ウマ娘プリティーダービー〜企画短編集〜   作:ちゃん丸

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無自覚にハーレムを形成してウマ娘たちにアタックされまくる話

 

 

 

「暑い……」

 

 

 まだ春だというのに謎の暑苦しさを感じながらベッドで目が覚める。昨晩はかなり肌寒く、タンスの奥に封印した毛布を再び呼び戻して寝たのだが、それが失敗だったか? 外気温が低くても寝ている間に体温が上がって暑苦しく感じてしまうのはよくある話だ。朝は出勤ギリギリまで寝るタイプの人間なので、汗を朝シャンで流すという行為自体が時間の無駄と思い億劫になってしまう。でもトレーニングに来るウマ娘たちを汗臭さで不快にさせるわけにはいかないし仕方ない、そろそろ起きて準備するか。

 

 ――――と身体を起こそうとしたのだが、何故か自分の身体がずっしりと重いことに気が付く。特段体調が悪いわけでもないし、もしかしたらこれが金縛りってやつか? おいおいこの身はまだ若いんだから、せめて結婚して子供ができて生活が安定するまで健康でいてくれ俺の身体。まぁそもそもその相手がいないんだけども……。

 

 ん? いや、違う。手も腕もしっかりと動く。ていうか毛布がやたら膨らんでないか? それになにやら中でゴソゴソ動いており、極めつけは毛布の端から()()が飛び出ていた。

 大体何が起こっているのか察すると、俺は毛布を掴んで自分の身体から勢いよく引き剥がした。

 

 

「あっ、トレーナーさん。起きちゃったんですね……」

「いや何勝手に人のベッドに潜り込んでるんだ? スペシャルウィーク……」

 

 

 毛布を捲るとそこには俺の担当ウマ娘の1人であるスペシャルウィークがベッドインしていた。俺の胸を枕にしてうつ伏せになっており、自分の目を下げると彼女の目と合う状況だ。彼女は残念そうな目をこちらに向けているが、どうしてこんなことになっているのか俺は頭の上に『?』マークが浮かぶだけだった。

 

 

「まず1つ。どうして俺の部屋にいるんだ?」

「最近トレーナーさんが忙しそうで練習の時も眠そうにしていたので、()()()でサポートして差し上げようと思いまして!」

「確かに最近少し疲れてはいたけどさ……。でもベッドに潜り込む必要はないだろ……?」

「そ、それはやっぱり快適な睡眠は適度な温度管理と言いますし、こうして私が人肌で暖めてあげたらよく眠れるかなぁ~と! そ、それに私も最近疲れ気味だったので……」

「ん? そうなのか。気付かなくて悪かったよ」

「い、いやっ、うぅ、言いたいことはそっちじゃなくてですね……」

 

 

 スペシャルウィークは頬を赤くしながらもじもじする。いや気遣ってくれるのは大変ありがたいんだけど、寝起きで目の前に女の子がいる展開は流石にビックリするからやめて欲しい。アニメやラノベみたいに空から女の子が降ってくるみたいな展開はちょっと憧れるけどさ……。

 

 ん? そういえばさっきスぺの奴、『私たち』って言ってなかったか? もしかして俺の部屋に別のウマ娘が――――!?

 

 

「スぺちゃ~ん! トレーナーを起こしてくれた~って、え゛ぇええええええっ!? どうして一緒のベッドで寝てるの!?」

「テイオーさん!?」

「テイオー!?」

 

 

 隣のリビングから大きく膨らんだゴミ袋を持ったトウカイテイオーが寝室にやって来た。テイオーはスぺが俺に添い寝していると勘違いしたのか、驚いた顔をしてこちらに詰め寄ってくる。

 ていうかコイツもいたのかよ……。確か家に鍵をかけてあったはずだよな? いつの間に俺の家は誰でも来訪可能なアミューズメント施設になったんだ……?

