ウマ娘短編   作:無し

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アグネスタキオン

何処から語るとしようか、私が月経杯を棄権し、そして夏合宿後にトレーナー君に食事に連れて行かれたあたりからが適切かな…。

 

私のトレーナー君は日に三度の食事が何よりも楽しみで…レースに勝った日や特別な日には無理矢理彼のお気に入りの店に連れて行かれた。

その店の大将は彼が昔からお世話になってる人で…彼はこの味が何よりも好きだと何度も語っていた。

食事の時の彼は私がレースに勝った時に引けを取らない笑顔を見せるものだから…喜びも白けてしまう…。

 

あの日の彼は私のことを随分と気遣っていた、記者にしつこく質問責めにされたことがそんなに気になったのだろうか、全く良く気が利く…。

 

 

 

トレーナー「……」

 

あの日の彼は…大好きな食事を顰めっ面で…そして全く美味しくなさそうに食べていた…。

大将に何度かこれはいつも通りの味ですよね、と確認をとっていた。

 

その時の私は彼の事を気にかけてなんかいなかった、今朝彼に押し付けた薬品が何か影響しているのだろう…程度の考えだった。

 

結果としてそれは当たっていたのだが……。

 

 

次の日

 

タキオン「…ん?君、今朝は紅茶かい」

 

トレーナー「…ああ、一度飲んだんだが…どうにも胃が受け付けなくてな」

 

タキオン「だからと言ってミルクティーか、紅茶本来のフレーバーを殺しかねないその飲み方、私は好きでは無いな」

 

思えばこの時気づけたはずだった、彼はきっすいのコーヒー派でミルクはおろか砂糖すら入れない人間だった

 

トレーナー「子供っぽいかな」

 

タキオン「まあね、だが嗜好品にまでケチはつけないさ、人の嗜好を馬鹿にするのは敵を増やす以外の何事でも無い」

 

トレーナー「そうか」

 

この時の私はプランについて考えることに必死で…

 

タキオン「折角だ、君も紅茶に目覚めたことだし…アールグレイなんか試してみてもいいんじゃ無いか?」

 

トレーナー「…悪く無いかもな」

 

それに気づくのが遅れた

 

一週間もそんな日が続けば人は変化に慣れるだろう…

だが私は彼を観察する事を趣味ともしていた、だからこそ、遅れたとしても気づけた、私の過ちに…

 

タキオン「君、今日もカロリーメイトかい?いくら何でもバランスが悪いとは思わないか」

 

トレーナー「…なんだかな、あまり食事が口に合わなくてな」

 

前述したが彼は食事を何よりも楽しみとしていた、そんな彼の異変に私は一週間も経ってようやく気付いた。

 

タキオン(薬が何か影響してしまったかな…)

 

償いのつもりはないが、彼の好物を買って渡してみたり…

 

トレーナー「……」

 

だが、彼は前の様な笑顔を見せてはくれなかった。

此処で私はアプローチを変えることにした、手料理だ。

 

タキオン「実験が禁止されて暇だったからね、作ってみた…どうだい?」

 

初心者向け…ということでクッキーを作ってみせた、それだけだ…

 

トレーナー「え、これお前が…?うまい、本当にうまいよ!」

 

そう言って喜んでくれた、前の様な笑顔で笑ってくれた…。

たまらなく嬉しくて…自分の出来を確かめようと一枚口に運んだ

 

タキオン「…ぇ…?」

 

吐き出したくなった、だけど…驚きのあまりそれすらもできなかった

 

タキオン(不味い…この世のものとは思えないほどにまずい…)

 

これを美味いと言い、何の躊躇いもなく口に運び…あの屈託のない笑顔を向ける、つまり…彼は本当にこれを美味しいと思っている…。

そう、此処までくれば誰でもわかるはずだ、彼は味覚が…

 

 

 

此処までは過去の話だ、では、今の私はどうしているか?…か…。

 

私はトレセン学園を即刻辞めた、彼にも必死で私と来てくれるように懇願した、元々担当が結果を残さなければ…という契約だった事もあり、私が先手を打って辞めた事に項垂れ…頷いてくれた。

 

私は学園を去るにあたり、何人かに会う必要があった。

 

デジタル「でゅぇっ……た、タキオンさん…辞めちゃうんですか…?」

 

