金 獅 子 を 狩 っ て 参 れ !   作:水煮

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王国や王女の名前等はこちらで決めさせていただきました。それ以外はなるべく原作設定に合わせようという、努力はしています。


わがままな第三王女:リオレウス捕獲大作戦 後編

 

 メタペルト王国。ココット村から東へ1日行った先にある、城壁に街を囲まれた小国である。

 

 むかしむかし、大陸全土を埋め尽くすべく領地を広げていた、シュレイド王国という国があった。かつて栄華を極めたシュレイド王国はしかし、黒龍の災厄に見舞われ、王都を失い東西に分裂した。政権は大混乱に陥り、広げすぎた辺境領地の統治など当然行き届かなくなる。王国を見限った辺境は、複合、分裂を繰り返し、いつしかそれは国家となって、統率を失った土地にパズルのように収まっていった。

 ここメタペルトは、そのうちのひとつの国家であり、小さいながらも地形に恵まれた、豊かな国である。

 

 その王城へ続く、丁寧に敷き詰められた石畳の街道。布が被せられ中は見えないが、よほどの大荷物を詰んでいるのか、飛竜の体長程もある大きな荷車がガタガタと街道を走る。

 その荷車の端に俺たちは座っていた。

 

 

 

「大きい街だねー! お城が見えてきたよ!」

 

「ああ……本当に王城まで届けられるとはな……」

 

 

 この国へ来ることになった元凶である相棒のハンター少女メロンは、物珍しそうにこちらを見ている市民たちに手を振って、すっかり観光を楽しんでいる。

 

 王国行きを決意したあと、ギルド職員のアイルーたちに俺たちも依頼元までついて行っていいか聞いたところ、いいニャとの事で、リオレウスと一緒に運ばれることになった。

 捕獲されたモンスターは1度ミナガルデにあるギルド本部に運ばれ、そこで依頼者に引き渡される。もしかしたらここで誰も受け取りに来ないのではと思ったが、しっかり王国の運送業者がやって来ていた。

 業者にモンスターを見張るためついて行っていいか尋ねると、彼もその点は心配だったようで、是非にとお願いされ、丸一日荷台で揺られて、はるばる王国まで来ることが出来てしまったという訳だ。

 

 街並みの向こうに、王城の蒼いとんがり屋根が姿を覗かせる。ココット村の集会所何個分もあろうかという白亜の王宮が、目の前に迫ってきていた。

 城壁を回り込むようにして、物資の搬入路と見られるところから中庭に入る。中庭はとても広く、花壇や芝生があるだけでなく、大きな池や樹木までもが立ち並んでいた。

 

 

「到着しました」

 

 

 業者が一際広い芝生の上に荷車を止めた。礼を言って荷台から飛び降り、長旅の疲れを誤魔化すように大きく伸びをする。

 ふと、向こうの木陰の方から視線を感じた。

 

 視線の元にある小さな森とも言える木々の方を見ると、その特段大きな木の根元に、仁王立ちをした子供のような人影が見える。

 腰あたりまで伸びた、ゆるく波打つブロンドの髪。胸元から傘のように広がる、燃えるような赤色のドレス。整った鼻筋から覗くクルミ型にぱっちりと開いた碧眼は、竜玉をも思わせる生命力に揺らいでいる。

 

 

「あれが……第三王女か……?」

 

 

 思わず零したつぶやきにメロンが何か返すより早く、その少女が威勢よく口を開いた。

 

 

「わらわのための働き、ご苦労じゃった!!!」

 

 

 

 

 

 少女がこちらに駆け寄って業者に声をかける。

 

 

「リオレウスを連れてきたのじゃな? 褒めて遣わす! さっそくわらわに見せてみよ!!」

 

「え、ええ。もちろんですとも」

 

 

 勢いに押され気味の業者が、荷車に覆いかぶさった布をばっと引き剥がすと、綺麗に整えられた庭に不釣り合いな、竜の寝姿が露わになった。

 

 

「ほぉぉお!! これがリオレウスか! 随分と大きいのぅ!!」

 

 

 少女は目を閃光の如く輝かせて、寝ている火竜の周りをぐるぐる回ってその姿を隅々まで眺め、頭やしっぽを触ってみたりと大興奮だ。

 

 

「わらわのペットにふさわしい威容じゃ。特にこの翼などは……」

 

