大逃げが不利なんて言わせない   作:紗夜絶狼

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メジロの名を受け継ぎし者。
メジロパーマー「覚醒」の時


第3話 メジロパーマー「信頼、そして覚醒へ」

「ぐすっ、ぐすっ。勝てなかった。先攻でも勝てない、得意の逃げでも惨敗。私、走るの向いてないのかな・・・」

 

コースから逃げ出した私は、ただひたすら走った。頭の中がいっぱいだった。惨敗した悔しさで満たされていた。気付けば誰もいない三女神像前にいた。暫く立ち尽くしていたが、女神像前で腰かけた。

トレーニングで基礎能力は上がって体調は万全。なのにマックイーンや後輩達の足元にすら及ばなかった。

振り返れば振り返るほど、涙が瞼から溢れ出し、幼い子供の用にただひたすらに泣いていた。

感情のまま思い切り泣き続けていると、正面から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「ここに居たのか、メジロパーマー。顔、上げれそうか?」

 

何か優しさを感じるような声。

 

「う、ぐすっ、うん。す、少し待ってね、、、」

 

涙でぐちゃぐちゃに濡れた顔を、ジャージの袖で力いっぱいに拭い顔を拭い顔を上げると、そこには前に私をスカウトしようとしてくれたトレーナーさんがいた。トレーナーさんは私よりも先に口を開く。

 

「ありがとうパーマー。実はあの模擬レース、私がマックイーンに頼んで手配したんだ。レースも遠くから見させてもらった」

 

なるほど、もやもやしていた疑念がついに晴れた。朝のブルボンといい、誘ってくるマックイーンといい、何もかも仕込まれていたんだ。「それなら私のレース見てたでしょ。あの惨めな姿を」トレーナーさんに強い口調で言い返す。

 

「あぁ、この目でしっかりと」

 

「あれが私の限界なの」

 

「何故そう考えるんだい?」

 

「この5日間、鍛えに鍛えぬいた。先行でも対応できる調整もしてきた。なのに結果は惨敗。限界なんだよ、この脚は・・」

 

「私はそうは思わないよ。だって君の脚にはまだ計り知れない伸びしろがあるからね」

 

伸びしろ?私の気持ちなんか知らないくせに・・・。私はメジロ家で期待なんてされていないんだから・・・。

 

「去年の選抜レースでの君の上がり3ハロン。38.9秒、これはかなりの好タイムだ」

 

「でも私は逃げ切れないの!最後には必ず失速しちゃうから」

 

反抗しようとして思わず強めの口調が出てしまった。でもトレーナーは全く動じずに淡々と会話を続ける。

 

「パーマー、明日の選抜レース。2つだけして欲しいことがある。1つ目はただ1着を目指し最後まで楽しんで走るんだ。2つ目は序盤から逃げ続ける。それだけだ」

 

「それだけ?理由はあるの?」

 

「理由は、そうだな。明日走っている時に答えが分かるはずさ」

 

2つのアドバイスを聞いた私は、理由のないものには従いたくはなかった。でもこれでダメならもう関わってこない。そう思い「分かったよ」と2つ返事した。その後私の過去の話を少しだけした後、お互いに別れた。気付いたら辺りはすっかりと暗くなり、薄く星が見えてきそう。

いつものように夕食を済ませ部屋に戻った私は、ブルボンがトレーニングから帰ってくる前に深い眠りについた。

 

(明日の選抜レース。勝てるかな・・・)

 

 

 

~春の選抜レース当日~

 

「やってきましたトレセン学園春の選抜レース!まずは第1レース、出走ウマ娘16人の紹介に入ります」

 

第1レースとあり、周りからは大歓声に、これまた大きく響き渡る大きな実況が聞こえる。ゲート入り前、脚が震えている。かなり緊張してる。でも内心焦りとかは無かった。ただただレースを楽しみながら大きく逃げるだけ。まるで昔マックイーン達とした駆けっこを思い出すなぁ。

 

(全てを懸けて逃げ切る)

 

「注目は何といってもメジロパーマーでしょう。去年は15着に沈みましたが、今回は眼の色が全く違うような気がします」

 

 

「トレーナー、パーマーは今度こそ勝てるんか?」

 

 

「あぁ、絶対に勝つよ。パーマーに秘められた脚ならね」

 

「やから最前列にいるんやもんな」

 

 

絶対に勝つ。昔のように楽しみながら。

勝利への思いを胸に秘め、ゆっくりとゲートに入り態勢を整える。そして遂にその時が訪れる。目の前のゲートが開き、私は先頭を目指し駆け抜けていく。

 

「各ウマ娘一斉にスタートしました。これは予想通りと言わんばかりか、先頭には早くもメジロパーマーが上がっていきます。15人を引き連れる形でレースを先導していきます」

 

スタートの出だしはバッチリで、芝に脚が馴染んでる。序盤からしっかりと先頭を維持出来てる。ここまでは全て順調。第1コーナーから第2コーナーも内をキープしてる。なんだかとても楽しく走れている気がする。去年とは全く違う、なんだかあの頃みたい。

 

「各ウマ娘達第2コーナーを廻り向こう正面に入ります。依然先頭は逃げるメジロパーマー。3バ身離れて3番、内には11番と7番。そこから4バ身離れて10人と纏まった集団が控えている。さらに3バ身後ろに8番、10番、6番の3人。先頭からシンガリまでの距離はおよそ13バ身となっています」

 

ここまでは去年とほぼ同じ状況。いつもなら更にスパートをかけるけど、今は考えない。ただ私はあの時のように絶対に先頭は譲らせない。

 

 

「顔色に目つきが変わったみたいやな、これは面白くなるで」

 