タキオン「…すまない、深く話すことはできないが…」

 

私の中での不安のタネは…メディアだった、それを潰す為にデジタル君は非常に協力的だった。

 

デジタル「…理由とかはいいです、先手を打ちますから…」

 

デジタル君の言葉通り…今の所私に取材などは来ていない、安心して生活できている…。

そして…

 

カフェ「…そう、ですか…」

 

タキオン「コレ、君に合ったトレーニングだと思う…私にはもう必要のないものだ、役立ててくれ…それと、スカーレット君、君にも」

 

スカーレット「……はい」

 

 

彼女らに別れを告げ、私達はトレセン学園から遠く離れた、そして田舎とは言わないものの、都会でもない様な…そんな静かな街に住み着いた。

私は彼に負担をかけたくなかった、だから彼の身の回りの世話は全てした…食事も全て私が作った、あのクソ不味い食事を自分の分も作り、口に運び、彼に合わせた笑顔を見せた。

 

半年間、そんな生活が続いた…。

 

彼はトレーナーになることが長年の夢だったという事もあり…未だにいろんな書物を読み漁り、勉強に励んでいた。

彼は私とターフに帰る日を心待ちにしているのだろう…。

 

私はというと、アルバイトと彼の生活を助けることに必死だった…

彼に不自由をさせない、彼に気付かせない為に…私の我儘に付き合ってくれている今…幸せだった、彼への好意に気づいてしまった

だからこそこの生活から彼を引き算をすることだけは想像できなかった。

 

なぜ半年という時が経った今なのか…それは彼に味覚障害以外の症状が現れたからだ…。

彼に薬品を飲ませるような真似はアレ以来一度もしていないというのに

 

タキオン(味覚障害とは脳に異常がある場合、そして味蕾に異常がある場合などに分けられる…彼は最近脚の痺れを訴えていた…私の落ち度だな、脳に異常があるとしたら、味覚障害だけで済まなかったかもしれないこと位…気付けたはずなんだ)

 

彼に何が起きているのかを知る為には設備が必要…いや、私は科学を捨てた、となると私が取るべき行動は…

 

 

トレーナー「病院…」

 

タキオン「頼む、君が心配なんだ、どうしても行って欲しい」

 

トレーナー「だが…俺は病院で何を?」

 

タキオン「検査を受けてきてくれ、脳の検査だ、脚の痺れという事だが…神経質になるべきだ」

 

トレーナー「そんな余裕はない、俺も早く踏ん切りつけて仕事しないとな」

 

タキオン「え…?」

 

私はあまりにも無知だった、金銭のことについては特に…。

当然だ、都市部ではないにしてもそこそこな街で生活をする…

家賃、食費、光熱費、水道代…

 

まさか私1人で全てを賄えると?

 

この時ようやく知った、彼の貯金を切り崩しながら何とか生活をしていた事を…。

彼をちゃんとした病院に行かせるだけの金銭は…手元にないという事も…ようやく理解した。

 

 

 

この日…

私は恥を知らないと思われて当然だが…トレセン学園に来ていた、尋ねた相手はアグネスデジタル君だ。

頼れる相手は多くはなかった事もあり…彼女に頼る他なかった。

 

デジタル「お、お久しぶりです、タキオンさん…」

 

バツが悪そうにこちらをみるデジタル君に私は場所すら選ばず土下座し、懇願した

 

タキオン「すまない!一生に一度の頼みだ、金を貸して欲しい!」

 

デジタル「え、えぇ…?」

 

包み隠さず全てを話した、結果デジタル君は自分の趣味に回す筈だった金銭を全て私に提供してくれた。

 

デジタル「……タキオンさん、学園辞めなければレースである程度のお金が…」

 

タキオン「…あの時は思いもよらなかったんだ」

 

デジタル「そう…ですか……あ、そうだ、今一番強いウマ娘…ってわかりますか?」

 

タキオン「……カフェ、だろう?」

 

デジタル「そうです!マンハッタンカフェさん、タキオンさんのメニュー通りのトレーニングをして、メキメキと実力を上げて…今は負け無しです」

 

タキオン「…ははは、そうか…」

 

現役時代は…彼の采配に従って出たレース全てで勝利を収めた、カフェにも勝った…。

 

