堕雪の花言葉【3年以内に私はそれを●す】(完) 作:藍沢カナリヤ
ーーーー呪術高専女子寮前ーーーー
「北海道旅行だと思ったのに……」
そう言って、美澄ちゃんは膝をついて分かりやすく落ち込んでいた。
道理で買い出しの時も変に荷物が多いと思ったんだよね。
そういえば、先生からわたしが受け取ったメモ、美澄ちゃんは読んでなかったなぁ。
こんなに落ち込むなら、その時に言えばよかったよ……。
「まぁまぁ、今度近くのデパートに物産展も来るらしいから」
「一緒に行ってくれる……?」
「うん、一緒にいこ?」
「よし! やるぞぉぉ!!」
一気にやる気になる美澄ちゃん。
現金だなぁ。
「それでどこが受け取り場所なの?」
「渋谷だって」
「渋谷? そんなに人の多いところで?」
「うん……」
それはわたしも疑問だった。
特級呪物の受け渡しに渋谷って……。あまりにも危険すぎるんじゃないかな。
そう思って、ここに来る前に先生に聞いたんだけど、渋谷で間違いないと言われてしまっていた。
なにか事情があるのかもしれない。
「とにかく行ってみようか」
「そだね。それで渋谷のどこ?」
「……スクランブル交差点」
「まじ?」
ーーーー渋谷・スクランブル交差点ーーーー
メモを見て驚いてた。
渋谷のスクランブル交差点なんて、人が大勢行き交う場所の代名詞みたいなものなのに。
そこで特級呪物の受け渡しなんてあり得ない。
そう思っていた。
けれど、実際に、ここに来て、ここで受け渡しをする方法が分かってしまった。
「『帳』……?」
スクランブル交差点を覆うように、『帳』が下りていた。
こんなものを非術師が見たらその不安や不信感から呪霊が生まれてしまう。
そう思ったんだけれど、
「昼間なのに、周りには誰もいない」
交差点の周りには人っ子1人いなかった。
『帳』を見て近づかないようにしているんじゃない。
詳しくは分からないけれど、たぶんこの『帳』には、非術師が無意識のうちにここを避けるような効力が追加されてる。
あとは不可視、かな。
つまり、見えないけれど近づきたくないという無意識を植え付けるような術式効果。
少なくとも一般の人には被害がないはず。
「ユキ~?」
「あっ、ごめん。ボーッとしてた」
「どうかした? この『帳』のこと?」
「うん。あのね……」
少し考え込んでいたようで、美澄ちゃんの呼びかけで我に返った。
美澄ちゃんにこの『帳』に付与されているであろう効果を伝え、ここならば呪物を持ち込んでも被害はでないだろうと伝える。
「………………」
「美澄ちゃん?」
「なんでもない。とりあえずさ、これで私がわざわざ『帳』を下ろす必要もないみたいだし入ろっか!」
「そうだね」
美澄ちゃん自身も『帳』が使えるからか、この『帳』の性質を見抜いているみたいだ。
たしかに目の前の『帳』には呪術師を入れないような効果はない。
というよりも、一定以上の呪力をもつものの侵入については一切禁止していない、のかな。
非術師から認知もされず侵入もできない代わりに、呪術師は入り放題。
それなら、足し引きも合う。
「……ねぇ、美澄ちゃん」
「ん? なに?」
「もしかしたら、この中に呪霊がいるかもしれない……」
『両面宿儺の指』は呪霊を引き寄せる。そう聞いたことがある。
もちろん、指にかかっているという封印が解けていればだけど。
わたしの呪力感知でも、この『帳』の中の呪力は感知できないみたいだから。
「気を付けて」
「りょーかい!」
そうして、わたしたちは警戒をしながらその『帳』へ入っていった。
ーーーー『帳』内ーーーー
そこにいたのは1人の呪術師。
その顔は知っている。
アイヌ呪術連に所属してるっていう有名な呪術師だ。
たしか、等級は一級で、かなり腕がたつって話を聞いたことがあった。
その彼が今回の受け渡しの相手、だったんだろう。
「みすみ、ちゃん……これって……」
「うん。もしかしなくても、そうみたいだ」
彼は死んでいた。
全身には夥しい数の刺し傷。
そこから流れ出るはずの血液が一滴もその場に残っていない綺麗な刺殺体がわたしたちの目の前に転がっていた。
「これは……まずいかもね」
呆然とするわたしをよそに、美澄ちゃんは彼の遺体を調べてくれた。
その結果、そこにあるはずのものがなくなっていた。
ーーーー記録ーーーー
1987年4月21日。
渋谷・スクランブル交差点にて、アイヌ呪術連所属の一級呪術師・早雲薙臣が死亡しているところを発見された。
死因は全身56箇所を刺されたことによる失血死である。
その遺体からは呪詛師のものと思われる残穢が残っており、その呪詛師の行方を追っている。
また、特級呪物『両面宿儺』の指が現場からは失くなっており、回収を一級呪術師4名に任ずる。
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