大逃げが不利なんて言わせない   作:紗夜絶狼

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第1話 過去の私

「い、今なんて言いましたか?」

 

「ん、聞こえてなかったかな?ではもう一度。君をスカウトさせていただきたい」

 

 どうやら聞き間違いではなかったみたい。でも私は即答する訳にはいかなかった、そりゃ私にも選択権がある。だから条件をトレーナーさんに提示した。「1週間後に選抜レースがあります、そこで私の走りを見てスカウトするか決めてください」この提示にトレーナーさんは首を縦に振りその場を去っていった。

 

「選抜レースにスカウトか・・・。とりあえず課題終わらせないとね」

 

 

 

~数時間後~

 

 

「ふぅ、」ひとつため息を漏らしつつ課題を終わらせた。気が付けばもう日が落ちていて時計も夜の7時を指していた。丁度お腹も空いてきたしカフェテリアに行こうかなと考えていると、同室の「ミホノブルボン」が帰ってきた。彼女を誘おうと思っていたが既に夕食を食べた後らしく、この後はジムで軽く流してくるらしい。私は部屋を後にして学園のカフェテリアに向かった。

カフェテリアは夕食時とあって、たくさんのウマ娘達で賑わっている。

 

「今日のオススメは倍にんじんパスタかぁ」

 

オススメとあってデカデカと掲示されているようで、今日の注文人気はかなり高いみたい。注文を終え数分待ち出てきたパスタは、いかにもにんじんを練りこんだもちもちパスタ、にんじんたっぷりのソース、とどめに丸ごとにんじん。(ははは、これは豪勢だね)内心驚きつつも、窓側の空いている席に座った。だけど中々食べる気になれなかった。「あんな条件提示しちゃったけど、どうすればいいんだろう」悩んでいると横から特徴的な声が聞こえてきた。

 

「なんや悩み事かいな?パーマーらしくないな」

 

関西弁の主は同じ栗東寮の「タマモクロス」だ。私はタマと呼んでる。

 

「まぁ悩んでないと言ったら噓になるかな」

 

「よっしゃ、ウチが聞いたるわ」

 

そう言うと隣の席に座るタマ、そして朝会ったトレーナーと起こったことを全て話した。「なるほど、スカウトされたのにすぐには受けなかったと」タマは眉を細めつつ考えていたがすぐに言葉が返ってくる。

 

「もしかしてやけど、まだあのことを引きずってるんか?」

 

そうあれは去年の春の選抜レースのこと、私はメジロ家のウマ娘として当時は大きく注目されていた。マックイーンやライアン、ドーベルと共にね・・・。

 

 

~昨年春のトレセン学園選抜レースにて~

 

 

 

「さぁやって参りました春の選抜レース、第5レースは16人のウマ娘が出走します。この中での注目は勿論このウマ娘、3枠6番メジロパーマーです」

 

私は当時「メジロ家」というだけで注目されていた。ゴール付近には沢山のトレーナー達がいる。レース距離は2000メートルの中距離、芝コース。得意なコースではあった。

ゆっくりとゲートに入り体制を整える。呼吸は平常を保っていた、だけどひとつだけ不安点があった。それは「最後まで逃げきれない」ことだった。

そんな不安の中、ゲートが開き選抜レースが始まった。

 

「各ウマ娘並ぶようにスタートします。先頭に飛び出しまずレースを先導するのは、6番メジロパーマーです」

 

(脚の状態は全然問題ない、これだったらもう少し早く)

 

第3コーナーまでは先頭を走っていた。2番手との差は10馬身ぐらいだったかな、だけど少し飛ばしすぎたのか徐々に足が回らなくなっていく。2番手の娘との差はどんどん縮まっていき、いよいよレースはコーナーを抜け最後の直線に差し掛かった。

 

「さぁ勝負は第4コーナーから最後の直線になる。以前先頭はメジロパーマーですが、おっと後ろから9番が迫ってきている」

 

一瞬だけ後ろを振り向く。あれだけ離していたリードが既に3馬身程しかなかった。慌ててスパートをかけようとするも、既に私のスタミナは底を尽き、脚はただただ重くなっていくだけでスピードも減速していった。そして残り200メートルの所で、2番手の娘は私を抜いていった。それに続くように続々と抜かれていった。

 

「おーっとここでメジロパーマー失速、みるみると順位を落としていく!」

 

