次は京都ステークスへの出走。しかし予想だにしないことが発生してしまう。
函館で初勝利を挙げ学園に戻ってきた私は今、トレーナー室にいる。私のデビュー戦勝利を祝して祝勝会を開かれているためだ。
どうやらスカーレットの提案で実現したみたいで、大きなテーブルには大量の料理で埋め尽くされていた。特大にんじんハンバーグが3つによくあるオードブルセットが数セット、デザートにはにんじんケーキ。飲み物はお茶やにんじんジュース、炭酸飲料が沢山。これを9人でとはなんて豪勢だろうか。
「それじゃ、パーマーの初勝利を祝して、乾杯!」
「かんぱ~い!!!」
トレーナーの乾杯の声を合図に、祝勝会がスタートする。
「じゃあまずはにんじんから~」
「あぁースカイ先輩ずるい、私も食べるわよ」
「あらあら、2人とも、料理は逃げませんよ」
「アンタら、ホンマに子供みたいやな」
開始早々中等部による食べ物争奪が始まった。まだ大量にあるっていうのに。
といってももう夜、みんなお腹は空腹状態、周りも箸を手に持ちゆっくりと食事を楽しむ。大人数での食事会はいつ以来だったかな。
宴の盛り上がりも最高潮に達してきたところで、トレーナーが今後の予定について口を開く。
「盛り上がってるとこ悪いが、今後のみんなの出走レースについて伝える。もちろんそれまでにG2などを挟んでいく。まずゴルシは来年4月の皐月賞。スカイも同じだ」
「おっしゃー、このゴルシ様に任せときな」
「こっちも負けないからね~」
「よし、そうやってお互いを高め合うんだ。クリークは11月の菊花賞、アイネスは12月の朝日杯ステークスでG1デビューだ」
「よーし、やる気が湧いてきたの~」
「ふふふ、分かりました~」
「タマは4月の天皇賞・春、スカーレットは桜花賞、ルドルフは七冠をかけて年末の有マ記念に出走する」
「オグリとの決着楽しみやな」
「私もウオッカと張り合えるの待ち遠しいわ」
「君だけじゃなく、チームのために七冠を成し遂げて魅せよう」
みんなが出るレースはどれも名のあるG1の重賞レース。ルドルフに至っては七冠がかかっている有マ記念。でもルドルフの顔には余裕がみえてる。流石は「皇帝」シンボリルドルフ。私もいずれかダービーや有馬記念に・・・。
「そしてパーマーはまだデビューしたばっかで身体が出来上がってない、だからまずは11月の京都ステークスを目指していくが大丈夫かな?」
「もちろんオッケーだよ!私はいつか大逃げで勝つウマ娘になるんだから!」
その後も楽しさが増していく祝勝会は続き、気付けば寮の門限30分前になっていた。
各々は大量の空いたお皿や空のペットボトルを分別しつつ収集し、ゴミ袋にまとめる。並べた机を直したり、床を掃除したりと終わってみれば綺麗に元通りになっていた。
片付けを終え、トレーナーと別れそれぞれの寮に帰る。チーム全体の団結力が上がり、次のレースでも逃げ切りで勝てる気がしてきた。
翌日からレースに向けてのトレーニングが開始された。ただみんな昨日の食べ過ぎでコンディションが悪くなって、トレーニングに身が入らなくなってしまい、トレーナーからしばらくは祝勝会禁止令がチームに発令された。とほほ・・・。
~京都ステークス当日~
「京都第10レース京都ステークス。10人が出走するこのレース、京都は晴天に恵まれ芝状態「良」と発表されています。このレース注目は3枠3番、1番人気のドニチカミナリです」
「カミナリはかなり状態は上がってきてますが、私はメジロパーマーに期待です。なにしろデビュー戦では圧倒的大差で勝ってます、8番人気とはいえ逃げ切り勝ちもありえます」
今回はトレーナーさんと2人だけの京都レース。身体の調子は抜群だし、逃げ切り準備万端。ただ1週間前から続いてる左脚の不安を除けばね。
(お願い私の左脚、今日だけは持って)
