堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完)   作:藍沢カナリヤ

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第59話 花と散るー肆ー

ーーーー回想ーーーー

 

 

「もうあの娘は人間には戻れない。彼女は貴女を殺すことだけを目的に動く呪霊に成り下がった」

 

 

『五条』ーー東坊城水仙は、私のところへ来るなり無礼にもそう言った。私に裏切られて尚ここに来るんだから、まぁ、相当に胆は座ってるのか。

下らないと一蹴することもできたけど、それが事実であろうことは感じ取っていた。理屈じゃなくて本能みたいなもので。

 

 

「それで私が諦めるとでも思ってるわけ?」

 

「ふふっ、そうね。そう答えると思っていたわ」

 

 

軽く微笑むと、水仙は何かを懐から取り出し、私の前のテーブルに置いた。

それは極小の物体。何かの種のようであった。その私の見立ては正しかったようで、水仙はその正体について話し出した。

 

 

「『封対ノ種子(ふうついのたねご)』」

 

「呪霊を封印するための呪物よ」

 

 

「…………それでユキを封印しろっていうわけ」

 

 

「えぇ」

 

 

私の問いに、水仙は事も無げに頷いた。

普通に考えれば妥当な考えなんだろうけど、私には到底受け入れられるわけがない。

私にはそんなことはできないし、もし誰かがそれをやってユキを封印したとしたら……。

 

 

「貴女が世界を壊す。そうでしょう」

 

「……それを分かってるならーー」

 

「まぁまぁ、話の続きを聞いてちょうだい」

 

 

頭に血が上りきる前に、水仙は私の言葉を遮って続きを話し出す。

続きとは『封対ノ種子』の使用条件について。

 

 

「『封対ノ種子』。ある筋からの情報によると、相当に強力な呪霊ですら確実に封印できる代物だそうよ」

 

 

『無常』という呪詛師、水仙曰く師匠だという人物から譲り受けた呪物。

なんとかっていう呪具の情報と交換で手に入れたとか言ってたけど、そんなのはどうでもいいこと。適当に聞き流して、本題に耳を傾ける。

 

 

「この呪物は呪力の拮抗した対となる呪霊しか封印できないのよ」

 

「対? 2体同時ってことなら効力にも納得だけど」

 

「えぇ。『縛り』をつけたことで、そこまで強力な術式効果を得たんでしょうね」

 

「…………」

 

 

呪力の拮抗した対の呪霊。

ユキと……もう一体……。

ユキが封印されれば、私は『輪廻復原』を使って世界を壊す。それを分かった上で、この話を私にしたということは、水仙の言うもう一体の呪霊というのはーー

 

 

「……私」

 

「ご名答。貴女を呪霊にして、あの娘と一緒に封印する」

 

 

そういうことか。

それなら東坊城天蓋が危惧したユキも、東坊城水仙が危険視する私も一緒に封印できる。

私も一応の納得はできる話ではある。封印っていうのが、どれほどのものなのかは分からない。それでもユキと離れ離れにならずに、むしろ永遠に一緒にいられるならば……。

 

 

「納得はしてもらえた?」

 

「……どうやって私を呪霊にするつもり」

 

「貴女の術式『輪廻復原』の解釈を拡げる。貴女が骸人形そのものを作り出す時に使う肉体の再構築。あれを貴女自身の身体でやってもらうわ」

 

 

『輪廻復原』の本質である再構築は当の昔に看破されていたようで、水仙はそんなことを言い出した。

なるほど、理論上は可能だろう。

人間としての肉体を呪霊へと作り替える。

『輪廻復原』ならば造作もない。ただし、それは

 

 

「残念だけど、『輪廻復原』は自分の身体には使えない」

 

 

机上の空論。

いや、机上というか、既にそれは過去に試している。『堕雪』との力の差を感じた時に試して、失敗したんだ。

だから、

 

 

「領域の習得」

 

「え?」

 

「貴女に領域を習得させるわ。領域を習得した呪術師ならば、術式そのものを深化させるのも可能なはずよ。それでも足りない部分は、私の『眼』を使いなさい」

 

 

水仙はひとつだけ残っている右の『六眼』を指差した。

私が奪っていない方の眼。東坊城天蓋から引き継いだ右眼を差し出すという。

って、いや、ちょっと待ってよ。

そもそもさーー

 

 

「ーーどうしてそこまでするわけ?」

 

 

それが疑問だった。

私は目的のためならば手段は問わない。

ユキと一緒にいるためならば、邪魔する奴は殺すし、利用できる人間はすべて使う。

狂っている。その自覚はある。

 

目の前のこの女も利用した。

『輪廻復原』で『六眼』を使い、『堕雪』を攻略する一手にするためにだ。

なのに、水仙はまた私の前に現れた。

ユキの術式の影響だろう。戦いの最中に記憶を改竄され、静かに私の元を去っていった咲人と総監部の犬。『六眼』があるからか水仙に効きが悪かったんだろうことは予想できるけれど、それでも再び私の前に現れる理由にはならない。そして、協力を申し出るのも意味が分からない。

 

……じゃあ、なぜ?

その問いに、水仙は困ったように微笑みながら答えた。

 

 

 

「大切な人を手にかけるなんて、辛すぎるでしょう」

 

 

 

それは…………いや、止めておこう。

 

 

「それにね、私も雪のこと大好きなのよ。昔、呪詛師になったばかりの頃にあの娘に出会ってね」

 

 

彼女の優しさに救われたの。

そう言って、水仙はまた微笑んだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

私の領域『合誦廻礼花』によって、両の眼が空色の『六眼』へと再構築されて。

同時に『輪廻復原』の本質をより深く理解した。

そして、深化したそれを行使する。

 

 

 

「術式解放ーー『輪廻真源』」

 

 

 

発動したそれを内側へと使う。

瞬間、自分の身体がバラバラになる感覚に襲われる。初めて体験する身体が作り替えられていく感覚。

気持ちが悪い。吐き気が止まらない。

寒くて、暑い。周りが真っ暗で真っ白だ。

頭が痛くて痛くて仕方がない。

全身にまるで力が入らずに、倒れ込みそうになる。けれど、倒れ込みそうになる感覚と同様に身体が浮き上がる感覚も感じる。

 

やがて。

身体が輪郭を取り戻す。

私であり、私ではない存在の形をはっきり感じた頃。

 

 

私は呪霊になっていた。

 

 

 

『これでお揃いだ』

 

 

ポツリと呟いた言葉はきっとユキには届いてない。

ゆっくりと私を殺すために歩を進めてくるユキ。

私は同じくらいの速度で、近づいていく。

一歩一歩、確実に私とユキの距離は近づいていき、

 

そして、触れた。

指を絡めた。

 

 

 

『やっと、こうして触れ合えた』

 

 

 

ここに来るまで本当に長かったよね。でも、大丈夫。

だって、

 

 

 

 

『これからは永遠に一緒だからね、ユキ』

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

1989年8月9日。

都内廃神社にて、特級相当の呪力の衝突を感知した。

それを受け、一級呪術師数名を現地へ派遣したが、呪力の残穢は残っておらず、何が起こったのかは一切不明である。

 

今回の件と関係があるかは判明していないが、その廃神社には2本一対の樹が絡み合うように聳え立っていたことを派遣された呪術師が確認しており、調査を進めている。

 

 

ーーーーーーーー




次回、最終話・エピローグ。

完結後の外伝ストーリー(主人公は優くん)の構想があるのですが、見たいですか? それとも美澄と雪の物語だけで十分ですか?

  • 見たい
  • 美澄と雪の話だけで十分
  • 新しい作品を書くべし
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