ウマ娘短編 作:無し
私は、ずっとレースが楽しくて…
楽しくレースをしてれば、みんなが喜んでくれてた
トレーナーさんも周りのみんなも、誰も私を責めたりしなかった
私は全力だったけど、真剣だったけど…みんなのソレとは少しだけ違った
私がこうやって走り続けられたのは他に問題児がいたからだと思う
ウララ「ガラスの靴のウマ娘…?」
ライス「うん、この前URAを優勝したアグネスタキオンさんって知ってる?」
アグネスタキオン、謎の引退から復帰、無敗の実績から有馬記念にも出走して勝利、そしてURAファイナルズでの大接戦
一躍時の人に昇華した最強の一角のウマ娘…
ウララ「うーん、知ってるけど、どうしたの?」
ライス「この前のレースで故障しちゃったらしいんだ」
アグネスタキオンがトレセン学園を去ったのはこの故障を見越しての行動だった…そう思われ、ついたあだ名がガラスの靴のウマ娘
ウララ「レースを走れなくなっちゃった…ってこと?」
ライス「復帰のためのリハビリを今してるみたい」
この時はあんまり気にしてなかったけど、問題児は何かのきっかけで一気に伸びるって考え方がトレーナー達の間に広まっていた
ウララ「楽しかったー!」
勝てない、勝利の一歩手前
誰よりもレースを走り続けた
2位や3位の時もある、1位も何度か取れた
勝てたらみんなが特に喜んでくれた
トレーナー「惜しかったな、終盤の競り合いに勝てれば…」
ウララ「競り合い?」
トレーナー「…ほら、7番の子とどっちが前に出れるか競ってただろ」
ウララ「うーん、うん!」
トレーナー「スタミナが切れたのか?」
ウララ「そうじゃなくて…えーと」
結論から言えば私に足りてないのは気持ちだった
感情が足りなかった、悔しさを感じていなかった、真剣な私には真剣さを求められた
誰よりも、誰よりもレースを走り続けた
誰かの背中を追いかけてレースを走っていた訳じゃない
ただ楽しいからレースを走っていた
何度もレースを走ったのに勝てなかった
何が足りていないのか、トレーナーはレースのたびに頭を抱えて見せた
ウララ「楽しかったー!」
何位を取っても、そうだった
みんなはレースに負けた私を励ましてくれた
勝っても負けてもみんなは私の背を押してくれた
だから自然と前に進み続けた
でも、そんなの…
誰の目から見ても間違ってる
ある日、私はトレーナーさんを探している時に聞いてしまった
ウマ娘A「見た?昨日のレース」
トレーナーA「ああ、ハルウララか」
ウララ(私の事だ!)
何を話すのかと話に混ざろうとした
ウマ娘A「あれってどっちが悪いのかな」
トレーナーA「トレーナーの方だろう」
足が止まった
ウマ娘A「ハルウララも問題アリだと思うけど」
トレーナーA「トレーニングの時とかのタイムを見たけど決して悪くない、ただ、レースを見る限り勝負の意識が足りてないんだろう、ブロックされた時や競り合いにとことん弱い…」
ウマ娘A「本人の問題じゃない?それ」
トレーナーA「トレーナーがそれに気づいて指摘できないのが問題だ」
ウララ(勝負の意識…?)