「パーマー、調子どうだ?」
「バッチリですよ、セイちゃんの春天での素晴らしい激走とクリークさんの菊花賞制覇。とても走る勇気を貰いました。この流れで私も勝つしかないじゃないですか」
「前みたいに緊張してるかと思ってたけど、心配なかったね。楽しく逃げ切ってこい」
トレーナーさんには左脚の事はまだ言えない。そろそろゲートに向かわないと。
京都は函館よりも暖かくて、風も心地いい。
「それぞれゲートインお願いします」
これに勝てば次は重賞にいけるはず、勝たなきゃ、勝たなきゃいけないんだ。
「各ウマ娘ゲートに収まりました。京都ステークス1600m、今スタートしました」
スタートは成功した、次に先頭に立っていかなきゃ
(うっ、左脚が、痛い。でもまだいける)
「おっと勢いよく飛び出したメジロパーマー、いきなり掛かってしまっています。故障でしょうか?」
「いや慣れないコースに脚を取られただけでしょう」
今の寄れたような掛かり、まさかパーマーそんな状態で・・・。
「レースは直線から京都の坂コーナーに差し掛かりますが、逃げ切り宣言パーマーが現在最後尾となっています。どうした事でしょうか?」
「先頭のドニチカミナリからシンガリまでは6バ身となってます。ここから伸びてくるのは厳しいですかね」
くっ、痛みが酷くなってる。京都の坂ってこんなに辛いの?でもまだ、まだ下りでスパート出来れば先頭集団に加われる。私はメジロ家のウマ娘なんだ、勝ってG1に弾みをつけるんだ。負けてたまるか~!
「坂を下って第4コーナーを廻る。ウマ娘たちは残り400mの直線に入っていく。先頭は依然ドニチカミナリ、2番手集団とは3バ身のリードだ。しかし最後尾メジロパーマーは伸びてこない、ここで伸びてこないと間に合わないぞ」
残り400。いつもなら先頭にいるはずなのに、ゴールが遠い。ダメだ、目の前が歪んで見えてきちゃった。でもゴールだけはしなきゃ。
その後先頭集団は難なくゴール。そこから数秒後、左脚を庇いながらゴール板をゆっくりと駆け抜ける。9番手との圧倒的な大差負けだった。
そこから気持ちが切れアドレナリンが無くなったからか、左脚に今まで経験した事も無い激痛が走る。しばらくは我慢して立っていられたが、やがて耐えられなくなり、その場で倒れてしまった。霞んでいく視界の中、私の元に全速力で駆け寄ってくるトレーナーの姿が見えた。
「パーマー大丈夫か、今救護班が来るからな、しっかりと意識を保つんだ!」
「ごめんねトレーナー。少しだけ。休ませてもらうね」
「パーマー、パ・・ー、だ・だ・きろ、ね・・だめ・」
意識が朦朧とする中、私は気を失ってしまった。
「・・なさい。・きなさい。起きなさいパーマー」
誰かが私を呼んでいる、とても懐かしく聞き覚えのある声。誰かと確かめようと閉じていた目を開ける。そこに居たのはお婆様だった。
「お、お婆様!?どうしてここに」
「パーマー、あなたは何を目標にターフを走っているのですか?」
「なんでってそ、それは。お婆様に認めてもらう為です」
「私に認められるためですか・・・」
お婆様を目の前にして思わず本音を漏らしてしまった。トレーナーにしか話していないことを。私の本音を聞いた途端、私に強い言葉をとばす。
「よく聞きなさいパーマー。私はライアン、ドーベル、アルダン、マックイーン、パーマーがメジロ家に生を受けた時から認めています。レース結果が振るわなかったからと言って、見放すことはありません」
「で、でも私はトレセン学園に入る前は障害を走らされていました。それは芝では勝てない、そう周りが思ったからじゃないんですか」
「それは違います。障害への転向はあの方の意向でした」
「お父様が私を障害へ転向に・・・。でもなんですぐ芝に戻したのか・・・。まさか」