「あの、王女様……少しよろしいでしょうか……?」

 

「なんじゃ、申してみよ」

 

「こちらの方々をご紹介したく……」

 

「む? なんじゃこやつらは」

 

「こ、この火竜を捕獲されたハンター様たちでございます」

 

 

 大はしゃぎの第三王女を呆然と見ていると、放置された俺たちを見かねた業者に申し訳なさそうに紹介された。

 ようやくこちらに気がついた王女が、ふんと鼻を鳴らしてまじまじと俺達の顔を覗き込む。

 

 

「お前たちがこのリオレウスを捕獲したのじゃな?」

 

「え……ええ。その通りです」

 

 

 そう答えると、王女が依然こちらを観察したまま黙り込んでしまった。何か反感を買ってしまったのかと内心慌てていると、その心配は無用だったようで、にかっと笑って言い放つ。

 

 

「よくやってくれた!! わらわはメタペルト王国が第三王女、セレスティア=ディル=ペルトレム。そなたらの名はなんじゃ、申してみよ!!」

 

 

 王女……セレスティアが、腰に手を当て胸を張り、天真爛漫に名乗り口上をあげた。とても上品な振る舞いとは言い難いが、不思議と王族らしい風格がある。

 

 

「お……私は、アスカと申します」

 

「メロンです! よろしくお願いします!」

 

「アスカに、メロンじゃな? 覚えておこう!」

 

 

 俺が思わず「俺」と言いかけて、失礼かと慌てて言い換えたと言うのに、横の少女は言葉遣いなどお構い無しに元気に挨拶していた。王女は特に気分を害することもなく、むしろこちらに興味津々といった様子である。

 

 

「そなたらはハンターなんじゃろ? 強いのか? そのリオレウスとの戦いはどうじゃった?」

 

「まっ……お待ちください王女様」

 

「なんじゃ」

 

「このリオレウスをペットにすると聞いたのですが……本当ですか?」

 

「ああ、その通りじゃ」

 

 

 王女は何か問題があるか? と言う目で肯定の意志を示す。やっぱり手違いとかじゃないのか……

 

 

「あの、リオレウスは凶暴なモンスターですから、ペットにして飼うことは出来ないと思うのですが……」

 

「むぅ、出来ぬ事があるか!」

 

「それじゃあどうやって飼うつもりですか……?」

 

「どうやってとはなんじゃ。わらわちゃんと餌はやるぞ?」

 

「いや、見たところ檻とかの用意も無いようですし……」

 

「檻? そんなものに入れては可愛がれんではないか。放し飼いではいかんのか?」

 

 

 放し飼い。恐ろしく不穏な単語が聞こえた気がする。

 

 

「ダメに決まってますよ!」

 

「なぜじゃ」

 

「なぜって……リオレウスが暴れて人を襲ったらどうするんですか! そうでなくても逃げ出しますよ!」

 

「そんなことにはならん! わらわが直々にしつけてやるから心配無用じゃ!」

 

 

 ……やばい。思っていたより事態は深刻かもしれない。世界にはモンスターに乗って共に戦う部族の伝説もあるにはあるが、基本的にモンスターが人間に服従することは無い。このまま王女がリオレウスをしつけようとして、余計に暴れて大惨事になるかも……。……いっそ殺すか? いや王女じゃなくてリオレウスを。

 

 どうしようと半ば助けを求めるようにメロンを見ると、俺が困っているのが楽しいのか、ニコニコの笑顔で今のやり取りを見ていたらしく、「頑張れ! わたしは知らない!」とでも言うように目配せしてきた。

 それならばと王女にリオレウスを運ぶ依頼をされたであろう業者を探すが、音もなく門の外へ出ていく後ろ姿が見える。逃げられた。

 バシバシと音がするので振り返ると、第三王女が背丈の倍程の長い棒を振りかざしてリオレウスをぶっ叩いている。

 

 え!? 