 

 

「スぺちゃんトレーナーを起こすだけって約束だったじゃん! なのにどうしてベッドに潜り込んでるの!?」

「す、すみません! トレーナーさんの寝顔を眺めていたらつい一緒に寝たくなっちゃって……」

「なるほど。だったら分からなくもないけどさ」

「ないのかよ……」

「そりゃそうだよ! ボクだってじゃんけんに負けなければトレーナーに添い寝しようって思ってたのに!」

「やっぱりテイオーさんも同じこと思っていたんじゃないですか!?」

「あっ、やばっ……」

 

 

 勝手に添い寝をしていたスぺを糾弾するのかと思ったけど、なんか話の流れが変わったぞ。添い寝することはもう確定事項として、誰が俺のベッドに潜り込むかで争っていたらしい。そんなに気持ちいいのかな俺のベッドって。普通に安物なんだけどな、トレーナーとしての給料が少ないせいで……。

 

 

「それにしてもテイオー、そのゴミ袋はなんだ? やけにぱんぱんに詰まってるけど」

「これはトレーナーの部屋のゴミだよ! さっきまで掃除してあげていたんだから!」

「えっ、わざわざお前が!?」

「だってトレーナー最近疲れ気味っぽかったから、ボクたちが身の回りのお世話をして少しでも楽になってくれたらと思ってさ」

「そうですよ! いつもたくさんお世話になっていますから、私たちにも恩返しさせてください!」

「そ、そうか。ありがとな」

「ということでスぺちゃん、次はボクの番だから代わって代わって!」

「えぇっ!? いいことを言った後のどさくさに紛れてもダメですよ!?」

 

 

 お世話をしたい、恩返しをしたいっていうのは本音なんだろうけど、今日はどうも2人共欲望がダダ洩れだ。いつもレースで勝ちたいという強い欲求を抱いているためか、そもそも欲望を表に出すことには慣れている……というか表に出やすいのだろう。寝起きでそんな思いの強さを向けられるのは重すぎる。朝っぱらから元気過ぎて2人のテンションについていくだけでも大変だ。

 

 そんなことを考えている間にもテイオーもベッドに上がって来た。得意のステップを無駄に駆使して軽やかに俺の身体を陣取る。

 

 

「テイオーさん!? トレーナーさんを起こすのは私の役目なんですけど!?」

「ただ身体を揺らして起こすだけで良かったのに、ベッドインなんてレギュレーション違反を起こしたからねスぺちゃんは。だから罰としてトレーナーはボクと添い寝の刑だ~!」

「えぇっ、全然罰じゃないですよぉそれ~!?」

「ていうか俺関係ないのに巻き込まれてね……?」

「スぺちゃんとは寝られたのにボクとは寝られないって言うの?」

「それ意味深過ぎるから外で絶対に言うなよ!?」

 

 

 歳相応に子供っぽいコイツがそのセリフを言うと普通に通報されそうだから怖いんだけど……。

 テイオーは四つん這いになって俺に覆い被さり問い詰める。そしてそのテイオーを俺から引き剥がそうと必死になるスぺ。俺の快適な朝のひと時がどうしてこうなった……? いつもなら寝惚けながらも適当に朝ご飯を食べ、適当に顔を荒い歯を磨き、それなりに容姿を整えて朝練に向かうサイクルだったはずだ。いつの間にか俺の日常がウマ娘に浸食されている……!!

 

 とにかくスぺもテイオーもテンション絶好調で場が混乱を極めそうなので、ここは穏便に事を済ませよう。

 

 

「スぺ、テイオー」

「はい?」

「なに?」

「そんなに俺のベッド寝たいのなら2人で寝たらどうだ? ほらさっきスぺが最近疲れてるって言ってただろ? 俺は布団を敷いて床で寝るから大丈夫だ」

「「…………」」

「あ、あれ?」

 

 

 スぺもテイオーもジト目でこっちを見つめてくる。さっきまでクソ高いテンションで部屋が熱気付いていたのに、今は白けるほど冷たい空気が流れている。俺、別に普通のことを言ったよな? 2人共黙ったままだけど……えぇ、えっ?

 

 

「はぁ……こうなったらスぺちゃん、トレーナーに分からせる必要があるみたいだね。ボクたちの本気を……」

「そうですね。トレーナーさん、覚悟してくださいね!」

「お前らさっきまで言い争いしてなかったっけ?? 急に結託してどうしたんだ!?」

「なに言ってるのさトレーナー。ボクたちはいつでも仲良しだよ? 一緒にトレーニングして、一緒にレースして、一緒にご飯食べて、一緒にトレーナーを振り向かせようと頑張ってるんだから」

「ふ、振り向かせる? そんな驚くようなイタズラを考えていたのか……」

「…………フフフ、アハハハハハ!! よ~し今日のボクはトレーナーのひっつき虫だ~!! ずぅ~っと背中にくっついたままだから覚悟してよね!」

「テイオーどうした壊れてるぞ!? 顔が笑ってるのに笑ってないぞ!?」

「落ち着いてくださいテイオーさん!! トレーナーさんがこうなのはもう分かり切っていることじゃないですか!?」

「離してスぺちゃん!! こうなったらトレーナーにボクの魅力を骨の髄まで沁み込ませてやるぅうううううううううううう!!」

 

