堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完) 作:藍沢カナリヤ
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思い出した。
わたしは思い出してしまった。
昔、わたしが美澄ちゃんに会う前のこと。
わたしが『堕雪』を身に宿した時のことを。
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「おとうさん……? おかあさん……?」
幼いわたしの目の前に広がっているのは惨状。
家の梁に吊るした縄で、首を括った両親の死体だった。
「おとうさんっ!! おかあさんっ!!」
わたしは必死で二人を下ろそうとする。ピクリとも動かないそれらを見て、このままでは2人が死んでしまうと幼心に分かった。
けれど、子供に大の大人の体をそこから下ろす力などなく、わたしが下ろそうと触る度に、ギシギシと梁を鳴らして、2人の体は揺れた。
やがて、泣き叫んで声が掠れて出なくなった頃に、『その人』は現れた。
「可哀相に」
「……だ、れ……?」
顔はよく覚えていない。最愛の両親の首吊り死体を目の前で見続けていて、わたしも放心状態だったから。
ただひとつだけ、覚えているのは、その人の額にあった大きな傷痕。
傷痕の人は、わたしに言った。
「君のお父さんとお母さんは死んだよ」
「っ」
「父親の会社を圧力をかけて追い込み、融資をもちかけるフリをして、その実吸い上げられるものを全て吸い上げ、見捨てた。母親もどうにか金を工面しようとしたんだろうね。身体まで売ったというのに、最後は薬漬けにされた」
「……な、にいってるの?」
「君には少し難しかったかな。つまりだ」
「殺されたんだよ。悪い人によってね」
幼いわたしには何を言っているのか分からなかったけれど、殺されたという事実だけは理解できた。
そして、幸せに生きてきたわたしの中に、初めてドス黒い感情が芽生えたんだ。
「ころ、して……やる」
初めての感情だった。
傷痕の人はそれを見て、『あるもの』を取り出した。
それは白い花だった。その場には、わたしの憎悪には似つかわしくない綺麗な純白の花。
その花を見つめるわたしに傷痕の人は語り出す。
「これは『待雪草』といってね。君の憎しみを叶えてくれるものだ」
「にく、しみ……」
「これを飲み込めば、復讐できるだけの力が手に入る。勿論、強制はしない」
「ただ、私は君をその憎しみから救いたいだけなんだよ」
傷痕の人はわたしの前にその花を差し出した。今になって思えば、状況は飲み込めなかったし、その人が信用できるかも分からなかった。
けれど、わたしはその『待雪草』を手にして、嚥下した。
そうして、『堕雪』は生まれた。
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花を取り込んでから数ヵ月は特に何もなく、わたしは親戚中をたらい回しにされた挙げ句に、施設に引き取られた。
そして、学校での凄絶ないじめ。
それでもわたしの心は壊れなかった。皮肉なことに、復讐という目的が心の支えになっていたから。ただ、壊れずとも、確実に弱ってはいっていた。
わたしが小学6年生になった頃、見るに見かねた施設の人がわたしを転校させ、そこで出会った。
美澄ちゃんに。
美澄ちゃんはわたしの弱っていく心を救ってくれた。そして、美澄ちゃんもまた傷を抱えていることを知り、当時施設に出入りしていた呪術師の人からそれを聞き、わたしは呪術師になることを決意した。
この辺りの記憶は、真実を思い出す前と同じ。優しい思い出。
復讐のことなんて忘れ、すっかり薄れ始めていた頃の記憶。
変わるのは、思い出したのはここから。
わたしの記憶が食い違っているのは、その出来事からだ。
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知らせは急だった。
「……雪ちゃん、これを……」
「え、えぇと」
「そこに君が探している人がいるはずだぁ……」
「……探している人?」
「ほら、うけ、とって……」
施設に出入りしていた呪術師の人から渡されたのは1枚の古めかしい紙切れ。わたしはそっちにばかり注視していて気づかなかったけど、それを見ていた人曰く、その時の呪術師の様子は何かがおかしかったらしい。
わたしが紙を受け取ると、その人はよろよろと足元が覚束ない様子で施設を出ていった。そして、施設の外に出たところで死んだんだって。
とにかく、渡された紙には都内のとある住所が書かれていた。調べてみると、そこは転校先の学校からそこまで離れていない住所で、放課後に寄れる距離にあって。
「……明日、寄ってみよっかな」
それが何を意味するのか深く考えず、わたしは自然とそう決めていた。
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翌日、美澄ちゃんに今日は用事があるからと断って、その住所の場所へと向かった。
美澄ちゃんは膨れっ面になって、拗ねていたけど、仕方がないよね。どうしても気になっちゃうんだから。
「この辺、かな……?」
都内の中心部からは少し外れた住宅街。その中にある大きな一軒家。紙に記されていた住所はその家を指していた。
見るからに裕福そうで、幸せな家庭なのだろうと想像して。なんとなくその家の表札を確認しようと、家に近づいて足が止まった。不意に近くの電柱の陰に隠れる。
それはその家から出てきた家族を見たからだ。
穏やかそうで見るからに優しそうな母親と笑顔でその母親と手を繋ぐ小学1年生くらいの女の子。
それからーー
ーービシャッーー
「~~っ、うっ、うぇぇっ」
父親とおぼしき男性。
その男性の姿を見た瞬間に、わたしは口から吐瀉物を撒き散らしていた。
それは到底耐えることのできない不快感から。
身体の内側から沸き上がってくるドス黒い感情から。
そして、薄れていたあの忌まわしき記憶から。
一目で分かった。理由は定かじゃない。
けれど、感じ取ってしまったんだ。
あいつだ。
あいつがお父さんとお母さんを殺した奴だ。
「殺さなきゃ……」
ポツリと溢れた言葉。
わたしは、フラフラとその家族へ近づいていって、あと数メートルというところで
「お父さん! お母さん! なずな!」
聞き覚えのある声に、動きを止めてしまった。
見ると、あの男の元へ駆け寄る1人の女の子の姿がそこにはあった。その人物は、わたしのーー
「おねえちゃん!」
「ただいま、なずな! って、みんな、私を置いてどこ行くのっ」
「あら、今日もお友達と遊んでくるかと思ったのに」
ーーわたしの大切なーー
「っ、今日は……用事があるんだって」
「フラれちゃったのねぇ」
「そ、そんなんじゃないしっ!」
「……ともかく帰ってきたならちょうどいい。家族みんなで出掛けようか」
「! わかった! すぐ着替えてくる」
ーー大切な友達ーー
「慌てなくても待っているよ、美澄」
「うん!」
ーーそう。
わたしの大切な友達。初めてできた友達は。
美澄ちゃんはわたしの家族を殺した男の子供だった。
「そっ、か……そうなんだ……」
だから、わたしは『殺してしまおう』
『…………あぁ、そうだ。殺してしまおう。
『なぁ、
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その時に『待雪草』は産まれた。
後に仮想特級怨霊として認定される『堕雪』として。
特級呪物『待雪草』。
それは入り込んだ人間の憎しみを叶える呪物。呪霊として産まれ変わらせ、膨大な呪力を与える忌物。
なんの因果か『それ』によく似た実在する花・待雪草。
その花言葉は『あなたの死を望みます』だという。
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