金 獅 子 を 狩 っ て 参 れ !   作:水煮

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どんどん投稿期間が開いていっています。こんな筈じゃないのに…

今回は真面目回です。



火の国の姫:火山炎上! 前編

火の国の姫

 火の神はお怒りになっている! 

 地は絶えず震え、山は火の涙を 

 流している! 神の怒りを静める

 為の生贄など無意味だと老人達 

 に分からせたい。その為に3頭の

 巨竜を鎮めて欲しいのだ…頼む! 

 

 火山、炎上。

 爆鎚竜ウラガンキン、炎戈竜アグナコトル、蒼火竜リオレウス亜種の狩猟。全てG級個体相当、ギルドの先遣隊からそう報告があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生贄じゃあ……神への生贄を捧げるのじゃ……」

 

 

 火山の程近くに居を構える、火の国と呼ばれる国家がある。ただし国家と呼ぶべきは過去の栄光であり、今や国力は衰え、人口は半減し、国という呼称はほとんど形式上のものとなってしまっていた。

 その火の国の中央宮、屋根瓦が半壊したその建物の中で、皺に刻まれた老人たちが祭壇に向かってしきりに祈っている。松明がゆらゆらと照らすその老人の群れは、何かおぞましい雰囲気すら漂わせていた。

 

 

「祈るのをやめろ! 生贄など無意味だと、まだ分からんのか!」

 

 

 ばんと扉が開き、石のように縮こまって祭壇に向かう老人たちに手を払って、少女が歩いて来る。艶やかな漆黒の髪に炎の色を映し、豪奢な巫女服とでも言うべきか、何層にも重なった装束を身に纏った、美しい少女である。

 老人の1人が姫に気づいて、震える声で話しかける。

 

 

「おぉ……姫様……生贄の用意は出来ましたか……?」

 

「馬鹿者、生贄などこの私が許さぬと言ったであろう」

 

「生娘を……そうじゃ、成人前の娘を……獣たちの皮を纏わせて……火口へ落とすのじゃ……五十年前もそうした……」

 

 

 老人の遠くなった耳に、姫の声は届かない。このやり取りももはや火の国にとって日常となってしまった。姫はため息をひとつ着いて、鋭い声で本来の用件を言い放つ。

 

 

「……狩人へ依頼をした。じきに竜どもは討伐されるだろう。お前たちの言う生贄とやらが無意味だと知らしめてみせる」

 

 

 それだけ言ってその場を去ろうとする姫の声は、今度は老人達の耳にも届いたのか、皺の一部となっていた目をカッと見開いて、わなわなと口を開く。

 

 

「なんと! 使徒を殺すと言うのか?! 偉大なる神の尖兵を!! かような真似をしたらば、すぐさま神の怒りを買い、国は炎に飲まれるぞ!」

 

「五月蝿い! お前たちの神は、お前たちに一度でも報いたことがあるのか?!」

 

「神に対してなんじゃその言い草は……! そうじゃ、姫様が贄となれば良い!! さすれば神も怒りをおさめようて!」

 

「何を……言い出すかと思えば……!! 耄碌したか爺共!」

 

 

 棒のような腕を振りかざして、興奮した老人達がワラワラと姫に群がり、その手を着物の袖で払われる。

 彼らの語るおぞましい価値観は、そのまま彼らの生きてきた時代を物語っている。姫もそれを理解しているが、だからと言って老人共の言いなりになるのを許せる訳もなく、抗議の声を振り払って、祭壇を後にした。

 

 

「頼む……! ハンター殿……!」

 

 

 焦りの声を漏らして、ドンドンと燃えかけの廊下を歩く。外を見ると、火の山はいつもの通り泰然と、怒りの炎を吹き荒らして、どうどうと黒煙を燻らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、火山近辺のその上空。

 アスカとメロンのハンターコンビは、ギルド所有の飛行船に乗って、まさに火の国へ到着しようという所だった。

 

