堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完)   作:藍沢カナリヤ

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第48話 黄泉孵りー弐ー

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「名前、教えてくれよ」

 

 

高専の敷地内にあるベンチに座り、咲人はそう訊ねた。総監部から命じられた任務に同行するという目の前の女性は、言わば監視役。そんな彼女に対しても口説くつもりでいるのが、彼女自身にも伝わったのだろう。彼女は嫌悪感を露にする。

 

 

「いや、そんな顔すんなよ。せっかくの美人が台無しだぜ」

 

「……誰のせいだと」

 

 

そんなやり取りを交わしながらも、咲人はそれを切り出した。

 

 

「圭ちゃんと優くんは無事か」

 

 

さっきまでと全く違う雰囲気に、彼女は一瞬たじろぐが、平静を装い答える。

 

 

「無事だ。どこにいるか私は知らんが、呪霊が少なく弱いどこかの田舎に疎開していったとは聞いている」

 

「そうか。ならまぁ……いいか」

 

 

親友から託されたものが無事と分かり、ひとまず安堵のため息を吐く咲人。それは拘束されている間の唯一の懸念事項が解消された咲人の心境をよく表していた。

 

 

「……安心するのは早い。我々には任務が課せられている」

 

「俺の心中も察してくれよ」

 

「貴様の無駄話に付き合っていては話が先に進まん。私は無駄口と頭の悪い人間が嫌いだ」

 

 

彼女の言葉に肩をすくめながらも、咲人は話を進めることにした。

 

 

「で、任務ってのはなんだ?」

 

「大きく分けて3つ。1つは貴様の妹を捜索し、連行すること。場合によっては抹消だが。これは分かるな?」

 

「あぁ」

 

 

人手が足りないのは、自身を解放したからも明白であり、使えるのならば使いたいのだろう。

だから、連行。そして、

 

 

「草木福濁がもう入っている可能性もあるからな、仕方ねぇ」

 

「……思ったより物分かりがいいな」

 

「まぁ、事の重大さは分かってるつもりだ」

 

 

その可能性が捨てきれない以上は抹消も視野に入れるべきだ。そもそも咲人にとって、彼女は草木邸襲撃の時に死んだ人間。生きているかもしれないというだけまだ救いはある。だから、最悪の時は自らの手で……。美澄の失踪と福濁の存在を総監部から聞いた時点で、咲人はそれを覚悟していた。

 

 

「2つ目は『予知』の術式をもつ呪詛師を拘束することだ」

 

「『予知』……なるほど」

 

 

先ほど総監部から伝えられた東坊城天蓋の死。

彼女の術式を失くしたのは総監部としても痛いのだろう。だから、それに変わる人間を必要としている。その人物についても、予想はついていた。

 

 

「呪詛師『五条』だっけか。いや、天蓋ちゃんの姉っていった方がいいか」

 

「……知っていたのか」

 

「まぁな」

 

 

拘束される前の最後の任務で、出頭してきた呪詛師が任務に加わっていたことを思い出していた。外見こそ違うタイプだったが、その中の1人が天蓋と瓜二つであることで咲人はその仮説を立てた。目の前の彼女の反応で、予想が当たっていることを悟る。

 

 

「本名は東坊城水仙。東坊城天蓋の実の姉だ。元々、身内を惨殺したことで呪詛師と認定されている」

 

「惨殺、ね。そうは見えなかったが」

 

「外見では人間の内面の判断などできん。どちらにしろ危険な人物であることに変わりはない」

 

「その水仙ちゃんも『予知』をもっている。だから、総監部は欲しがっている。そういうこったな」

 

 

仏頂面のまま、彼女は頷いた。

 

 

「五条家の令嬢が懐妊し、12月に男児が生まれる。そう聞いている」

 

「なるほど。天蓋ちゃんが『予知』したっていう未来に確実に向かっているわけか」

 

「総監部の方々は危惧している。このままではその未来に……『堕雪』が五条悟を殺し、呪術界を崩壊させる未来に繋がるのではないかと」

 

「はっ、自分らで処刑しておいて、術式が必要になったら代わりを探しましょうってか」

 

 

相変わらず反吐が出る連中だ。

例の任務の前に話した東坊城天蓋という人間は善性であると咲人は感じていた。呪術界の未来のために自らの術式を行使する人間。それはどこか家や家族のために粉骨砕身していた咲人の親友に重なる部分があって。

だからこそ、咲人はそう毒づいた。

ただ、彼女は黙ってはいない。総監部への批判と彼の誤解を正すため、口を開く。

 

 

「……口を慎め。そもそも東坊城天蓋は処刑されたのではない」

 

「あ?」

 

「彼女は殺された。拘束部屋の中で、右眼をくり貫かれていた」

 

「右眼……狙いは『六眼』か」

 

「だろうな。そして、残された呪力の残穢から彼女を殺したのは、恐らく彼女の姉、東坊城水仙だ」

 

 

そこで先ほどの話が咲人の中で結び付く。身内を惨殺した呪詛師。そいつが今度は実の妹を殺した、と。

 

 

「そいつはとんだ危険人物だな」

 

 

咲人が納得したのを見て、彼女は東坊城水仙についての話を区切り、最後の目的について話し出す。

 

 

「最後は言わずもがな」

 

「『堕雪』の祓除、だろ」

 

 

それに関しては、もう散々言われてきたことだ。雪ちゃんの中に潜み、完全顕現を果たしたという『堕雪』。

咲人自身も目の前の彼女も、水仙や美澄もそのための道具。要はそのための任務だ。

 

拾った命だ。その任務を全うしてから、これからのことを考えるとしようか。そんな風に咲人は心の整理をした。

 

 

「貴様の妹の捜索は補助監督を中心に行っている。我々の当面の目標は東坊城水仙の拘束だ。何か疑問はあるか」

 

「……そうだな」

 

 

少し考える。正直、聞きたいことは山ほどあったが、

 

 

「やっぱりよ、名前を教えてくれ」

 

 

咲人は再度問う。

答える必要はない。彼女はそう返したが、咲人に任務をする上で支障が出ると言われてしまい、結局一瞬躊躇いながらも答えた。

 

 

 

「………………桔梗(ききょう)

 

「可愛らしい名前じゃねぇか」

 

 

ーーバキッーー

 

 

ニヤっと笑う咲人を問答無用で殴り、吹き飛ばす桔梗。

だから言いたくなかったのだ。

そう言いながら、桔梗はその場を後にした。

 

 

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桔梗ちゃんは可愛い(断言)
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