堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完)   作:藍沢カナリヤ

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最終話 美しく澄んだとある雪の日に

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「…………またここですか、おじさん」

 

 

 

俺のことをおじさんと呼ぶ声に反応して、俺は振り返る。

生意気に成長した男子高校生がそこにはいた。

 

 

「おう、優」

 

 

彼の名前を呼ぶと、ため息を返されてしまう。

 

 

「おう、優じゃないですよ。桔梗さんも母さんも探してたんですから」

 

「落ち着かねぇんだよ」

 

「はぁ、いい加減落ち着いてください。もうおじさんも……えぇと」

 

「永遠の28歳だな」

 

「それは娘が生まれたときの年齢じゃないですか」

 

 

そんな小粋な冗談は優には通じない。まったく変なところで父親そっくりに育っちまって。おじさんは悲しいぜ。

 

 

「って、おじさんの年齢はどうでもいいんです」

 

「あぁ? 俺についての話がどうでもいいとは優も偉くなったもんだな、あぁ?」

 

「……桔梗さんがガチギレしてましたよ」

 

「………………それは、まぁ、穏やかな話じゃねぇな」

 

「はい、それはもう穏やかではなかったです」

 

 

そいつはともかくまずい。

昔から桔梗のガチギレは鉄拳制裁を伴う。つまり、ぶん殴られるわけだ。

 

 

「まぁ、今回はおじさんが全面的に悪いですよ」

 

「…………分かってるよ」

 

 

娘の中学の卒業式直後にも関わらず、こんな廃神社でよく分からん樹を眺めてたってんだから、そりゃあ俺が悪いさ。

愛娘にも愛想を尽かされても不思議はないだろうよ。

 

 

「早く帰りましょう」

 

「あぁ」

 

 

そう促す優に頷く。

愛娘の晴れの日にまでこんな場所に来ちまうのは、まぁ、いよいよ病気かもしれねぇな。そんなことを思いながら、俺は今まで見上げていた絡み合った2本の大樹に背を向けた。

その時だった。

 

 

「……雪?」

 

 

空からハラハラと白い結晶が降ってきたのに気づいたのは。

3月も中旬に差し掛かるというのに珍しい。東北の方ではあることだとは聞いたことがあるが、都内でなんてそうそうあるものではない。

物珍しさから少しの間、雪を眺めていると、

 

 

「おじさん、知らないんですか?」

 

「あ? 何をだよ?」

 

「この神社の噂ですよ」

 

 

噂?

この寂れたというより、ボロボロで神社の体も為してないここにそんな大層なものがあるのかよ。

そんな風に返すと、またもため息を吐きながら優は答えてくれた。

 

 

「この神社、こんなに寂れてるのになんで取り壊されないんだと思います?」

 

「…………さぁな?」

 

 

神社ってのは呪術的にもそれなりには意味がある。それは寂れていたとしてもだ。呪術師から遠ざかり、隠居した今の俺にははっきりとしたことは分からねぇが、恐らくその辺の事情があるんだろうとは予想できる。

まぁ、呪術とは無縁の優にはする話ではねぇから、わざわざ言うつもりもない。

俺はわざと無知なフリで、首をかしげた。

俺のナイスガイな配慮など知らない男子高校生は少し得意気に、無知なおじさんに教えてくれる。

 

 

「ここ、何度か取り壊そうとしたって話もあるらしいんですけどね。その度に人が死ぬらしいんです」

 

「らしい?」

 

「はい。死んだって話が出回るだけで、実際に誰が死んだとかは覚えている人がいないって聞きました」

 

 

そりゃあ、変な話だ。

まるで、実際にその現場を見た人間の記憶が消されちまって、伝聞だけが出回ってるような……そんな妙な話だ。

 

 

「あとはこの雪ですね。2月から3月半ばにかけて、この神社の周りだけ降るみたいです」

 

「で、そんな変な噂とか現象が続くこともあって、あまりにも不気味すぎて、工事業者も行政もここには関わらないことにしたって話らしいです」

 

 

なるほどな。

そりゃあ一般人は近づきたがらねぇ訳だ。その類いの案件なら、呪術高専にも依頼はいっているだろうが、それで解決されてねぇってことは、高専側も触れない方がいいと判断したのかね。

 

 

「まぁ、俺にはもう関係ないけどな」

 

「何かいいました?」

 

「いや、なんでもねぇよ」

 

「?」

 

 

それにしても、雪が降るのは2月から3月半ば。ちょうど今頃の早春の頃か。

去年までもこの時期に来ることもあったが、俺は今日まで見なかったな。

 

 

「嫌われてるんじゃないですか」

 

「あぁ?」

 

「なんて、冗談です」

 

 

そう言って笑う優。

不意に、その笑顔が昔、見たあいつの顔と重なった。本当によく似た表情を見せやがって……。

 

 

「おい、帰るぞ。なんか奢ってやるよ」

 

「! じゃあ、あの店の唐揚げで!」

 

 

そんなことを言いながら、ボロボロに崩れた鳥居をくぐり、階段へ。そこでふと視界の端に、青紫色の小さな花が咲いているのが見えた。

えぇと、たしかミスミソウだったか。積もった雪からその青紫色が覗いていた。

 

 

 

「……もうすぐ春だな」

 

 

 

ーーーー終ーーーー




以上をもちまして、『堕雪の花言葉』完結となります。

拙い作品にお付き合いいただき、ありがとうございました。
完結させられたのも読んでくださった・お気に入り登録してくださった皆々様のおかげです。

もし完結に際して、感想や評価していただけたらありがたいです。励みになります。
気が向けば、おまけの構想やらなにやらも前作同様に乗せるかもしれませんので、その時は暇潰し程度にお付き合いいただけると幸いです。

次作は未定ですが、お付き合いいただけたら嬉しいです。
では、また。

完結後の外伝ストーリー(主人公は優くん)の構想があるのですが、見たいですか? それとも美澄と雪の物語だけで十分ですか?

  • 見たい
  • 美澄と雪の話だけで十分
  • 新しい作品を書くべし
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