 

「火山が見えてきたぞ、気合い入れろよ」

 

「もちろん、わたしはバッチリだよ。アスカこそ」

 

 

 二人が火山へ赴くのは約二週間ぶり、G級クエストを受けるのは実に一ヶ月ぶりのことである。それだけG級に分類される個体は数が少なく強靭であり、それを三頭一斉に相手取るというのは、二人にとっても初めてのことだった。

 

 

「なんか、アカムトルムの時のこと思い出すね」

 

「ああ、あんま思い出したくも無いけどな……」

 

「はは……あ、建物見えてきたよ。あれが火の国じゃない?」

 

「本当だ」

 

 

 火山から離れた森の中に、家々が建ち並ぶ大きな集落があった。集落の周りを立派な廃墟が数キロにわたって取り囲み、その国の凄惨な現状を物語っている。

 

 元は公園だったのか、一際開けた場所に飛行船を停めて、人のいる方へ歩いていく。簡易的な門が置かれている、火の国の現在の入口と見られる所へ着いたアスカ達を、妙齢の女性が出迎えた。

 

 

「よくお越しくださいました。討伐依頼を引き受けて下さったハンター様ですね」

 

「あ、はい」

 

「こちらへどうぞ」

 

 

 女性に連れられて、火の国の通りを歩く。崩れた瓦屋根が目立つ、立派な建物が見えてきた。

 

 

「こちらで姫様がお待ちです」

 

 

 建物の中に入り、特別大きな扉の前に案内される。豪華に飾り付けられた扉を言われるがままに開くと、中にいたのは、豪奢な着物を着た、美しい黒髪の少女だった。

 

 

「お主らが依頼を受けたハンターか」

 

「はっ、はい。その通りです」

 

「そうか。私はこの国の姫である、ナユタというものじゃ。お主らの名を聞いても良いか」

 

「はい、私はアスカと言います」

 

「メロンです。よろしくお願いします」

 

 

 厳格な雰囲気のせいかメロンの声にも緊張を感じる。ナユタと名乗った姫はひとつ頷き、早速だが、と前置きをして、とつとつと今の火の国について語り始める。

 

 

「ここに来るまでに見たと思うが、我が国は既に半壊してしまっている。……私のせいなのじゃ……鉱業を指導し、国を拡げすぎたあまりに、火の神の怒りを買ってしまってな……国は半壊、採石に頼った経済も回らず、立て直しも出来ない……」

 

 

 火の国はその暑さや過酷な環境により、作物も育たず自給自足が難しく、人々は貧困に喘いでいた。

 そこを豊富な鉱山資源に目をつけ、ハンターズギルドや商業連合を相手に一人で立ち回り、その手腕で国を豊かにしたのがこのナユタなのだが、国の衰退は拡げすぎた坑道がモンスターの縄張りを刺激してしまったのが原因でもある。

 彼女がいなければとうに国が滅びていてもおかしくないのだが、本人は自分の責任だと大層気に病んでいるという訳だ。

 姫は一度言葉を止めると、狩人たちに向かって深々と頭を下げた。

 

 

「アスカに、メロン。……頼む。どうか、我が火の国を救ってくれ」

 

「そっ、そんな……頭を上げてください!」

 

「我が国の問題を他者に預けてしまうのだ。これ位の義理は通させて欲しい」

 

 

 姫が礼をした姿勢のままそう言う。初めは狼狽えていたアスカは、一向に頭を上げようとしない姫を見て、覚悟を決めた顔で、咳払いをして口を開いた。

 

 

「……確かに、聞き届けました。必ずモンスターを討伐すると誓います」

 

「……ありがとう」

 

 

 長い礼を終えた姫が頭を上げ、神妙な面持ちで、まっすぐアスカ達を見る。火山がまたひとつ鳴った。

 

 

 

 

 

