「どれぐらい温めればいいんでしょう?」
家に戻り備蓄してある炭に火を入れて温まるのを待つ
(少しでいいぞ、どうやらお前の人肌で十分なようだからな)
「そ、そうですか……」
(先程からじっとしていたミシャクジが動き始めたのはそういう事でしたか……)
服の上では出来ればじっとして欲しいのだが、この際致し方ない
「それで話というのは……?」
(そうだったな、本題に移るとしよう)
洩矢諏訪子が私にわざわざ話をする内容とはなんなのだろうか?
(では単刀直入に言おう、お前の信仰を譲って貰えないだろうか?)
「私の……信仰?」
(なるほどそういう事でしたか)
(そうだぞ?)
あ、聞かれてるんでした
(でも聞かれてない思考もありますよね?)
(私に対する思考じゃない限りは基本的には聞こえないぞ)
(なるほど……?難しいですね?)
「あ、すみません話を遮ってしまって、信仰のことでしたね」
(そうだが、怒らないのだな)
「ん?それはどういうことでしょう?」
(どういうことも何も、いきなり信仰を譲ってくれと言われたら普通怒るだろう?)
「んー、確かにそうかもしれませんねぇ……本業で神をやってる方なら」
(本業……か、まぁ私も生きるためだからな)
「私は趣味でやってるようなものですからねぇ」
(そうかもしれないが……それでも信仰している人間がいるのだろう?)
「そうですけど……そうだとしても、あなたは信仰を譲ってくれと言うんですよね?」
(まぁ……それが目的だからな……)
「それなら、私にできることは大人しく信仰を譲ることだけです。あなたに敵うわけありませんからね」
あの洩矢諏訪子だ、祟られでもしたらひとたまりもないだろう
(それは……こちらにってはありがたいが、人間たちが許すだろうか?)
「やけに心配してくれるんですね?」
(まぁ……私も前はそうだったからな)
「それで今度はやる側になったと」
(そ、そうだな……)
「そもそも信仰ってそんなに簡単に譲れるものなんですか?」
(人間たちが私を信仰してくれるかどうか……といったところか)
「それなら話すなら私じゃなくて村人たちじゃないですかね?」
自分がどうこう言える話ではないだろう
(なるほど……確かにそうかもしれないな)
「そうだ、私があなたの事を村人たちに紹介しますよ、それなら村人たちも警戒することは無いでしょうし」
(それでいいのか……?)
「片方しか信仰出来ないってことはないんでしょう?」
(ま、まぁそうだが)
「なら大丈夫ですね、今から行きましょう」
(え、ちょっとそれは……)
「どうかしました?」
(いや、それがだな……さっきうちの風祝に会っただろう?こいつもその風祝について来た訳なんだが)
引っ付いてきてどこかのタイミングで降りたってことなんだろうか
「ふむ……それがどうかしましたか?」
(それがだな……うちのミシャクジたちは仲間たちがどういう状況にあるか分かったりするんだが……)
「へぇ、便利ですね」
(そう、便利なのはいいんだが……さっきからミシャクジたちが騒いでいるから何事かと確認したらだな、どうやらうちの風祝とそこの村人たちが揉め事を起こしているようなんだ……)
「なるほど……一体どうして?」
「あの子はな……なんと言うか、守矢の風祝としての自覚が強い子なんだ」
「ふむふむ」
「ミシャクジの話を聞く限りは、あの子が村人たちのお前への信仰を否定するようなことを言ったせいで揉め事になっているようなんだ……怪我人は出ていないようだが」
「あぁ……なるほど」
冬だというのに元気な村人たちだ
(それにしてもあの子もまだまだ修行が足らないな、土地神が目の前にいたのに気づかないとは……気づいていればこんなことにはならなかったのに)
「それで……どうしたいんです?」
(私か……?私は出来れば友好的に行きたいと思っているが……もう手遅れかもしれないな)
「いや、それはやってみないと分かりませんよ」
「そうか?それなら……」
「そうですね、私が話をしてみます」
「ならば私も村人たちに直接話す方がいいな」
「助かります、では行きましょうか」
信者同士の揉め事は神が解決するのが1番良いだろう
「よそ者は帰れ!」
何回目かも分からない怒号が村人から聞こえてくる
「あなた達が信仰する神より……」
「俺達には風神様がいるんだ!よその神様なんて知るもんか!」
(ちっ、この村人たちは……)
いくら守矢の二柱の方が優れているという事実を見せつけても自分たちの意見を曲げようとしない
(しかしこれほどまでに村人が狂信する風神様というのは一体……)
「みんな!風神様が来たぞ!」
(なっ……!あれは……!?)