「私が芝への再転向を指示しました。あなたの脚はあの4人に無い特別な力が眠っています。私は、メジロ家はあなたの活躍を期待しています。今のトレーナーさんと切磋琢磨して、自分の走りをしていきなさい。これで話は以上です。早く戻りなさい、あなたの帰りを待つ娘たちの元へ」
「はい!私は、私は必ず自分の走りでG1を勝って魅せます。ありがとうございました」
「はっ!・・・ここはどこ?」
目を覚ますとそこは個室の病室だった。「目を覚ましたかパーマー!?」トレーナーだった。どうやらあの後レース場から京都市内の病院に緊急搬送されたらしく、そこから丸1日は眠っていたらしい。トレーナーは付きっきりで私が目覚めるのを待っていたみたい。
「ごめんね、左脚のこと黙っていて」
「気にしないでください、骨折してしまったが幸いにも重度ではないです。リハビリすればまたレースには復帰できます。だが見抜けなかったには私の責任があります。すまない」
「謝らないで、でも必ず復帰してみせるよ。もう私、絶対に迷わないから」
「・・・分かった。だがしばらくは入院だ。ルドルフと秋川理事長には退院するまで休暇を貰っています」
「それだとアイネスのレースは行けるの?」
「大丈夫だ。朝日杯には後輩が代理で行ってもらう。だからそれまではリハビリに」
「トレーナー、私は1人でも大丈夫。だから休暇は取り消して今はアイネスの方に集中してあげて」
トレーナーは口を挟もうとするが、それを押しのけアイネスのことを説得。「分かった。絶対に帰ってきてくださいね。みんな学園で待ってるから」そう言い残し病室を後にする。
なんかカッコつけちゃったなー、でも私はもう迷わない。たとえ夢であっても、お婆様と約束したんだ。大逃げでG1、いやいずれは有馬記念に出てみせるんだ。
「やってやるんだからね~!いたたた・・・」
~2ヶ月後~
京都から新幹線で帰ってきたけど、色々あって夕方になっちゃったな。トレーナーにはそれまでにはトレーナー室に行くって言ってるしダイジョブでしょ。
久しぶりの学園。久しぶりのトレーナー室。なんか緊張しちゃってるけどまずは帰ったってほうこくだよね。「トレーナー、帰ってきたよ~!」勢いよくドアを開けるとそこにはみんなが待っていた。
「おー、待っとったで、ホンマ心配かけさせおって」
「先輩まだ治りきってないですよね?私リハビリ付き合いますからね」
「そうですよ~、サポートしますからね~」
「私も全力で看病しますからね~」
「よく戻ってきたね。ここから再びスタートしていこう」
「お帰りパーマー、また一緒に走ろうなの~」
「おう!退院祝いにこのゴルシちゃん特製ドリンクを上げちゃうぜ」
「ゴルシ、それは激マズだったから没収ね」
「えー、そりゃないぜトレーナー」
相変わらずだなゴルシは、でも嬉しいな。だってまたこのチームで走れるんだから。
「みんな待たせちゃってごめんね。またここから大逃げウマ娘になるために突き進むからねー」
「よし明日からリハビリメニューを組んである。復帰戦に向けて頑張っていくぞ」
そこからは突発的に退院祝いが始まってしまった。こりゃまた夜までコースだね。
復帰戦まではまだまだ時間はある。しっかりと左脚を治して、お婆様やマックイーンたちに見せつけるんだから。
「パーマー」
「なにトレーナー?」
「戻ってきてくれてありがとう」
「ふふ、それは私が日本一の逃げウマ娘になるまで取っておいて」
私の退院祝いは寮の門限時間を過ぎてまで行われた。
パーマーは京都ステークスで実際に骨折してしまいます。(レース後に判明)
そこから退院までのイフ・ストーリーを自分の中で描いてみました。
そしてメジロ家のお婆様。実はパーマーをマックイーン達と同じように期待していたと考えてます。
次回は来週までに投稿していきます。
史実巡り、面白いです。