デジタル「ダイワスカーレットさんもどんどん実力をつけて…次の有馬で当たるって…マンハッタンカフェさんも、出る予定はなかったけど有馬記念、出るらしいし…」

 

デジタル君はいろんな話を聞かせてくれた

私が憂いていた事も…彼女達が成し遂げてくれた…私がターフに思い残すことなんて何一つない…。

 

帰り際、デジタル君はこう言った

 

デジタル「お金は返さなくていいです、こうやって今日話せたことが何よりも価値のある事ですから!」

 

私はつい涙ぐんでしまった

 

ひとしきり泣いて、電車に乗り、ゆっくりと帰る中…

頭によぎった

 

タキオン(私は…私は成し遂げたんだ、思い残すことなんて何もない…だけど、彼は…)

 

邪念だ、今彼のことを思うならそんな事は忘れろ

そう振り払い…我が家へと帰った

金をテーブルに積み、彼に検査を受ける様に強く言った

 

トレーナー「この金、どうした…!」

 

タキオン「借りた、グレーな所からじゃない、だから…頼む、検査を受けてくれ!」

 

トレーナー「…嫌だ、断る…!さっさと返して来い!」

 

初めて、彼が声を荒げた…

この日、この時…初めて彼が私に怒鳴りつけた、もちろん怖かった、怯んだ、だけど何よりも…

 

タキオン「…そう言うとは思っていた、君が病院に行くことを拒むと言うのなら、私はこの脚を二度と使い物にならなくしてやる…!」

 

自分でもめちゃくちゃだと思うが、彼を脅すと言う暴挙…

でも、それほど必死だった

 

この日の口論は夕方から朝まで続き…私が包丁を持ち出し、皮膚一枚を切ったところで彼が折れてくれた

彼はターフに戻る事を強く望んだが、私は決して頷かなかった、彼が学園に戻る事なんてできないだろうし…いや、多くは語るまい

 

検査の結果はすぐに聞いた

脳に異常があることは予想通りだった、病院に行く前から想像できる全ての可能性を計算し尽くした

自分の知性を今日ほど呪った事もなかっただろう…何だお花畑な結論を考えても…私にはそれを否定する根拠を見つけられた

 

医者「…残念ながら回復の見込みはありません、コレからどんどん弱っていくことになると…」

 

私も何もしなかった訳じゃない、可能な限り医学を叩き込み、医者の話を一言一句流さず聞き、理解して…そして

 

彼は入院した

 

所謂…助からな人が受ける様な医療を受ける事になった

植物状態になった際の選択についても、聞かされた…

私はこの選択の際、笑いながら放心していたそうだ

 

 

 

タキオン(……彼は…)

 

彼の望みは、何一つ…叶っていないじゃないか

 

入院から2日後、彼は目を閉じたままになった

呼びかけても反応しなくなった

 

タキオン(…なんて事だ、迷う暇なんてなかったのに、私は迷ってしまったのか…)

 

私は借りていた我が家に価値を見出せなくなっていった

思い出だとか…そんな物より…今の彼の方が大切に思えたからだ、だから…部屋を片付けてみた

 

彼の私物はやはりレースや私達ウマ娘についてばかりで…

 

タキオン「…これは…」

 

ノートを一つ拾い上げ、開いた

 

タキオン「!」

 

私が現役だった時から今までの…ずっと私のことだけを考えたメニューだった

私の身体の動かし方や私の癖を細かく記してあった

 

そして、何より驚いたことは…

彼はプランAについて詳しく知っていた、私よりも詳しく…

 

私の身体の限界に彼は気づいたのだろう、それが引退後だったとしても…だからずっと勉強を続けていた

彼の私物を整理すればする程いろんなレースの映像が出てきた、全て私の出場した物で…それを細かくスケッチしたり、身体の動かし方などから私の限界を見極めていた

 

そして、それを変えるための手段を…必死に考えていた

 

タキオン「…はは…馬鹿、だな…キミは」

 

全くもって、馬鹿だ…私は二度とターフを踏まないと決めたんだ

 

でも、そんな事、全く持って…

 

 

 

タキオン「……。」

 

私は三度トレセン学園へと向かった

 