 

 テイオーの調子が『絶好調』を通り越して『大発狂』になってる気がするんだけど!? もしかしてどこかでコミュニケーションの選択肢を間違えてしまったか? 最近みんなによく『トレーナーは女心を勉強した方がいい』と呆れられることが多いのだが、みんなの心はレースに勝つことじゃないのか……? そう思ってトレーニングにやる気を出したら『脳筋』だの『唐変木』だの罵られるし、やっぱり年頃の女の子は難しいな……。

 

 

「テイオーさん、1人よりも2人です! 2人でアタックすればトレーナーさんも気付いてくれるはず!」

「そうだね。1人で暴走しても脳筋で唐変木で朴念仁のトレーナーには響かないよねぇ……」

「なんか1つ増えたんだけど……」

「ということですトレーナーさん、失礼しますっ!」

「行くよ! トレーナー!」

「えっ!? うぐっ!?」

 

 

 何が起こるのか身構える暇もなく、2人は俺の胸に飛び込んで来た。ウマ娘の超絶な馬力に思わずベッドに倒れ込んでしまう。

 俺はスぺとテイオーに左右から抱きしめられる。それほど大きくないベッドなので3人が川の字に並ぶと非常に窮屈なのだが、それ以上に2人が全身を使ってこちらに密着してくるため身動きが取れない。ここでもウマ娘の馬力により身体をガッチリとホールドされ、もはや2人の抱き枕状態になっていた。

 

 

「トレーナーさん、あったかいです~♪」

「えへへ、もうボクから逃げられないぞ♪」

 

 

 2人共トリップして自分の世界に入り込んでいるようだ。頬を紅潮させ、表情も緩く、まさに幸せの絶頂と言わんばかりの様子。起きた時にスぺが俺の疲れを癒してあげたいみたいなことを言ってたけど、どちらかと言えば癒されているのはこの2人の方ではないだろうか? 逆に自分も疲れているみたいなことも言っていたので、俺なんかで日頃の疲れが取れるなら抱き枕になってやるくらい別にいいか。これからはもっとみんなの体調管理には気を付けないと。ないとは思うがこのまま他のウマ娘たちにも1人1人抱き着かれたら練習時間がなくなってしまうからな。ん? こうして練習のことばかり考えてるから脳筋って言われるのか……?

 

 でもこうしていると俺も日頃の疲れが癒されそうだ。2人の体温が毛布の代わりとして丁度良く、人肌(馬肌?)ってこんなにも安心できるんだと実感する。2人の暖かさで寝起きで残っていた眠気が再度呼び出され、このまま二度寝をキメ込んでしまいそうだ。まだ家を出るまで時間もあるし、せっかくだからこの安らぎを味わうのも一興かな。

 

 ――――と目を瞑ろうとしたその矢先、俺の寝室のドアが破壊されるかの如く大きな音を立てて開け放たれる。

そこに立っていたのは、前髪で表情を隠して不穏な雰囲気を漂わせる栗色の綺麗な長い髪をした少女――――サイレンススズカだった。普段のおとなしい雰囲気は全く感じられず、明らかに怒ってますよと言わんばかりの闇と負のオーラを漂わせている。どうして機嫌が悪いのかは分からないが、俺に抱き着いて寝ているスぺとテイオーが顔を青くしてガタガタと震え出したのと何か関係が……?

 

 

「スぺちゃん、テイオー……。私、トレーナーさんを()()()()()()って言った気がするのだけど、誰が()()()()()()()()って言ったの……?」

「ス、スズカさん、こ、これはその……」

「誰もリビングに来ないから、ずっと1人で朝食の用意をしていたのよ……? それで寝室が騒がしいと思って覗いてみれば、起こすどころかトレーナーさんとイチャイチャイチャイチャ、イチャイチャイチャイチャ……」

「スズカが壊れたレコードみたいになってる!? ゴ、ゴメンゴメン謝るから……ね?」

「と、言いながらもずっとトレーナーさんに抱き着いてるのはどうしてかしら……? フフッ、フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ……」

「こんな怖いスズカさん初めて見ました……。と、とりあえず落ち着きましょう! ほらまだ朝ですし、騒ぐと近所迷惑かなぁ~って……あはは」

「…………」

「ゴメンなさいゴメンなさい!! 無言はやめてください怖いです!!」

 

 

