堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完)   作:藍沢カナリヤ

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第38話 蚕食鯨呑ー弐ー

ーーーー雪視点ーーーー

 

 

1988年8月15日。

その日は来た。美澄ちゃんと相談して決めた脱出の日だ。

2日前に美澄ちゃんがここから出された時にも、結界の緩みは確認できていた。だから、あとは一発勝負。

部屋の中からはわたしが、外からは美澄ちゃんがこの結界を攻撃して破壊する。

 

 

「……美澄ちゃん」

 

「わかってるよ、ユキ」

 

 

今、美澄ちゃんが結界から、出た。

 

 

 

ーーーー回想ーーーー

 

 

ユキには嘘をついて申し訳ないなって思ってる。

けど、これもユキを『堕雪』から解放するためだから。

 

 

「2日後、あんたの結界を私とユキで壊す」

 

 

それを福濁に伝えると、奴は少し驚いたような表情を見せた後に、軽く笑った。

 

 

「それをボクに伝える君の胆力もそうだけれど、『封呪』を破壊しようと企む彼女にも驚かされるね」

 

「ユキは優秀だよ。私が結界を出る時にそれが緩むのに気づいてた」

 

「……なるほど。確かにそれは中々だ」

 

 

私はユキに言われるまでその事実には気づかなかった。呪力が練れない状況で、一瞬使えるようになったその瞬間を感じ取っていた。まさに、呪力感知に優れたユキだからこそできたことだった。

 

 

「それで、本題に入ろうか。それをボクに伝えてどうするつもりなのかな?」

 

 

本題は何か。目的は何か。福濁は訊ねてくる。

勿論、決まっている。

結界を破壊したその時に、

 

 

「『堕雪』をユキから引き剥がす」

 

 

 

あの部屋の中にいるユキや私が呪力を練れず、呪術を使えないように、福濁も結界の中では呪術を使えない。それは『封呪』の術式効果を上げるための『縛り』、加えてあの結界は福濁自身でも解除できず、ユキ以外の人物は1人しか出入りできない。呪具や呪物もなしに、長期間結界を維持するにはそれほどに強烈な『縛り』が必要だったと聞いた。

つまり、ユキに奴の術式『二元解離』を使うタイミングは、結界が破壊された瞬間しかない。

 

 

「まぁ、そうだね。そろそろ頃合いか。ただ、本当に破壊できるのかな?」

 

「…………」

 

「美澄ちゃん、君はともかく、彼女にあの結界を破壊するほどの力はーー」

 

 

 

「あまりユキを馬鹿にするな」

 

 

 

「……それは失礼」

 

 

決行は8月15日の午前2時。

それだけを伝え、私はその場を後にした。

 

 

 

ーーーー美澄視点ーーーー

 

 

「美澄ちゃん!!」

 

 

私が結界から出た瞬間、ユキの声が響く。

それを聞くよりも前に、私は振り向き、ありったけの呪力を脚に込め、『廻』を放った。

同時に、ユキも呪力を込めた拳を突き出す。ユキの呪力は黒く閃く。

私の『廻』とユキの『黒閃』。

2つの衝撃は結界の一点で重なり、

 

 

ーーバリンッーー

 

 

結界は砕かれた。

破壊された箇所を中心に結界が崩れていく。そして、数秒後にはユキを捕らえていたその結界は綺麗サッパリなくなっていた。

 

 

「やった! 成功だよっ」

 

 

そう言って喜び笑うユキ。

可愛い。

 

 

「っ」

 

 

じゃなかった。いや、ユキが可愛いのは事実だし、喜ぶユキならば小一時間は眺めていられるけれど。それでも今は違う。優先順位はユキを救うことだ。

ユキにバレないようにさりげなく周りを見渡す。

計画は伝えてある。時間通り。それに結界が壊れたことはきっと福濁も感じ取っているはずだ。なのに、福濁はどこにいる?