 

 

「ちょっとちょっとちょっと!!」

 

「今度はなんじゃ」

 

「何してんですか! リオレウスが起きるでしょ!」

 

「起こしているんじゃから当たり前じゃろう」

 

 

 第三王女はバシバシをやめないまま、何を言っているんだという表情で答える。とにかく一旦やめさせようと、王女の腕を掴もうとした手をするりと躱されて、行き場を失った手が空を握る。

 

 

「待って!! 1回待って! やめてください!」

 

「むぅ、仕方ないの」

 

「はぁ……ありがとうございます……」

 

 

 取り抑えようとしても宙に舞う羽のような動きでひょいひょいと避けられる。捕まえるのを諦めて今度は口で頼み込むと、ようやく手を止めてくれた……。どこから持ってきたんだその棒。

 

 

「あのですね、リオレウスというのは非常に凶暴なモンスターでして、人間が従えることは……」

 

「可哀想じゃし縄をほどいてやるか」

 

「聞いてねぇし!」

 

 

 ダメだ、この王女止まらない! もう無理だ、助けてくれとメロンに必死で目配せすると、やれやれという感じでようやく口を開いてくれた。

 

 

「王女様、リオレウスの身体を見てください。傷だらけでしょ?」

 

「確かによく見れば……随分と傷ついておるの」

 

「リオレウスは色んなモンスターやハンターとの戦いでボロボロになってるんです。よかったら寝かせてあげてくれませんか? 縄を解こうとしても起こしちゃいます」

「なるほど……これもわらわのペットのためか……」

 

 

 第三王女がしゅんと大人しくなる。見事に言いくるめてしまった。リオレウスの傷はほとんど俺たちのだけどな。

 

 

「ありがとうございます、王女様。そうだ、向こうでお話しませんか? リオレウスとの戦いの話もしましょう!」

 

「そうじゃな! わらわもそれがいいと思う!」

 

 

 ほらアスカも、と小声で手招きされ、木陰に入って3人で木の根に座る。なんか、メロンの方が大人だな……2つも下なのに……

 

 

 

 

 

 3人で並んで色んな話をした。リオレウスの狩りの話、今までに出会った強敵の話、持っている武器を見せたりもして、そのどれも第三王女はキラキラした目で聞いていた。

 王女の話も聞いた。聡明な姉、第一王女の話。勇敢な兄、第二王子の話。今回のクエスト依頼の顛末も聞いたが、なんと第三王女自ら城を脱走してギルド支部へ依頼しに行っていたことが発覚した。従者に依頼を出させようとしても今回のようなことは常習なので、検閲され止められてしまうらしい。

 少し仲良くなったところで、話は王女を説得する段階に入っていた。

 

 

「王女様、やっぱり勝手にリオレウスを連れてきては危ないですよ」

 

「むぅ……でもわらわこいつを飼いたい……」

 

「お父さんお母さんも困ってしまいますよ? 周りの人が怖がって近づかなくなるかもしれません」

 

 

 現在リオレウスには、誰かに見つかってパニックにならないよう、行きと同じように布をかぶせてある。

 懸命な説得の末、王女はようやく聞く耳を持ってくれたようだが、先程の溌剌とした様子から一転し、俯いて小声でわがままを言っている。

 

 

「逃がしてあげましょう? 俺たちが責任もって連れて帰りますから」

 

「そうか……仕方ない……。確かに、民を脅かすわけにもいかんしの……」

 

 

 王女はため息をついて、渋々決意を固めてくれた。心根は優しい子のようだ。ほっと胸をなでおろす。

 

 

「わかった、こいつを飼うのは諦める。さらばじゃ、ライオネル……」

 

 

 惜しむようにリオレウスの方に歩いていくのに、少し距離をとってついて行く。いつの間にか名前まで付けてたのか。王女のあまりにもしょんぼりした表情を見て、ちょっと可哀想に思えてさえ……

 

 バサバサバサッ

 

 

「「動いた?!」」

 

「ライオネル!!」

 

 

 ハンター達が焦りの、王女が喜びの顔で思わず叫ぶ。麻酔が切れた?! 

 

 

「アスカ!! 麻酔玉は?!」

 

「あと2つしかない!! 調達も間に合わない! 討伐するぞ!!!」

 

 

 武器はさっき王女に見せていたせいで後の木陰だ。走って取りに戻るが、後ろで爆音が聞こえ、パチパチと炎の音が続く。

 リオレウスを縛っていた縄が、火球に焼かれ身体ごと燃やし切られてしまった。

 

「クソっ」

 

 ようやく弓を手に取って構えるが、既に羽を広げて翔ぶ体勢に入られている。メロンも間に合わない。ここで逃がしてたまるか……!! 