トレーナーA「ライバル視する必要はない、一緒に走れば勝手に潰れていく」
ウララ「トレーナー」
トレーナー「どうした?」
ウララ「勝負の意識…って何?」
トレーナー「勝負の意識…簡単に言えば負けたく無いとか、負けられない…絶対に勝つって気持ちだな」
ウララ「絶対に勝つ…?」
ウララ(私がそう思えば…トレーナーは認められるのかな…)
ダートを踏みしめる
ウララ「よーし、絶対勝つぞー!」
そう言ってレースに臨む
ウララ(負けたく無い…負けちゃいけない…絶対に勝つ…)
頭をグルグルする言葉
ダートを必死に走る、今までとは違う、何かに追われる感覚
一歩走るたびにより足が重くなる
ウララ「…勝てなかった…」
楽しくなかった、何かに焦り、走り続けるレースは…楽しくない
そしていつもよりも遅いタイムが、嫌に頭に残った
これが初めて、みんなと同じ真剣を味わったレース
トレーナー「ウララ、どうしたんだ…ずいぶん調子が悪かったけど」
ウララ「レース、楽しくなかった…それに、負けちゃった…」
トレーナー「…勝負の意識、か?」
ウララ「うん…」
トレーナー「ウララ、よく聞いてほしい…俺はウララが楽しめるレースをする事で漸く本来の力を出せると思ってる」
ウララ「楽しめるレース…」
トレーナー「…ウララは勝ちたい、そう思ってたんだろ?それなら誰より楽しめばいい」
トレーナーのその言葉が、余計に私を苦しめた
トレーナーの言葉がより私の脚を止めた
毎回の様に出ていたレースを、私は暫く休むことになった
トレーナー「ウララ、レース…出れるか?」
ウララ「…無理だよ…怖いもん」
すっかり、塞ぎ込み…レースを走るのが辛くなってしまった
レースを走るたびに、誰かを追いかけるたびに…どんどん苦しくなって…
でも、レースを選ぶことなんて私には許されなかった
ウララ「…退学?」
トレーナー「ああ、成績を残せない以上…たくさんのレースに出続けるか、勝つか、そのどちらかでない限りウララは…」
二度とレースに参加できなくなる
それは嫌だった
だから走った、ずっと走った
勝てなくて、焦燥感に追われて…
負けるために辛いレースを走り続けるしかなかった
でも、現実はもっと残酷で…
トレーナーは私に隠し事をしていた
ウララ「え?トレーナー…辞めちゃうの?」
トレーナー「…いや、その…」
私のレースでの順位は、下がる一方だった…
手を抜いてるわけじゃない、追われる感覚に疲れた私はどんどん調子を崩し、その結果…
ウララ「なんで!?」
トレーナー「何でって言われても…な」
私の不調はトレーナーの責任と判断された、それだけなんだ
トレーナー「一応、次のレースが最後になると思う、だから…全力で楽しめる様に…その、出来るだけトレセンから離れないで済むレース場を選ばせて貰ったから…」
ウララ「…そんなの、こんな気持ちで走っても…こんなの楽しくなんかないよ!」
不調が続くほど、私を応援してくれる人は減っていった
後援会のみんなですら最近のレースに来る人はまばらになって行った
トレーナー「…すまない」
ウララ「トレーナーが辞めなくて良い方法は…無いの…?」
トレーナー「無くはない、が…一応結果さえ残す事ができれば…」
ウララ「…つまり、1位を取れば良いんだよね…」
トレーナー「…ああ」
レースまでの時間は2週間
トレーナー「…ごめんな、俺のせいで…ウララを追い込んで…」
ウララ「違う…!トレーナーは何も悪くないよ…ウララが…私が…」
トレーナー「…ウララ」
ウララ「…私、トレーナーと勝ちたいよ」
トレーナー「俺もだ…」
初めて、方向がまとまった
私にレースを楽しませる事で好調な状態でレースに臨ませ、勝率を上げる、それがトレーナーの戦略だった
それに対して私は誰かと競う事よりも楽しむ事を重視し続けた、だからたくさんのレースに出た…
今までのズレた方向性が、ようやくたった一つの勝利という目標に繋がった
あとは、走るだけ
追い込まれた私は必死になれた
ようやく、真剣をしった、痺れる感覚、恐怖、熱気
私になかった熱量が、今…宿った
ライス「ウララちゃん、最近…雰囲気が変わったね」
ウララ「…そうかな」
ライス「なんて言うか…あの時の、私みたいで…」
かつての天皇賞・春を控えたライスちゃんは…
ウララ「…そうかもしれないけど、ウララは大丈夫だから」
ライス「……」
トレーナーがコースを、ライバルを研究し尽くした
どう差すのが一番良いかを徹底的に考え抜かれた走りを私に叩き込んだ
トレーナー「ウララには合わないと思ってたが、これが基礎だ」
とにかく、早く走る
日が暮れても走り続けた、脚の絆創膏が増えたのも、ずっと脚が痛くなっていくのも…
ウララ(大丈夫…なんとかなる)
見て見ぬ振りをした
レース当日
逃げのウマ娘は1人もいない
差しは私とあと2人、先行が10人、残りは追い込み
先頭集団の団子状態が予想される事から私は常に外側を意識する様にと言われた
内に入るくらいなら速度を落としてでも外をキープしろと
ゲートが開き、必死に疾る
誰よりも、真剣に…
短距離のレースは一瞬で決着する
だからこそ、だからこそ…油断や気の迷いなんて有っちゃいけない
最後方より少し手前、予定通り速度を落としてでも団子状態の外を駆ける
ウララ(差すなら、今!)
