堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完) 作:藍沢カナリヤ
ーーーー都内廃教会・礼拝堂ーーーー
「君の兄も東坊城の人間も総監部に拘束され、身動きがとれなくなってる。これで目的を果たせるね、美澄ちゃん」
祭壇に寄りかかるように座る福濁の言葉に、私は黙って頷いた。
福濁の言う通り、あの2人さえ行動不能にしてしまえば、こちらからは手出しをしない以上、呪術界の方からの攻撃はないだろう。
加えて草木・花房家の当主不在。それは両家の実質的な衰退を意味している。呪術師の人手不足も相まって、恐らくユキの奪還に乗り出すほど呪術界に余裕はないはずだ。
「『堕雪』の分離、ゆっくり取り組もうじゃないか」
ゆっくり、ね。
今が7月下旬だから、恐らく『堕雪』の顕現まで1年少し。本当はゆっくりしてる暇なんてない。
「焦るのも仕方がないけどね。君の方に流した呪詛師2人も大したことがなかったという話だし」
「戦ってから気づいたけど、あれは録な術式じゃなかった」
「ハズレはハズレなりに使い道はあるさ」
まぁ、それもそうではある。これで私の手持ちは4体目。そもそもの手持ちが少ないんだから贅沢は言ってられない。
「そっちは……佐木を殺したんでしょ」
「ん……あぁ、彼……佐木といったんだね」
殺したこと自体を忘れていたかのような反応をした後、それを肯定する福濁。なかなかに骨がある術師だったとも付け加える。今の反応を見るに、本当にそう思っているかも甚だ疑問ではあるが。
「……担任、だった」
「それは、悪いことをしたね」
「いや」
きっとユキがそれを知ったら、悲しむのだろうけど、私の心はまったく痛まなかった。ともかく福濁には、そのことを含めて、今の向こう側の状況をユキに言わないようにだけ釘を刺しておく。ユキが心を痛めるのだけは避けたいし。
「承知したよ」
ユキが悲しまないように、慎重に進めなきゃ。
ーーーー雪視点ーーーー
ここに美澄ちゃんが連れてこられてからどれくらいが経っただろう。その間、美澄ちゃんはこの部屋から何度か連れ出されることもあって。きっと『生き返る』ための何かをしている、させられているんだと思う。それを考えるたびに、胃が痛くなる。
「早く、脱出しなきゃ」
美澄ちゃんに危険が及ぶ前に。
今度はわたしが助ける番だって、美澄ちゃんに言い切ったんだから。わたしはそれを守らなきゃいけない。約束だもん。
問題は、
「ここじゃ呪力を使えない」
自分の呪力も、わたしの中の『堕雪』の呪力も感じない。この部屋に張られてる結界の中じゃ呪力感知ですら封じられているんだ。
一応、体術も在藤兄さんから教わってはいるけど、あれはあくまでも呪力で強化する前提だから、この結界を物理的にどうにかするのは無理。
そうなると、この結界が緩んだ時に仕掛けるしかない。美澄ちゃんが結界の外に出される瞬間、呪力感知が戻ることがあった。つまり、結界が緩むのはここから誰かが出入りする一瞬だけ。
かなりシビアなタイミングだけど。
「………………たぶん、大丈夫」
ここに連れ去られる前のあの戦いで、わたしは『黒閃』をもう一度経験したんだから。
『黒閃』ーー黒く光る呪力。
打撃との誤差が100万分の1秒以内に呪力が衝動した際に生じる空間の歪み。在藤兄さんからはそう聞いた。曰く『黒閃』による攻撃は、通常の呪力による攻撃の2.5乗の威力にもなるという。
それを経験した者としない者では、呪力の核心との距離に天と地ほどの差があるとも。
……わたしはそれを2度経験してる。
あれから少し時間は経ってるけど、あの感覚を思い出せば、結界が緩む一瞬の隙だって突けるはずだ。
ーーガチャーー
「ただいま、ユキ」
部屋の扉を開けて、美澄ちゃんが帰ってきた。
…………うん、やっぱり少しだけ緩んでる。
「おかえりなさい。大丈夫だった……?」
「うん、平気」
いつもみたいに草木福濁と話をしてきただけ。
美澄ちゃんはそう言って、にこりと笑いかけてくれる。心配をかけないようにってことなんだと思う。
「…………っ」
「ユキ、どうかした?」
「ううん、なんでもないよ」
「……辛くなったら言ってね。私たち親友なんだから」
「……うん」
親友。
そう言ってくれるんだもん。絶対助けなきゃ。
そのためにもーー
「ねぇ、美澄ちゃん。ここを脱出する方法なんだけど……」
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