 上位やG級モンスターが巣食うフィールドは、そこに生息する小型モンスターも強靭かつ凶暴で、人間が近づくことさえ難しい。火山には通常飛行船で向かうが、空中で襲われるとひとたまりもなく、危険の少ないルートを無理矢理進むしかないため、ベースキャンプにハンターを届けることすらままならないのが実情だ。

 アスカ達は火山中腹の、流れる溶岩が目立ち始めるゴツゴツした岩場に降ろされた。凄まじい熱気に当てられ、慌ててクーラードリンクを飲む。

 

 

「姫から聞いたのは丁度この辺りじゃないか?」

 

 

 辺りを見回すと、波打つ溶岩がそのまま固まったような、谷状の地形が目に入る。姫の話では、この辺りまで採掘に来ていた所、モンスターの縄張りに入ってしまったらしい。

 

 

「アスカ」

 

「どうした」

 

「これ、ばくだんいわだよ。近くにウラガンキンが居る」

 

「本当だ。気を付けろよ、これを出して戦った相手も近くにいるかもしれない」

 

 

 辺りを散策していたメロンが、ヒビから赤い光をゆらゆらと漏らす岩を指差している。ばくだんいわは彼女オリジナルの呼称であり、一般には火薬岩と呼ばれるそれは、ウラガンキンが戦闘を行う際に爆弾のように撒き散らして使うものだ。

 

 

「アグナコトルあたりがいるかも……」

 

「アスカ!! この音

 

ドッガァァン!!!!!! 

 コンマ数秒前まで二人が立っていた地面を、猛スピードで爆走してきた巨大なハンマーが岩盤ごと叩き割る! 

 粉砕した石礫の中から現れたのは、黒く光る巨大な顎を引っ提げた、金の装甲を纏う獣竜、爆鎚竜ウラガンキンそのもの。

 パーツが中央に集まったその顔はどこか人間臭く、まるでこれから始まる戦いを期待しているかのように、口元が笑っているようにも見える。

 

 間一髪で飛び退ってその一撃を躱した二人が、岩盤の揺れで足をもつれさせた。

 

 

「早速お出ましか……」

 

「援護は任せたよ」

 

 

 ハンター達は狩猟対象を認め、黒光りする覇弓と、銀に光る鎖鋸をそれぞれ背中から抜き取る。

 爆鎚竜は戦闘態勢に入る二人を睨みつけ、開戦の狼煙のように咆哮を上げると、ガツンガツンと二度顎を振り下ろした。

 

 即座に間合いを詰めるメロンを迎え撃つように、ウラガンキンがタックルを仕掛ける。面を潰す大質量のタックルを、メロンはその華奢な体躯で足元の僅かな隙間を潜り抜け、がら空きの反対側にギロチンを突き刺す。

 ギャリギャリと凄まじい量の火花を散らして、ウラガンキンの鋼鉄の鱗に傷を入れるが、ダメージを与えるには至らない。

 

 

「だぁぁ!! 硬っっ!!」

 

 

 反作用で弾き飛ばされたメロンを殴りつけようと、ウラガンキンが体ごと石柱のような尻尾をぶん回す。

 よろけた姿勢のまま飛び後転を決めるメロンの、すぐ前を掠めるウラガンキンの胴体に、アスカの放った四本の矢がかち当たるが、僅かにヒビを入れたところで、矢の強度が負けてバキンと折れた。

 

 

「チッ……」

 

 

 ダメージが通らない。思わず舌打ちするアスカに目掛けて、ウラガンキンが頭を振り上げたかと思うと、体を車輪のように丸めて恐ろしいスピードで転がって来た。

 横に大きく跳んだアスカのすぐ隣を、猛烈な風と共に車輪が転がる。勢い余ってもう三十メートル転がり、二足歩行に戻って唸り声を上げる大車輪。いや、戦車の履帯とでも言った方が正しいか。アスカがさらに矢を放つが、突き刺さるまでには至らない。

 

 

「どうする?! このままじゃ倒せないよ!」

 