ダートを蹴る力をより一層強め、どんどん速度を上げる
ウララ(届いて!)
必死に走る
しかし遠い、速度を落としすぎたのか、それとも外を走りすぎたのか
脚がダートを何度も蹴る
そしてその度にその威力が落ちている
ウララ(このままじゃ…間に合わない…!)
いつもの様な、焦燥感と…恐怖
ライス「ウララちゃん!」
声が、聞こえた
このダートを走り続ける音の中から、私の為の声が
私のためだけの声が…
ライス「頑張って!ウララちゃん!
レースから意識を逸らしてはいけないのに、一瞬だけその方向に目が向いてしまった
後援会のみんなが、ライスちゃんが、そしてトレーナーが
私の勝利を信じて、願って、私を応援してくれている
ウララ(そうだ…私は、負けられないから走るんじゃ無くて…)
ウララ「みんなに…ワクワク届けるよ…!」
大きく息を吸い込み、より強くダートを踏みしめる
走る、誰よりも楽しんで…
誰よりも早く
トレーナー「ウララ!」
ウララ「トレーナー!やったよ!」
最後の最後でハナ差の勝利
私達の道はなんとか繋ぎ止める事ができた
そして…
トレーナー「…楽しかったか…?」
ウララ「うん…!楽しかった…楽しかったよ!ありがとう、トレーナー…!」
トレーナー「礼はライスシャワーに言うんだ、後援会の人たちを連れてきてくれたのも、あそこでみんなで応援できたのも…全部ライスシャワーが用意してくれた事だから」
ウララ「…ライスちゃん」
このレースで私はたくさんのことを得た
真剣ゆえの楽しさ、そして勝利の喜び
嬉しくて、楽しくて…
そして、まだレースを走るチャンスを得た
そこからの私は絶好調で、勝ちを重ねた事で…ある目標ができた
ウララ「…ライスちゃんと、走りたい」
感謝の気持ちもある
でも、天皇賞・春のライスシャワー
普段とは違うライスちゃん
真剣にぶつかり合いたかった
トレーナー「有馬記念…」
ウララ「私、きっと強くなれた…それはトレーナーのおかげ、でもライスちゃんやみんなのおかげでもあると思う…!」
トレーナー「…だから、有馬記念」
ウララ「…出られるかな」
トレーナー「まだ時間はある、芝を走り続ければ或いは」
トレーナーの返事は、私なら有馬記念に出走できると言う意味だった
ウララ「…私の真剣、ハルウララの…全力、見ててね」
有馬記念には、出走できる事になった
長距離、そして未だ慣れない芝
ウララ(…今までの走り方じゃ、勝てない)
ライス「ウララちゃん…」
ウララ「…ライスちゃん」
ライス「聞いたよ、その…有馬記念…」
ウララ「…ライスちゃん、ウララは…負けないよ」
その一言で、私の意思は伝わった
ライス「…真剣勝負…だね、私も負けない…」
ウララ「うん、きっと…楽しいレースになるから」
ライス「楽しみにしてる…!」
有馬記念当日、私はかつてない緊張に襲われていた
ウララ「…トレーナー、私…」
トレーナー「大丈夫、ウララはレースを楽しめる、さらにみんなを楽しませられるんだ」
ウララ「…うん」
後援会のみんなが来てくれている
ライスちゃんと走れる
そしてなにより…トレーナーが見てくれている
ウララ「頑張るよ、トレーナー!」
トレーナーにグーを差し出す
トレーナー「…良し、頑張れ!」
トレーナーが私のグーにグーをコツンと返す
ウララ「にひひっ!あいこだね!」
トレーナー「…じゃんけんだったのか」
ウララ「…私たち2人分のグーなら、パーにも負けないよ!」
トレーナー「じゃあ、勝ったら?」
ウララ「2人でチョキ!」
トレーナー「…ピースか、よし」
有馬記念は、長い
ゲートが開き、みんなが走り始める
このレースのために私はスタミナを特に鍛えた
長距離を走り続けることをまず何よりも大事にしたトレーニングをしてきた
ウララ(…でも、このペースじゃ…走りきれない…?)
