その後治療のため短期入院することになる。
すると病室に現れた数人のウマ娘たち、彼女たちの正体とは。
波乱だった選抜レースが終わったものの、限界を超えた身体を治療すべく、暫くは病院にいて短期入院という休養を取らせてもらった。勿論寮長のフジさんには伝えてるし、ルドルフ会長に休養届は提出済み。
あの瞬間に感じた不思議な時間、今でも記憶に残ってる。溜まっていた疲れが嘘みたいに消えたし、何より走る気力も戻ってきた。退院したらトレーナーさんに聞いてみようかな。
「それにしても暇だな~。16時。やることなさすぎ~」
まさか4日間だけの入院がここまで暇だとは予想外だった。1日の基本はベッドで横になってるかリハビリ、たまに共有スペースにある月刊ウマジャンとか漫画を読むぐらい。明日退院だけど、誰かお見舞いに来てくれないかな~。
なんてこと思ってると病室のドアがノックされる。声からしてトレーナーさんかな。
「パーマー入るぞ?」
「はい、いいですよ・・・ってえぇ!?」
「失礼します」
トレーナーさん1人かと思ったら、後ろからタマと5人のウマ娘がぞろぞろと挨拶しながら入ってくる。顔見知りもいれば中にはまだ名前も知らない娘も居た。「すまんな、みんな見舞いに行きたいって聞かなくってな」苦笑いしながらそう答えた。そこからタマ以外の4人がベッドの前に並び、唐突に自己紹介を始めだした。
「やほやほパーマー、久しぶりなの」
「どもども~、セイウンスカイっていいます~」
「ダイワスカーレットです。よろしくお願いします」
「おすおす、燃えるウマ娘ことゴルシちゃんだぜ」
「お体は大丈夫ですか?早く治るようになでなでしましょうか?」
「こらこらクリーク、パーマーを甘やかすのやめーや」
「えぇ~?」
何というか唐突すぎて話が読めないし、あとなんで自己紹介?タマに事情を聞くと「またいきなりですまんの、アイネスやクリーク達はみんなトレーナーのチームメンバーなんや。まぁ1人は忙しいから来れなかったみたいやけどな」
なるほど。てかそれぞれの個性強すぎない?
「自己紹介は済んだか?私はもう少し残るから、各々は学園に戻ってトレーニングするように」
「はーい」
「ほなまた明日な、明日退院なんやろ?楽しみにしとるでな」
病室にはトレーナーとの2人っきりなる。なんだか変な雰囲気になりそうだから私から切り出す、疑問だったあの瞬間について。
「ねぇ、1つ聞いておきたいんだけど、あの選抜レース、最後の直線で私の身体に何が起こっていたんですか?全く分からなくて」
「なるほどな、それは「ゾーン」という現象だ」
「ぞーん?」
「ゾーンっていうのは、極限まで集中した時に発動するんだ。ただ発動条件は個人によって異なるがね。チームなら・・・」
そこからゾーンの事やチーム目標、私のメイクデビューまでの期間など、沢山の話を聞いた。長い会話は苦手なんだけど、とても分かりやすく、私に寄り添ってくれている。気付けば窓の外はいつの間にか陽が落ちて暗くなっていた。
「トレーナーさん、時間大丈夫ですか?」
「おっともうこんな時間か、それじゃ明日の放課後にここの部室で待っているから、迷わずに来てくださいね」
「はい!」
トレーナーが帰りまた独りになる病室。時計を見れば19時を指していた。
「さて、夕食の時間だし食堂に行くか」
~トレセン学園~
無事に退院した私は朝にはクラスメイト、昼にはマックイーン達に祝われた。知り合いに会うたびに退院を祝われ続けられた今日の学園生活。午後の授業が終わり、昨日渡されたメモを頼りに部室を探す。でも部室が連なる場所では無いみたいだし、どこにあるのだろうか?
「ていうかアレっ?ここって確か・・・生徒会室!?」
生徒会室なんてなんかの間違いでしょと思ったが、仮にルドルフ会長が居たとしても「間違えました」って言えば最悪回避は出来る。覚悟を決めて生徒会室の扉を開ける。
開けるとそこには予想通り学園の生徒会長である「皇帝」シンボリルドルフがいた。思わず違和感を感じてしまって頭の中に疑問符が浮かんだ。
「待っていたよ、メジロパーマー」
「え、え~っと。私、何かやらかしちゃった感じですか?」
問題を起こした心当たりは全くないが、つい口に出してしまった。度々呼び出されてるから反射的に。
「いやいや、そういう訳じゃないんだ。君がトレーナー君のチームに入るにあたって改めて挨拶でもしようと思ってね」
「トレーナー君。ま、まさか残りの1人ってルドルフ会長?」
「本当はこの前の見舞いの時に言うつもりだったんだがな。それはさておき簡潔に言おう。ようこそチーム「デネブ」へメジロパーマー。あと私のことはルドルフで大丈夫だ」
「ルドルフ、こちらこそチームの名に恥じぬよう頑張っていきます!」
その後ルドルフとの軽い雑談を終え、一緒にトレーニングトラックに向かった。既に皆はトレーニングを始めていて、とても活気にあふれていた。ミニハードルをするスカイとアイネス。ナデナデしようとするスーパークリークから全力で逃げてるタマ(?)。トレーナーと何やら打合せしてるスカーレット。コース上で1人囲碁を嗜むゴールドシップ(?)
