金 獅 子 を 狩 っ て 参 れ !   作:水煮

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初投稿です
挿絵も描いてみました



わがままな第三王女:リオレウス捕獲大作戦 前編

 

 

 

わがままな第三王女

わらわは、あの飛竜をペットに

したいのじゃ。よいか、決して

殺してはならぬ! 雄飛竜を  

生きたまま、わらわのもとへ 

連れてくるのじゃ!     

 

 

 

 

 

 

 

「……何だ……この依頼……」

 

 

 木製の大きな建屋に、パチパチと暖炉で燃える炎の音が響いている。

 ココット村の集会所、その受付で紹介された依頼文を見て、思わず立ち尽くす男女2人のハンター。

 いや、立ち尽くしているのは俺だけか。もう一人のハンターは受付カウンターに肘を乗せ、足をぶらぶらさせて楽しそうに依頼書を覗き込んでいる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「おもしろい王女さまだねー」

 

 

 栗色の髪を肩まで伸ばした、当のハンターであるその少女、メロンが、依頼文を見て呑気に呟いた。俺はメロンの呟きを無視して、カウンターの向こうで依頼書を差し出す、困り顔の受付嬢さんに思わず質問する。

 

 

「これ、本当に正式にギルドに来た依頼なんですか?」

 

「はい……確かにそう聞いています」

 

 

 その依頼文には、何度読んでもリオレウスをペットにしたいとしか書いていない。

 いや、百歩譲って王女様が飛竜をペットにしたいと言い出したのは分かるんだが、何故そんなわがままが正式な依頼となってギルドに届いたのかが問題だ。王女が勝手に依頼したとしか思えないが、周りの人間が止めるはずでは? 

 まさか脱走して勝手に依頼を出した訳でもあるまいし……

 

 

「アスカ、この依頼受けるの?」

 

 

 俺が顎に手を当てて唸っていると、隣の少女が気づかわしげに顔を覗き込んできた。

 

 

「そうだな…………うん、まあ今金欠だし受けるかな。王族だけあって金払いはいいみたいだし」

 

 

 悩む()()をしたが、今はすぐに受けられる大型モンスターの狩猟依頼はこれしかないらしく、言った通り金欠なので受けようと思う。いや、受けるしかない。

 丁度この間G級モンスターの防具を、メロンに黙って無理やり金を工面して鍛えてもらったばかりなので、実は明日の食事もままならないほどのすかんぴんなのだ。

 受けるのは仕方がないのだが、面倒事にならないかだけは心配だな……

 

 依頼書に2人分の署名を書き、契約金と共に受付嬢さんに渡す。ギルドとハンターの契約の証である契約金は、クエストを受ける際ハンターに負担をかける代わりに、達成した際に倍額で戻ってくる仕様になっている。

 これで晴れて一文無しとなった我々は、それを知らない片割れの少女に先導されて集会所を出た。

 

 

 

 俺たちはこの村専属のハンターではない。今は依頼のため一時的にココット村に滞在している、龍歴院の所属の構成員である。

 元は古代文明の構造物の研究機関であった龍歴院は、次第に活動の範囲を広げていき、地域の研究の補助や実地調査などの為にハンターを多数雇っている。

 龍歴院のハンターのほとんどはギルドからの紹介であり、俺もメロンもその例に漏れない。

 メロンとは同時期にギルドへ加入した、言わば同期の関係にある。何かと気が合うことも多く、ギルドに所属してすぐのころから、向こうの誘いで一緒に行動している。

 

 明るい性格ですぐに誰とでも仲良くなるメロンは、この村に来てすぐに馴染んでしまって、今も道具屋の主人に話しかけられたりして楽しそうだ。

 俺もこの村ではよくしてもらってるはずだが、たまに遠目に見られながらひそひそと話されているのが気になる。そんなことがこの村に来る前から続いているが……悪い噂でも立っているのだろうか……

 

