「間に合ってくださいよ……!」
そうやって速度を上げて飛んでいるのはいいのですが、今度は音が聞こえなくなってしまいました
「この辺だとは思うんですが……」
これは1回呼びかけてみましょうか
「大丈夫ですかー!」
上空から森の中へと呼びかける
(返事できる状態だといいんですが……)
そして一瞬の静寂の後
「助けてぇっ!」
再び聞こえる声
「……っ!こっちですね!」
声の方向へと急降下すると見えたのは……
「くっ……、やはりそうでしたか!」
目に入ったのは真っ黒な球体と尻もちをついた人間の少女だった
「やらせませんよ!」
着地して少女と球体の間に割って入る
「あら?その声は……昨日の子ね?」
「えぇそうです」
「そこにいるってことは……私の獲物を横取りしようとしてるってことでいいわね?」
「いや、そういう訳では……」
「そう、でもその人間を食べるのに邪魔だからどいてもらうわ」
彼女がそう言うと少女と私を取り囲むようにじわじわと闇が発生しはじめる
「あやや……」
「ひぃっ?!」
(やばいです、ルーミアさんが本気です)
この少女を諦めてくれればいいだけなんですが……
(どうしましょうか)
真正面から立ち向かっても敵わないのは目に見えています
(こういう時は……逃げるが勝ちです!)
「行きますよ!」
手を取って走り出そうとするが、立ち上がれない様子の少女
「あーもうっ!……それじゃあ、よっこいせっと」
「ひゃあっ?!」
少女をお姫様抱っこする
(ほんと、力が強くて助かりました)
「あら?逃げる気かしら?」
「えぇ、この人間は渡せませんから」
「逃がさないわよ?」
「いいや、逃げさせてもらいますよ、生憎……速さには少し自信がありますから」
少女を抱えたまま走り出す
「少し揺れますからね!」
チラッと少女に目をやると耳を塞いでギュッと目をつぶってしまっていた
(無理もありませんね……こんな状況怖くないわけがありません)
薄暗い森の中の倒木を飛び越えたり、段差を飛び降りたり、ルーミアさんとの追いかけっこは続いています
「よっ、ほっ、それっ」
風の力で障害物を取り除きながら走っていく
(それにしても、闇の中だと周りが見えないというのは本当みたいですね……)
というのも、闇の球体の中に引きこもっているルーミアさんが時々立ち止まったり、障害物にぶつかったりしているのだ
「痛っ」
(あ、またぶつかってる)
「あなた、結構素早いわねっ!」
後ろの方でルーミアさんが叫んでいます
「一応これでも鴉天狗ですからねっ!」
走りながらこちらも叫び返す
(それにしてもこのまま逃げ回るだけでは埒が開きませんね……)
どうにかこの少女を諦めてもらわないといけません
(なにか追いかけてこれなくなるいい方法は……)
とりあえず飛んでみますか、抱えながらどれくらい速度が出るかは分かりませんが
「いちっ、にのっ、さんっ!」
掛け声と共に地面を蹴り空へと飛び出す
「あー!ずるいわよっ!」
(こちら飛行は順調っと)
速度が少し落ちたものの、飛行自体にはなんの問題もない
「んっ……」
(おっと、空にいることに気づきましたかね)
耳に当てていた手を少し離している
「あ、目は開けない方がいいですよ、怖がられて暴れられると困りますから」
少女が小さくウンウンと頷く
「ありがとうございます、では村の方に向かいますね」
目指すは遠くに見える人間の集落です
「ルーミアさんは空までは追ってきてはいないようですが……まだ油断出来ませんね」
速やかに集落へ向かうことにしましょう
その後は何事もなく森の上空を進み、やがて集落がある平原の端へと辿り着く
(ここらで一息つけそうなので一旦着陸することにしましょう)
翼を動かしてゆっくりと高度を下げる
「よいしょっ、もう目を開けてもいいですよ」
「んん……ん……っ!」
どうやら日差しが眩しかったようです
「どうです?1人で立てますか?」
「うん……」
「分かりました、じゃあ降ろしますね」
そーっと少女の足を地面に降ろした
「よし、いやー大変でしたね?」
「うん…………あのっ」
「ん?なんでしょう?」
「あのっ…………あ……ありがとう、お……お姉ちゃん?」
「っ………!!」
(あややややややややややや)
あややややや
「あ、ありがとうございます……」
(お、お姉ちゃんだなんてそんな……)
顔が熱くなる
「まっまぁ当たり前のことをしただけですよっ?」
「ふふ、お姉ちゃんは凄いんだね!」
ニコニコと笑う黒髪の少女
(あや……この笑顔を守れて良かったです)
「あっ……お姉ちゃん!あれ!」
「ん?あれは……」
少女が指さした方向にあったのは先程まで追いかけてきていた真っ黒な球体
(ルーミアさん、森の中からも追いかけて来ていたんですね)
森の上空や平原まで追いかけてきていないのは明るいからでしょうか