一抹の不安を振り払い走る
ライス(ウララちゃんはかなり後方…このままなら…)
そう、私はこのレースにおいて誰からも注目されない存在
ウララ(…つ、疲れた…!もう、疲れた…)
半分を走った時点でもう疲労が身体を支配する
速度がぐんと落ちる
トレーナー「ウララ!まだだ!チャンスはある!脚を貯めろ!」
声が響く
私だけを応援してくれる声が
ウララ(…まだ、終わってないんだ…それなら)
突き放されない
これ以上は距離を開かない
先頭までの距離は約100メートル
どのタイミングでスパートをかければ良いのか…
そもそもスパートをかける体力なんて…
トレーナー「ウララー!そのまま行け!」
ウララ(…大丈夫、大丈夫…!)
この時、一つだけ頭によぎった
その考えが頭の中で繰り返される
トレーナー(…ウララは、楽しんでる…この勝負、まだわからない)
ライス(…ウララちゃんは…良く走ったと思う…だから私はライスちゃんのためにも、このレースで1着を取らなきゃ…!)
ライスシャワーが先頭へと躍り出る
ライス(誓います…大好きな人と…幸せの青い薔薇に…!)
ウララ(…もし、ウララがここから…)
ライス「ライスだって…咲いてみせる…!」
ウララ「…みんなに!ワクワク一杯届けるよ!!」
会場がどよめく
トレーナー「ウララ!行けぇ!」
ウララ(もし、ウララが勝ったら…もしハルウララがこんなに強かったら…みんなワクワクするよね…!)
体力なんてとうに底をついた
だけど、これは意地、根性、そして何よりも…
ハルウララの中に溢れるワクワクと、みんなにそのワクワクを見せたい気持ちが…
一瞬振り返ったライスシャワーと目が合う
ライス(ウララちゃんが…来てる…!)
嬉しくて、楽しくて…
遥か先のライスシャワーを狙う
ウララ(絶対に勝ちたい!)
ライス(…ウララちゃん、絶対に負けないよ…!)
ウララ「負けたーーっ!!」
レース結果は4着、最下位から全てをひっくり返し、そして最後まで手を伸ばし続けたレース
ライス「…ウララちゃん」
ウララ「悔しいけど…最高に楽しかったよ!」
ライス「…ライスも、楽しかったよ…!」
最も楽しみ、最も走り続けたハルウララは、有馬記念で敗北を喫した
それは当然の結果でありながら、しかし誰よりもワクワクを与えたウマ娘として記憶に残り続ける
ウララ「トレーナー!今日は何しよっかー!」
トレーナー「水族館にでも、行ってみようか」
ウララ「おー!行こう行こう!」
ハルウララは誰もが愛する名バとして
ハルウララは夢とワクワクを届けるウマ娘として
ウララ「よーし!今日もワクワクいっぱい届けるよ!」