堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完) 作:藍沢カナリヤ
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「女……何者だ」
自らの攻撃を止めた。『彼』が生きていた時代はともかくとして、現代でそれほどの術師には未だ会ったことがなかった。それゆえに、『堕雪』は目の前の女に興味を示した。
『堕雪』の問いに、彼女ーー『五条』は答える。
「私はただの呪詛師よ」
「ふむ、呪詛師か……まったく下らん住み分けだ。呪術を使う人間にいいも悪いもあるまい」
そう言うと、『堕雪』は一歩退いた。再度攻撃を仕掛けるつもりなのだとその場にいる者は理解したのは、『堕雪』から溢れ出る呪力を感知していたからだ。
「では、もう一度防いでみるといい」
「遠慮する、そう言いたいところだけれど」
「遠慮など不要だ。止めてみせろ」
ーーブンッーー
再び『堕雪』は一撃を繰り出す。その攻撃は、風圧として周りのものを抉る。だが、
ーーピタッーー
拳自体はまたも彼女の前で止まっていた。2度の攻撃で、『堕雪』は彼女に自分の攻撃が防がれるのを理解していた。いや、防ぐというのは正確ではない。
「当たっていない。触れてすらいない」
「ご名答よ。あなたが触れたのは私とあなたの間にある『無限』。これがある限り私には触れられないわ」
「ほう。『無下限呪術』か」
「それも正解」
『無下限呪術』。
『五条』と名乗る彼女の術式である。とは言っても、それは近い未来に誕生する彼の術式には遠く及ばないものである。その左眼同様に紛い物、後付けの術式だ。
だから、彼女は強敵を前にすると必ず自らの手の内を明かす。術式を開示することで『無下限呪術』の効果を引き上げ、かつ彼女にかかる負担を抑えるためだ。
「昔、それをもった人間と戦ったことがあってなぁ…………ん?」
そこまで話した『彼』は何かに思い至る。近い距離で、彼女を観察する『堕雪』。
その口元が歪んだ。
「すると、その眼は『六眼』か」
ーーゾワッーー
「っ」
触れられるはずもない。にもかかわらず感じる強烈な悪寒。
それは『五条』の後ろにいる福濁も感じ取っていた。
「『封呪ーー
福濁が咄嗟に選択したのは、呪力によって顕現している『堕雪』を封じるための『封呪結界』の展開。
勿論、即席で展開することもあり、雪を閉じ込めていた結界よりは数段効果が落ちることは分かっている。だが、ここで『堕雪』に自由に呪術を発動させるわけにはいかない。なにより彼の生存本能がそれを訴えかけていた。
だが、
ーーガシッーー
「それは不快だ」
ーーバギッーー
「~~~~~~っ!?」
結界の発動よりも速く、『堕雪』は彼の両腕を折った。
本来であれば、それで怯むべきではなかった。一瞬でも隙を見せれば、『彼』はそれを突いてくる。
呪力を乗せぬただの打撃で、福濁は数メートルも吹き飛ばされ、意識が飛んだ。
「っ」
それを見た『五条』は『無下限呪術』による防御を選択した。下手な攻撃は隙を作るだけだと考えたのだ。
「フッ、『六眼』も『無下限』もその身に宿しておきながら攻めぬとは……宝の持ち腐れ。つまらん」
ーースッーー
『堕雪』は嘲笑うようにそう言うと、掌印を結ぶ。
先ほどまでのこちらを試すような雰囲気とは違う。刺すようなそれは『彼』が術式を以て、彼女を殺しにかかってくることを意味していた。
「さっきまでは優しかったのに、どうしたのかしら」
「事情が変わった。『六眼』ならば、ここで確実に殺さなくてはな」
「これ、紛い物なのよ。見逃してはくれないかしら」
「…………」
『五条』の軽口に『彼』はもう乗らない。
呪力が溢れ出す。
「術式解放ーー」
ーーピキッーー
ーーーー美澄視点ーーーー
刺すような呪力を感じた次の瞬間、『堕雪』が止まった。
誰かの術式かと思ったけど、『あいつ』の呪力以外は感じない。これは一体……。
「ーーーーーー」
ボソリと何かを呟いたのが見えた。少し離れたここからじゃ何を言ったのかは分からないけど、その後、『奴』は踵を返し、どこかへ立ち去っていった。
そこに残されたのは、意識のない福濁と息を切らせた『五条』。
そして、視界が暗くなっていく私だけ。
そこに、ユキはいない。
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『堕雪』を出さないための儀式『呪吐』は、花房家の呪術師が死に、咲人が捕らえられている時点で行える者がいない。
私がしようとしたこと、ユキと『奴』を分離させる案も失敗した。顕現した時点で『奴』にその隙はなかった。
だからといって、そのまま倒すなんてできない。ユキがまだ『奴』の中にいるんだ。
理解してしまう。
この状況が詰んでいることを。為す術がないことを。
私の世界はもう、終わってしまった。
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