「かなり個性的な練習してるんだね」
「あははは、まぁトレーナー君の指導方針だから仕方ない」
練習を開始しようとストレッチをしているとトレーナーさんが私を呼んだ。
「ルドルフとの要件は済みましたか?」
「はい、済みましたけどどうされましたか?」
「君のデビュー戦についてなんだが、8月の函館でデビューする予定だ。それに伴ってスタミナ中心の練習メニューも組んでいる」
「函館でデビュー戦。やります、練習も頑張ります」
「よーしいい意気だ、今日は軽く済ませて明日からトレーニング開始だ」
~翌日~
私はトレーナーと一緒に学園内のプールに来ている。もちろん学園指定の水着を着てね。泳ぎの方は、まぁ得意の部類に入るかな。
それにしてもスタミナトレーニングはただ走ればいいと思っていた。準備体操を済ませてからいざ入水。少し冷たいぐらいだけど軽く泳げばすぐに身体が慣れた。
「今日からデビュー戦に向けて主に水泳を中心にスタミナを強化していきます」
「それで、何をすればいいの?無難に2往復ぐらい」
「いいえ違います。今日から6月の終わりまでの約2ヶ月間、週5のペースでクロールと背泳ぎだけをそれぞれ10往復ずつこなしてください。もちろん休憩は適度に取ってください」
「合わせて20往復。それを週5。トラックで走る練習はないの?」
「走ることは暫く禁止にします。それじゃあ位置について~」
「わわ、ちょ、いきなりすぎでしょ!?」
「よーい、始め」
そこからはほぼ毎日、ただひたすら泳ぎまくった。最初は僅か5往復程度でバテていたが、1週間、2週間と過ぎていくごとに着実に数をこなせるようになっていた。
練習時間も3時間かかっていたのが、今では2時間まで短縮できていた。何往復しただろうか、全身は激しい筋肉痛が毎日続いた。まぁその都度クリークにあまあまなマッサージしてもらったけどね。
そんな毎日を過ごしていき、気付けば6月の最終日を迎えていた。
「よーし、今日はクロールと背泳ぎを全力で5往復泳ぎ切ってください。それが達成できれば合格です」
「よしっ、やってやるぞ~」
「よーいスタート」
「はぁ、はぁ、ど、どうですか・・・」
「合格ですパーマー、素晴らしいフォームでの泳ぎでした。今日と明日はゆっくり休み、明後日からは走りに移りますよ」
「分かりましたトレーナー」
かなりハードだったけど、明日は土日。ブルボンと遊びにでもいこっかなー。
しかしその後泳ぎ疲れた私は翌日、全身にとてつもない筋肉痛になり、休日の2日間をほぼベッドで寝たきりで過ごした。
「パーマー疲労は大丈夫か?」
「まぁ何とか全回復できたよ」
「よかった。それで今日からデビュー戦まで、アイネス、スカイ、スカーレットの3人とローテーションを組んで並走トレーニングを行ってほしい。あとウイニングライブはクリークに教えてもらってほしい」
「はい!では行ってきます。アイネス、スカーレット、セイちゃ~ん、並走しよーよ」
「おー、パーマーさんノってますねー」
「パーマー先輩、まずは私と走りましょう」
「あー、スカーレットちゃん抜け駆けはずるいのー」
「あわわ、落ち着いてよ、まずはスカーレットから走ろうか」
(私もあの娘たちの準備も並行して進めていかないと)
そこからほぼ毎日走り続けた。既にデビューしていた3人についていくことは並大抵じゃなかった。スタミナこそかなり鍛えられて体力はついたけど、スピードに関しては全く歯が立たなかった。でも日を重ねていくうちに、逃げのコツが掴めてきたし、徐々にスピードも上がってきた。アイネスとセイちゃん、スカーレットは同じ逃げウマ娘なのに、戦略、スパート、位置取りも違っている。もしかしてトレーナーさんはこれを狙って?だとしたら、期待に応えないとね。
8月12日。函館競バ場でのデビュー戦の日。私の状態は絶好調。
デビュー戦だということもあり観客は決して多くはないけど、とても緊張している。武者震いもしてくる。そのせいかパドックでの動きはガチガチで、絶好調だというのに状態の良さを魅せることが出来なかった。緊張が解けぬまま私は函館の「はなみち」を歩いていた。地上に通路があるため、周りには観客の人が沢山いた。
「パーマー」