 見たこともない狂気のオーラに包まれているスズカにスぺとテイオーはビビり散らかしている。それでも2人共俺に抱き着いて離れないのはせめてもの抵抗か、それとも恐怖を紛らわせるためか。どちらにせよ早く離れないと何をされるのか分からないぞ? だって蚊帳の外にいる俺だって怖いもん。黒い笑顔を浮かべたままこちらに歩み寄ってくるスズカが……。

 

 そしてスズカはベッドに上がり込むと、四つん這いになって俺の正面に迫って来る。まさか俺にも怒りが飛び火すると思ったが、今は普段通りの優しい笑顔に戻っていた。まあ逆にそれが不気味だったりもするんだけど……。

 

 

「トレーナーさん、おはようございます。私もおはようのハグ、してもいいでしょうか?」

「えっ? してもいいっていうか、そんなことをされた記憶はないけど……」

「さっき2人がやっていたことですよ?」

「あれは俺のベッドで寝たかっただけで、このベッドが狭いから仕方なく密着してただけじゃないのか……?」

「………そうですよね、それがトレーナーさんですよね。なるほど、2人があれほどじゃれていた理由が分かりました。でしたら私も一緒のベッドで寝たいので抱き着いちゃいますね」

「ちょっ!? えっ!? どうしてそうなる!? ていうかさっき朝飯を作ってくれたとか言ってなかったっけ?」

「そうですよ。トレーナーさんへの真心と愛を込めた朝食。そしてそれが出来上がる頃にこうして優しく起こして心地の良い目覚めを提供する。妻として当然のことです」

「そ、そうか。お前と結婚する人は幸せになるな」

「…………うん、そういうところ。そういうところですよ。だからこそ燃えるんですけどね」

「お、おいスズカ……? ち、近いって!!」

 

 

 もはやキス寸前まで顔を近付けてくるスズカ。走ること以外にあまり興味を示さないドライな彼女がここまで熱くなって俺に迫ってくるのは何故だ?? 俺に対して怒ってる……ようには見えないし、2人と一緒で俺の疲れを癒したいってことなのか? 確かに朝飯は適当に済ませることが多いし、しかも女の子に作ってもらうなんて男としてはこの上ない喜びで癒されはするだろう。でもこうして追い込まれるように迫ってくる意味が分からん!!

 

 前からスズカ、右からテイオー、左からスぺ。自分の担当ウマ娘たちに全方向から絡まれ身動きが取れない。疲れを癒してくれるという名目で俺の部屋に来たと思うのだが、この状況で本当に癒されるのか? だって3人共物凄くテンションが高く、これまでにない積極性で食い殺されそうな勢いだ。そりゃ可愛い子たちに囲まれれば男なら誰でも嬉しいけど、女の子たちに羽交い絞めにされそうだからどちらかと言えば恥ずかしいんだよな……。

 

 

「こんなにも女の子を侍らせるなんて、いい身分だねトレーナー♪」

「えぇ……勝手に乗り込んで来てその言い草はないだろ……」

「今日からずっと私たちが付きっきりでトレーナーさんをサポートします! 毎朝起こしてあげたり、ご飯を食べさせてあげたり、服を着替えさせてあげたり、お、お風呂だってお手伝いできますから!!」

「俺は赤ちゃんか!? それに女の子にそこまでされたら逆に気になるだろ!?」

「トレーナーさんが私たちの赤ちゃん。それもありかもしれません……♪」

「なに妄想してんの!? よくないからな!?」

 

 

 もしかしてコイツらの中では癒し=介護なの?? てっきりメイドさんのようなご奉仕を期待していたからここまで日常に浸食されると怖気づいてしまう。日常生活の何から何まで付き添われる方が疲労が溜まる気がするけど、彼女たちは本気だから恐ろしい。体調の心配をしてくれていることだけは素直に嬉しいんだけどさ……。

 

 

「で? トレーナーはどうするの? ボクたちにお世話されるのか、それともボクたちにお世話をさせるのか」

「ニュアンスが違うだけでどっちも一緒だろそれ!?」

「前者は私たちがトレーナーさんをたっぷり甘やかすことで、後者はトレーナーさんが私たちにあんなことやこんなことを指示することですよ。いつもトレーニングでやっていただいていることです」