何度も、何度も向かい、度重なる交渉の上、漸く理事長と会う事が叶った…

有馬記念、それに私が出馬するチャンスをもらう為に

 

 

理事長「断固ッ!拒否!」

 

タキオン「…だと思っていたさ、だとしても…こっちにだってこのまま帰れない理由がある!出してもらおう、有馬記念に…!」

 

何としても、通すしかなかった

私は必ず有馬記念に勝つと決めた

 

そして条件付きの出走を許可された

 

タキオン(…あまり成績の良くない娘達が集まるレースか…コレで一位を取るくらい、訳ないさ)

 

底の底で一位を取るくらい、容易いと思っていた

でも私の身体は走りを忘れていた

結果としては一位だったが…自分でよくわかる、こんなの…

 

一位を取った喜びなんか微塵もない、心の底からの恐怖、敗北が背を掴んでいる恐怖

その恐怖に包まれながら私は帰路に着こうとした

 

カフェ「タキオンさん」

 

タキオン「…カフェ」

 

カフェ「有馬記念、出場おめでとうございます…」

 

カフェの目には怒気が篭っていた

 

カフェ「あんな走りをする様な人が…出走したところで…最後尾を走る事にしかなりません、棄権してください」

 

タキオン「…断る」

 

スカーレット「私からもお願いします、棄権してください」

 

タキオン「…スカーレット君まで、か…」

 

スカーレット「…貴方がデジタルさんにお金を借りた事、学園内でも有名なんです、いろんな噂も立ってます」

 

…ここで棄権しろ、と言うのは彼女達なりの優しさなのだろうが…私には退けない理由がある

 

タキオン「だから、なんだ?」

 

カフェ「な…!」

 

スカーレット「…お金目当てで、あのレースに出るような人はいません」

 

タキオン「…金、か…」

 

もしかすれば、海外には彼を救う手立てがあるかもしれない…

 

タキオン「それも良いかもな…」

 

スカーレット「有馬記念を…穢さないでください!」

 

タキオン「知った事か!私は…私は!絶対に出走を取り消さない!誰が何と言おうと!」

 

カフェ「……そうですか」

 

スカーレット「……」

 

友を失い、愛する人を手にかけた今、私が有馬を走る以外…

 

私に情けなんか必要ない、私は…

 

タキオン「惨めに思ってくれるな…!私は…無敗だ!」

 

 

 

この日から有馬記念まで約4ヶ月

1日たりとも欠かさずトレーニングを続けた

有馬記念を勝つ為に…

 

 

有馬記念当日

 

私は特別に早朝に病室に入り、ラジオの電源をつけ、彼の病室を後にした…

全てはこの日を走るために

 

全てわかっているとも、この場にいる全ての…観客もが敵だった

私に声援を送る様な人など1人たりともいない

 

本来なら送ってくれる声援なんて一つも聞こえない、彼の声援が聞こえない…

 

タキオン(…だとしても、私は…)

 

12月の冷たい空気を大きく吸い込んだ

全ての音が消えた様な気がした…

 

相手は私が作り上げた理論の完成品だ

私が望んだ最高の夢の結晶だ

 

カフェ「本当に来たんですね」

 

スカーレット「……」

 

タキオン「…ク…ハハハ!」

 

カフェ「……何がおかしいんですか」

 

タキオン「カフェ!キミでは私には勝てない…スカーレット君、キミもだ!」

 

カフェ「…戯言を…」

 

スカーレット「…フン」

 

タキオン「キミは…私の夢の結晶だ、キミでは私には勝てない…!」

 

何故なら私は…

 

タキオン「彼の夢の結晶である私には…!」

 

4ヶ月

この期間を長いと捉える人はどれほどいるだろうか…

 

私に取っては短すぎた、体力も、スピードも、何もかもが足りなかった

 

だから私は現役の時とは大きく変えた戦術を取った

 

 

 

 

レース序盤、私は先頭集団から遅れた位置を走った

 

カフェ(…やはりコレでついてくるのが限界、ですか…半分走ればボロが出る)

 

スカーレット(…あんなに後ろに…)

 

疲れてる演技もよく効いているらしい、わるい意味ではあるものの、私に注意が集まった

 

タキオン(…しかし、私を見る事は間違いだ)

 

こんなに重要なレースだと言うのに後方や横にそんなに意識を配る…何とも馬鹿馬鹿しい!

