堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完) 作:藍沢カナリヤ
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ーーパァァァァンッーー
美澄に向け、放たれた一発の銃弾。
それは確かにあいつの頭に命中した。俺の目の前で起こった出来事なのだから、見間違えるはずはない。
にもかかわらず、
「痛……」
美澄は生きていた。当たったはずの場所には銃痕。だが、血が流れ出る気配はない。本来ならば、死んでいなくてはおかしいのだ。
「おいおい、化け物かよ」
「…………?」
美澄は当たった場所を手で触れ、首を傾げていた。
なんだ?
あいつの術式の効果じゃねぇのか?
その質問に答えたのは、
「あれはただの銃弾ではない」
「桔梗ちゃん!」
「っ、だから名前で呼ぶな……」
意識を失っていたはずの桔梗ちゃん。彼女はいつの間にか体を起こし、狙撃用の銃を構えていた。美澄の頭を撃ち抜いたのは、彼女のものだったのか。
「くたばり損ないの犬が……」
美澄は俺たちのはるか後ろにいる桔梗ちゃんを睨み付けていた。
すぐに美澄は件の骸人形を桔梗ちゃんの方へ向かわせる。そして、その人形たちが
ーービシャッーー
形を失った。見れば、予想外のことだったようで、美澄も目を丸くしている。
「手は打ったと言ったでしょう」
「『五条』……何をした……?」
睨み付けてくるあいつの言葉に水仙ちゃんは笑みを返し、告げた。
「貴女がやったことと同じよ。貴女の術式を乱しただけ。私から『六眼』を奪ったときと同じようにね」
「……犬の術式」
「そう。『
「ッ、下らないことをッ!」
俺が『帳』に囚われているその時に、水仙ちゃんはそれに思い至ったんだろう。意識を取り戻した桔梗ちゃんと示し合わせ、そのタイミングを待っていた。美澄の『輪廻復原』を封じるタイミングを。
「…………参ったよ、水仙ちゃん」
「ふふっ、それはあの娘に言ってあげて」
「あぁ、そうさせてもらう」
さて、ここからだ。
『輪廻復原』は封じた。だが、まだ完全ではないらしい。
水仙ちゃん曰く、桔梗ちゃんの術式『乱忌憚』はそれを対象に撃ち込み続けなくてはならない。そのためには、彼女はあの狙撃銃で狙いを定める必要がある。だが、
「今の彼女には右の、スコープを覗いていない方の視界がないの。その意味分かるわよね」
「…………」
「狙いを定めている間、彼女は無防備になる。だからーー」
「ーーあの娘を守ってあげて」
「…………守る」
そもそも俺の結界は、本来攻撃のためのものではなかった。
敵を分断する。敵を包囲する。敵を遠ざける。
そのためのものだったんだ。あいつが死ぬまではな。
俺は守りきれなかった。
あいつを守りきれなかった。
そんな俺に、この場面で……守れるのかよ。
………………。
お前ならばできるだろう?
………………。
私はお前を信じている。ならば、お前はそれに応える。
………………。
そうしてきただろう。咲人。
…………あぁ、そうだな……馬鹿野郎。
お前はもう死んでるんだ。感傷的な気分にさせるんじゃねぇよ。
そのせいで少しだけ、
「任せとけ、水仙ちゃん。桔梗ちゃんには指一本触れさせねぇよ」
やる気が出ちまった。
「頼りにさせてもらうわね」
「あぁ、水仙ちゃんも」
「えぇ、分かってるわ。私が彼女を止めるから」
改めて戦闘開始といこうじゃねぇか。
なぁ、妹よ。
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「やはり、完璧ではないな。術式というものは」
「…………」
「しかし、こうも簡単に俺の術式が解除されるとは……相当な術師か、それとも単に相性が悪いだけか」
「…………」
「……ともかく、これで真実を思い出すわけだ。あの娘も……
「さて、それではそろそろお前たちの物語を終幕へと進めるとしようじゃないか」
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「あ……あぁ……」
美澄の様子がおかしい。急に頭を抱えて、這いつくばり出したのだ。
桔梗ちゃんの弾丸を頭に受けてから……もしかしたら、殺傷能力があったのか?
そう思って、桔梗ちゃんを見ても彼女は首を横に振るだけだった。
じゃあ、何が起こっている?
「水仙ちゃん! あいつに何か……」
「分からないわ。けれど、好都合よ。拘束するなら今しかないわ」
「っ、あぁ」
攻撃してくる様子はない。まだ美澄は踠いているまま。
すぐに距離を詰め、腕を掴み、地面へと押さえつける。その間も抵抗はしてこない。
なんだ? 何が起きてる?
「……大丈夫?」
「あぁ、俺はな」
美澄を拘束する俺に声をかけてきたのは水仙ちゃん。神妙な表情で、俺の方へ視線を向けている。
遅れて、よろよろと桔梗ちゃんもやってきた。
「草木咲人、これはどういうことだ」
「いや、俺が聞きたいくらいなんだが」
「でも、今しかないわね。彼女に何が起こっているのかは分からない。けど、明らかに正気を失っている」
「……あぁ」
美澄は呻き声を絶えずあげながら、涎を滴しながら踠いている。
異常だ。
これではまるで廃人じゃねぇか。
「咲人くん」
美澄を見下ろす俺の名前を、水仙ちゃんは呼んだ。
ふと目が合う。
なんとなくだが、これから彼女が言おうとしていることが理解できてしまう。
そう、君はそれを言おうとしてるんだろ。
「彼女ーー草木美澄を殺しましょう」
「あぁ」
即答だった。迷いはしなかった。
妹とはいえ、こいつは人を殺しすぎた。
雪ちゃんを救うという目的のためとはいえ、それは私欲だ。私欲で人を殺し、それを何とも思っていないのならば、もうこいつは呪術師ではない。
ただの呪詛師、外道だ。
せめて潔くこの場で、俺の手で。
「……少し離れててくれ」
俺の言葉に、水仙ちゃんは頷き、桔梗ちゃんを支えながら離れていく。
美澄をここで殺さずに、呪術総監部へ連行すれば、呪詛師としての死刑は免れない。そうなれば、親族である俺もただじゃすまないだろう。それを避けるためか、桔梗ちゃんは何も言わない。
まぁ、この状況で俺がくたばったら、また動ける呪術師がいなくなるからな。総監部のことを第一に考える桔梗ちゃんらしい判断ではあるか。
まぁ、それは今はいい。
俺は今一度、意識を俺の下で力なく踠く美澄に意識を向ける。
狙うなら首。
一刀で薙げば、苦しまずに死ねるだろう。
「じゃあな、妹」
「嫌いだったぜ、お前のこと」
ーーーースパンッーーーー
別れを告げ、俺は美澄の首を跳ねた。
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彼らの目の前で、草木美澄は死んだ。
これで楽に動けるな。
「うん、ありがとう」
礼などいらん。元々そういう契約ーー『縛り』だろう。
「それもそっか」
では、これからどうする?
早速動くとしようか。それとも少し、あの娘が正気に戻るまで待つか。
「そう、だね……」
なに、時間はある。
「うん。なら、少し待つことにしよっかな」
あぁ、それがいい。じっくり待ち、それから思う存分、お前の本懐を果たすといい。
「うん」
「美澄ちゃんはわたしがちゃんと殺すから」
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楽しくなってきた