 

 心臓を貫く気で弓を引き絞る。チャンスは1度。一撃で仕留めるべくギリギリと音を立てる弦を離そうとしたその瞬間、ありえないものが視界の端に映った。

 

 宙に舞う深紅のドレス。

 第三王女がさっきリオレウスを叩いていた棒を地面に突き立て、その棒を大きくたわませて反動で勢いよく空中に躍り出た。その高さは、既に3メートル以上上空にいたリオレウスに余裕で追いつく程で、そのまま火竜の背中に投げ出されて掴まった。

 

 

「ええッ?!!」

 

「行くのじゃ!! ライオネルーーー……」

 

 

 握りしめた矢を思わず明後日の方向へ飛ばす。リオレウスが城壁の向こうへ滑空して王女の言葉尻と共に遠ざかる。

 

 

「……とっ、とにかく追うぞ!」

 

「はいよ!」

 

 

 騒ぎを聞き付けた近衛兵数人が大慌てで城に戻っていくのが見える。直に軍隊が動き出すだろう。俺たちは竜が飛んで行った方向に全力で駆けていった。

 

 

 

 

 街に出ると、広場の上空でリオレウスが暴れている。背中に張り付いた異物を振り落とそうとしているのだ。

 

 

「ふふふっ、ライオネルっ、あまりじゃれるでないわっ」

 

 

 耳をすませるとそんなはしゃぎ声が聞こえてくる。何とか振り落とそうとリオレウスがもがく遠心力をものともせず、子犬とじゃれるかのような笑顔でがっしりと背中に掴まる王女のせいで、弓で撃とうにも撃てない。なんで無事なんだよ。

 暴れ狂うリオレウスが、めちゃくちゃに翼をはためかせて、家屋に背中から激突した。石壁の破片が飛び散って、屋根瓦がガラガラ崩れ落ちる。王女は咄嗟に腹側に回り込んで無事だったようだが、住民はパニックに陥り、広場は逃げ惑う人々でごった返している。

 

 

「メロン、行けるか?」

 

「わかってるよ!」

 

 

 王女がまとわりついている以上、弓を射ることは出来ない。双剣ならば誤射の危険もないだろうとメロンに声をかけると、彼女も同じ考えだったようで既に走り出していた。

 俺のできることといえば王女に降りてもらうよう頼むことくらいだ。

 

 

「王女様ーー!! 離れて下さーーい!!」

 

「いかーん!! わらわは家を壊したこいつを叱らなければー!!」

 

 

 ダメだ。聞く耳を持っていない。リオレウスが体勢を立て直して再び飛び立つ。崩れた家をメロンがよじ登るが間に合わない。

 

 リオレウスがやけくそのように火を吹く予備動作に入っている。まずい、周りはまだ逃げ遅れた人が沢山いる。最悪の想像をしてゾワッと鳥肌が立つ。半ば反射的に、転んでリオレウスの射線に入ってしまった子供を庇いに……

 

 

「バカもーーーん!!!」

 

 

 ごすッ

 喰らう覚悟を決めた火球の変わりに、鈍い音が届いた。

 何が起こったのか音の方向を見ると、なんと第三王女がリオレウスの頭までよじ登って、その眼球を握りこぶしで強かに殴りつけていた。

 リオレウスが身体を仰け反らせて、空中でバランスを崩し、地面に墜落する。

 王女は墜落の直前にリオレウスから飛び降りて、きれいに受け身を取って離れた位置に着地した。今しかない……! 

 

 

「メローン! 王女を抑えてろ! ここで仕留める!」

 

「がってん!!」

 

 

 ありったけの力で弓を射る。一度に4本の矢を連射、さらに剛射でもう4本と、リオレウスの頭目掛けて流星群のように降り注がせる。矢が次々とリオレウスの頭殻を打ち砕き、頭蓋骨にヒビを入れる。

 

 

「あーーー!! 何をするんじゃ!!!」

 

 

 叫び声を上げて今にも飛び込まんとする王女を、メロンが羽交い締めにするのが見えるが、お構い無しにさらに矢を連射する。地べたでもがき苦しむリオレウスの頭が矢羽根で見えなくなるほどになって、遂にリオレウスが力なく首をもたげて、弱々しい断末魔と共に力尽きた。

 討伐、成功だ。

 

 

「あーーー……疲れた……」

 

 