 

レースは終盤に差し掛かる、ここで溜めていた脚を解き放つ!

 

カフェ(差し!?)

 

スカーレット(速ッ!?)

 

たとえこれが彼の夢の遺物でも、私の一欠片の思いだとしても

 

タキオン「私の速さは…超高速の粒子(アグネスタキオン)を超える!」

 

タキオン(私に注目していたせいで走り方が崩れたか、上等…!)

 

結果、このレースは私の大差勝利という何とも驚きの結果を残す事に成功した

 

私はレースが終わってすぐ病院へと駆けた

何もかもを投げ捨て、全てを無視して病院へ向かった

 

…彼は目覚めていなかった

 

それはそうだ、諦めろと医者に言われたのだ、そんな奇跡など…

 

だが、コレで終わるわけがない

 

タキオン「キミの夢だ、私はキミの夢なんだ」

 

URAに出場する権利、それを理事長から提示された

最後まで聞くことすらなく承諾した

 

久しぶりに、豪華な食事を取りたくなった…

彼の好きな店に1人で向かった、優しく迎え入れてくれた

あれから外食などただの一度もしていなかったが故に、美味しい食事もいつぶりかと思うほど、久しぶりだった…

 

一口食べては泣き、一口食べては彼の姿を思い浮かべ泣き…

料理の味も最初の一口からわからなくなってしまった

 

タキオン「……きっと、彼を…」

 

URAの初戦も、準決勝も…もはや相手になる敵など居ない

 

決勝でようやく彼女達と再開した

 

カフェ「……」

 

スカーレット「有馬記念以来ですね」

 

タキオン「…そうか、もうそんなにになるか」

 

スカーレット「デジタルさんから…お話は聞きました、あの時は申し訳ありませんでした」

 

タキオン「…何の話だ」

 

カフェ「貴方のトレーナーのこと、です」

 

タキオン(…お喋りな)

 

タキオン「だからなんだと言う、負けてくれるとでも言うのかい?」

 

カフェ「いいえ、全力で勝ちに行きます、貴方の夢の残滓として、貴方の夢として、そして…私の夢のために」

 

スカーレット「私も、敬意を祓うからこそ…全力で」

 

タキオン「そう来なくては!私の夢の残滓と彼の夢の残滓…ハハハ!どちらが優れているのか…実に面白い!」

 

タキオン(希くば、勝利のその時まで…この脚が持つことを望むのだが)

 

彼の考えたメニューは私の脚を最大限考えたものだった、それを全てあの4ヶ月で行った

限界を追い越すために全てを捨てて戦った

ともなれば…普段は当然大きいものだ、当然、私の脚は悲鳴をあげ続けていた

 

タキオン「この勝負…実に楽しみだ!」

 

1日も欠かさず、私は走り続けた、そして彼の夢は…今私の脚が運ぶ

 

 

 

決勝、と言うだけあり、有馬記念の時以上のハードな戦いが繰り広げられた、当然だ

 

タキオン(同じ戦術は通用しない、となればギリギリまで…あの時よりもまだ脚を溜める!)

 

カフェ(…まだ仕掛けない…あの時以上の加速を…!?)

 

スカーレット(…やる、この人なら…)

 

タキオン(やれる、やってみせる…!)

 

私の脚がこれからいつ壊れてもいい

今だけは…時間をくれ…

 

ターフを蹴り、走り続ける

 

タキオン(……今!)

 

全てを投げ捨て、勝負に出る

 

タキオン(走れ…走れ!走れぇッ!)

 

只々ひたすらに、誰も…見ない

 

彼だけを…

 

カフェ(…絶対に、負けない…!)

 

タキオン「私は…私の夢なんかに…負けてたまるかぁぁぁッ!」

 

 

 

この勝負、勝者は私だ

 

私の夢の残滓が…僅かに勝利した、勝利してしまったのだ、彼に

 

タキオン「…2着…か」

 

初めての敗北だった

 

カフェ「……」

 

タキオン「憐れんだ様な目で見てくれるな、キミは彼に勝ったんだ、私の夢が勝ったんだ…誇ってくれ」

 

カフェ「…はい」

 

タキオン「それと…スカーレット君、キミ…手を抜いたね?」

 

スカーレット「っ…」

 

タキオン「優しさは…時には何よりも残酷だ、私の真剣勝負に手を抜く様な真似…とても許せることではないな」

 

スカーレット「…ごめんなさい」

 

タキオン「良いさ、私の理論が正しいことが証明できた、やはり私は天才だ!トレーナー君よりも私の理論が優れていたんだ!は、はは…」

 

タキオン(…あれ?)

