堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完)   作:藍沢カナリヤ

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第44話 汚泥のような違和感と

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「俺の術式について話をしようか、小娘」

 

 

 

『堕雪』が内側にいるわたしにそう語りかけてくる。

いくら体を返すように言っても聞かないし、取り返せない相手。今は話したくもなかった。

 

 

「そう言うな。お前の協力なくしては呪術を十全に出せんのだ」

 

 

やっぱり自分のためじゃない。なにが目的かは分からないけど、あなたのために協力なんてしない。

 

 

「……お前、あの娘のことについて知りたくはないか」

 

 

え? あの娘って……。

 

 

「なんといったか…………あぁ、ミスミとかいう娘だ」

 

 

美澄ちゃんについて? それがあなたの術式となにか関係があるっていうの?

 

 

「大ありだ。あの娘は俺のおかげでお前を慕っているんだぞ?」

 

 

なにを言ってるの……?

美澄ちゃんがわたしを好いてくれてるのが『堕雪』のおかげ? そんなことあるわけがない。

美澄ちゃんはわたしの大切なお友達で、転校してきたわたしの心を救ってくれて、わたしも皆から嘘つき呼ばわりされてた美澄ちゃんを守るためにずっと一緒にいた。ただそれだけ。わたしと美澄ちゃんは本当の親友ってだけ。

 

 

「ふむ、それは間違いない。そういうことになっているからな」

 

 

っ、これ以上変なことを言うのはやめてっ!!

 

 

「時間か。仕方がない。またの機会にしよう」

 

 

……また、眠気が……。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

体の主導権を奪われてから、わたしの意識は1日に何度か浮上する。それ以外の時間はなにもない闇の中にいる。まるで眠っている時のように。

 

目覚めると、わたしはその場所にいた。たぶん『堕雪』の心象風景ーー『生得領域』の中だ。そこはこじんまりとした部屋で、今よりもずっと昔の、中世の外国のような、昔映画で見たことのあるような一室だった。

そこに2つある椅子の1つに座って、わたしは『堕雪』を説得してた。けど、いつも失敗する。まるで取り合ってくれない。

 

 

「『呪霊』だもん……話が通じるわけないか」

 

 

ポツリと呟く。『堕雪』の意識が外に向いているせいか、今は『堕雪』の声は聞こえないし、たぶんこっちの声も聞こえていない。

 

 

「なんで、こうなっちゃったかな」

 

 

草木福濁に呪術が使えない状態で監禁され、やっと美澄ちゃんに会えて、脱出を図った。それで体を乗っ取られた。

少し考えれば、『呪吐』を行っていない状態であれば、『堕雪』が出てくる可能性は確かにあった。けど、今まではわたしが眠った時や意識を失った時に乗っ取られていたから、正直油断してた。

つまり、

 

 

「それほど『堕雪』は力をつけてきた……」

 

 

主導権を無理矢理奪えるほどには『堕雪』は力をつけて……いや、取り戻してきている。

『堕雪』の完全権限による呪術界の崩壊。

呪術総監部が想定したことが現実に起ころうとしているのかもしれない。

 

 

「……わたしが死んでおけば」

 

 

ついそんなことを口走ってしまってから、ぶんぶんと首を振ってその考えを追い出す。

わたしが生きているのは、在藤兄さんが色々考えてくれたおかげ。死を望むってことは在藤兄さんの優しさを踏みにじることになる。

それに、

 

 

「美澄ちゃんに守ってもらったからわたしは生きてられる」

 

 

『堕雪』に入り込まれ、花房家に引き取られて。

わたしは皮肉なことに呪術師になった。本当は呪霊が見えることで孤立してた美澄ちゃんを守るために、なんて考えてたのに、結果的に美澄ちゃんは草木家に引き取られてからぐんぐん力をつけて、逆にわたしが守られる側になっちゃってた。

それが嫌で、もがいて、どうにか美澄ちゃんの側に立てるようになったんだもん。

 

