堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完)   作:藍沢カナリヤ

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第57話 花と散るー弐ー

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「それじゃ第2ラウンドといこう、ユキ」

 

 

美澄ちゃんが右手で軽く合図をすると、7体の骸人形がバラバラの方向へ動き出した。

恐らく狙いは……。

 

 

「囲ませないよ、美澄ちゃん」

 

 

『堕雪』の力を宿してはいるとはいえ、相手の術式が分からない以上は警戒する必要がある。特に、草木福濁の骸人形には注意しなきゃ。『堕雪』として戦ったからその術式は覚えてる。

『二元解離』。

魂と肉体の繋がりを切り離す術式。前に戦ったときはまだ『堕雪』と完全には一体化していなかったから、一瞬離れかけた。今はきっとそれを受けても切り離されはしないだろうけど、それでも一瞬は隙ができるはず。

今の美澄ちゃん相手に一瞬でも隙を見せるのは……。

 

 

「あいつ、殺しておけばよかったかな」

 

 

そうは言っても後悔は先に立たないもの。あの時は『堕雪(わたし)』の思惑が分からなかった訳だから仕方がない。

だから、今は最適解を取ろう。

 

 

「まずはそれを壊させてもらうね」

 

 

草木福濁の骸人形に向かって駆け出す。手の内の分かる一体を破壊してしまおう。そう思ったんだ。

骸人形の両手がわたしに迫る。発動条件は両手で触れることだったっけ?

ならーー

 

 

ーーググッーー

 

「はぁっ!!」

 

 

ーードゴッーー

 

 

人形がわたしの頭に触ろうとした瞬間に、瞬時に身をかがめ、懐に潜り込み、人形の腹部へ一撃を入れた。

手応えは十分。それに応えるように、人形は参道から大きく外れた植え込みの方へ吹き飛んだーーはずだったのに。

 

 

 

『二元解離』

 

 

 

ーービキッーー

 

 

不意に痛みにも似た感覚が全身を駆け巡る。背後からわたしに触れたのが草木福濁の骸人形だと気づいた時にはもう遅く、わたしの意識が一瞬飛びかける。

 

 

「ーーっ、はぁっ!」

 

 

意識が朦朧としながらも、どうにか体全体を振るい、遠心力だけでわたしの後方の人形に裏拳を繰り出せた。

今度こそ命中したはず。

見れば、参道の中央、鳥居の側まで福濁の骸人形は転がっていき、やがて止まる。

 

 

「……もう効かないんだ、『二元解離』」

 

「少しだけ……チクッとしたくらいかな」

 

 

ブラフとも取れるような強がりで、こちらへゆっくりと歩を進めてくる美澄ちゃんの言葉に応える。その側には5体の骸人形。

 

 

「福濁は最初に吹き飛ばしたはずだけど」

 

「まぁ、もう壊されたから答えるけどさ。最初に壊された方の人形の術式がそういう術式ーー認識の阻害だったっけな。それで錯覚させただけ」

 

 

堕雪(わたし)』にも通用するある種の切り札のような術式だと素直に思った。だからこそ感じる美澄ちゃんの雑さ。それほどの術式をもつ骸人形を簡単に使い捨てるのは……。

 

 

「まだ策があるってことだよね」

 

「まぁね」

 

 

ーーダッーー

 

 

瞬時に距離を詰めてくる美澄ちゃん。

速い。でも、見える。

 

 

ーーガシッーー

 

「!」

 

 

腕を掴み、捻る。腕が折られる。そう判断したみたいで、美澄ちゃんは自ら足を地面から離す。結果、美澄ちゃんの体が宙に浮いた。

その一瞬を逃さず、掴んだまま美澄ちゃんを地面へ叩きつける。

 

 

ーーグニッーー

 

「?」

 

 

本来なら、わたしの手にも衝撃が伝わってくるはずなのに、それがない。その違和感の答えはすぐに分かった。

 

 

「影の中から人……?」

 

 

美澄ちゃんの影から這い出るように、人影があった。それが美澄ちゃんを地面に叩きつけるのを防いだんだ。でも、そのせいか人影はもう潰れて動いてない。

 

 

「これも人形?」

 

「そ。そしてーー」

 

 

ーーゾゾゾゾッーー

 

 

悪寒が走る。同時に、体の動きが止まった。

これも違う骸人形の術式?