 

高笑いの一つでも、しようと思ったのに…

 

タキオン「…は、はは……あれ?…ははっ…おかしいな…あれ…見ないでくれないか?」

 

カフェ「…それは、できません…貴方は頑張り続けました…貴方が泣くことを笑う人も、咎められる人も…居ないのですから」

 

タキオン「…やめてくれ…私は…くッ…クソッ!」

 

…勝てなかった…私は…奇跡をもう一度、起こせなかった…

 

トレーナー「お前の勝ちだな」

 

タキオン「…え?」

 

デジタル「連れて来ちゃいました、でゅふふ♪」

 

車椅子に乗ったトレーナー、そしてそれを押しているデジタル君

私の思考回路は完全に停止した

 

タキオン「どうして…」

 

トレーナー「…今朝、意識が回復した…奇跡だ…ってな」

 

デジタル「折角のURA決勝ですから…ぜひ聞かせてあげようと思ったら、すごい騒ぎで…」

 

トレーナー「急いでここまで連れて来てもらった」

 

タキオン「…よかった…よかっ…ホントに……」

 

デジタル「積もる話もあるでしょうし、一度」

 

トレーナー「ああ、場所をうつそう」

 

 

 

タキオン「…ずっと言いたかったことがある、一度だってキミには言ったことがなかったんだ」

 

トレーナー「…なんだ」

 

タキオン「本当に…ごめんなさい、私の実験のせいで…」

 

トレーナー「全くだ、こうして俺は生きてるから良いけどな」

 

タキオン「私は…」

 

トレーナー「タキオン、怒ってなかったって言ったら…嘘だ、でも、もう怒ってない」

 

タキオン「……」

 

トレーナー「また、美味いメシでも食いに行こう、お前の作ったメシじゃなくてな」

 

タキオン「なっ…でも、キミは味覚が…!」

 

トレーナー「治ってなくても、お前と食えればそれが一番美味いメシなんだよ、だからお前も…」

 

タキオン「…ああ、行く」

 

トレーナー「よし、URA2着を祝して祝杯と行くか!」

 

タキオン「…それなら、デジタル君も良いかな」

 

トレーナー「勿論だ」

 

タキオン「それから、スカーレット君も…」

 

トレーナー「あ、ああ…?」

 

タキオン「それからカフェも連れて行きたい、きっと喜んでくれるはずだ」

 

トレーナー「別に、良いけどだな…」

 

 

それから私はあの店で祝杯をあげた

私の2着、そして彼の…この先になるであろう退院祝いを

一着を取ったカフェは渋い顔をしていたし、スカーレット君はバツが悪そうだったが、それも最初だけだ

とても楽しい会になった

 

 

 

トレーナー「…なあ、タキオン」

 

タキオン「何か言いたいことがあるのかい?トレーナー君…私達の道はまだ終わっていない、私の理論ではキミと私、2人分の頭脳を合わせればさらに先にいける…!この理論の証明の為に、二人三脚、頑張っていこうじゃないか!アッハッハッハ!」

 

トレーナー「その前にお前は無茶せずリハビリだ、じゃないとまたブロック注射だぞ」

 

タキオン「な…アレは勘弁してくれ!あれは麻酔とは言わないだろう…!」

 

トレーナー「だったらもう少し落ち着けよ、折角俺が復帰したのにお前が倒れたら元も子もないだろ?」

 

あの後、色々なレースに出て無茶もしてみたが、結果は故障、しかしその程度のことが何だと言うのだ

私の黒星はURA決勝ただ一つ、それ以外は全て無敗

 

そして私たちの夢のために…

 

タキオン「この怪我が治ったら、次は私達の夢を追う!」

 

トレーナー「ああ、勿論だ!」

 

絶対に、誰にも負けない最強のウマ娘とトレーナーとして

歴史にこの理論を刻んでやる

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