 メロンから開放された王女がリオレウスに駆け寄るのを見て、遅れて到着した兵士たちの鎧が鳴らす音を聞きながら、俺は石畳に足を投げ出して座り込んだ。

 ようやく一安心だ……

 

 

 

 

 

 

 その後、保護された第三王女と一緒に俺たちは兵士の詰所に連れていかれ、事情聴取を受けた。初めはこちらを疑っていた兵士たちの目は、俺たちが事情を話すにつれて、呆れと同情に変わっていった。彼らもいつも第三王女に苦労させられているんだろう。

 

 王女はリオレウスを討伐したことを怒ってはいたが、それ以上の剣幕で周りの大人たちが怒るので、すっかり気分が萎えてしまったらしく、ムスッとした顔で大人しく説教を受けていた。

 ちなみにリオレウスを叩いていたあの棒、普段城壁を棒高跳びで飛び越え脱出するために使っていたものらしい。棒を没収できる立場にある人間は、王女が自力で宙を舞っているとは到底信じないので、みすみす脱走を許していたんだとか。

 

 第三王女の姉である第一王女も心配して駆けつけてきた。泣きそうな顔で妹を抱きしめて、自分を大切にしなさいと何度も繰り返すので、さすがの第三王女も反省の色を浮かべていた……のだが、数分後にはもとの元気を取り戻して、リオレウスの処遇を見に行こうと外へ出たところを兵士に連れ戻されていた。

 俺たちはと言うと、下手に長居して思わぬ罪に問われては適わないので、そそくさと退散して今はココット村行きの竜車を待っている。別れ際に王女が「また依頼するからよろしく頼む!」と言っていたのがとても心残りだ。

 

 

「わたしはもうちょっと遊んでいきたかったなー」

 

「勘弁してくれ、家が壊れたり結構な損害が出てるんだぞ。こういうのは早く逃げるに限るんだよ」

 

「別に逃げる必要ないと思うんだけど……」

 

 

 メロンがぶつくさ言っているが無視だ。当事者がいなければ有耶無耶になることだってある。

 念のためこの街のギルドの人にも、俺たちのした事への追求を避けるように頼んでおいたが、職員さんが感動しているようで凄く協力的だったのが引っかかる。いい人なんだろうか。

 通りを歩く人々の話題は先程の騒ぎの話で持ち切りらしい。鎧を着ている俺たちを見る目が痛い。

 

 竜車の用意が整うのを見て、メロンを引きずって早々と出発する。目的地はココット村。ほんの数日で恋しくなった愛しのマイホームに思いを馳せ、俺たちは王国の喧騒を背にして、草原を走る荷台に揺られていった。

 

 

 

 ___________________________

 

 

 

 メタペルト王城、謁見の間。

 豪奢な燭台の炎に照らされた高貴な身なりの男が2人、神妙な面持ちで話し込んでいる。

 

 

「……報告、ご苦労だった。あのハンター達には十分な謝礼を払わなければなるまい。それと感謝状の発行準備も……」

 

「それが陛下、例のハンターは既に国を出たとの事でして……」

 

「なんだと? しかし娘のわがままに付き合わせて、被害を最小限に抑えた功績を称えん訳には……」

 

 

 真っ白な髭をたくわえた壮年の男が、その髭を軽くつまみながらしばらく口ごもる。

 

 

「……仕方ない。ではギルドを通して謝礼を支払っておけ」

 

「それが、ギルド職員が言うには『大したことはしていないので、謝礼はいらない』というようなことを言っていたらしく……」

 

「何?! なんという傑物であろうか!! こちらが褒美を与えるのは野暮というものであるな……その者達の名はなんと言うのだ」

 

「女の方は分かりませんでしたが、男は恐らく、”覇道のアスカ”かと」

 

「む、聞いたことがあるな……確か齢18にして、かのアカムトルムを単独で討伐したと言う」

 

「その通りです」

 

「そうか……その覇道のアスカが、このような謙虚な人物であったとは。いずれまた依頼をすることもあるだろうな」

 

「はい、わが王国からも率先して依頼を出すことにしましょう」

 

「うむ、それがよいだろう」

 

 

 話し合いを終えた男たちは、その立派な若者への敬意を胸に、どちらからともなく笑いあった。

 

 




「人望厚い国王」と「わがままな娘を持つ国王」は別人という解釈で書いています。

次回!酔狂な美食家が登場!
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