堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完) 作:藍沢カナリヤ
第46話 1989年6月
ーーーー東坊城水仙視点ーーーー
1989年6月7日。
私と天蓋が『予知』したその未来まであと半年。
その間に呪術界の情勢は大きく変わっていた。『堕雪』の完全顕現。草木家・花房家の衰退。保護されていた草木美澄の失踪。そして、五条家の令嬢の懐妊。
『予知』した未来が刻一刻と近づいてきているのを感じている。
勿論、私は天蓋を殺めたその日からずっと彼女たちの情報を探っていた。だが、フリーの呪術師たちや呪詛師、東坊城関係の協力者など、どんな伝手を辿っても2人の行方は知れなかった。
頼りの『予知』も、天蓋の『六眼』と引き換えに私の中から消えてしまって、私にはもう未来を視ることができなくなっている。
そんな中で、私はある筋からその情報を受け取った。
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私が訪れたのは、東京から遠く離れた山間の小さな村。
過疎化が進み、高齢者しか住まわなくなっているこの村に、7ヶ月前ほどに1人の女の子が引っ越してきたという話を、彼女が住んでいるという屋敷の近隣の人から聞いた。
住民曰く、その少女は青黒い長髪を後頭部で縛り、真っ白な服を着ていた恐らく10代後半くらいの少女だったという。
「ただの家出娘の可能性もあるけれど」
ただ、ここに向かうきっかけになった情報源は、信用はできる人物だったから、可能性は高いとは思っている。
私は目の前にそびえ立つボロボロの屋敷を見上げる。元々は、明治時代にどこぞのお偉いさんが密会のために建てたものだったらしく、この屋敷で密会相手の女性が自死してからお偉いさんは来なくなり、そんな曰くがついてしまったものだから、壊すに壊せず……ということらしかった。
こんなところに住み着くのだから、少女は一般人じゃないわよね。そう思い、改めて眼鏡を外し、その建物を『六眼』で視る。
「………………いる、わね」
確かに見える。『六眼』に引っ掛かる呪力の塊……呪霊が何体か。その中のひとつから一際嫌な感じがするのは、自死したというお偉いさんの密会相手がそうなってしまったものなんだろう。これはどちらにしろ祓っておく必要があるかも。
それにしても、
「例の少女はいないのかしら」
人間とおぼしき呪力は見えない。もしかしたら何かの細工をしている可能性はあるでしょうけれど……。
とにかく話は中に入ってから。そう思って、私はその屋敷の扉を叩いた。
ーーゴンゴンーー
応答なし。何度か続けても同じ。
仕方がない、緊急事態よ。私はそう呟いて、『帳』を下ろしてから、屋敷の扉を吹き飛ばした。轟音が響く。
そして、
『ぃィィイぃぃい』
『しゃシんししシャしししんん』
『カイかゆカゆイぃいィ』
『たノシいたたのノしシィイ』
音に反応するように寄ってくる呪霊の群れ。
この建物への恐れや嫌悪感、負の感情が集まったせいかしらね。思っていたよりも数が多い。けれどーー
「術式順転『蒼』」
ーーグンッーー
ーーバシュンッーー
両眼に『六眼』を揃えたこの7ヶ月間で習得した術式の強化ーー『無下限呪術』を強化した『蒼』。
簡単に言えば、『引き寄せる力』を呪霊の真ん中に発生させて、その力で強引に潰す。見たところ低級だから質量で潰すことはできなくても、呪力でできたもの同士ならぶつけることができる。
今までの私ではできなかった芸当。
天蓋がくれたからできるようになったことだった。呪力が廻る。
ーーグンッーー
ーーバシュンッーー
ーーグンッーー
ーーバシュンッーー
『蒼』を数発も使えば、屋敷の中は粗方片付いていた。あとは例の一際大きな気配の主を倒して終わーー
『………………』
「!」
悪寒を感じて、跳ぶ。見れば、さっきまで私がいたところには『女性』が立っていた。ボロボロの衣服と首には縄。その手にも首にあるのと同じ縄が握られていた。
「なるほど。例の『女性』の呪霊ね」
やはり存在していた。明治時代のいつに『彼女』が死を選んだのか、詳しいことは分からない。仮に明治の終わりだったとしたら、70年以上を呪霊として生きていたことになる。恐らく呪力量だけで見れば、
「一級……で足りるかしら」
下手をすると特級とも渡り合える呪力量。もちろん『堕雪』ほどではないけれども。
さて、少し気合いを入れなきゃいけないわ。
まずは目の前の『彼女』をきっちり祓って、家捜しといきましょうか。
ーーグンッーー
まずは私の方へ引き寄せる。そのまま殴る、
ーースッーー
「当たらないっ」
はずが空を切る。低級呪霊によくあるすり抜けではなく、恐らく術式の類い。なら、まずはその術式を見極める。
意識を両眼に集中させる。私の『六眼』は『彼女』の術式を丸裸にする。
「種は分かった」
術式は『透過』。術式効果は一定の呪力をもつ者の攻撃全てを、自分の体に触れさせずに通過させるもの。単純だけれど強い。けれど、それは術式を使いこなせればの話。見たところ『彼女』の意思は薄く、この屋敷に侵入した者の首を括ることだけで動くような状態。
ならば、
「私の敵ではないわ」
ーーグンッーー
一瞬で距離を詰める。すかさず蹴りを放つ。
ーースッーー
当たらない、のは想定内。本命はこの後の呪力をほぼ帯びない一撃。
ーーバキッーー
『…………』
無反応なまま『彼女』は吹き飛ぶ。
やっぱりね。術式『透過』は自動では発動しないようで、使う際には発動する必要がある。緩慢な呪霊では呪力を帯びた攻撃と帯びていない攻撃の連撃には対応できない。
勿論、まったく呪力がない攻撃は効かないだろうけれど、『透過』が発動しないギリギリの呪力量で攻撃すれば、
ーーバキッーー
「攻撃は当たる!」
また一気に距離を詰めての攻撃。このまま一気に決めるわ。
当たると同時に、両手に『無限』をもってくる。その両手で『彼女』の首を挟んで、断ち切った。
「ごめんなさいね」
首が飛び、転げる。
そう、それで終わりのはず。普通の呪霊ならば、消えてなくなるはずだった。
『………………』
けれど、『彼女』は立ち上がった。
「っ……完全に祓えたはず」
『六眼』にもあの一瞬で呪力は消えていた。なのに、こうして私の前で『彼女』は立ち上がっている。
……って、なに?
また『彼女』の体に呪力が戻っている? 何が起こってーー
「まったく騒がしいな」
呪霊の『彼女』の後ろから現れたのは、
「お久しぶりね、美澄ちゃん」
「……『五条』」
私を『五条』と呼ぶ白いコートを着た少女。最後にあった時から雰囲気は変わっている。
より深い黒の呪力。
なるほど。私が戦った呪霊の『女性』から感じる呪力は、美澄ちゃんと同じもの。今までの美澄ちゃんの呪力が変容しているせいでその存在に気付かなかった、というわけね。
「何しに来たの」
「観光、といっても信じてはくれないでしょ?」
「…………」
「……あなたに会いに来たのよ」
そう告げると、美澄ちゃんは『彼女』を下がらせた。そして、私へ向けて言う。
「奥に案内する。ただし、邪魔はしないでよ」
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