 俺も主人に軽く会釈をして、準備のため村長から借り受けているマイハウスに向かう。

 マイハウスといっても、必要な素材と装備を運んできただけで、あとはベッドがあるのみだ。それとルームサービスのアイルーが一人。

 仮にも高位のハンターである俺たちにギルドから派遣されたアイルーで、拠点となる場所へ一緒に移動し、色々とサポートしてもらっている。

 

 

「受けたはいいが、本当にペットになるのか? 国の一大事だぞ」

 

「いいじゃん、わたしこういう面白い依頼好きだよ」

 

「面白いったってあのリオレウスだぞ? ペットにしようなんてタダじゃ済まない。もしかしたら色々あって、最悪国家転覆の罪に問われるかも……」

 

「もー、アスカは心配性だなぁ」

 

 

 そう言ってケタケタ笑いながら、呑気にアイテムポーチへ回復薬やらシビレ罠やらを詰め込んでいるメロン。

 リオレウスの凄まじい暴れ具合は、当然メロンも知っているはずだ。国家転覆なんて俺も冗談で言ってはいるのだが、コイツは楽観的すぎじゃないか……? 

 気を取り直して、テキパキと防具を身につけていく。俺は金欠の元凶であるティガレックス亜種のG級装備、黒轟竜の黒い甲殻をふんだんに使ってあり、背中にはマントがはためいてとてもかっこいい。メロンはダイミョウザザミのG級装備、頭からカニの身のような何かがツインテールみたいにぶら下がっている妙なデザインだが、そこがお気に入りだと言っていた。

 しっかり捕獲用アイテムを準備し、自宅を出て、今日はいつもクエスト前に寄っている食事場をスルーして、竜車の乗り場へ向かった。

 

 

「あれ? アスカ、ご飯食べていかないの?」

 

「ああ、下位のモンスターだし大丈夫だろ。ほら早く行くぞ」

 

「えー? お腹すいたよー……いつもご飯食べてるじゃん! なんで今日だけ!」

「いいからいいから」

 

 

 金がないんだから仕方ない。駄々をこねるメロンを引きずって竜車に乗り込み、隣から聞こえる騒ぎ声を聞き流しながら、御者のアイルーに行き先を伝える。

 

 今回は森丘が目的地なので陸路を使うが、雪山や火山などが目的地の場合、ギルドの所有する飛行艇を使うこともある。

 移動手段に関してはギルドから手厚い支援が受けられ、この竜車も代金はギルド持ちだ。

 

 

 アプトノスが引く竜車に揺られること1時間、目的地である森丘に着いた。

 荷車から降りて武器を担ぐ。竜車はベースキャンプで待機してもらって、先回りして届いていた支給品をボックスから取り出すと、ついに狩猟開始だ。

 

 

「さあ行くよ! 我らが王女様のために!!」

 

「アホの王女様の間違いだろ」

 

「不敬だよ! アスカ!」

 

 

 えいえいおーの姿勢で歩き出すメロンに、地図を開いて着いていく。なんだか色々と先が思いやられるな……

 

 

 

 

 

 リオレウスを探して木々を掻き分ける。

 森丘とはその名の通り、鬱蒼とした森と広大な丘陵地帯からできた、緑豊かな地形だ。近くに大きな河が流れていて、主な狩場となるモンスターの生息域にもその支流がいくつかせせらいでいる。

 

 よくモンスターが現れる、丘の入り口に辿り着いて、リオレウスを探して辺りを見渡す。

 

 

「居そうか?」

 

「いや、ここにはいないみたい。あ、でも足跡があるよ」

 

「本当だ、ここに飛び立った跡もある。もっと丘の上の方に居るみたいだな」

 

 

 大型の飛竜が飛び立つ時にはハンターの身動きが取れなくなるほどの風圧が発生するので、辺りの草がなぎ倒されていたり、枝葉が飛び散っていたりして、どこで飛び立ったかが分かるのだ。足跡の向きからおおよその方角も判別できる。

 痕跡を頼りに丘の中腹まで登っていく。しばらく進むと、遠くからザクザクと地面を踏みしめる、草食竜とは違う大きい足音が聞こえてきた。

 

 茂みからそっと覗いてみると……いた。リオレウスだ。

 