 

「こんなところで死ねないよね」

 

 

とにかく、どうにか体の主導権を取り返さなきゃ。

とはいっても、今はできることがない。『堕雪』と話すこともできないし……。

 

 

「あっ、そういえば……」

 

 

今回、眠りに落ちてここに戻ってくる前に、『堕雪』と話した内容。あれを思い出して、少し気になった。呪霊の言う戯言といえばそれまでだけど。

 

 

「『堕雪』の術式と美澄ちゃん……なにか関係があるのかな」

 

 

俺のおかげでお前を慕っているんだぞ。

『堕雪』はそんなことを言っていた。

美澄ちゃんがわたしのことをとっても大切にしてくれてることは分かってる。親友なんだから当たり前だって思ってた。事実、わたしも美澄ちゃんのことは大事だから。

 

……ふと、昔のことを思い出す。

美澄ちゃんと出会った日のこと。あの神社で笑いあった日々。美澄ちゃんが『能面』に襲われた時のこと。呪術師になって美澄ちゃんを守ると誓ったあの日のこと。そして、わたしが『堕雪』に触れた始まりの日。

 

ーーそういうことになっているからなーー

 

そういうことになっている? どういうこと?

それじゃまるでわたしの記憶が『作り物』かのような……。

……ううん、そんなはずない。わたしの記憶は正しいはず。そんなことはーー

 

 

ーーゾワッーー

 

 

一瞬、気持ち悪い感覚に襲われた。

なに? 何かに気付いた気がしたんだけど、それが何か分からない。認知することができない。

その正体が分かる前に、わたしの意識が遠退いていく。

 

 

「ま、た……」

 

 

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「え……? あ、あれ?」

 

 

気付けば、わたしは体を取り戻していた。『堕雪』の声は聞こえない。

なんで……? 理由を探ろうとしてすぐやめる。それを考えるのは後だ。『堕雪』に体を乗っ取られていたからか、呪力感知が今までの比ではなく鋭くなっている。なら、主導権を奪われる前に今しなきゃいけないことはーー

 

 

「美澄ちゃんっ!」

 

 

わたしは彼女らしくない弱々しい呪力の方へ駆け出した。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

呪術高専に張られた結界はなぜか弱まっていて、呪霊の気配を濃く纏う今のわたしでも難なく入ることができた。

 

 

「運がよかった、のかな」

 

 

上手くいきすぎている気はするけど、理由は考えない。今はなによりもそれを優先する。

 

 

「………………」

 

 

目をつぶり、感覚を研ぎ澄ます。

……………………いた。

これは、医務室、かな。呪力が完全に一定なところから考えるに、たぶん眠っているんだと思う。その周りには、誰もいない。これなら十分会える。

 

 

医務室に入ると、美澄ちゃんはまだ眠っていた。わたしも『堕雪』の中で眠ってたこともあって正確な時間は分からないけど、たぶん美澄ちゃんもあれから2ヶ月くらいずっと寝たきりなんだろう。

 

 

「……っ」

 

 

感情が溢れそうになるのをぐっと抑え込んで、ひとつ深呼吸をする。息を整えてから、彼女の名を呼ぶ。

 

 

「美澄ちゃん」

 

 

2人だけの医務室に声が響く。

いつも、美澄ちゃんはわたしの声に答えてくれた。眠ってても答えてくれるくらいに、わたしの声に反応してくれた。

でも、何度声をかけても、今の美澄ちゃんには届いている気がしない。

 

 

「……お願い、美澄ちゃん……目を開けてっ」

 

 

眠ったままの美澄ちゃんの手をぎゅっと握る。心なしか体温も低下してるような気がしてしまう。それほどに今の美澄ちゃんからは生気を感じられない。

とにかく美澄ちゃんの目を覚まそうと必死で。

だから、わたしは気付かなかったんだ。後ろにいるその気配に、

 

 

 

「『二元解離』」

 

 

 

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