目だけは動く。視界の端に、いた。こちらに向かって呪力を向ける男の人形。ボソボソと口が動いているのを見るに、『呪詛』の類いかもしれない。

 

 

「……動かないで、ユキ」

 

 

その声に視線を戻すと、体勢を整え直した美澄ちゃんが両手をこちらへ向けて歩いてくるのが見えた。

きっとわたしの目をくり貫こうとしてるんだと思う。

けど、甘い。

 

 

ーーグルンッーー

 

「!?」

 

 

呪力を込めて、強引に首を回す。

筋が何本か千切れる音も気にしない。そのまま視界の中に入った動きを止めてくる人形へ呪力の塊を飛ばし、その首を飛ばした。

 

 

「よし、動ける」

 

 

人形が首を飛ばしても動けるのは分かってた。だから、追撃。首のない骸人形へ近づき、完全に破壊した。

改めて、美澄ちゃんに向き直る。

 

 

「やっぱりまだ策があるんだね、美澄ちゃん」

 

 

驚いた。そう言うと、美澄ちゃんはこちらの台詞だと返してくる。

 

 

「あれ、呪力を込めたところで動かせるものじゃないよ」

 

「うん。人間のままじゃ無理だったと思うけど」

 

「……あぁ、そっか。そうだった」

 

 

うん。今のわたしは人間ではないんだ。

もう半分……ううん、ほとんど呪霊みたいなものだから。

 

 

「在藤兄さんみたいな反転術式を使わなくても……ね、直った」

 

 

呪力を通せば、大抵の損傷は直る。さっき切れた筋ももう違和感がなくなってる。

 

 

「………………そうなんだ」

 

「うん、もうわたしは人間じゃないんだよ、美澄ちゃん」

 

「………………」

 

 

俯く美澄ちゃん。

今、彼女は何を考えているんだろう。友達だったわたしが化け物になってしまったことへの悲しみ? それとも、やっぱりわたしへの憎しみや殺意かな?

その心中は、よく分からない。

前までのわたしなら、美澄ちゃんの気持ち、分かってたはずなのに……。

 

 

「……ユキ」

 

「っ、なに?」

 

 

なにを考えてたんだろう。集中しなきゃ。

だって、まだ目の前の彼女はーー

 

 

「…………なら、遠慮なく使える」

 

「『輪廻復原』」

 

 

戦意を失ってないんだから。

見えたのは、ひとつだけ。彼女がたった今握り潰したのは、『空色の眼』だった。

潰れたそれはやがて人の形に象られていく。わたしも見知ったその姿に。

 

 

 

「……東坊城、水仙」

 

 

 

『無下限呪術』と『六眼』をもつ呪詛師。

彼女の骸人形がそこにはいた。

 

 

ーーグンッーー

 

「ッ!?」

 

 

瞬間、引き寄せられる。術式順転『蒼』だったっけ。

強烈な引き寄せる力でわたしは東坊城水仙の骸人形と衝突してしまう。急にぶつかり止まったことで受ける衝撃。内臓が揺れる。

 

 

「っ」

 

「……呪霊って言っても、体構造は人間なんでしょ。損傷は直せても揺れた脳は直せない。その間に、終わらせることは簡単だよ、ユキ」

 

 

確かに美澄ちゃんの言う通りだ。呪力を流しても……そもそも揺れたままの脳じゃ呪力自体を練ることができない。だから、直せない。

 

 

「終わりにしよう、ユキ」

 

 

美澄ちゃんが迫ってくる。追い討ちとばかりに、水仙の骸人形がわたしの体を後ろから羽交い締めにしてくる。

美澄ちゃんはきっとわたしに直接『輪廻復原』を使ってくるはずだ。

生きている術師の臓器を抉り出し、使役するその術式は、『二元解離』では効き目の薄い今のわたしにも有効なんだろう。

そうして、わたし自身を殺し合わせる。

ならーー

 

