大逃げが不利なんて言わせない   作:紗夜絶狼

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約束の選抜レースに向けてトレーニングを重ねているある日、マックイーンから、とある誘いを受けることになり、放課後トレーニングコースに向かうことになるメジロパーマー。


第2話 模擬レース

次の日から選抜レースに向けて毎日欠かさず練習した。

芝のトラックを全力で走り抜けスピード力を向上させた。砂が混じるダート坂路を何往復も繰り返し、力強さも鍛えた。持久力を上げるためにサーキットトレーニングも、手を抜かずに全力でやり抜いた。この一年間まともに出来てなかった分、両脚の筋肉は毎日悲鳴をあげていた。ただ代償として、毎日脚には湿布とアイシングが欠かせなくなったけどね。

そんなこんなで気付けば選抜レース前日の朝を迎えていた。

 

「うーん。おはようブルボン」

 

「おはようございますパーマーさん。今日のお昼は一緒に食べませんか?」

 

「あはは、まだ朝なのに気が早いよ。お昼にカフェテリアだよね?分かったよ」

 

「ありがとうございます。では身支度を済ませましょう。朝支度モードに移行します」

 

ブルボンからの誘いはトレーニングぐらいしかなかったけど、まさかランチの約束を朝一番からなんてね。とまぁこんな珍しいこともありつつ、学園の制服に着替え、寮で朝食を済ませ学園に向かう。

 

(今日は何かが起こりそうな気がするな~)

 

 

~お昼休みのカフェテリアにて~

 

 

ようやく午前中の授業が終わり、私はウマ娘達で大変賑わっているカフェテリアで一人ブルボンを待っていた。(でもなんでいきなりランチをしようなんて誘ってきたんだろうか?にしても流石に疲れが、、、)

連日のハードトレーニング疲れからか、気付いたら机に伏せるような体勢になっていた。もうしばらく待っていると、誰かが肩を数回叩き声をかけてくる。ようやくブルボンが来たみたいだ。

 

「もぉ~遅いよブルボン、めっちゃ待ちくたびれたよ~」

 

伏せていた顔をゆっくりと動かし、ゆっくり振り向き、声のする方へ視線を上げる。そこには勿論ブルボンはいた。でもブルボンの隣にもう一人いた。中等部で私と同じ「メジロ家」であるメジロマックイーンだ。

 

「パーマー、私もランチご一緒してもよろしいですか?」

 

「あ、あぁ勿論いいに決まってるじゃん!お腹も空いてるし早く座ろうよ」

 

まさかマックイーンがいるなんて聞いてなかったから思わず驚いちゃった。よく見たらマックイーンの持つトレーには今日のオススメに出ていた「にんじん蒸し定食」の少なめが乗っていた。きっとダイエット中なんだろう。そしてテーブルの向かいに座ったマックイーンはすぐに口を開いた。

 

「いきなりで申し訳ないのですが、放課後に私とパーマーを含めました5人で模擬レースを行わせていただきます」

 

彼女からのいきなりの模擬レースへの強制出走。思わず「ふぇ!?」と声にでてしまった。まず模擬レースがあるなんて聞いてなかったし、むしろブルボンからすらも聞いていない情報だった。でもマックイーンのことだからただ実戦に近いレースをしたいのかも知れない。私は何の疑いもなく了承した。あとの3人について誰が走るのかを聞こうとしたが、既に話題はレースから、マックイーンのダイエットの苦労話に変わっていて結局聞けることなく、なんかモヤモヤした気持ちが残ったまま昼休みが終わってしまった。

そのモヤモヤが放課後まで晴れることがなかったため、午後の授業には全く身が入らず、先生にもお説教を受けてしまった。あとの3人は誰なのか、なぜ私と模擬レースをするのか、考えすぎてやる気が下がりそうかも。

 

 

~放課後トレーニングコースにて~

 

 

「約束通りにトレーニングコースに来たけども、なんで他の娘達がいないんだろう?もうアップをしてから20分は経ってるのに」

 

「それは会長さんにお願いしまして、私たちだけの貸し切り状態にしましたの」

 

マックイーンは少し遅れてやってきた。ブルボンも一緒にいる。しばらくすると、遠くの方から3つの影が見えてくる(うん?遠くの方から誰かがやってくる。例の3人かな?)予想は当たっていた。

 

「おーいマックイーン、遅れちまってわりぃわりぃ」

 

「すまねぇ、ちょっと準備に時間が掛かっちまった」

 

「お待たせマックイーン」

 

驚いた。残りの3人って、去年の同じ選抜レースで物凄い実力を示していた中等部期待の3人じゃないか。

追い込みからの脅威の末脚で、最後尾から一気にごぼう抜きを魅せた「ゴールドシップ」

圧倒的なマークを受けながらも、持ち前のパワーセンスで潜り抜け差し切りを決めた「ウオッカ」

その圧倒的な速さと逃げで、最後まで誰にも先頭を譲らなかった「サイレンススズカ」

 