村人たちの指さす先にいたのは、先程会った天狗だった
(紗代子、聞こえるかい……?それにしてもしくじったねぇ)
(諏訪子様……!申し訳ありません、村人たちが……)
(把握してるから大丈夫だよ、土地神の方にも話をつけてきたし)
(その……あの天狗が本当に土地神なんですか?)
(そうだねぇ、あれを見抜けないようじゃまだまだ修行が足りないね……帰ってくる時には覚悟しなよ?)
(はいっ!諏訪子様!)
(返事だけは1人前だね……)
そんな話をしている間にも風神様と呼ばれる天狗は村人たちのもとに降りたって何か会話をしているようだ
(えっと……私はこれからどうすればよいのでしょうか?)
(そうだねぇ、土地神が村人たちに話をつけてくれるから、合図したら紗代子、私を降ろしな)
(えぇっ?!諏訪子様をですか?!)
(そうさ、あとは私が全部やるから心配しなくていいさ)
(やはり……私では力不足ですか?)
(いいや、紗代子は上手くやってくれてるさ、しかし相手が土地神として直接出てきているのに、こちらが風祝では失礼だろう?)
(そう……ですね、諏訪子様がそう言うなら)
(おっと……合図が来たよ、私と紗代子でならさほど難しくないはずさ、頼んだよ)
「分かりましたっ」
この守矢紗代子……古きからの洩矢の神に願い申す
我が身に御心を宿し給え
民に御言葉を届け給え
そして、その御力によって奇跡を授け給え!
「あー皆さん、あちらにいるのが私の友人である守矢の土着神の……遣い……じゃないですね」
(直接話すってそういうことだったんですね……)
村人たちの視線が一斉に向けられた先には……
「そう、我こそが古きより諏訪を守りたる土着神、洩矢諏訪子だ。我が遣いが無礼を働いたようだな、すまなかった」
そこには先程までの風祝ではなく、圧倒的なオーラを纏った土着神が立っていた
「あー……大丈夫ですよ?こんな感じで諏訪子さんは悪い神ではないので皆さん仲良くしてあげてくださいね、農耕について色々教えてくれるそうですよ?」
「そうだな、良い関係を築けることを望む」
これが、なんとも突然な守矢との交流の始まりだ
「あの……最近思うんですが、本当に文さんは信仰がなくなってもいいんですか?」
「そうですねぇ……信仰してもらえるのはいいことですが、あまり信仰されては、ここにいるしかなくなっちゃいますからね。これでいいんです」
「そうですか……」
「そう、私を信仰しなければ、私がこの地から離れても村人たちは心配しなくてすみますからね」
「なるほど……?」
「そう、まぁ要は旅をしてみたかったってことです。結局は自分のためですよ」
「上手い具合に押し付けられたってわけですか?」
「あやや、そんなことないですよ〜?」
「まぁ諏訪子様や神奈子様の信仰が増えるのならいいんですけどね」
「おっ、それなら全部任せちゃって大丈夫そうですね」
「やっぱり押し付けた自覚はあるんですね……」
「あや、そうともいいます」
「それで、旅をするなら最初はどこに行くんですか?」
「そうですねぇ……特に予定はないんですが、最初は守矢神社にお参りしましょうかね」
「おお、それはありがたいですね」
「準備が出来たら近いうちに訪れると伝えておいて貰えますか?」
「分かりました、諏訪子様や神奈子様も喜ぶと思います」
守矢との交流が始まって早数年、移住者も互いに増え、守矢への信仰も増えている。それこそ諏訪の一部と言ってもいい程にはなっている。
「これなら、神を辞めても許されますかね?」
気づけば数十年一緒に過ごしてきた村から離れるのは心配もある
「でも、私には会いたい人が沢山いるんです」
ひとまずここで区切りをつけよう
「これからは神としての私ではなく、妖怪としての私に戻りましょうか」
私は、鴉天狗の射命丸文だ
読んでいただきありがとうございます
せっかく夏休みだというのに執筆以外のことばかりしていました
来週からは守矢神社編に行けるはず……?