「虚偽の申告はしてもいいけど……記録に残るからね」
「は、はい……わかりました」
そんな警告を皮切りに始まる質問
「よし、それなら……生まれは?」
最初の質問、それと同時に定規のようなものが飛んでくる
「あややっ?!」
「気にしなくていいよ、記録をとるだけだから」
「はい……えっと……生まれですか」
妖術の類だろうか?
(それに……正直に言っていいものなんでしょうか?)
「なんか気づいたら生まれてたって感じで……」
「ふむ、それ以前の記憶はあるのかな?」
視界の端で紙の上で動く筆が見える
「何となく鴉って感じです」
「なるほど、正常な動物の妖怪化って感じだね」
「あの……私みたいな鴉天狗って他にいるんでしょうか?」
そこは気になるところである
「ふむ、そうだね……ある程度、と言ったところかな、おそらくここにたどり着く者が限られるということもあるだろうけど」
「よかった……そうなんですね」
私だけ異質な生まれという訳では無いようだ
「しかしだ、君にはもう1つ異質な点がある」
「そ、それはなんでしょう?」
「ここに来た時、君は射命丸文と名乗ったね?」
「はい……」
「名前を持っていること自体は特に異質なことでは無い、この場合問題となるのは、○○丸という苗字を名乗っていることだ」
「私の……苗字?」
「そうだね、本来このような苗字は限られた者にしか名乗ることが許されていない、君には関係ないかもしれないがね」
「そう……なんですか?」
初耳である
「実は本来、そのような苗字は天魔様に与えられるものでね、だから君は天魔様の承認を得るか、名乗るのをやめるか、即刻この妖怪の山から出ていくか、ということになる」
「この名前は、私だけの名前ではありません……」
大事な大事な”射命丸 文”の名前だ
「なので、私は……」
(名乗るのをやめるのは論外として、妖怪の山から出ていくのは……嫌ですね、それなら……)
「天魔に会う、かな?」
「はい」
"射命丸文"であるならばこうするしかない、そう思った
「そういうことだね、連絡はしておいたからそろそろ来ると思うよ」
「えっ」
「ここに来る時に言っただろう?君には天魔に会ってもらう、と」
「ということは、私がどう答えたとしても……」
不敵な笑みを浮かべる書世丸さん
「うん、分かって貰えたようで何よりだよ。君の聞き分けが良くてよかった、記録にはいい感じに書いておくからね」
「あ、ありがとうございます?」
「さて、返事が来るまでにもう少し質問しよう」
そうしてこれまでの来歴や生活についての質問にいくつか答えた後のこと、何かが書世丸さんの手元に飛んでくるのが見えた
「おや、返事が来たみたいだね」
「それは……?」
「これかい?これは式神でね、目的地に向けて飛ぶだけの簡単なもので、連絡は主にこれで行っているんだ」
書世丸さんの手には人型をした紙が握られていた
「へぇ……」
さすが妖怪の山といったところだ
「あぁ、それで君の処遇なんだけど――」
突然聞こえたのは扉の開く音
「おっと、読むまでもなく迎えが来たみたいだ」
書世丸さんが立ち上がり扉の方へと向かう
「ようこそ、お待ちしておりました、こちらいるのが件の鴉天狗です」
コツコツと足音を立てながら近づいてくるのは、白狼天狗らしき背の高い女性だ、もう一人は二回りほど背が低く付き人のように見えるが、こちらは笠を深く被っているため種族などは分からない
「こんにちは、射命丸文さん、ですね」
「はい、射命丸文です。こんにちは」
凛とした女性の雰囲気である。付き人のほうは……こちらを見ているだけでよく分からない
「天魔様が直接話をしたいそうです。ついてきていただけますね」
私は頷き、彼女について部屋を出る
「あぁ、そうだ、射命丸くんの資料を」
付き人の方へ資料を渡す書世丸さん
「では、ついてきてください」
建物を出て、少し整備された山道を歩く
「あの、えーっと」
「……長守楓です。長守とでも呼んでいただければ」
「あ、はい……長守さん、天魔様ってどんな方なんですか?」
「天魔様は……若くして天魔となった非常に人望の高い方です。まぁ……そうですね、護衛をしている私から言わせて頂くならば、その立場にふさわしくないほどに自由すぎる方ですね。まぁそこに実力も伴っているからこその人望ではあるのですが……」
「そうなんですね……」
「そうですね、まぁ天魔はあなたのような面白い方が好きですので、構える必要はないと思いますよ」
「私が……面白い?」
「あなたの来歴の話です、天魔様はそこに興味を持っているのです」
「なるほど……」
(私の来歴って言ってもそんな大したことはしてないですけどね……)
劇的な何かがあった訳でもなく、マイペースに生きてきただけである
「そろそろ着きますよ」
そんなことを話しながら山道を進んだ先には、深い渓谷があった
「この下ですか?」
何となくそんな気がしたので聞いてみる
「そうです、少し飛びますよ」
そう言って私と長守さんたち2人は渓谷を段々と高度を下げながら進む
「この辺りは、主に鴉天狗の居住地となっています」
渓谷の側面の所々に屋敷らしきものがあるのが見えた
「すごい……」
天狗だからこその立地だろう
「そしてあの先が、天魔様の屋敷です」
眼下の渓流も近くなり、ひんやりとした空気と薄暗さを感じてきた頃、音を立てて流れ落ちる滝の裏の岸壁にその屋敷はあった
「すごい……隠れ屋敷ですね」
滝の裏とはまさにテンプレである。そんな屋敷に長守さんに連れられて足を踏み入れると、そこは完全な日本家屋でった
「わぁぁ……!すごい……!」
初めて見る和式の内装に心踊っていると、長守さんに案内された部屋で待っているようにと言われたので、大人しく初めての畳と座布団の上で待つことにする
「……いい匂い」
畳のいい香りを感じながら出てくるであろう天魔を待ち構える
「やぁ、射命丸くん、会えて嬉しいよ」
(……っ!)
どこかからか声が聞こえたが、見回しても誰もいない
(…………どこ?)
読んで頂きありがとうございます!
1ヶ月ぶりの更新です。新作カードゲームやら色々に手を出したりしてました。そして、今は熱も少し冷めたのでまた更新頑張ります。
とりあえず毎週投稿を目指しています。書き溜めせずに数日おきに投稿しているとまた今回みたいになってしまうと感じたからですね。
またこれからもよろしくお願いします
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