「丁寧な説明ありがとう。だけど厳粛なるトレーニングとお前らの欲望を一緒にするなよ……。ていうか普通はないのか普通は。どっちも趣味が偏り過ぎだろ……」

「えっ? どちらもトレーナーさんの趣味だと思ったんですけど、違いますか? 最近の男性の趣味は調教だってゴールドシップさんが教えてくれましたけど……」

「俺の愛馬に何を教え込んでんのアイツ!? ち、違うから、俺は至って健全だ!」

「そうやって弁明する人は表に出せない裏の性癖があるってゴルシが言ってたよ?」

「アイツぅ……。何も知らない純粋な子たちに変なことを吹き込みやがって……」

 

 

 ここにいる3人はサブカルチャー系には疎いためか、性癖云々の話はネタであろうと容易に真実だと擦り込まれてしまったのだろう。だからゴルシの嘘にもホイホイ騙され俺が被害を受けている。女の子に甘やかされたいとか命令したいってのは確かに男の欲望としては忠実だけど、俺は女の子を決してそんな目では見ないぞ。いや、ホントに。

 

 

「そうなると、トレーナーさんはどういう女の子が趣味なんですか? 例えばこういう女の子が好き……とか」

「す、好きと来たか……。そうだな、何度負けても泣きながらでも前に進める強い心を持った子とか……」

「あっ……」

「走ることにひたむきで、風のような疾走感を見ているこっちにも感じさせてくれる子とか……」

「あっ……」

「三冠達成みたいなドデカい目標を掲げて無邪気ながらもストイックな走りを見せる子とか……」

「あっ……」

 

 

 あれ? 目を瞑って考えてたけど、自分の好みというよりかは想像の中で女の子が1人1人思い浮かんでその子たちの長所を呟いていた気がする。その女の子たちっていうのが目の前にいる3人なわけだが――――って、みんな顔真っ赤!? さっきまではグイグイ迫ってきて肉食動物のような積極性を剥き出しにしていたのに、今は借りてきた猫のようにおとなしくなっている。身体をもじもじさせ、俺と目を合わせると速攻で逸らしてしまう。こんなにしおらしいコイツらを見るのは初めてかもしれない。俺はただ3人の長所を語っただけなのに、そこまで嬉しかったのか……?

 

 

「スぺ?」

「そうですか、好き……ですか。そっか、トレーナーさんが私のこと……えへへ♪」

「スズカ?」

「こういう時ってどうやって返せばいいんだろう。まさかトレーナーさんから私のことを……ふふっ♪」

「テイオー?」

「トレーナーがようやくボクの魅力に気付いてくれたんだね……。えへへ、やったやったっ!」

「ちょっ、み、みんな聞いてる……? ていうか聞こえてる? お~いっ!」

 

 

 しおらしくなったと思えば今度は笑顔になった3人。今日は怒ったり照れたり喜んだり、こんなに情緒不安定だったけコイツら? やっぱり女心はいつまで経っても分からないな……。まあ機嫌が良くなったみたいだから良しとするか。

 

 それにしても、この状況どうしようか? さっきからずっと女の子たちに纏わりつかれて身動きが取れないのは相変わらずで、なんならスぺとテイオーの抱き着く力が強くなっている。女の子の柔らかいところがこれでもかってくらい当たっているが敢えて気にしない。担当ウマ娘に変な感情を抱くのはダメ……なんだけど、左右から抱き着き拘束されている状態でスズカが恍惚な表情でこっちに顔を近付けてくるのは流石に身の危険を感じるが!?

 

 

「ちょっ、スぺ、テイオー離せ!! なんか今日イチでヤバいって!?」

「トレーナーさん。遂に私たちを受け入れてくれた、そういうことでいいんですよね?」

「えっ? なんの話??」

「にしし、もう逃げられないよトレーナー♪」

「はぁ? えぇっ!?」

「今日からずっと一緒。そうですよね、トレーナーさんっ!」

「ん? んん??」

 

 

 ちょっ、なに? 俺だけ置いてけぼりで勝手にハッピーエンドっぽいルートに足を踏み入れてる気がするんだけど!? 俺は褒めて伸ばすスタイルなので俺なんかの言葉で喜んでもらえるのはありがたいことだが、3人の様子はもはや喜びを通り越して狂喜乱舞と言わんばかりの興奮具合だ。興奮のあまり3人に押し潰されそうなくらいで、相手が女の子と言えどもウマ娘の馬力で攻められたら一巻の終わりだ。しかもハイテンションを突き抜けているからか俺に抱き着く力、迫りくる圧力、全てに歯止めがなく容赦がない。まあ担当ウマ娘による圧死なら本望かな――――って、んなわけあるか!!