気が付けばいつの間にか私は後方の集団に沈んでいた。満ちていたやる気が燃え尽きるもなんとかゴール板を駆け抜けた。結果は15着と散々なものだった。膝に手をついて大きく息を吸い込みゆっくりと吐き出す。悔しいが頭の中を駆け巡ったが今は考えたくは無かった。

大きく乱れていた呼吸を整え顔を上げると、そこには学園でも指折りのベテラントレーナーがスカウトしようと待ち構えていた。

 

「お疲れ、メジロパーマーぜひにスカウトさせてくれ」

 

とりあえず色々と話を聞き、「また明日までにお答えしますので今日はこれで」とこの場を足早に去った。内心嬉しかった。15着とはいえ、あの中には学園でも指折りのベテラントレーナーからも声をかけていただいたのだから。

 

「君の力を私の力で磨かせてほしい」

 

この言葉が一番心が動いた。もっと力をつけれる。そうすればライアンやマックイーンにも追いつける。

 

「よし、あのトレーナーさんのスカウトを受けよう」

 

答えを出し私はベテラントレーナーのいるトレーナー室へスキップしながら向かった。

ドアの前まで来た私は覚悟を決めて開けようとした瞬間、中からベテラントレーナーの声と別のトレーナーの楽しげな会話が聞こえてきた。(他の娘の練習メニューについて話してるのかな?盗み聞きする気はないけど終わるまでまt)

 

「お前まさかメジロパーマーをスカウトするつもりか、いくらメジロ家出身とはいえ15着だぜ?お前目でもおかしくなったのか?」

 

「その「メジロ家」だからスカウトするんだよ。要するに名声が欲しいんだよ名声が」

 

私は絶句し言葉を失いその場で立ち尽くしてしまった。その後も聞くに堪えない言葉が次々と出てくる。

 

「勿論しっかりと育成はする。しかしあの逃げと脚では勝ててもせいぜいG3が限界だな」

 

「おいおいそこまでにしてやれよ、まぁ俺も同じこと思っていたけどな」

 

「メジロマックイーン、メジロライアン、メジロドーベルはスカウトできなかったが、メジロパーマーならスカウト出来ると踏んだのさ」

 

「お前とことん腹黒い奴だな、あははは」

 

私は逃げ出した。とにかく早く外に出たかった。校舎を出てからふと空を見上げると、すっかり陽が落ち、空は薄暗い夜空に変わっていた。色んな想いがこみ上げてくる。「メジロ」の自分が欲しかったんだ、信用していた自分が惨めだった、マックイーン達には追い付けないんだ。悔しかった。

頬に何かが流れ落ちているのを感じた。触らずとも分かる、「涙」だ。

 

「やっぱりおかしいと思ってたよ、学園でも有名なトレーナーが私をスカウトしたいなんてさ。。。暫くスカウトは受けないでおこうかな」

 

寮に戻り自分の部屋に入り、ベッドに包まって声を押し殺して号泣した。幸いにもブルボンがいなかったから疲れきるまで泣いた。

その日から私は選抜レースには出ず、トレーナーからのスカウトは一切受けなかった。勿論寮長のフジキセキさんや、生徒会副会長のエアグルーヴさんから理由を聞かされたりした。だけど話したくなかった、マックイーン達に心配はかけたくなかったから。

 

 

 

~現在「カフェテリア」~

 

 

 

「まぁそんなところかな。まだ信用できなくてさ」

 

「なるほどな、そういやそのトレーナーはどんな感じの奴やったん?」

 

「確か身長は180ぐらいでかなり若くて、あとそれで去年学園で見かけなかった顔だったかな」

 

(なんやようやく帰ってきたんやな)

 

「パーマーそのまっすぐなトレーナー、信用してもええんやないか?」

 

タマの言葉に少し引っかかるものを感じたが、タマがここまで言うんだから少しは信じてもいいのかも知れない。

少し長めの食事を終えタマとここで別れる。私は寮に戻ってお風呂に入り、その後はすぐにベッドに寝転んで、ゆっくりと眠りについた。




「メジロ」という膨大なる期待などを背負うパーマーにとっては、やはり伸び悩みがあることが辛いのではないかと勝手に想像してます。
名声のためにスカウトなんて、腹黒いですね。
次回は意欲が沸き次第投稿させていただきます。
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