとっても嬉しくて。
だから、
……………………
部屋中に悲鳴が響き渡る。
それがわたくし自身のあげたものだと気づくよりも先に来る激痛。自分の眼球がくり貫かれる感覚。いえ、事実わたくしの右眼は母様の手によって抉り取られていました。
母様は強引に、わたくしの空になった右眼に『それ』を捩じ込んできて。
「早く馴染んでっ……はやく……」
祈るような声で右眼を押し付かれる。
母様がわたくしを傷つけたという現実から逃げるように、わたくしは理由を探した。
苦痛と混乱の中、わたくしは理由を見つけました。
「母様は、わたくしのために、してくださったんですね……」
「なんでっ、なんで馴染まないのよっ!? はやく仕上げなきゃあの人に捨てられちゃうのっ」
「……ありがとうございます、母様」
……………………
「姉様……?」
夏の日。太陽が容赦なく照りつける東坊城家の庭に、姉様は立っていました。その足元、へたり込むわたくしの目の前には、父様と母様の遺体があって。
「なにを、してるのですか……姉様……」
「………………」
強い日差し、逆光のせいで表情は見えません。けれど、その光景を生み出したのが姉様ということは、嫌でも分かってしまいました。だから、聞いたのです。
「なんで……父様と母様を……?」
問いかけるわたくしの前にかがみ込んだ姉様。そこでやっと見えた姉様の顔、その左眼は血に染まっていました。そして、その瞳の色はわたくしと同じ空色。
その空色の瞳で、姉様は言いました。
「こんな激痛に耐えていたなんて……流石は天蓋ね」
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そうして、水仙姉様はわたくし以外の東坊城家の人間を殺しました。なにかの理由があったはず。そう考えたわたくしは、東坊城家当主を継ぎ、姉様を匿うことを決めました。
けれど、姉様は黙ってわたくしの前から姿を消して。
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「天蓋」
「っ」
姉様の声で我に返ります。昔のことを思い出していた、そんなことを言ったら笑われてしまうかもしれません。
「…………この戦いが終わったら、少し話をしましょう」
「それ、死亡フラグって言うのよ」
「フラ、グ……?」
よく分からないことを言って、笑う姉様。
死亡フラグ……それが何かは分かりませんが、わたくしは死にません。咲人さんに佐木さん。それに姉様も。戦力としては姉様が連れてきたという呪詛師もいます。
それに対して、相手は2人だけ。1人は『領域』を使えると聞きましたが、咲人さんは一度倒した相手だとも聞いています。
草木福濁の結界は厄介ではありますが、佐木さんや姉様がいるならば……。
「ま、私の見た未来でも天蓋の死は見えなかったわ。だから、大丈夫でしょうけれど」
「…………」
『予知』の術式による未来視。わたくしのものとは少し違うようですが、姉様にもそれは備わっています。ただ、姉様の言葉に安易に頷くことはできません。
なぜなら、わたくしたちの『予知』は絶対ではない。
『予知』で見る未来は、あくまでも現時点で起こり得る可能性の最も高い未来ーー逆を返せば、何かのきっかけで変わり得る不安定なもの。
だから、もしかしたらーー
「大丈夫よ、天蓋は私が守るわ」
「っ」
嫌な方向に転がりそうになる思考を止めてくれる一言。
思わず溢れてしまいそうな感情を押さえつけるように、わたくしは顔を伏せます。そんなわたくしに気を遣ってくれたんでしょう。姉様は静かにわたくしから遠ざかっていきました。
「…………姉様は、本当にーー」
口を突いて出たその言葉は、姉様には届かない。
でも、それでいいのです。今はまだ。
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1988年7月19日。
草木福濁との戦闘に関しての記録。
佐木宗吾一級術師が死亡した。また、出頭した呪詛師2名が行方不明となっており、状況から逃亡したと判断する。その主犯として東坊城天蓋及び草木咲人を処分対象とし、その身柄を呪術総監部預かりとする。
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地獄地獄