「いや、彼女の秘めた力はまだまだこれからさ」

 

「アンタが言うんや、信用するで」

 

 

「メジロパーマー早くも1000mを通過。ここまで掛かりなど無く先頭を維持しています、しかし2番手との差は2バ身に縮まっています」

 

(もう1000mか)疲れが少しづづ溜まってる、しかも後ろの娘とは2馬身。でもまだ、あの時と同じならあそこでっ。まだいける、まだ譲りたくない。

 

「レースもいよいよ終盤の第3コーナーに差し掛かります。ここで後方集団が徐々にスパートを掛け始めている。そして纏まり始めたところでいよいよ第4コーナーに差し掛かる。先頭はまだメジロパーマー、しかし後方との差は1バ身、半バ身と並んできています」

 

追いつかれてる、抜かれる、でもスタミナはほぼ無いに等しい。嫌だ、嫌だ、先頭だけは・・・。

 

「先頭だけは絶対に譲りたくないんだ~!!!!」

 

その時、私に異変が起きた。走っているはずなのに何故か視界がゆっくりに視える。ゴール前で大歓声が聞こえてくるはずなのに、音が聞こえない。まるで何もない空間にいるみたい。この状態、訳が分からないけど、今なら限界を越えられる気がする。

 

「さぁ最後の直線に入っていく、ここで抜け出すのはどのウマ娘だ?ここで後ろにから差し込んできた3番が先頭のパーマーに」

 

 

「今だパーマー!そこで限界を越えろ!」

 

 

(この声はトレーナーさんの声。分かった、今だけあなたを信じてみるよ)

 

その瞬間、右脚を芝に深く踏み込ませ大きく蹴りだす。私ですら知らない限界を超えた走りを見せてあげるよ。

 

「おーと並ばない、並ばないぞパーマー!ここで更に加速していく」

 

「むぅ~りぃ~」

 

ドンドンとスピードが上がる。後ろは分からないけど多分引き離せてるはず。あと少し、あと少しなんだ。

 

「残り200mを切りましたがパーマーこれは速い、速いぞパーマー。2番手との差を4バ身、5バ身と突き放していく!残り100を切っても誰も追いつけない、誰も追いつけない、メジロパーマーの独走状態だ~~~!」

 

 

「行くんや、そのまま逃げ切るんやパーマー!」

 

「いけー!メジロパーマー!」

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

「これは誰が予想した事でしょうか、先頭はメジロパーマー!残り50mでも更に加速、他を圧倒する逃げで一度も先頭を譲らずトップスピードのまま今1着でゴ―――――――――ルイン!!!!!!!第1レースから圧倒的なレースが生まれました!」

 

「はぁはぁ・・・つ、疲れた・・・」

 

ゴール板を駆け抜けた後、今までに感じたことない疲れがドッと来た。思わずコースの芝に倒れこむように大の字で寝転ぶ。視線には雲一つない青空。この光景、昔マックイーンに1度だけ勝った時に見たあの青空と一緒だ。なんて気持ちいいんだろう。

 

「パーマー!アンタよぉ~やったでホンマに、1着やで!紛れもない1着や~!」

 

「私が1着。タマ、本当に?夢じゃなくて?」

 

「夢やあらへん。現実やで!ホンマにやらかすなんてな」

 

「うっ、うぅ・・・」

 

何度もタマに確認した。紛れもない1着、聞こえてくる私への大歓声。思わず感動の涙が出そうになる。

 

「泣くのはまだ早いぞメジロパーマー」

 

涙が出る寸前に声がした。トレーナーさんだった。

 

「トレーナーさん、このレース、あなたのたった2つのアドバイスのおかげで1着が取れました、ありがとうございます、本当にありがとうございました。あっ、寝てる状態だと失礼ですよね、今起きますn」

 

大の字で寝ていた体を起こそうとするも身体に激痛が走る。まるで全身が筋肉痛のようだ。

 

「あいたたた!」

 

「おっと動かすんやないで、今救護係が来るからちょいと待ちーな」

 

「タマ、それは早く言ってほしかったな、痛たたた・・・」

 

「ははは!今は寝ていても大丈夫だ。もう少しで担架がくるからね」

 

感動と歓喜の中、このトレーナーさんなら一緒に歩めるし信頼できそうかなと覚悟を決めた。

 

「ありがとうございます。トレーナーさん私、貴方だったら信頼できるかもです。トレーナー契約受けさせて貰いたいです。あと私のことはパーマーって呼んでください」

 

「ありがとうパーマー。こちらからもよろしくお願いするよ」

 

「はい!よろしくお願いします、トレーナーさん」

 

お婆様。私はこのトレーナーさんとG1を目指していきます。そしていずれは重賞をとって、メジロ家に恥じぬ走りをしてみせるよ。

 

 

「パーマー、ようやくあなた自身の才能を見つけることが出来たみたいですわね」

 

「ねぇマックイーンなんでパーマーに直接言わないのさ?」

 

「そうよ、こんな遠くから見守ってるなんてあなたらしくない」

 

「ライアン、ドーベル。これからパーマーは必ず私達の脅威になります。さぁ、お互いに練習に戻りましょう」

 

「えぇ」

 

「オッケー」

 

 

こうして選抜レースを圧倒的大差で勝ったパーマーは、新たなるトレーナーと契約を交わし、新たなる一歩を踏み出していく。




更新頻度なんですが、1週間で1話を目標にして投稿できたらなになります。
仕事やモチベーション等があるため、ぜひゆっくりとお待ち頂ければなと思います。
次回は新馬戦か新馬戦までの話を書く予定です。
メジロパーマーの史実を調べていくと、かなり波乱万丈で驚きました
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