 

ーーブズッーー

 

「ーー仕方ないよね」

 

 

揺れる脳を、直接頭蓋骨を貫いた自らの指で抑える。震えは止まった。

人間にはできない芸当だけど、今の『堕雪(わたし)』ならば問題はないはずだ。

そして、ここが使い時だ。『堕雪』の術式を発動しよう。

 

 

 

「術式解放『戯憶竄酔』」

 

 

 

術式を解放したと同時に、体の自由がきくようになる。美澄ちゃんの意識を一瞬改竄したことで、術式効果が薄れ、人形自体の膂力が落ちたんだろう。その隙に、背後の東坊城水仙の骸人形を破壊できた。

 

 

「…………危なかったよ、美澄ちゃん」

 

「ユキ、その術式は……」

 

 

そう。

『堕雪』としての術式。記憶を改竄する術式。

 

人間には短期記憶と長期記憶があるという。

『戯憶竄酔』はそのどちらにも干渉することができ、対象の認知や記憶を狂わせる。

美澄ちゃんやわたし自身に施したように、長期記憶を改竄して過去を誤認させることも、戦闘中には短期記憶を改竄して隙を作ることだってできる。

 

 

「こうして……っ!」

 

ーーグニャッーー

 

 

発動。美澄ちゃんの動きが一瞬止まる。

その間に近づきーー

 

 

「ーーとったよ」

 

「!」

 

 

 

ーーーーーーグヂャッーーーーーー

 

 

 

手を繋ぐ。そのまま呪力で強化した握力で、美澄ちゃんの両手を握りつぶした。

 

 

「~~~~ッ!?」

 

 

声にならない悲鳴をあげる美澄ちゃん。術式から意識が離れたせいで、『輪廻復原』で作り出していた骸人形も消える。

いくら強い美澄ちゃんでも、こういう経験はないもんね。両手を粉砕される経験なんてさ。

 

 

 

「これで、もう『輪廻復原』は使えないね」

 

 

 

最初からこうしておけばよかったのかもしれない。そうすれば、抵抗もされず楽に殺せた。

…………ううん。

そうしなかったのは……。

 

 

「美澄ちゃんには足掻いて足掻いて足掻いて足掻いて、死んでほしかったから」

 

「そうした方がわたしの気も晴れる。それにきっと、その方があの男も苦しめられるんだ。ちゃんと美澄ちゃんの苦しむ姿は伝えるからね」

 

 

わたしはそのまま、美澄ちゃんに馬乗りになる。

首に手をかける。

ギリギリと、力を込めていく。

 

 

「か……ッ、あっ……」

 

 

言葉が出ないんだ。意味のない声をあげて、美澄ちゃんはバタバタと悶える。

でも、膂力が違う。わたしは呪霊で、美澄ちゃんは人間。

いくら『輪廻復原』みたいな強い術式をもっていようと人間だから。

時間が経てば、呼吸も止まる。そして、死ぬんだよ。

 

 

「……っ、は…………」

 

 

…………あぁ、ほら。

抵抗する力ももうほとんど残ってないよね。

 

 

「………………っ……」

 

 

あぁ、これで終わり。おしまい。

美澄ちゃんの命の終わりを両手で感じながら、わたしは

 

 

「…………バイバイ、美澄ちゃーー

 

 

 

ーースッーー

 

 

 

「え…………?」

 

 

弱っていく美澄ちゃんが、最後の力を振り絞ってしたのは、わたしの頬を撫でること。

優しく、優しく撫でることだった。

そして、彼女は笑う。笑って、ほぼ止まっているはずの呼吸でーー

 

 

 

 

 

「『領域展開』」

 

「ーーーー『合誦廻礼花(ごうじゅかいれいか)』」

 

 

 

 

それを告げた。

 

 

ーーーーーーーー

完結後の外伝ストーリー(主人公は優くん)の構想があるのですが、見たいですか? それとも美澄と雪の物語だけで十分ですか?

  • 見たい
  • 美澄と雪の話だけで十分
  • 新しい作品を書くべし
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