「いや、このままでいい!! 鱗全部ひっぺがせば傷もつくだろ!!」

 

 

 鉱物が練り固められたウラガンキンの鱗は、わずかだが削れ、剥がれ落ちている。それ以外にダメージを通す方法が無い。

 巨大な車輪が再度転がってくる。轢かれたら最悪防具ごと砕き割られて即死、そうでなくとも戦闘を続けるのは不可能になるだろう。

 

 ハンター達が複数人で狩りをする最大の理由は、基本的に致死率を下げるという一点に尽きる。仲間が負傷した時のカバーが最重要で、ネコタクによる力尽きたハンターの回収と、二段構えで命を守っているのだ。

 

 巨獣の圧殺走行をどうにかこうにか躱しながら、じわじわと攻撃を当てていく。ふと、ウラガンキンの動きが止まった。

 

 

「近付くなよ!」

 

「わかってる!」

 

 

 隙にも見えるその行動を警戒して離れるのは、以前下位や上位の個体を狩った経験によるものだ。二人の予想通り、ウラガンキンは体を震わせて、うっすら水色がかったモヤのようなガスを噴出した。

 吸ったら最後、ものの数秒で意識を失う催眠性の毒ガスである。幸い効果も数秒で切れるが、戦場ではその数秒が死を意味するので、確実に避けなければならない。

 

 再び転がってくるウラガンキンを間一髪で躱しては、その隙に攻撃を繰り返す。

 そんなことを10分近く続けているが、未だに鋼鉄の装甲を破れず、長時間の集中状態で体力と気力を消耗するばかりである。

 

 今のところ被弾はゼロ。しかし相手にも傷をつけられていない。ウラガンキンは膠着状態と見るや、岩壁に空いた横穴を転がってエリアを移動して行った。

 

 

「ふぅ……行ったか……。大丈夫か?」

 

「大丈夫じゃないよぉ……油がべっとり……」

 

 

 至近距離で戦っていたメロンは、ウラガンキンが体に纏わせていた液状油を頬に飛び散らせて、顔を黒く汚している。

 

 

「その様子なら大丈夫か。にしてもその油も厄介だな……」

 

「うん、刃が滑ってうまく通らない」

 

「避けて攻撃するしかないな……刃こぼれはしてないか?」

 

「結構してるけどまだ使えると思う。アスカこそ、矢の残りはいいの?」

 

「この後のことも考えると、補充しに行く必要があるかもしれん。節約しないとな」

 

「おっけー。じゃあそろそろ行こっか、クーラードリンクは?」

 

「飲んだ」

 

 

 体力にはまだ余裕があるが、厳しい戦いであることを改めて実感して、二人の間に適度な緊張が走る。地面に散らばったまだ使えそうな矢を拾い集めた後、大きな轍を辿って、マグマの流れる音がする方向へ歩いていく。

 

 横穴はだんだん広がっていき、やがて開けた場所に出た。火口が見えて、そこから流れる溶岩が辺りをぐるりと囲んでいる。

 ウラガンキンが二人に気づいて、即座に轢き殺しに転がってきた。

 

 

「来るぞ!」

 

 

 左右に散開して突進を避けて、転がり終わったウラガンキンに二人で襲いかかる。体の側面、足から腹にかけて執拗に攻撃した成果もあって、鱗が所々剥がれ落ちている。

 メロンを顎で叩き潰そうとウラガンキンが顔を振り翳し、それを見てから前転で避けて後ろに回り込み、二本のチェーンソーを縦に振り下ろす。火花を噴き出しながら傷を走らせ、そこにアスカの放った矢がカッ飛んで来た。

 今まで鋼鉄の鱗に阻まれ悉く弾かれてきた矢が、ウラガンキンの体に突き立ってビィンと震える。

 

 

「刺さった!!」

 

「畳み掛けるぞ!」

 

 