「ちょっとここで待っててください」
「え?あれの近くに行くの?危ないよお姉ちゃん!」
「大丈夫ですよ、少し話をしてくるだけですから」
「だめ!お姉ちゃん怪我しちゃう!」
「本当に大丈夫ですから……少しだけです」
少女の頭を撫でて落ち着かせる
「うー……ほんとにほんと?」
「はい、本当ですよ、すぐ戻ってきますから」
「絶対に絶対だよ?」
「はい、絶対です」
(こんなに心配してくれるなんて……なんて優しい子なんでしょうか)
こんな少女を一瞬でも1人にするのは気が引ける
(でも、ルーミアさんとも話をつけないといけない気もします)
「では、ちょっと行ってきます」
「絶対戻ってきてねっ!」
「そんな大袈裟な事じゃないですよ、ちゃんと戻ってきます」
そう言ってルーミアさんの方へと駆け足で移動する
森と草原の境目辺りまで走ってきた
「何?煽りに来たの?」
不機嫌な様子のルーミアさん
(そりゃそうですよね……獲物を奪われたんですから)
「いや……そうではなくて、謝らないとと思いまして」
「ふん、謝るだなんて人間を返してくれないなら無駄よ」
「すみません……あの人間を食べるのはちょっと遠慮して欲しかったので……」
「でも、これで分かったわ」
「ん……?なんでしょう」
「ここら一帯はあなたの縄張りだってことよ」
「へ……?」
(な、縄張り……?生活圏ではありますけど)
「人間が大きくなるまで待ってるってことよね、そうでしょ?」
「は、はい……?」
「そう、やっぱりそういうことだったのね」
(なんか1人で納得されてしまいました)
「まぁ、本来なら他人の縄張りなんてこと気にしないのだけれど、今回は肉の借りを返したってことにするわ」
「あ、はい、わざわざすみません」
「いいわ、もともとこの辺りからは離れるつもりだったし」
(なんだか話が勝手に進んでいます……?)
「あっ…そうよ、あなた名前は?」
「私ですか?私は……射命丸 文といいます」
(なんだかすぐ忘れられそうですが)
「射命丸文……ね、覚えておくわ」
(いや、このルーミアさんならそんなことないかもしれませんね)
「よし、それじゃ私は行くことにするわ……次は容赦しないわよ?」
「貸し借りなしですね」
(容赦しないと言われるとちょっと怖いですが……)
「じゃあね〜」
「またいつか〜!」
そう言って黒い球体もといルーミアさんはふよふよと森の奥へと飛んでいってしまいました
「……名前言っただけでしたね」
早足で言いたいことだけ言われた感じです
「お腹すいてたんでしょうか」
最近人間が見つかっていないとも言ってましたし多分そういうことなんでしょう
「あ、早くあの子のところに戻らないと」
ここから見える限りでは問題なさそうですが、急ぎましょう
「あ!お姉ちゃんおかえり!」
「ただいまです、ちゃんとすぐ戻ってきましたよ」
「うん!ほんとだった!」
「私は嘘をつきませんからね、さぁ村のそばまで送っていきますよ」
もうすぐそこではありますが
「うん!」
そして、何事もなく二人で手を繋いで歩き、村の建物の集まりのすぐ傍につく
「それじゃ、私はこの辺でお別れです」
「えー!なんで?もっと一緒にいようよ!」
「私もそうしたいんです、でも妖怪が村にやってきたら怖がられてしまうでしょう?」
(名残り惜しいですが、これが妖怪の定めですよね)
そのために少女の小さな手を離そうとした
「……お姉ちゃんはかみさまでしょ?」
「……え?」
「だってお母さんが、本当に困った時はかみさまが助けてくれるって言ってたもん!」
「神様……」
(あやや……この子にそんな風に見られていたとは)
「そう!だからいつもおいのりしてるの!それでねそれでね!そしたらほんとにお姉ちゃんが助けてくれた!」
私が妖怪だとは微塵も思っていない様子の少女は、私を見て言いました
「そう……そうですか……そうですね、私は……神様かもしれませんね」
「うん!」
「ありがとう……ございます」
「えへへ〜」
はにかむ少女の笑顔が眩しい
(なんて純粋なんでしょう、これじゃ……嘘をつくしかないじゃないですか)
少女の純粋な心に触れると、妖怪も神様も一緒な気までしてくる
「おい!はるちゃんが戻ってきたぞ!」
突然響く誰かの声
(えっ……)
そして声を聞いた何人もの村人たちが私の周りに集まってくる間、私は思考停止して動くことが出来なかった
そして視線、沢山の珍しいものを見る目が私に向けられる
「あ、あの……」
村人の1人が口を開く
「…………っ!」
「お姉ちゃんっ!!」
私は空へと逃げ出してしまった
読んで頂きありがとうございます!
次も来週の予定です(時間ギリギリだったので端折り気味)
追記 お気に入り登録者が100人を突破しました!本当にありがとうございます!