(うぐっ。緊張と不安で胸が苦しくなってきた)

 

あまりの不安とプレッシャーで胃薬が欲しくなってきた。ただの模擬レースなのに。

皆は既に準備万端みたいで、各々がゆっくりとスターティングポジションに入る。めちゃくちゃ落ち着いている。ちなみにブルボンはスタート係をしてくれるらしい。

私も入ろうとした時、マックイーンが「パーマー、この模擬レース。必ず一着を取るつもりで走りなさい。途中で諦めることは許しませんわよ」と檄をとばす。勿論言われなくてもこの6日間の練習の成果を発揮して見せる。

そして最後に私がポジションに入り、ブルボンがスタートの合図を出し、模擬レースが始まった。

 

 

 

「なぁレースは始まってもうたのに、アンタはあっちに行かへんのか?せっかくマックイーン経由でレースを用意したのに」

 

「あぁいいんだ。選抜レース前に彼女がどんな走りをするかが見てみたくてね」

 

「要するに待ちきれなかったんやな。まぁアンタのことや、走り以外にも何かあると考えてるんやろ」

 

「そんなところだ」

 

「ホンマ、2年前と変わらんな~「トレーナー」は」

 

 

レースはスタートから展開が動いていく。好スタートを決めたスズカが早くも逃げを図る。私が得意とする逃げよりも明らかにペースが速い。去年見た逃げとは大きく違っていたが、あのペースならば最後に必ず垂れてくるはず。(去年の私だったら同じ大逃げをしていたかもしれないけど、今回の私は「先行」最後で仕留めて抜いてやる。)

レースは依然としてスズカが先頭をひた走る。差は6バ身ぐらい。レースは中盤に差し掛かる第2コーナーを回っていく、その時に一瞬後ろに視線を移す。同じ先行を取っているマックイーンは1バ身後ろにつけている。そこから4バ身離れてウオッカ、ゴールドシップは更に2バ身後ろの最後尾。(この距離間なら、4コーナー前にスパートをかければ・・・行ける)

 

(パーマー。残念ながらこのレース、あなたに勝機はありませんわ)

 

 

「あちゃ~。やっぱりスズカは早いな。1000メートルは大体59秒ぐらいやな」

 

「・・・。」

 

「マックイーン達もそろそろ仕掛けてくるはずや、にしてもなんでパーマーは先行の位置にいるんや?」

 

(彼女がなぜ逃げないのか分かった気がする)

 

 

問題なく第3コーナーを回り、残り400の標識が迫ってきた。スズカとの差は少し縮み4バ身。ウオッカとゴールドシップも私と3バ身差のところまで迫ってきている。ここでマックイーンがスパートを掛け一気に抜き去っていく。それに合わせるように後ろの2人もスパートしていく。

 

「うおっしゃあああ!ゴールドシップ先輩、お先に行かせてもらいますね」

 

「うおぉぉぉぉ!このゴルシ様が1着になるんだよ~!」

 

物凄い足音が段々と近づいてくる。物凄い追い上げに、全身に現れる気迫。抜かれる前に私も貯めていた脚でスパートをかける。しかし、予想できない事態が起きてしまう。

 

「あ、あれ。なんでスパートが出来ないの」

 

何故か脚が回らない。むしろどんどん重くなっていく。おかしい、なんでペースがあがらない。また負けてしまうのかな。

第4コーナーから最後の直線に入る時には、2人に抜かれ、目の前での熱い先頭争いを繰り広げていた。

 

「スズカさん、ようやく追いつきましたわよ」

 

「スズカ先輩。絶対抜かしてみせます」

 

「おらおら~!ゴルシ様のお通りだ~!」

 

「絶対に先頭の景色は譲らないわ」

 

どんどんと差が広げられていく。自分が惨めで恥ずかしかった。何にも出来ずに終わってしまった。(マックイーン、ごめん。約束守れなかったよ)

先頭争いをしていた4人はブルボンの前を駆け抜けていった。私は8バ身の差をつけられながらも、何とかゴールした。

 

「はぁ、はぁ。何も出来なかった。あれだけトレーニングしたはずなのに」

 

レースに負けたことよりも、早くここから逃げ出したかった。

 

「パーマー先輩お疲れ様でした。今日はあr」

 

「くっ、」

 

無意識にその場から逃げ出していた。誰にも見せられないほどの大粒の涙を流しながら。

 

「あっ、パーマーさん一体どこに」

 

「よっぽど引き離されたことが応えたみてぇだな」

 

「俺、追いかけてきます。このままじゃ・・・」

 

「ウオッカ、パーマーなら大丈夫ですわ。あとはあの方に任せましょう」




第2話を読んでいただきましてありがとうございました。
やはりレース状況を文章にするって難しいですね。
第3話は来週までに出せたらと思います。(お仕事疲れで寝てしまう)
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