 一つ深呼吸して、生き死にを懸けた戦いの心構えを整える。いよいよ、戦闘開始だ。

 

 

「それじゃ、頼んだぞ」

 

「まっかせなさい!!」

 

 

 メロンが背中から2本のチェーンソーをぎらりと引き抜く。チェーンソーとは言ったが分類は双剣にあたり、「ギロチン」という物騒な名前をした、メロンのお気に入りの愛刀である。

 刃の全面にさらに無数の小さい刃が並んで、高速回転するそれは、元は工房での材料加工に使われたもので、金属をも切り裂く切断力を持つ。

 

 

 リオレウスがそのハンターの姿を、もとい敵意を認め、バカでかい咆哮を放った。栗色の髪をはためかせその音圧を耐えきったメロンが、飛竜に向かって走っていくのを見届け、俺も茂みから飛び出し握りしめた弓に矢を番える。

 

 銘は「覇弓レラカムトルム」、覇竜アカムトルムの素材で作られた弓。

 覇竜との死闘を思い出させる、下顎から伸びる2本の大牙を模した上弭から、それぞれ弦が伸びて交差し、合流して1本の弦となって矢を強く打ち出す強弓である。

 

 弦を思い切り引き絞り、番えた4本の矢を同時にばしゅんと打ち出す。矢じりが空気を裂き、乱舞する双剣使いの頭上を掠めてリオレウスの頭へ横合いに突き刺さり、その巨体を1歩怯ませた。

 

 

「メロン! やりすぎて斃すんじゃないぞ!!」

 

「わかってるよー!」

 

 

 そう答えつつ、踊るようにリオレウスの攻撃を躱しながら、ゴリゴリ甲殻を削ってリオレウスの肉を削っている。本当に分かってるのか……

 

 

 今回の相手は下位モンスターなのでかなり余裕がある。

 一口にリオレウスと言っても、生きた年数やくぐり抜けた修羅場の数によって個体ごとにかなり強さが異なり、一括りにはできない。そのためギルドでは下位、上位、G級の3段階にランクを分け、その強さに見合ったハンターのみに狩猟を許可して、実力に見合わないモンスターとの戦闘による万が一の事故を防いでいるのだ。

 俺たちの主戦場であるG級モンスターは、このリオレウスのように簡単な相手ではない。成熟した重殻は生半可な矢では傷一つつかないし、戦い慣れた老獪な動きで、フェイントまで仕掛けてくる相手もいる。

 

 それに比べて下位モンスターの攻撃は一辺倒で見切りやすい。息を吸う予備動作を見極めて、飛んできた火球を躱しつつ、お返しに二の矢を放つ。

 

 

「うわぉ! あぶないなぁ! わたしに当たるとこだったよ」

 

「狙い通りだぞ、この程度で狙いがブレたりはしない」

 

「へぇ、カッコつけちゃって。怖いから気を付けてって言ったでしょ?」

 

「かっこつけてないわ!! わかった、お前の近くは狙わないようにするから!」

 

「はいはい、頼んだよー」

 

 

 メロンの脇腹の一寸先を通って、火竜の腹へ突き刺さった矢にいちゃもんをつけられたが……当てなければよくないか……? 

 前にそう言ったら、「そういう話じゃない」と引き気味の顔で怒られてしまった。「アスカは女心が分かってない」とも。

 

 

 会話する余裕も持ちつつ、順調にダメージを与え続けていると、リオレウスの身体に早くも目立つ傷がついて、血が流れ始めてきた。メロンの怒涛の攻めが甲殻を剥がして、ギロチンから漏れ出る電気も効いている。おかげで弓矢での狙撃もしやすい。

 

 リオレウスの振り回した尻尾を、うつ伏せになって潜り抜けるメロンから離して、首元に矢を射る。

 

 こうして沢山血を流させて暴れさせ、相手をじわじわと追い詰めていくのがモンスターの狩猟というものだ。今回は捕獲なので、相手の残りの体力を見極めなければならない。

 

 撃って避ける、撃って避けるの繰り返し。モンスターの戦闘は長引くことが多いので、いかに被弾を減らすかが重要だ。

 さらに攻撃を浴びせること数分、リオレウスの動きがだんだん鈍くなってきた。かなり早いが、恐らくそろそろ頃合いだろう。

 