 興奮して尻尾を振り回すウラガンキンから一度距離をとって、矢が突き立った場所へ攻撃を浴びせかける。傷口が広がっていき、血が流れ出しては蒸発する。

 

 

「よし、この調子なら……」

 

 

 勝利への光明が見えたその瞬間、ウラガンキンが体の芯から震わせるような重低音の咆哮を上げ、怒りの鉄槌を振り下ろした。メロンの小柄な体が吹き飛ぶ。

 

 

「メロン!!!」

 

 

 アスカが焦って駆け寄る。負傷していれば、直ちに戦線離脱して治療に回らなければならない。

 

 

「大丈夫当たってない!! 衝撃波で飛ばされた!!」

 

 

 向かってくる相棒を起き上がったメロンが制止する。ハッとウラガンキンを見ると、口から黒い煙を噴き出して、先程よりも俊敏な動きでアスカに突っ込もうという所だった。

 

 

「うぉあ!!」

 

 

 猛スピードで走行するそれを、緊急回避とばかりに体を投げ出して躱すが、ウラガンキンがなんと転がったまま地面を割りながら急カーブして、再度アスカを轢き潰しに来る。

 腹から着地したアスカに回避は間に合わない。せめて接地面積を広げて衝撃を分散させようと、うつ伏せになって轢かれるのを覚悟していると、猛ダッシュで走ってきたメロンに腕を掴まれ、そのまま物凄い力で背負い投げされて、背中から地面に叩き付けられた。

 

 

「ぐはぁ」

 

「気を付けて!」

 

「助かった!!」

 

 

 素早く起き上がると、ウラガンキンが尻尾を思い切り振りかぶっているのが目に飛び込んでくる。慌てて後ろへ飛ぶ二人の目の前の空間が轟音と共に薙ぎ払われ、その遠心力で尻尾にくっついていた火薬岩が散らばり、さらにウラガンキンがすぐさま頭を振り上げそれを起爆しにかかる。

 反射的に回避するが、メロンの死角にひとつ火薬岩がある。

 

 

「危ない!!」

 

 

 今度はアスカがメロンの首根っこを引っ掴んで寄せたその瞬間、ウラガンキンが思い切り岩盤を叩きつけ、衝撃で全ての火薬岩が轟音を立てて爆発し、辺り一面を黒煙が埋め尽くした。

 

 

「あ、ありがと……」

 

 

 アスカにぶら下げられたメロンが、無事に無傷のまま、煙の中から礼を言う。

 

 

「お互い一旦落ち着こう。アイツが怒って暴れてるうちは回避優先だ」

 

「了解」

 

 

 メロンはストンと地面に降ろされて、改めて気合いを入れ直す。ウラガンキンが吼えながらノシノシ歩いてきて、そこで動きを止めた。先程のガス攻撃と同じ動きだ。

 先程までと違うのは、噴出したものがガスではなく炎だという点だろう。ガスには強い可燃性があり、怒りで超高温になった体温が、毒ガスを渦巻く炎に変えているのだ。距離をとっていた二人に物凄い熱風が吹き付ける。

 

 ガス攻撃は弓使いにとっては格好の的だ。熱風で勢いは削がれるものの、一方的に動かない的を射ることが出来る。ギリギリと音を立てるほど限界まで弦を引き、開いた傷口に狙いを定めてバンと撃ち出すと、矢じりが爆鎚竜の硬い筋肉を深々と抉る。

 ウラガンキンは痛みのあまり悲鳴のような鳴き声を漏らし、堪らず転倒した。側面が平たいウラガンキンは焦りもあってかなかなか起き上がれない。

 すかさずメロンが横転したウラガンキンに馬乗りになって、ぽっかりと開いた傷口にチェーンソーを突き刺す。このまま心臓まで掘り進めようという算段だ。

 

 血肉を飛び散らせチェーンソーが火を噴くが、巨竜もされるがままな訳無く、狩人を振り払い勢いをつけて立ち上がり、二足で地面を踏みしめる。無理な姿勢で振り飛ばされたメロンを、あらかじめカバーに回っていたアスカが抱きとめた。