 

 

「?」

 

 

視界の端。ユキの足元で何かが揺らめいた。

それはユキの影。ユキの動きに合わせて動くはずのそれが、意図しない方向に動いていた。

 

そうか。結界が割れたそのタイミングで、『陰絵』の術式でそこに潜んだのか。

私がそれに思い至ったと同時に、ユキの陰から奴らは現れた。まだユキは気づいていない。

そのまま、福濁の両手がユキに迫りーー

 

 

 

 

「随分と長いこと、閉じ込めてくれたな、小僧」

 

 

 

 

ーー『あいつ』の声が聞こえた。

そして、

 

 

ーーグンッーー

 

「が……っ!?」

 

 

背中に衝撃。そして、体の中、内臓が揺れる感覚。

吹き飛ばされ、部屋から続く廊下の奥、その壁に叩きつけられたのだと遅れて気づいた。

今の衝撃で脳まで揺れてるのが分かる。ぼやける視界で、どうにか目の前というには離れている部屋の中の状況を確認した。

そこにいたのは、

 

 

「ふむ。久しぶりの表だからか……呪力の制御が効かんな」

 

 

ユキの姿だけど、まったく違う気配。前髪をかきあげるあの仕草。間違いない。『堕雪』だ。

分離まであと少しって時に、最悪のタイミングで顕現された。

 

 

「さい、あく……」

 

 

ポツリとそんな言葉が漏れる。その呟きが聞こえたようで、『奴』は私の方へ向かってきて。

 

 

「フッ、いや、助かった。流石の俺でもここまで『縛り』で強化された結界は壊せんからな」

 

「っ、おまえの、ためじゃ……」

 

「こいつのため、だろう?」

 

「っ」

 

「それが巡って俺のためになる。皮肉だなぁ、娘」

 

 

邪悪な笑み。ユキのものとは対照的な笑みを浮かべ、『奴』は私を嘲笑った。

その後、『堕雪』は私に背をむけ、あいつらと対峙した。……いや、もうあいつ"ら"じゃなくなってる。

私とは反対側、今までユキを監禁していたその部屋の壁に、彼女はいた。福濁から『陰絵』と呼ばれていたその女は絶命していた。恐らくあの衝撃のせいだ。距離の長い廊下に吹き飛ばされた私と違い、部屋の中で、しかもユキの近くにいたあの女は壁に強く叩きつけられたんだと思う。その体は、壁にめり込み、半分に折れてしまっていた。

 

 

「小僧、出てこい」

 

 

『堕雪』はその遺体に話しかけた。すると、彼女の影から福濁が現れる。

 

 

「『堕雪』だね」

 

「あぁ、俺が『堕雪』だ。お前は、なんだ?」

 

「ボクは草木福濁……平安から続く呪術師の家系・草木家の開祖だよ」

 

 

福濁の言葉で得心がいったようで、『堕雪』は手を叩く。

通りで結界が破れんわけだ。

そう言って、『奴』は、

 

 

 

「では、今一度防いでみろ」

 

「!」

 

 

 

福濁へゆっくりと迫る。

そして、呪力を込めた拳を振りかぶり、

 

 

 

ーーバギッッーー

 

ーーバリンッーー

 

 

 

殴った。それと同時に、結界が砕ける音もする。

殴る瞬間に張った結界をそのまま破壊した。なんのことはない。『堕雪』は福濁の張った結界を力ずくで殴り壊した。それだけだった。

その衝撃で壁は崩れ、福濁は外へ吹き飛ばされる。見れば、奴は膝から崩れ落ちていた。

それを追い、ゆっくりと外へ歩みを進める『堕雪』。

 

 

「こうなる前に、殺しておけばよかったよ」

 

「悪手だったな。なに、後悔とは先には立たんものだ。仕方がないと諦めろ、小僧」

 

 

呪力を帯びた拳を振りかぶる。そして、そのまま振り抜いた。

 

 

「……?」

 

 

結果を言えば、『堕雪』の攻撃は福濁に届かなかった。2人の間に1つの影が落ちていて、それが『堕雪』の拳を止めていた。

その人物は、私にも見覚えがある人間だ。

彼女は、

 

 

 

「……やはり、こうなってしまったのね」

 

 

 

呪詛師『五条』だった。

 

 

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