 

「メロン! 一旦攻撃やめるぞ!」

 

「オッケー!」

 

 

 ばっとリオレウスの間合いから離れたメロンの横に並んで、しばしその竜と睨みあう。

 リオレウスはふしゅうと火の粉交じりの息を吹きながら俺たちを睨みつけていたが、こちらに攻撃の意思がないことを見て取ると、背を向けて歩き出した。少し足を引き摺っている。

 そのまま広いところに出て、翼を広げて飛び立った火竜を、双眼鏡で見送った。

 

 

 

 

(……寝てるね)

 

(ああ、ぐっすりだな)

 

 双眼鏡で捉えた竜の寝床へ辿り着くと、つむじ風のような寝息を立てながら、リオレウスが眠っていた。声で起こさないよう小声で喋る。

 

(じゃあ、罠を仕掛けてくれ)

 

(オッケー)

 

 抜き足差し足でメロンが茂みから出ていって、シビレ罠をリオレウスの足元に仕掛けた。

 シビレ罠の調合に使われる雷光虫は、刺激を与えると電気を放つ習性を持つ。通電したモンスターが痙攣しているうちに、捕獲用の麻酔薬をたんと吸わせて眠らせる算段だ。平常時のモンスターは麻酔薬を吸わない。

 

 バチバチッと空気の焦げる音と共に、罠が発動して、リオレウスの体に稲妻が走る。

 

 

「アスカー! やっちゃってー!」

 

「任せろ! お前も一緒に吸うなよ!」

 

 

 捕獲用麻酔玉をリオレウスの顔面目掛けて投げ込むと、ピンク色の煙が巻き上がり、渦巻きながらその体内へ吸い込まれていって、ずしん、とその巨躯を倒れこませる。一瞬の後、戦闘中の荒い鼻息とは違う、穏やかな寝息が聞こえてくる。眠った。

 

 

「やったか……?」

 

「アスカ、それやってない時に言うセリフだよ」

 

 

 完全に眠っているかを確認していたメロンにツッコミを受けた。

 

 ともかく、クエスト達成だ! 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、こんなに傷つけて良かったのかな。ペットにするんでしょ?」

 

 

 狩猟が終わってその場で少し休憩をとる。

 ギルド職員のアイルー達に縄でぐるぐる巻きにされている、生傷の目立つリオレウスを体育座りで見つめながら、メロンが今更なことを言い出した。

 

 

「ああ……いいだろ、別に。そんな事言われてないし」

 

 

 俺も隣でしゃがみこんで、せっせと働くアイルー達を見ながら、無責任に返す。

 支給品をボックスに入れてくれたのもこのアイルー達なんだろうか。こちらが戦闘不能になった時にベースキャンプまで運んでくれるアイルーは、また別の管轄だと聞いたことがある。彼らはギルドに雇われた、それぞれの地域の先住のアイルーらしい。誰がどう交渉してその仕事を請け負ってもらったんだろうか……

 

 そんなことをぼんやり考えながら台車に乗せられるリオレウスを見ていると、隣から改まった声色で話しかけられた。

 

 

「ねぇアスカ、やっぱりリオレウスをペットにするなんて心配だと思わない?」

 

 

 横を見ると、少女の翡翠色の瞳と目が合う。今更何を言ってるんだ。

 

 

「心配ってお前……俺は最初からそう言ってただろ」

 

「だよね? だから狩猟したわたし達には、この件を見届ける責任があると思うんだ」

 

 

 なにか不穏な予感がする。こいつがこういう前置きをする時は、大抵ろくなことを言わない。

 

 

「何が言いたいんだ」

 

 

 メロンはぱっちりした目でいたずらっぽく笑い、一つ息を吸って、俺の恐れていた面倒事を口にした。

 

 

 

「行こうよ、王国。監督としてさ。わたし第三王女さまに会ってみたい!!」

 

 




第三王女が出ずに終わってしまった…

後編は明日投稿します!
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