堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完) 作:藍沢カナリヤ
第41話 恋慕の情ー壱ー
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私がユキに出会ったのは、今から7年も前のことになる。
私が10歳の時。私が通っていたなんの変哲もない小学校に、ユキが転校してきたんだ。
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「これから皆と一緒にお勉強する●●雪さんです。じゃあ、自己紹介できる?」
「っ、は、はいっ……あの……●●雪……っていいます……」
綺麗な黒い髪。目まで隠れるくらい長い前髪。華奢で服装は地味。
見るからに気の弱そうな女の子。私とはたぶん気が合わない。それどころか私とは正反対で。
「……むかつく」
あのおどおどした感じがなんか嫌だった。
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「ねぇ、●●さん! どこから転校してきたの?」
「おうちどのへん? 放課後あそぼうよ!」
「●●さん、学校案内してあげる!」
「あの、えっと……」
転校生にありがちな質問ぜめ。クラスの子たちは●●さんの様子に気付かずに質問を続けてる。
「ねぇ」
むかつくタイプなのに、なぜか放っておけなくて声をかけた。●●さんを囲むようにしていた他の子たちの体が跳ねるのが分かる。そして、●●さんからそそくさと離れてく。まったく分かりやすい奴らだよね。
「●●さんだっけ?」
「は、はい……えっと……」
「美澄」
「え……?」
「私の名前」
「……美澄さん……わたしになにか……」
もちろん用らしい用はなかった。ただなんとなく声をかけたってだけ。それを悟られるのはすごく嫌で。
「放課後、ひま? ちょっと付き合ってよ」
つい彼女を誘っていた。有無を言わさぬ口調に、彼女はただ頷いた。
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「…………」
「…………」
小学生2人、渋谷を歩く。
隣じゃなくて私の2歩後ろをついてくる●●さん。距離もあるせいか会話はなし。チラリと後ろを見ると、俯きながら歩いていた。ますます嫌な感じがする。
「ねぇ、なんでそんなにおどおどしてるのさ」
「っ、ごめんなさいっ」
ほら、思った通りすぐ謝る。自信なさげななよなよしてる嫌いなタイプ。
「……私はなんでそんなにおどおどしてるか知りたいの。謝ってほしいとか思ってない」
「……ご、ごめーー」
「だからっ!」
また謝ろうとする彼女の態度に苛ついて、私は後ろを振り向きながらつい大きな声を出してしまった。
ただ少し感情的になっただけ、だったのに……。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさいっ」
「え?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
彼女の方を見ると、その場で膝を抱えてうずくまってしまっていた。それだけじゃない。ブツブツと謝罪の言葉を繰り返している。
「ちょ、ちょっと! 私、そんなにーー」
「ひぃっ!?」
ーービクッーー
今度はガクガクと怯えるような姿を見せる。私は下手に彼女に触ることもできずに、彼女の側に立ち竦むしかなかった。
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苛立つ相手とはいえ、流石に怯える●●さんを1人にしておくことは私にはできなかった。人目をつくところで泣かせているのもバツが悪くって、私は四苦八苦しながらも彼女を、大通りから少し入った小さな神社に誘導した。
気付けば夕方。夕陽が辺りを赤く照らしていた。
それから少しして……。
「……落ち着いた?」
「……ごめんなさい、美澄さん」
「うん、その謝罪は受け取っておく」
その言葉に、彼女はまたごめんなさいと呟いた。
「私もクラスの子からは怖がられてる自覚はあるけどさ、あんなに謝られたのは初めてだった」
「…………わたし、いじめられてたんです」
「え……?」
唐突に、彼女はそれを口にした。
いじめられていた? それって……。
「わたし、親がいないんです……。転校してくる前から、クラスの子に親なし親なしって言われてて……」
「っ、それは……」
「それに、わたし……なにやってもどんくさくて……それも全部親がいないから、教えてもらってないからだろって」
それはまだ小学生の私が聞くには重い事実だった。困惑する私に構わず、彼女は続ける。
「それで、ばかにされてっ……ことばだけじゃなくなって……殴られたり髪をちぎられたり……っ」
「それ……」
「うん。いじめられた痕、体にいっぱい残っちゃってるの……」
「なっ、なんでそんな……」
「わからない…………わかんないよっ」
堰を切ったように泣きじゃくる彼女。溢れ出る涙を止めようと、ごしごしと目を擦る。かける言葉が見つからない私は、彼女の涙をハンカチで拭おうとして、隠れた前髪をかき上げた。そこで初めて彼女の目が、その瞳が現れる。
真っ赤に染まる、紅色の瞳。
夕陽の色よりも紅いーー
「ーー綺麗な眼」
ポツリと溢れた言葉。
「…………え……?」
「っ、いや、なんでもないっ!」
それを聞いた彼女は涙でぐちゃぐちゃな顔をあげた。私は思わず出てしまった自分の発言に急に恥ずかしくなって、ぶっきらぼうに言い放つ。
「ほ、ほらっ、涙拭いてっ!」
少し乱暴に、私は●●さんの涙を拭く。その間、彼女は目をぎゅっとつぶって私のされるがまま。
動揺した私の心が少し落ち着いたのを見計らって、私は立ち上がる。
「…………あのさ、私は苛めないから」
「え……美澄さん?」
「美澄でいいよ」
そんな言葉が自然と出ていた。後で思い返せば、目の前で泣かれて、いじめられていた過去があって、その上親もいないっていう彼女に同情していたのかもしれないけど。
それでも、私はなぜか彼女に優しくしなきゃならないって思った。
「あ、え、えっと……」
「それともいや?」
「っ、その……わたし、呼び捨てなんて……」
「んー、じゃあ、ちゃん付けは?」
そんな妥協案に彼女は、
「美澄……ちゃん」
「うん、ユキ」
ぎこちない笑顔で頷いてくれた。
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「おかえりなさい、お母さん!」
「どうしたの、美澄。なんだか嬉しそうね」
「え? そ、そうかな?」
「えぇ、なにかあった?」
「別に、何もないけど……そうだなぁ、強いていうなら……今日、転校生が来てねーー」
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そうして、私とユキは出会ったんだ。
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