ここにはたった一人。たった一人の少女がいた。
たった一人の少女は、世界にたった一つしかない才能を、能力を持っていた。
それも複数。研究者たちは、一つだけでも奪い合いになるそのその能力が、複数あることを知るとさらに狂乱し、狂った。
――封印指定。それは死ぬかホルマリン漬けになるという二択しか残されていない。
少女はそれに選ばれた。選ばれてしまった。故に少女は逃げ出した。研究者から。追っ手から。世界から
少女には、もう何も残されていなかったし生きる意味すら失っていた。
『彼の者は常に独り』……そんな言葉があったはずだ。逃げる少女には、この言葉が常に頭の中にあった。
それならば、私も常に独りだ。というか、この言葉を作った奴よりも私は孤独ではないだろうか。
そんなことを考えてもいたが、それでも、この言葉が頭から離れることは断じてなかった。
何故か。どこか親近感が沸いたのだろう。“独りぼっち同士”だから。そして……その言葉を作ったやつのことを少女は知っていたから。
それは一方的に知っているだけのことではあるのだが。
なぜ知っているのか? それは少女が『転生者』であるからだろうか。
転生者はパターンにも寄るが、大まかに言えば2つに分けられるだろう。
記憶所有者か記憶不所持者か
記憶不所持者は若干の違和感を覚えるが、その程度であって、自身が転生したということにも気づかぬまま、二度目の生を過ごす。
だが、記憶所持者は違う。記憶所持者は、前世の固有能力や身体能力、知識など、ありとあらゆる自身に関する記憶を全て記憶している。覚えている。
それ故に、それ故に現在少女は追われている。記憶所持者であったから。能力があったから。
少女の能力。それは『一度でも視界に捕らえた人物が所持している能力を全て使いこなすことができる』という能力と『永久魔力炉心』。そして『本来の能力所持者の何倍も威力を増して能力を使用できる』というチートじみたものだった。
少女はこの能力を忌み嫌っていた。その所為で現在の逃亡生活があるのだから。
なぜ、なぜ神様は、私を転生させた神様は、私をこのような目に合わせたのか。
なぜ、なぜ、なぜ、私は記憶所持者なのか。なぜ、私はこんな能力を持っているのだろうか。
酷い話だ。それは少女自身が望んでいたということであるということにだけは気づかない。
皮肉な話だ。神は、転生のやり取りの内容だけをきれいさっぱり忘れさせ、二度目の生を謳歌させるのだから。
記憶所持者を担当した神は、全員が全員、同じ神である。
記憶不所持者を担当した神も、全員が全員、同じ神である。
悲しい話だ。神は記憶所持者を困らせて愉しんでいるのだから。
そして少女は、そんなことにも気づかぬまま、知らぬままに朽ち果てた。
だが少女は核心まで近づいた。『転生したという事実をなぜ理解できたのか』ということを考え出したからである。
『転生したと理解できたのは前世の記憶があるから』という単純な答えがあった。『転生する際、必ず神と接触するはずだ』というところまでいったのだ。
だが、『なぜその記憶がないのか』を考え出すその直前に、銃弾に撃たれて死んでしまった。
核心まで求められた天才の少女にひやひやさせられた神は、拍手をするしかなかった。そして、思わず笑い狂うほどの興奮を味あわされたのだ。
ひとしきり笑い終わり、興奮が冷め始めたころ、もう一度少女で愉しもうと思った。この興奮を再び味わいたい。もっとスリリングで、最高の興奮を。
……だが、死亡履歴、その神の元に送られる魂の記録の中に少女の姿はなかった。
前世の魂に変わっているのだと思って探してもそのようなことはなかった。
他の神の元へ送られたのだと思って調べても、少女の魂が見つかることはなかった。
そして神は確信した。
――少女の魂は我々の力の及ぶことのない遠い世界へ飛ばされてしまったのだ、と。