 

 

「み、みんな! とりあえず朝飯にしよう! な? せっかくスズカが作ってくれたんだし、冷めたら勿体ないだろ?」

「そうですね。興奮冷め上がらぬうちにいただきます」

「ちょっとどうして顔を近付ける!?」

「結ばれあった者同士がする行動と言えばマウスtoマウスですよ、トレーナーさん♪」

「結ばれ合ったって何が!?」

「このために『うまぴょい』でちゅーの練習してたもんねボクたち!」

「神聖なるウィニングライブの練習をそんな私情でやってたのかよ!?」

「トレーナーさん。次は私も……いいですか?」

「次も何もそもそもしないからな!?」

 

 

 あぁもうめちゃくちゃだ。もはやみんな脊髄反射で自分の欲望をそのまま行動に移しているため秩序というものが全くない。このままだと3人に手籠めにされるだけでなく貞操も奪われる可能性が高いだろう。かと言ってこの場から離脱しようにも羽交い絞めに近い体勢となっているこの状況ではどうしようもない。健全な男であればこうした複数の女の子に囲まれるシチュエーションは舞い上がるくらいに喜ぶのだろうが、今のスペシャルウィークたちは興奮のあまり目がギラ付いているため少し怖い。もはや八方塞がりなわけだがもしかして……詰み??

 

 その時だった。またしても俺の寝室のドアが引きちぎれるかの勢いで開け放たれる。

 そして遠慮もなく部屋に足を踏み入れたのは、お嬢様ウマ娘のメジロマックイーンだった。

 

 

「マックイーン!?」

「そこまでですわ!!」

「えっ……!?」

 

 

 突如として現れたマックイーンは尻尾を逆立てながらこちらにやって来る。

 鍵をかけておいたはずの家に女の子たちが上がり込んでくる謎も解き明かしたいが、まずはこの状況の対処からだ。まさかコイツもスぺたちと同じで俺の疲れを癒しに……? これまでのコイツらの行動を振り返るに俺を癒すどころか自分たちが興奮する始末だが、もしかしてマックイーンもその仲間入りをしてしまうのか? ただでさえ3人でも相手をしきれないのにもう1人加わるとか、もう女の子に囲まれて天国なのかそれとも地獄なのか分からないな……。

 

 

「何しに来たんだよマックイーン。朝当番はボクたちの仕事でしょ?」

「じ・か・ん! 時間を見てくださります?」

「時間って――――えっ、あ゛ぁあああああああああああああああっ!?!? もう登校の時間じゃん!?」

「トレーナーさんとの時間が楽し過ぎてすっかり忘れてましたね……」

「もう、スぺちゃんとテイオーが早くトレーナーさんを起こしてくれないから……」

「いやスズカも大概だったけどね……」

「とりあえず、皆さんも登校の準備をしてください。トレーナーさんは……まず着替えるところからですか」

「そ、そうだな……」

 

 

 もう完全に遅刻でいつもなら焦るけど、今はマックイーンが状況を打破してくれたおかげでホッとした気持ちが強い。あのままだと本当に襲われかねなかったから彼女に感謝だ。それに彼女はまともそうだから安心したよ。スぺたちの俺を癒したいって気持ちはありがたくはあったけど、後半はもう欲望ダダ洩れでやりたい放題してたからな……。

 

 その後は()()()服を着替え、()()()スズカの作ってくれた飯を食い、()()()歯を磨き、()()()身だしなみを整えた。決して甘えたわけじゃないから勘違いしないように。それでもみんなは俺のお世話をしたかったのかずっとウズウズしてたけど……。

 

 

「さてトレーナーさん。行きましょうか」

「えぇっと、どうして腕を組む……?」

 

 

 トレセン学園に出勤しようと玄関に向かおうとした時、マックイーンがにっこりしながら俺の腕に絡みついてきた。まるで恋人のようだが、さっきまでみんなに離れろだのなんだの言っていたのに誰の目もなくなった途端に積極的になりだした。そして力強く抱き着かれるこの感じ、さっきと同じ匂いがするぞ……。

 

 

「通勤のお手伝いは私の役目なのです。トレーナーさんはメジロ家の自家用車で悠々と通勤していただきますわ」

「車で通勤なんて俺には贅沢だな……」

「だからその分、私も愉しませていただきますわね。車の中で……フフッ♪」

「う゛っ……」

 

 

 マックイーンの妖艶な笑みで俺の背筋が凍りそうになった。

 そう、これはまだほんの始まりに過ぎない。俺は悟った。今日は長い長い1日になると……。

 

 

 

 

 To Be Continued……?

 

 

 

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