 

 

「ナイスキャッチ」

 

「仕留められそうか?」

 

「かなり効いてると思う」

 

 

 メロンの言葉通り、起き上がったウラガンキンが攻撃に来ることはなく、口から黒煙の代わりにヨダレを垂らして、肩(?)で息をしている。

 絶好のチャンスとアスカが弓を射るが、ウラガンキンはすぐに振り向いて火山を下る方向に歩いていき、矢が尻尾に当たって火薬岩の欠片を落とす。

 

 

「すぐに追うぞ」

 

「おっけー」

 

 

 モンスターが疲労しているうちは多少無理にでも攻撃すべきだと判断して、二人は巨竜の影を追い、灼熱の火山を下って行った。

 

 

 流れる溶岩が冷えて固まり、辺りが薄暗くなってゆく。

 大股でノシノシ歩くウラガンキンに何とか追いついて山を下りると、海に面した暗い岩場に辿り着いた。

 到着早々、ウラガンキンが岩の一部を顎で砕き割っているのが目に入る。

 

 

「あいつ、飯を食う気だ」

 

 

 ウラガンキンは追ってきたアスカ達に目もくれず、一目散に鉱石を貪り食っている。

 鉱物食性のウラガンキンは、体内に飼っている特殊なバクテリアによって鉱石を分解して、それを栄養に変えている。その際に発生するガスが攻撃に使われるのだ。

 

 

「させるか……! メロン! 離れてろ!」

 

「わかった!」

 

 

 アスカが弓を構えて深呼吸し、意識を集中する。三本の矢を弓に番え、もう三本を手に持ったまま弦を掴む。

 刹那の間、目を瞑って動きをシミュレーションし、カッと目を見開いて弦を思い切り引きすぐに放す。瞬く間に手に持っていたもう三本を番え、体を弾ませリズム良くこれまたすぐに放つ。テンポを崩さぬまま流れるような動きで、矢筒からさらに五本の矢を掴み、体を沈めて今度は溜めを入れ、弾丸の如く五本の矢を発射する。

 この間、僅か三秒。

 三拍子で十一の矢を撃ち出す、トリニティレイヴンという名の狩技である。

 

 放たれた五本の矢は、互い違いで旋回しながら空を裂いて飛んで行き、早くも塞ぎかかっていたウラガンキンの傷口へ着弾、凄まじい貫通力でそのまま心臓を貫き通した。

 

 グァォォォォォォ……

 ウラガンキンが二、三歩よろけて断末魔を上げる。何とか立ち上がろうともがくが、しかしその巨体を支えられず、遂にその場に斃れ伏した。

 

 

「……よしっ……!!!」

 

「勝った!!!」

 

 

 狩人達が喜びの声を漏らし、ガッツポーズを決める。ハイタッチをして勝利を噛み締めるが、しかし戦いは終わっていない。喜色に染まっていたアスカの表情がだんだん真顔になっていく。

 

 

「あと……二体か……」

 

「言わないで!! もう少し喜ばせて!!」

 

 

 メロンは耳を塞いでいやいやと首を振る。転がり突進の回避に神経を使って、思ったより疲労が激しい。正直もう帰って温泉にでもつかりたい気分だ。

 

 

「矢の補充もあるし一旦ベースキャンプに戻ろう。その前に剥ぎ取りするぞ」

 

「うぅ……アスカは真面目だな……」

 

 

 メロンがぼやき、ふと上を見上げると、煮え滾る巨大な火山が視界を埋める。その山頂から湧き出る煙が空一面を黒く染め上げ、それが何かの先行きを暗示しているように思えて……少女はハッとして嫌な思考を振り払い、今は目の前のことに集中、と狩猟の戦果を剥ぎ取りに歩いて行った。

 

 

 




五本も一気に矢が撃てるわけないだろ、いい加減にしろ
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