声のする方へ顔を振り向かせるとそこにはトレーナーさんがいて、私を呼んでいる。
「トレーナーさん、どうしてここに?」
「そりゃパドックでガチガチに緊張してるのに放っておけないでしょ」
「あはは、どうしても緊張しちゃってね」
「大丈夫だ。あのルドルフですら緊張してたんだ。よし作戦を伝えるぞ」
トレーナーからの指示で完全に緊張がほぐれた。
「勝っても負けてもいい、デビュー戦、大逃げして楽しんでこい!私とルドルフはゴール前で待ってるからね」
首を大きく縦に振り私は「はなみち」を抜け、緑のターフを踏みしめる。ゆっくりと函館のコースを1周する。
気持ちいい、こんなに素晴らしいターフを全力で駆け抜けれると思うとワクワクが止まらない。試走の1周を終え、出走するウマ娘が続々とゲート前に集まる。
周りを見渡すと、闘志に満ちた娘がいれば、緊張で震えている娘もいる。するとレース前のファンファーレが鳴り響く、それに合わせ私もゲートに収まっていく。私は4枠4番、。トレーニングの成果を生かして、最高のレースにして見せる。
「さあ始まりました1000mメイクデビュー戦。天気は晴れ、馬バ状態は良と発表されています。注目はなんといっても4枠4番メジロパーマーでしょうかね」
「そうですねぇ、2番人気とはいえあのチームデネブの期待の新星と聞いてますから、どんなレースを見せてくれるでしょうか」
「各ウマ娘ゲートイン完了しました。まもなくスタートです」
(始まる、私のデビュー戦。みんなの想いを胸に逃げ切って見せる)
ゲートが開かれ、一斉にスタートを切る。最初の直線は練習通りいち早く先頭に立ちレースを先導していく。
「先頭に向かうのは期待のメジロパーマー、先頭をひた走ります。2番手との差は既に4バ身と開いていきます」
「よし、いいペースだ」
「うむ、姿勢はやや前傾だが掛かりもない」
最初のコーナー、内に入りつつもスピードはそのままを維持。脚にも問題ないし更に飛ばしていけそう。
「最初のコーナーを廻り先頭はメジロパーマー、快調な走りを見せています」
「自分のペースで走れているみたいですね。気持ちよさそうです」
(よし、ここから更なる大逃げ、魅せちゃうんだからね)
最終コーナー手前、私は右脚で力強く芝を踏みしめ、更にギアを上げ加速する。
風を切るような感覚、聞こえてくる歓声、楽しい、とても楽しい。トレーナーさんにルドルフさん見ててください。最高の走りを。
「最終コーナーを廻り最後の直線に入るのはメジロパーマーただ1人!おーっとここでメジロパーマーが加速していきます。何ということでしょう、2番手との差は4バ身、いや6バ身、まだまだ引き離していく!」
「これは予想以上の圧勝だな」
「はは、流石に私も予想の範囲を超える走りだよ」
「ふふ、これはG1への道は早くなりそうだな」
「うおおおおおおお!1着は私だーー!」
「残り100mを切ってもスピードが衰えません。もう後ろが画面から消えてしまった、のこり50、これはもう圧勝、圧勝です!1着はメジロパーマー、メジロパーマーでした!」
トップスピードのままゴール板を駆け抜ける。スピードを緩めてから後ろを振り向くと、まだ私以外の娘はまだゴールしていなかった。数秒後に2番手集団がゴールし、電光掲示板に着順が表示せれる。結果は言わずもがな2着だった2番人気とは「大差」だった。観客席を見渡すと、トレーナーとルドルフ意外は私の大差勝ちに唖然としていた。
しばらくしてからトレーナーの元に向かう。
「おめでとうパーマー。レースは楽しかったか?」
「とても楽しかったです!自分でも出来すぎなぐらいに走れました」
「次はウイニングライブだパーマー、準備できているか?応援してくれた方々に最高のライブを届けてくれ」
「分かったよルドルフ。では行ってきますね~」
レース後に行われたウイニングライブは大成功だった。クリーク直伝のダンスに最高の笑顔、しっかりとダンスも覚えておいてよかった。
こうして私の函館でのデビュー戦は、大差での1着という最高の形で終えて魅せた。
(帰ったらみんなに報告しないとね)
読んでいただきましてありがとうございました。
次回は少し悲劇があるかも知れないです。